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FIT/FIP認定手続に関連する説明会等の手続要件化について
2024.03.04
はじめに
2024年4月1日に施行が予定されているGX脱炭素電源法に基づく再エネ特措法の改正により、FIT/FIP認定手続に当たっては、説明会の開催などの周辺地域住民への説明会及び事前周知手続(以下「説明会等」といいます。)の実施が認定要件に追加されます。かかる改正の詳細についてパブコメの結果や施行規則が公布され、その内容が明らかとなっていますので、これまでの経緯とともにパブコメの結果において留意すべき点などを以下ご説明致します。
「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ第2次取りまとめ」の公表について
2023年12月14日のブログ(https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2023/15253.html)にてお知らせした通り、大量導入小委から「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ第2次取りまとめ(案)」が2023年9月29日に公表され、パブリックコメントを経て2023年11月に最終化(最終化された第2次とりまとめを、以下「第2次取りまとめ」といいます。)されています。この第2次取りまとめでは、2024年4月1日に施行が予定されているGX脱炭素電源法に基づく再エネ特措法の改正の詳細設計について議論した結果が取りまとめられております。
(「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ第2次取りまとめ」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/kyosei_wg/pdf/20231128_1.pdf
第2次取りまとめでは、説明会等の詳細設計が掲げられておりました。
再エネ特措法改正省令案の概要等に関するパブリックコメントの募集について
上記(1)で記載の第2次取りまとめを受けて再エネ特措法上の認定手続に関する規制強化に関して、具体的な改正省令案の概要に対するパブリックコメントの募集が2023年11月28日に開始され、同年12月27日まで募集されました。当該パブリックコメントの結果(以下「再エネ特措法施行規則パブリックコメント結果」といいます。)が、2024年2月20日付で以下の通り公表されております。
(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案の概要」に関する意見公募の実施結果について)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000269364
なお、改正後の再エネ特措法施行規則については、2024年2月20日に公布されており、当該改正については、2024年4月1日に施行するとされております(改正再エネ特措法施行規則附則第1条)。
(説明会等の要件を定めた再エネ特措法施行規則の一部改正省令)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/announce/20240220.pdf
また「説明会及び事前周知措置実施ガイドライン(案)及び廃棄等費用積立ガイドラインの改正案」に関するパブリックコメントの募集が2023年12月22日から2024年1月21日まで募集されており、当該パブリックコメントの結果(以下「説明会及び事前周知措置実施ガイドラインパブリックコメント結果」といいます。)が2024年2月20日付で公表され、また説明会及び事前周知措置実施ガイドライン(以下「本ガイドライン」といいます。)も公表されております。
(説明会及び事前周知措置実施ガイドライン)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/announce/20240220_setsumeikai.pdf
(説明会及び事前周知措置実施ガイドライン(案)及び廃棄等費用積立ガイドラインの改正案」に関する意見公募の実施結果について)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000269365
今回の再エネ特措法の改正により、新規のFIT/FIP認定取得時だけでなく、再エネ発電事業計画の変更に伴い変更認定が必要な場合のうち、重要な事項を変更する場合についても、説明会等が必要とされております。説明会及び事前周知措置実施ガイドラインでは、どのような事業計画の変更について、説明会等が必要となるのかについて詳細が明らかにされており、具体的には以下の事業計画の変更の場合に説明会等が必要とされています。
① 事業譲渡、合併又は会社分割等を原因として認定事業者を変更する場合
② 認定事業者の密接関係者(資本関係等において認定事業者と密接な関係を有する者を いう。)を変更する場合
※「密接関係者」とは、次の者をいう。
(ⅰ)認定事業者の社員(認定事業者が持分会社の場合)
(ⅱ)認定事業者に対する議決権の過半数を保有する株主(認定事業者が株式会社の場合)
(ⅲ)認定事業者に対する匿名組合出資のうち、その過半数の出資持分を保有する出資者
(ⅳ)上記(ⅰ)~(ⅲ)の者の親会社(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する 規則(昭和38年大蔵省令第59号)第8条第3項に規定する親会社をいう。)
③ 再エネ発電設備の設置場所を変更する場合
④ 再エネ発電設備の認定出力を20%以上又は50kW以上増加させる場合
⑤ 再エネ発電設備の認定出力を、新規認定の日又は直近で行った説明会等の日のうちいずれか遅い日から起算して、累計値で20%以上又は50kW以上増加させる場合
⑥ 再エネ発電設備が太陽光発電設備の場合について、太陽光パネルの合計出力を20%以上又は50kW以上増加させる場合
⑦ 再エネ発電設備が太陽光発電設備の場合について、太陽光パネルの合計出力を、新規認 定の日又は直近で行った説明会等の日のうちいずれか遅い日から起算して、累計値で20%以上又は50kW以上増加させる場合
⑧ 計画変更によって、新たに説明会等の実施が必要となった場合
パブリックコメントの結果について
この点、パブリックコメント中、以下の内容について留意する必要があると考えます。
①再エネ特措法施行規則パブリックコメント結果(回答については一部筆者にて記載を省略)
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FIT/FIP認定をSPC(合同会社)で取得しようとする場合、SPCに社員がいないため、当該事業者自身の出席ができない。実質的支配者としての親会社社員の出席で代替可能か。 ※著者注 説明会及び事前周知措置実施ガイドラインパブリックコメント結果 84番も同旨 |
説明の責任主体を明確化する観点から、事業者が法人の場合は、法人の役員又は従業員のうち十分かつ適切な説明をすることができる者が出席して説明することを求めます。 再エネ発電事業者がSPCである場合は、当該SPCの代表者が説明をするなど、当該SPC自身が主体となる形で説明が行われることが必要です。 |
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当該認定の申請の日の3ヶ月前までに説明会を開催しなければならないとされているが、「2週間前」などに短縮するか、「当該認定の申請の日の前までに」とすべき。例えば、水力発電事業の通常の事業組成スケ ジュールを勘案すると、仮に4月から事業組成を開始した場合に、説明会の開催から認定申請まで3ヶ月を要するとすれば、例年12月に設定されている年度の認定申請期限を超過してしまう。 ※著者注 説明会及び事前周知措置実施ガイドラインパブリックコメント結果 45番も同旨 |
①再エネ特措法では、FIT/FIP認定の時点において、再エネ発電設備の設置場所や規模(出力)といった事項が基本的に定まっていることを求めており、あらかじめ要件を充足する説明会を開催し、再エネ発電設備の設置場所や規模(出力)を確定させた上で、FIT/FIP認定を申請するというフローが基本となること ②説明会における住民からの質問等を踏まえて、事業者が対応を検討するための十分な期間を確保することが必要となることといった旨について議論がなされており、これを踏まえ、FIT/FIP認定申請の3ヶ月前まで実施することを求めることを原則としています。 |
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会社分割は事業譲渡とは異なるため、会社分割に伴う認定事業者の変更の際に、改めて説明会・事前周知措置を求めるべきではない。 ※著者注 説明会及び事前周知措置実施ガイドラインパブリックコメント結果 109番も同旨 |
事業譲渡に加え、合併・会社分割や親族等への贈与(グループ内の企業同士で行うものも含む。)も含め、再エネ発電事業者を変更する場合には、再エネ発電事業者としての義務履行(例:関係法令遵守義務や地元自治体との協定等に係る義務等)の主体が交代する局面であるため、前述の趣旨を踏まえれば、改めて説明会等の実施を求めることが適切です。 |
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認定事業者の密接関係者を変更した場合でも、事業主体や事業に関する権利義務は変わらないはずであり、「重要な変更」に含めるべきではない。仮に株主等の交代を「密接関係者の変更」に含めるのであれば、一定の場合に限定すべき。また、形式的には株主の変更であっても、同一グループ内の組織再編に伴うような場合(会社組織の改編によるSPCの合併・分割等であり代表者等が変わらない場合等)は、実質的な事業主体が変わらないので、「密接関係者の変更」に含めるべきではない。さらに、既に運転開始済の事業については、「密接関係者の変更」があった場合でも、説明会の開催は不要とするか、大幅に簡略化すべき。 特に上場インフラ投資法人のように、監督官庁の管理下にある資産運用会社の下で、既に稼働している資産について詳細を開示した上で、事業者の株式等が移動するような場合には、説明会を再度開催する意義は乏しい。 |
認定事業者の密接関係者が交代する場面についても、地域とのコミュニケーション不足によりトラブルが発生する事案が生じやすい点を踏まえ、認定事業者の密接関係者を変更する場合については、既に運転開始済の事業も含め、変更認定時に説明会等の開催を求めることとしています。 当該認定事業者との関係性が密接な範囲を捉えるため、次の定義をガイドラインにおいて明確化します。 ①認定事業者の社員(認定事業者が持分会社の場合) ②認定事業者に対する議決権の過半数を保有する株主(認定事業者が株式会社の場合) ③認定事業者に対する匿名組合出資のうち、その過半数の出資持分を保有する出資者 ④上記①~③の者の親会社(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第8条第3項に規定する親会社をいいます。) 密接関係者の変更を含め、重要な事項の変更があった場合に、説明会又は事前周知措置の対象となるかについては、変更後の事業が、説明会・事前周知措置を実施すべき再エネ発電事業の範囲のいずれに該当するかにより決まることとなります。 |
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認定事業者やその密接関係者の変更の際の説明会について、株主の交代等は旧株主と新株主に合意があるとは限らないので、両者が説明会に参加することは現実的ではない。努力義務などにとどめるべきである。 |
認定事業者の変更に伴う説明会については、地域との適切なコミュニケーションを促す観点から、旧認定事業者と新認定事業者の双方が出席することが必要です。認定事業者の密接関係者の変更に伴う説明会については、認定事業者自身の出席が必要ですが、交代した新旧の密接関係者の出席が求められているものではありません。 |
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「認定発電設備の設置の場所の変更」が「重要な事項」に当たるとされているが、分筆や地番削除も含まれるのか。移設のみを指しているのか。地番を削除するだけであれば、説明会を改めて開催する必要はないのではないか。あるいは、大規模な地番の削除に限って、「重要な事項」とすべき。 |
認定後の地番の削除について、削除された地番の周辺地域の住民にとっては、当初の説明会において当該地番において再エネ発電事業が実施される旨が説明されていることから、当該地番での事業が実施されなくなる旨についても適切に説明がなされるべきと考えます。このため、地番の追加・変更する場合のみならず、地番を削除する場合についても、その削除の規模にかかわらず、変更認定に当たって説明会の開催等を改めて求めることとしています。 認定後の地番の分筆について、当該地番の指し示す区域が変わらない場合は、「重要な事項」の変更に該当しません。 |
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令和5年度の新規及び変更認定申請の締切り(太陽光(10kW以上)、風力、水力、地熱)は令和5年12月15日である。一方で、当該締切日では、本省令案の内容は確定していない。経過措置が一切設けられなければ、事業者の予測可能性を損なう結果となる。一定の経過措置を設定すべきである。令和5年度中に不備の無い申請を行えば、説明会を開催の必要が無いということか。 |
今般の措置については、2022年10月以降、ワーキンググループや国会といった公開の場において十分な審議を重ねてきたものであり、周知不足との御指摘は当たりません。さらに、2023年度の認定申請締切日については、2023年6月23日時点で既に公表されており、この点においても周知不足との御指摘は当たりません。これまでに実施してきた徹底した周知・広報の詳細について、別添にて改めて整理してお示ししますので、ご覧ください。以上のように、適切に周知期間が確保されているものであることから、経過措置がなければ事業者の予測可能性が損なわれる状況とはなっていません。 このため、2023年度の新規及び変更認定申請の締切り(太陽光(10kW以上)、風力、水力、地熱)が2023年12月15日であったこと等を理由に、特段の経過措置を設定することはしません。当該締切り以降の申請については、2024年度認定となるため、説明会の開催等をFIT/FIP認定の要件とすることを含め、改正後の省令の規定が適用されることとなります。 |
再エネ特措法施行規則パブリックコメント結果のポイントとしては以下の通りです。
- 再エネ事業においては、特別目的会社(SPC)が事業主体として使われることも多いですが、SPCにおいて説明会等の開催が必要となる場合には、当該SPC自身が主体となる形で説明が行われることが必要となります。当該SPCに関して、一般社団法人がSPC(合同会社)の親会社となって、独立の職務執行者が選任されている場合には、当該職務執行者が説明会等の主体となるべきである可能性があります。
- これまで発電事業者の株式、持分譲渡及び匿名組合持分譲渡は、変更認定の対象ともされておりませんでしたが、2024年4月1日以降は、変更認定の対象とされるとともに、当該変更認定に際して説明会等が必要となります。
- 設備認定地番の削除についても、説明会等が必要となります。
- 令和5年分の変更認定申請については、2023年12月15日に申請自体が既に締め切られておりますが、これを理由として、説明会等の開催を猶予する等の経過措置は設けられないこととなりました。
②説明会及び事前周知措置実施ガイドラインパブリックコメント結果(回答については一部筆者にて記載を省略)
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「関係者情報」について、「主な出資者(第5順位まで)」とあるが、「出資者」とは何を指すのか。株式会社は 株主、合同会社は社員を意味するという理解でよいか。 |
御指摘を踏まえ、「主な出資者」については、以下の者を指すこととし、その旨を明確化します。 ①認定事業者の社員(認定事業者が持分会社の場合) ②認定事業者に対する議決権を保有する株主のうち、上位5位までの者(認定事業者が株式会社の場合) ③認定事業者に対する全ての匿名組合出資のうち、上位5位までの出資持分を保有する者 ④上記①~③の者の親会社(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第8条第3項に規定する親会社をいいます。) |
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再エネ発電事業者における説明者全員が現地会場で説明するのではなく、その一部の者がオンラインで参加してもよいか。また、周辺地域の住民についても、例えば、再エネ発電事業の実施場所に隣接する土地・建物所有者について、オンラインで参加することも認めるべき。 |
再エネ発電事業者のうち主たる説明者や質疑応答に対応する主たる者や周辺地域の住民については、十分かつ適切なコミュニケーションを図る観点から、対面での参加が必要です。ただし、補足的に説明を行う者や、質疑応答に補足的に対応する者について、オンライン会議ツールを使用して遠隔地から参加することを妨げるものではありません。 |
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再エネ発電事業への融資を行った金融機関等による担保権の実行又は任意売却を契機とする事業譲渡は、説明会の開催対象となるのか。対象外とすべき。再エネ発電事業への融資を行った金融機関等による 担保権の実行又は任意売却を契機とする密接関係者の変更についても同様。 |
再エネ発電事業への融資を行った金融機関等による担保権の実行又は任意売却を契機とする密接関係者の変更についても、同様に改めて説明会等の実施を求めることとします。 |
112 |
現行制度において、密接関係者の変更は、変更認定事由とはなっていない。仮に、密接関係者の変更に際して説明会等の実施を求める場合には、密接関係者の情報を事業計画の記載事項として求めた上で、その変更に際して変更認定を受ける必要があるとする法改正を行う必要がある。そのような法改正及び事前の周知もない中で、社員等の変更に際して変更認定申請を求め、説明会等の開催を求めるのは、行き過ぎた規制であるとともに事前周知もない中でこのような変更を行う場合には社会的混乱も生じかねず、妥当ではないと考える。 |
密接関係者の変更は、現行制度では変更認定事由としておらず、2023年3月31日までの変更の手続は届出によることとなります。 2024年4月1日以降の変更の手続は、変更認定によることとなり、その変更認定に当たって説明会等の開催が必要となります。 |
説明会及び事前周知措置実施ガイドラインパブリックコメント結果のポイントとしては以下の通りです。
- 再エネ発電事業への融資を行った金融機関等による担保権の実行又は任意売却を契機とする事業譲渡についても、説明会等の対象とされることとなります。金融機関がステップインすることは、金融機関が借入人に与信を与えるに当たっては重要事項であるところ、説明会等が要求されるとなると、迅速な担保実行に少なくとも影響を与えることになります。
- 密接関係者の変更は、2024年3月31日までは届出で足りることとされております。一方で、2024年4月1日以降の変更の手続は、変更認定によることとなり、その変更認定に当たって説明会等が必要となるとされております。
2024年4月1日に施行される再エネ特措法改正に基づく説明会等の要点については上記の通りになります。この点、改正再エネ特措法施行規則上定義されている「周辺地域の住民」とは、事業対象地の周辺(同施行規則第4条の2の3第2項第1号イ~ハに定める範囲に限る。)に居住する住民、事業対象地に隣接する土地又は建物の所有者、及び事業対象地の市町村が必要と認める者とされており、周辺に居住している者が存在しない場合であっても、事業対象地に隣接する土地又は建物の所有者等のために説明会等を開催する必要があります(同施行規則第4条の2の3第2項第1号)。また、現時点において、本ガイドラインや各パブリックコメント結果からは、説明会等自体が省略できるような例外は想定されていないように考えられることから、特に2024年4月1日の改正再エネ特措法施行前後において、FIT/FIP認定が関連するセカンダリーでの譲渡をご検討されている事業者においては、説明会等の実施を踏まえたFIT/FIP認定手続のスケジュールの検討や実際の説明会等の開催を踏まえた実務的な手続の確認が必要と考えられます。
以上