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FIT/FIP 認定及び事業譲渡等にあたっての手続改正について
2023.12.14
再エネ特措法上の認定手続にあたっての規制強化について
2050 年カーボンニュートラルの実現に向けて脱炭素電源の利用促進を図る一方で、電力の安定供給の確保を目的として適切な制度整備を図ることを目的として、脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(以下「GX脱炭素電源法」といいます。)が2023年6月7日に公布されており、2024年4月1日に施行が予定されています。
2023年4月6日のブログでもその閣議決定の内容をお伝えしておりますが、GX脱炭素電源法において制度改正の一つの柱とされているものが、地域と共生した再エネ導入のための事業規律強化であり、そのうち再エネ特措法上の認定手続にあたっての規制強化については、再エネ事業に携わる事業者にとっては重要な改正点となると考えられます。
この点、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会から「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ第2次取りまとめ(案)」が2023年9月29日に公表され、GX脱炭素電源法に基づく改正の制度設計について議論した結果が取りまとめられております。当該取りまとめ案は、2023年10月29日までの期間において以下の通りパブリックコメントに付されておりましたが、当該パブリックコメントの結果が同年11月28日に公表され、併せて第2次とりまとめ(以下「第2次取りまとめ」といいます。)が公表されております。
また、第2次取りまとめを受けて、具体的な改正省令案の概要に対するパブリックコメントの募集が2023年11月28日に開始されており、同年12月27日まで募集されています。
GX脱炭素電源法による再エネ特措法の改正(以下「本再エネ特措法改正」といいます。)により、FIT/FIP認定手続にあたっては、説明会の開催などの周辺地域住民への事前周知手続の実施が認定要件に追加されていますが、第2次取りまとめでは、この周辺地域住民への事前周知手続の概要が掲げられております。
(1) 説明会等を実施すべき再エネ発電事業の範囲
再エネ電源であれば、原則としてFIT/FIP認定の前提として、事前周知手続を求めております。
但し、以下の表の通り住宅用太陽光及び屋根置発電事業並びに再エネ海域利用法の適用のある洋上風力発電事業を除くものとされております。
出典:資源エネルギー庁「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生WG第2次取りまとめ」P9
なお、非FIT/FIP電源については説明会等の開催の対象とはなりませんが、パブリックコメント結果の10の質問及び回答において、非FIT/非FIPであって補助金の交付を受けて行っている事業については、補助金の交付に当たって、非FIT/FIP認定の要件を踏まえた水準の規律を求めることとされております。
(2) 「周辺地域の住民」の範囲
「周辺地域の住民」の範囲については、 事業者及び住民の予見性を確保する観点から、電源種・規模ごとに、事業場所の敷地境界からの距離による定量基準を設定することとされております。
「周辺地域の住民」の範囲 |
|
(1) 低圧(50kW 未満) |
事業場所の敷地境界から 100m 以内 |
(2) 高圧(50-2,000kW)及び特別高圧(2,000kW 以上) |
事業場所の敷地境界から 300m 以内(※1) |
(3) 法アセスの対象となる発電所(※2) |
事業場所の敷地境界から1km 以内 |
(※1)これは、大型の発電所ほど、再エネ発電事業の実施による影響が及びうる範囲が大きくなることが念頭に置かれているためです。
(※2)環境影響評価法に基づく環境アセスメント(第一種事業に限る。)の対象となる大規模電源とされております。
なお、以下の点にも留意を要します。
- 上記の「事業場所」とは、原則として、再エネ特措法における発電設備の設置場所を指すこととされております。
- 居住者だけではなく、土地及び建物の所有者も周辺地域の住民に含めるものとされております。
- 説明会は、FIP及びFIT認定申請の3か月前までに実施することを求めることを原則としております。
(3) 事業譲渡の範囲
認定後の事業譲渡に関しても、事業者が交代する場面においてコミュニケーション不足によりトラブルが発生する事案も生じやすいとの指摘を踏まえて、変更認定時に説明会等の開催を求めるとされております。
また、事業譲渡だけではなく、実質的支配者の変更など事業譲渡以外の場合についても、変更認定時に説明会等の開催を求めるとされております。
この点、事業譲渡に類する変更として、事業譲渡のみに限らず、会社分割を利用する場合においても説明会の開催等を求めることが適切であるとされており、これは合併により事業譲渡に類する変更を行う場合においても、説明会等の開催が求められることとなると思われます(※3)。また、設備の開発中のみならず、運転開始後においても説明会の開催が必要とされております(※4)。
また、事業譲渡、会社分割又は合併以外にも、合同会社を発電所の事業体としている場合には持分譲渡により譲渡が行われる場合もありますが、持分譲渡の際の代表社員の変更についても実質的支配者の変更に該当すると考えられるのが合理的と思われます。この点について、パブリックコメント結果の19番の質問及び回答にて、持分譲渡等「実質的支配者の変更」と解されることとなり、説明会開催が必要とされております。
(※3)但し、会社分割や合併の場合においては、FIT/FIP認定との関係については、現在事後変更届出で足りるという扱いがなされている経済産業局も多いことから、事後変更届出の要件とされるのか、今後の実務的な見解が明らかにされることになると思われます。
(※4)パブリックコメント結果61の質問及び回答参照。
なお、以下の点にも留意を要します。
- 説明会については、譲渡人及び譲受人の双方が説明会に出席することを求めるとされております。特に譲受人としては、譲渡契約において譲渡実行の前提条件又は譲渡後の譲渡人の誓約事項として規定しておくことが重要であると考えます。
- 説明会の開催のタイミングとしては、事業譲渡等の契約締結後(事業譲渡等が対外的に発表される場合には、その発表後)、変更認定申請前のタイミングにおいて、説明会の開催等を求めることとされております。本再エネ特措法改正の施行日は、2024年4月1日とされておりますが、本再エネ特措法改正以前に締結され、2024年4月1日以降に変更認定がなされる案件について、どのように取り扱われるのかが、重要と思われます。
- 本再エネ特措法改正の施行日前に既に説明会を行っている場合又は他法令・条例に基づく説明会が行われている場合について、施行後にFIT/FIP認定申請を行うときに、当該説明会をもってFIT/FIP認定の要件を充足するものとできるのかとの質問がパブリックコメント結果の11及び13の質問でなされております。これに対して本再エネ特措法改正の施行日前に行った説明会が、本再エネ特措法改正において求められるFIT/FIP認定要件を全て充足するものである場合には、当該説明会をもってFIT/FIP認定の要件を充足するものとして取扱うものとされております。
- パブリックコメント結果の15の質問及び回答において、住民側の代理人出席の可否については、明確な回答が示されず、今後具体的な制度設計を進めるとされております。
- パブリックコメント結果の16の質問及び回答において、説明会での説明内容等につき疑義がある場合に、住民が資源エネルギー庁に対して通報を行うことができる通報フォームを整備することなどを予定し、この通報を端緒として、事業者の申請内容に疑義が生じた場合には、資源エネルギー庁から事業者に対して報告徴収等を実施し、説明会の録画及び録音の提出を求めることとしています。また、「事業の安定性」の観点も踏まえ、その際に再エネ発電事業者が客観的な証拠を提出できるよう、FIT/FIP認定の認定基準として、説明会の全景の録画及び録音と、その保管を求めることとしています。
- パブリックコメント結果の42の質問及び回答において、所有者不明土地の対応について質問がなされておりますが、事業者が具体的な土地及び建物所有者を特定することが困難なケースがあり得ることから、資源エネルギー庁のシステムを活用して説明会の開催情報(時間・場所等)の提供を求めることとされております。
認定事業者の責任明確化(監督義務)
認定事業者が、自ら事業を行わず、第三者に事業の全部又は一部を委託するケースもありますが、委託先に以下のような形で義務を課すことを求めています。
- 認定事業者と委託先との間で書面の契約書を締結し、当該契約書において、委託先も関係法令の遵守を含めた認定基準及び認定計画に従うべき旨を明確化することを求める。
- これを実効的に担保する観点から、委託先から認定事業者に対する報告体制、再委託時の認定事業者の事前同意などといった事項を当該契約書に含めることを求める。
- 委託先の認定基準及び認定計画の遵守を担保するという趣旨に基づき、認定基準及び認定計画の遵守状況を報告するよう認定事業者が委託先に求める。
- 今後、ガイドライン等において、典型的な委託の事例における望ましい報告の形式や、客観的資料を用いて報告するための証憑の例(事業実施場所の現地の写真など)が示される。
- 報告の頻度についても、定期的な報告(例:年1回)に加えて、災害発生時や認定基準及び認定計画に違反するおそれがある状況が生じた時などの有事の際の緊急報告を認定事業者が委託先に求めることが適切である。
上記の点については、本再エネ特措法改正の施行日(2024年4月1日)以前に締結された契約についても適用される可能性があることに留意が必要になります。施行以前に締結された契約にも適用がある場合には、本再エネ特措法改正の施行に向けて、今後締結される委託先との間のAM契約及びO&M契約等のみではなく、既存の契約内容についても内容を精査しておく必要があると考えられます。この点、パブリックコメントの65番の質問及び回答は、既に認定事業者が委託先と締結している契約についても適用があることを前提にしているとも解釈できる内容となっており、改正法施行前に十分な周知期間を確保できるよう、速やかに具体的な詳細設計を進めると回答している点は、改正法施行後の経過措置は設けられない前提であるように考えられますので、この点に留意が必要となります。
特にプロジェクトファイナンスが付与されているプロジェクトに関連するAM契約及びO&M契約については、当該契約の変更にはレンダーの事前承諾が必要となりますので、詳細な制度設計が明らかになった後、速やかに契約変更の対応を行う必要があると考えられます。
関係法令に違反した場合等にFIT/FIP 交付金を一時停止する措置等
再エネ特措法における認定事業者は、関係法令に違反した場合等には、指導、改善命令を経て、認定が取り消されることとなります。このような違反の未然防止・早期解消を促す仕組みとして、本再エネ特措法改正により、関係法令に違反した場合等、FIT/FIP 交付金を一時停止するための積立命令に基づく積立義務を新たに課すこととされております。第2次取りまとめでは、当該積立命令の発動時期については、当該違反が覚知され、違反に係る客観的な措置(書面による指導等)がなされた段階においては、積立命令を発出することが可能であるとの方向性が示されております。
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