対談・座談・インタビュー
コロナ禍及びコロナ後の経済と事業再生
2020.10.01
山一証券の自主廃業・破産申立てにも関与し、倒産や企業再生を数多く手掛けてきた相澤光江弁護士を中心に、TMIの事業再生分野を支える倒産ロイヤーに、コロナ禍及びコロナ後の経済、そして事業再生の在り方・変容について聞きます。
はじめに
相澤光江弁護士
本日は、本年7月に出版された『事業再生・倒産実務全書』の執筆者でもあり、いずれも10年以上、事業再生を専門として、私的整理、法的整理による各種再生案件について豊富な経験をもっており、TMIの事業再生チームの中核を担っている弁護士たちと、「コロナ禍及びコロナ後の経済と事業再生」という大きなテーマの中で、様々な角度から「事業再生の今後」について議論をしていきたいと思います。
コロナが世界・日本の社会経済に与えた影響と今後の見通し
相澤光江弁護士
皆様にそれぞれのお考えをお伺いする前に、まず、私の方から、コロナが世界・日本の社会経済に与えた影響と今後の見通しについて少しお話ししたいと思います。
結論から申せば、私は、ウィズ・コロナは2021年以降も続くものの、それと同時並行的に技術進歩や変革も急速にすすみ、世界経済は蛇行しながらも早晩回復と成長に向かって行くことが期待できると考えています。
2020年3月11日にパンデミック宣言がWHOから出た少し前から、主要先進国を含めて中国、ヨーロッパ、アメリカ、日本、中南米とコロナ感染症が広がっていったわけですけれども、これに伴って、「人」と「モノ」の流れが止まったことによる経済の大規模な委縮が起きました。
それに対して世界各国の政府は、大規模な財政出動と金融緩和策をとってきました。アメリカや日本について言いますと、既に、おおよそGDPの20%以上の金額を、コロナ対策の予算措置等として執っています。
その結果、各国の市場は、かなり「お金が潤沢に供給されている」状態、誤解を恐れずにいえば、お金が「余っている」「行き場所を探している」という状態になっています。このような措置のおかげもあり、世界各国では大恐慌というようなパニックは起きていないと思われます。
つまり、実体経済はかなり委縮しているけれども、政策効果で、その痛手・ショックは限定的に抑えられている。一方で、IT関連企業の成長はコロナで加速しており、その結果、倒産件数も失業者数も、当面は当初想定より少ないと思われます。
― 今後はどうなるとお考えでしょうか。
相澤光江弁護士
公表された情報からすると、シナリオがいくつか考えられるかと思います。
第一に楽観的なシナリオでは、2021年の半ば頃までには、有効なワクチンが世界各国、少なくとも日本の国民にいきわたって一定の集団免疫が形成され、経済活動がかなり自由になるというものであり、期待シナリオです。
第二に悲観的なシナリオでは、ワクチンは完成しても有効性には限界があり、経済活動の復活が進むにつれ再び感染爆発の危険にさらされ、長期にわたって経済の委縮と低成長が続くというものです。
私自身は、期待も含めてですが、「楽観的なシナリオを少し控えめにみたもの」が実現可能性の高いシナリオだと考えています。つまり、来年の後半までにはワクチンが利用可能になるか、有効な治療薬が確保されるなどして感染爆発は抑え込めるが、ウイズ・コロナ状態がしばらく続き、経済活動は制限を受けるものの次第に適応して回復していくというものです。
こうしたいくつかのシナリオを念頭にこれからの産業構造、世界経済の変化をどうみるか、ということでお話しますと、コロナ以前から進んでいた第4次産業革命という「ITや通信技術を活用した変化」は技術革新の流れのため、コロナが収束しようがしまいが進んでいくものと思います。
その中で、企業はどうなっていくのか、今の議論の前提を考えていくとWinner takes allという状況というか、企業の格差は広がる危険がある一方、企業の新陳代謝が進んで成長の機会も広がっていく、という期待もあります。
他方で国別にみれば、アメリカ、中国、それらについていこうとする日本とかヨーロッパの先進国と、発展途上国との間の格差は益々拡大していき、世界の不安定化が起きる危険があります。
しかし、そのような不安定性の中でも、ITや通信、データ利用の世界を軸に産業間の垣根を乗り越えた大きな変化が生じるというのが識者の見方でもあり、私自身もそうした変化の中で環境問題も含めた大きな課題もある程度乗り越えていけるのではないか、と期待しています。
― コロナの経済に対する影響については、例えば2008年のリーマンショックとは、似たような部分があるのか、違いがあるのかそのあたりは如何でしょうか。
山宮弁護士
リーマンショックは「お金」の動きが止まったもの。これに対し、コロナ禍の影響は「人」「モノ」が止まったもの、という理解をしています。つまり、今回は、お金の動きはまだ止まってないんです。それが初期的な影響の違いになっていると思います。
相澤光江弁護士
リーマンショックは、究極的にはやはり金融の問題でしたが、今回は消費が止まり、局所的ではなく全産業に影響を与えているわけです。リーマンショックより悪質な部分があると思っています。
飯塚弁護士
そうですね。私も同感です。リーマンショックの時は勿論大きな影響がありましたが、やはり中心は金融の話でしたから、景気全体の話はともかく、全てが市民的な生活レベルに影響を与えていたわけではないように思います。一方、今回のコロナ禍では、一次的に破綻に瀕するのは観光業や飲食店といった自分たちの生活の身の回りに存在するような、自分たちの財布で事業をしていかなければならない人たちであり、だからこそ、短期的には幅広く一人一人に対して、財政支援を行う必要があったのだろう、それを踏まえた政策が採られたのだろう、と思われます。
事業再生の今後の見通し
― こうした状況の中で、事業再生を取り巻く環境がどのような状態にあるかという点ですが、山宮弁護士はどのようにお考えでしょうか。
山宮弁護士
今はまさに、ウィズ・コロナの真っただ中かと思っていますけれども、その中で経済対策という観点からすると、新型コロナ対策の特別貸付だとか、セーフティーネット保証、危機対応融資とか、家賃支援給付金、雇用調整助成金、持続化給付金、もっと言えば、公租公課の延納措置といった「資金繰り」を繋ぐためのお金を出し、出ていくお金を抑える措置、といった政策的なメニュー、ラインナップは出揃っている、という感じがします。
しかし、これらは、いずれも抜本的な措置ではなく、時間稼ぎ的な措置であるという側面は否めません。打ち出の小槌には限りがあって、コロナの収束が簡単ではない、むしろ、コロナと共存しながら、どう日常を取り戻していくのか、という方向にマインドを変えていかないと、この状況は変わっていかないと思います。企業も含めて、「コロナ対策をやりましょう」と言っている間は今の状況はあまり変わらず、コロナがあってもここはやっていかなくてはならないと考えて、通常に戻していく、という意識の転換が大事になってくると考えています。
ただ、今できることについて考えていくと、事業の再編をしていかなければなりません。つまり、規模を集約して統合していかなければなりません。あとは、本当に大変なことではありますが、従来の形にとどまらず、意識を変えて業態自体の転換を図っていく必要があるという部分もあると思います。例えば、カラオケボックス、居酒屋、カプセルホテルなどは、それを利用する消費者の意識が転換してしまっている以上、コロナが終わっても、従前の業態への完全な復帰は難しくて、それぞれ新しい時代に適した形に業態転換を図っていく必要があるのだろうと思っています。
- 今、例えばということでカラオケのお話が出ましたが、これまでカラオケというのは全国津々浦々にあり、様々な年代の人々にとっての交流の場としても重要な意味を持っていたと思います。カラオケだけではなく旅行もそうかと思いますが、このような娯楽や交流の在り方・文化といったもの自体が消えてしまう、というようなこともあり得ると思われますか。
山宮弁護士
私は、そういった長年の文化・価値観のようなものは簡単になくならないと思います。
ただ、形自体は変わっていかざるを得ないのではないでしょうか。今でも既にオンラインやリモートを前提とした生活様式が浸透しつつありますが、もしこのままコロナの影響が長期化していけば、やはりどこかのタイミングでは、我々のマインドセットが改められ、コロナのような感染症が存在することを前提とした社会構造、産業構造が作られていくと思います。
- お話頂いた業態転換の他には、今、企業はどのような工夫・努力が求められているとお考えでしょうか。
山宮弁護士
これはコロナ禍に限ったことではないと思いますが、やはり、売上が上がらない状況では固定費を抑制していかなければなりません。賃貸借契約を解除する、人員を削減していく、そういった工夫・努力も行っていく必要があるのではないでしょうか。もちろん、それと共に副業を容認するといった取組みも必要になってきます。
また、今やろうとしても、単独でできないこともありますから、来るべき日常に向けて、「今やれることは何か」を考えて準備していく必要があると思います。例えば、この間に社員教育を徹底したり、新生活様式への転換に向けた補助金を活用する等してIT投資をしていくとか、これまで手を付けられなかった設備投資、修繕等に手をかけるといったことも重要なのではないかと思ったりしています。
ただ、そうはいっても、現実にはそれほどお金に余裕がないというのが実態だと思われます。補助金などの手当資金のみでは限界がありますし。そうすると、選択肢の1つとしては、ファンド等の他社から何らかの形で出資を受ける、他社への事業譲渡をする、あるいはいっそのこと、M&Aで他社の傘下に入るといったことも、現実的に検討することが必要になってくるのかな、と思われます。
もっとも、当然ながら、事業に将来性がなければ資金を出してもらう事も難しいと思います。将来性の説明が難しい場合には、残念ながら、傷口を広げないように、早めに事業を縮小・廃止することや会社を清算することなども、検討していかなくてはいけなくなると思われます。
- 先行きが不透明な中では、そもそもどういう形であれば将来性のある事業の再構築という絵が描けるのか、また、それにはどれくらいの資金量が必要なのか、ということにも不明瞭さが残りますので、事業再生のサポートもこれまで以上に難しくなりそうですね。
山宮弁護士
それは重要なポイントですね。事業再生計画を作れなければ、当然、スポンサーからは投資できないと言われてしまいます。コロナ禍の下では、事業再生を手がける弁護士にとって、そういった点を踏まえて事業再生計画の作成支援をすることが、一層重要になってくると言えますね。
相澤光江弁護士
仰るとおり、その点は簡単ではありません。ただ、私は必ずしも悲観的には捉えていません。余ったお金は行き場所を求めていくわけです。事業再生計画の策定がこれまで以上に難しくなるとしても、それだけで事業再生に流れるお金が減ることにはならないのではないか、と考えています。
このような状況下にありながら、多くの企業は逞しく事業の幅を広げることに積極的です。M&Aも極端には減っていないように感じています。ウイルスは、その宿主である人類を滅ぼしてしまうことはなく、いずれ収束して共生していける状態になるわけです。その時を見据えて、現在の危機は戦略再構築の機会ととらえて行く必要があり、その一手法として事業再生の活用も視野に入れて行く、ということが大事だと思います。
医療関係の再生
― 個別産業の中で、医療機関は経営的に苦境に立っているという話がありますが、その辺りどうでしょうか。
吉田弁護士
公知のとおり、足下では、医療法人や病院等の運営、経営状況は相当苦しいようであり、4月時点で病院の全体の2/3以上が赤字になっていたという報道もあります。
しかしながら、そういった状況にもかかわらず、医療法人の再生状況に関して、私が聞いた限りでは、コロナの影響により申立てが増えたという印象はないようです。
その理由ですが、病院についてもコロナ関係の特別融資などを受けることで足元のキャッシュはなんとか調達できているという状況があり、あとは、福祉医療機構からも融資が受け易くなっている、という状況が理由となっているようです。
次に、再生が行われる場合に私的整理と法的整理どちらがより採用されているのかというと、少なくとも地方の病院については、法的整理、とりわけ民事再生の利用を前提とした相談が増加しているようです。
― 私的整理ではなく、法的整理が選択されやすい理由は何でしょうか。
現状、実質的に、医療法人について準則型の私的整理手続で処理をしてくれる機関がない、ということが挙げられると思います。REVIC(地域経済活性化支援機構)の現状として、新規の相談案件を積極的に扱っているというような状況は見受けられず、支援協(中小企業再生支援協議会)の方は、医療機関も取り扱ってくれるようなのですが、その取扱いの実態が見えないためか、医療法人側としては相談しにくいようです。
― 今後の医療法人の再生についての見通しはどうでしょうか。
今後ですが、病院についてもほかの業種と同様に、コロナの影響で事業計画を描けない、仮に描いても事業価値が低くなってしまう、という状況かと思います。そうすると、売り手としては売りたくないという話になりますし、再生案件がすぐに急増するような状況ではないように思います。
また、コロナの影響により事業計画が描けないような現状だと、金融機関の方も債権カットに応じにくいということが言えるかと思います。コロナ関係の融資には据え置き期間もありますので、その期間ではあまり動きはないのかなという印象です。
ただ、足元が一服しているのであれば、今こそ事業の再点検を行った方が良いと思われます。具体的には、経費の削減策はもちろん、不採算の科の分析、病床稼働率の検証などをして、経営資源をどこに集中するかなど検討してみてもいいのかと思います。据え置き期間経過後の返済をしつつ、事業継続が可能なのかを検証してみる必要があると思います。その結果、自力での収益改善が難しいというのであれば、ファンドからの支援などを早めに検討するのもあり得るでしょう。特定の金融機関がファンドを設立したり、一部のファンドでは、劣後ローンを融資したり、人の派遣までも含めてターンアラウンドをサポートしていますから、そういった支援を含めて将来の事業を検討してもいいと思います
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進行と事業再生
― コロナ禍の下で、DXの重要性が改めて認識されているようですが、現状と事業再生に与える影響についてはどうでしょうか。
相澤豪弁護士
正確には、DXという大きな流れはコロナ前から進行していたものですが、今回のコロナ禍を受け、更にその動きが見直され一層加速して行く、という捉え方でいます。今低迷している事業があるとしても、それがDXによって今後回復していく可能性があるものと思われます。
例えば北欧諸国はDXが進んでいると言われていますが、コロナ禍以前から産業的なDXだけでなく社会インフラ的なDXも進んでおり、リモートワークやオンラインによる公的書類の申請などもかなり進んでいたことも影響してか、コロナによるGDPの減少幅がかなり小さいというデータもあります。
それだけではなく、DXは生産性の向上にも大きく寄与すると言われています。例えば、スウェーデンの大手銀行のSEBは、この20年間で行員数が3割減っている一方で、給料報酬が7割上がっているとされます。未だ、日本では残念ながらそのような変化が起きているとはいえませんが、逆に言えば、今後改善する余地があるわけですし、期待していきたいと思います。
― DXが生産性の向上に資するとなりますと、多くの企業でDXを進めていくのは急務ということになりそうですが、導入はスムースに行くのでしょうか。
現実問題としては、そう簡単ではありません。その理由は企業によって様々かと思いますが、大きく四つほど理由があると思います。
一つ目は、システム投資に大きな資金が必要になりますが、その資金が用意できない場合があること。
二つ目として、旧来型のやり方で成功してきた経営陣にとって旧来の発想からの脱却は容易ではないこと。
三つ目は、レガシーシステムからの脱却が難しいという点です。デジタル化が進んでいる企業ほど、既にしっかりとしたシステムが導入されており、それは既存の仕組みや制度と結びつく形で出来上がっているので、そのシステムを変えるということは、背後の様々な仕組みや制度も変えることまでも必要なわけです。そういった仕組・制度改革を伴ったシステムの刷新こそが、単なるデジタル化とは一線を画すいわゆるDXだと思いますが、制度改革というものが容易ではないのは周知のことと思います。
四つ目は、的確な活用の仕方が分からない、例えば、データをどう活用していくのか、リモート技術をどう使うべきか、AI・ロボットをどう利用すべきかなど、具体的な活用方法には色々あって、適切な選択をすることはそう簡単ではないのかなと思われます。そして、例えば、企業の縦割りが強かったりすると、全社横断的な課題だったりするものが洗い出しできない、解決できないといったことが起こり得るのではないかと思うわけです。
― そうした問題があるとすると、企業がDXを成功させるためにはどうしたらいいでしょうか。
DXが上手くいった著名な例として、アメリカの大手スーパーのウォルマートがありますけれども、ウォルマート・ラボというマーケティング部署が強い権限をもってDXを進め、更に有力なIT企業を多数買収しており、その中には業界でかなり著名な人物も含まれており、外から優秀な人材とノウハウ・テクノロジーを獲得してDXを進めたと言われています。
逆に、アメリカのとある大手百貨店では、ITに強い責任者が不在で、同業界人材だけで経営判断がなされているため、上手く行っていないという話もあります。
これらの例などからすると、やはり全社横断的な強い権限を持ったチームが進めていかなければ難しいのではないかということ、それから内向きというか会社内、業界内だけの人材では大きな変革というのは難しく、業界内にとらわれないで、外の世界の人材に目を向けていくという英断が必要なのかなと思います。
― DXは事業再生に影響があるでしょうか。
DXの実行は簡単ではないと思いますが、今は幸いにもDXの必要性というものが多くの人に認知されている状況ですので、周囲の理解は非常に得られやすいと思います。つまり、今はDXへ向けた戦略再構築の非常に良いチャンスだと思いますし、この機会を活かせれば、今、低迷している多くの企業でも自力での再生の余地も十分にあるのではないかと思います。
他方で、それが自力ではできないということになりますと、スポンサーからの支援によっての再生となり、その場合、DXによるシナジーを生みやすいスポンサー、具体的にはいわゆるプラットフォーマーなど高度のIT技術を持ちかつ資金力のある企業が支援を行う再生事案が増えていく可能性があると思います。
事業再生のスポンサーの役割
― 本日、スポンサーによる支援の必要性に関する話が何度も出てきていますが、スポンサーの立場からみたときに、今後はどのようなことを考えていくべきでしょうか。
飯塚弁護士
冒頭相澤光江弁護士のお話にもありましたが、今、一部の企業や市場にはお金が余っている、という部分もある中で、スポンサーとしての投資を考える状況が生じることも少なくないと思われます。他方で、コロナ禍で先行きが不透明であり、なかなかお金を入れることには躊躇を覚える、という状況でもあろうかと思っています。
私がご相談を受けている中で比較的多くみられるのは、取引先が破綻状態あるいはそれに近い状態が懸念されるようなときに、そういった取引先に対して何をどうしたらいいでしょうか、というご相談です。重要な取引先・仕入先といった自社のサプライチェーンに入ってくるような取引先については、短期的には自社のビジネスを守るために、そういった会社に対する金融支援も積極的に行っていく必要があるケースが出てきます。
他方で、足元では窮境に陥っているけれども、実は、中長期的に見れば一時的に危機にあるだけ、ということであれば、平時に買収あるいは投資をするよりも、良い経済的条件でビジネスを譲り受けるチャンスになるとも考えられます。
― そのような場合、具体的にはどのような仕組みがありますか。
例えば、SPCを作ってそこに事業譲渡を受けるといった方法では、スポンサーは実際に出資をした限りでの責任となり、責任の範囲も限定されますし、その後、中長期的に見て事業が回復してくるようであれば、子会社化なりIPOを目指すなど、投資回収を図っていくこともできるわけです。自社事業とシナジーのある事業に投資をするのであれば、最終的に垂直統合を図り自社のビジネス自体の安定化、効率化に活用するということも考えられます。
垂直統合をする上で他者の持っているビジネスを買うのは費用がかかるというデメリットがあるところですが、一時的に傷んでいたとしても、良い経済的条件で買えるビジネスなのであれば、積極的に支援を行う事も考えられるのではないかな、と思います。
― スポンサー企業の取締役として注意した方がよい点は何でしょうか。
取締役の責任という観点で法的な部分の話をさせて頂きますと、基本的には、どう投資をしていくか、どう支援をしていくかというのは、経営判断の原則により取締役には裁量が認められます。ただ、グループ会社の事例において、子会社に対して、子会社が倒産の危機にあり債権の回収が不能になるなどの危険を具体的に予見できるにもかかわらず、適切な措置を行わずに金融支援をしたという事案で、取締役の責任が認められたようなケースもありますので、長期的に見れば利益になる、といったスキームで投資をする場合には、長期的に見た場合の経済的なメリットをきちんと説明できるようにしておくことが重要だと考えられます。
最後に
相澤光江弁護士
最後にまとめさせていただくとすると、コロナの影響は非常に大きいという事ですが、よく言われるようにピンチはチャンスであると思います。
今まで日本の事業再生の世界では何が起きていたかと言いますと、企業円滑化法もあり、また日本の政治というのは伝統的に中小企業保護という方針であり、零細企業も含めて、生産性が極めて低く将来の成長も見込めないような場合であっても、企業は「温存」されてきたと言えます。それが社会の安全弁となってきた面もありますが、経済の健全な新陳代謝や成長を妨げてきた面もあると思われます。
コロナ禍の中で、融資制度や給付金で一時的に資金繰り破綻をしのげても、いずれ中小企業、大企業の中でも選別が行われて行くことは必至で、それを見据えて再生のチャンスをどう見ていくのかが大事になってくると思われます。
少子高齢化という中で、日本の社会が抱えている問題はいくつもあって、コロナの影響が古い殻を破って問題を解決するチャンスになればいいと思っており、それが個別の企業の再生だけでなく、日本経済全体の成長・再生につながっていくことが望まれる姿かと思っております。
冒頭ご紹介した「事業再生・倒産実務全書」も充実した内容と自負しており、本日お話させていただいたようなお話の「行間」を把握いただくこともできるかと思いますので、ご興味があればご覧頂ければ幸いです。
それでは本日の座談を終わりたいと思います。また、随時事業再生、倒産関連の情報もチームで発信していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願い致します。