ブログ
【宇宙ブログ】英国における打上げ実施者・衛星管理者の保険加入と責任の上限
2020.11.17
はじめに、昨日朝(日本時間11月16日月曜日)、Space Xのロケット「Falcon 9」によって、日本人宇宙飛行士の野口さんが登場した宇宙船「Crew Dragon」が打上げられました!!!
打上げ直前にはJAXA理事長山川さんのLIVEインタビューもあり、今後の月面着陸に向けて、日米間の宇宙開発の協力体制が有人宇宙飛行の分野で一層強固なものになった印象です。
Space Industry Act
さて、今回は英国法に関する記事です。英国では、2018年に、1986年に制定されたOuter Space Act 1986(OSA)以来、32年ぶりの宇宙関連法として、Space Industry Act(SIA)が制定されました。OSAは、英国国民や英国企業による英国内外での衛星打上げや軌道上の衛星管理について定めた法でしたが、SIAは英国内での打上げと、英国内での衛星の管理についてルールを定めており、SIAが施行されると、OSAは英国外での打上げに関して定める法となります。
このSIAの施行のため、今年10月13日に、ロケット打上げ者及び衛星の管理者の責任上限、加入すべき保険の要件等に関する規則案・ガイダンス案と、それらの解説及び意見聴取(public consultation、いわゆるパブリックコメントの募集)のための質問事項が公表され、同時にこれらについての意見聴取手続が行われました(聴取期間は11月10日まででした)。
SIAでは、英国内でロケットを打ち上げる者及び英国から衛星を管理する者が、英国領域内の地表・水面上、又はこれらの上を飛行する航空機等において、人や財産に生じた損害について、無過失で責任を負うことが定められています(SIA34条2項)。
今回の規則案及びその解説によると、英国内でのロケット打上げや英国からの衛星管理について、かかる対第三者責任をカバーする保険の具体的な要件を下位法規において定めるのではなく、個別の事案毎に打上げについてのリスクと、それについてどのような保険が必要かを算出して、ライセンス条件として定める意向であるとのことです。
そして、ロケットの打上げについては、具体的に個別の事案において保険でカバーされるべき損害額を決めるために、米国でとられているMaximum Probable Lossの概念と類似のModelled Insurance Requirement (MIR)を導入するとのことです。MIRは、実際に起こり得るシナリオにおいて、Operatorが被る第三者らの潜在的な請求額を評価します。
他方、MIRは軌道に乗った衛星管理(in-orbit operation)には適用されません。これらには、従前どおり、一般的なミッションには6000万ユーロの保険金額が適用されます。
更に、このような第三者に対する責任については、ほとんどの場合、これらの保険金額を上限として、それを超える金額は国が補填することがガイダンス案において述べられています。
日本の現行法制度との比較
この英国の制度に対し、日本の現行の法制度を比較してみます。
まず、日本でも、ロケットの打上げ者や衛星管理者に対し、英国と同様の対第三者の責任が定められています。(宇宙活動法35条、53条)。
そして、ロケットの打上げについては、当分の間、200憶円の損害をカバーすることができる保険への加入又はこれを供託することが義務付けられていますが(宇宙活動法9条、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律施行規則(施行規則)9条の2)、将来的には、ロケットの型式、打上げ施設ごとに保険で手配すべき額が定められることになっています(宇宙活動法9条)。よって、この点は英国の今回の規則案等と類似しています。
また、日本では、衛星の打上げには、上記の強制保険に加え、政府補償が適用されます。すなわち、ロケット打上げに関しては、国は、打上げ者との間で、保険金額を超える損害賠償責任が生じたときに備え、3500憶円を上限として、打上げ実施者を補償する契約を締結することができます(宇宙活動法40条、施行規則32条の2)。そして今までのところ、すべての打上げについて、政府とかかる補償契約が締結されています。
他方、宇宙活動法上、衛星管理者については、保険加入等の義務がない代わりに、国による補償もありません。したがって、万が一衛星が地表に落下するという事故が起きた場合、衛星管理者は自らの責任において、生じた損害のすべてを賠償しなければなりません。
このようなルールになっている理由の一つには、そもそも軌道上の衛星は、広い宇宙の中ではほかの物体と衝突などはせず、大気圏を超えて地表等に落下する事故はまず起きないだろうという仮定がありますが、実際のところ、軌道に乗った衛星が衝突するなどして落下する可能性は、あります。よって、ロケット打上げの失敗に比べれば確率はずっと低いものとはいえ、地表等まで落下して損害が生じる可能性はゼロではありませんし、近い将来には宇宙空間での事故も起きてくると思います。
そうである以上、英国の今回の規則案のように、軌道に乗った衛星の管理者についても、保険の加入を義務付け、また賠償責任には上限を設け、保険金額を超える損害については賠償リスクがないようにする方が、衛星を用いた事業への参画や、そのような事業の発展を後押しするはずです。
今後、日本においても同様の制度が導入されることが期待されます。
Member
PROFILE
弁護士 春日 舞