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【宇宙ブログ】宇宙における光技術の可能性と電波法
2020.12.08
2020年11月29日、H-ⅡAロケット43号機が種子島宇宙センターから打ち上げられました。
H-ⅡAロケットには、JAXAが開発した光データ中継衛星が搭載され、光衛星間通信システム(LUCAS:Laser Utilizing Communication System)の実証が予定されており、電波ではなく光による通信の中継を実現することにより、これまでよりもさらに大容量の観測データをリアルタイムで宇宙から地球に送信することが期待されています。
今日は、この地球観測衛星に関して書いてみようと思います。
様々なデータを取得する地球観測衛星
現在、地球観測衛星は約90分で地球を1周し、その間、森林火災、火山、台風その他自然災害の状況、森林等の資源の状況、温室効果ガスやオゾンホールなどの地球環境の状況といった様々な観測データを取得します。これらのデータは地球観測衛星から直接、または、中継衛星を通じて地上にある地球局にデータが送信され、その内容を確認することができ、防災、地球環境の改善その他私たちの生活のあらゆる面で活用されることになります。
ただ、この地球観測衛星は地球を周回しているため、地上にある地球局で地球観測衛星から送信されるデータを受信できる空間的範囲が限定されます。その結果、地球観測衛星が地上に向けてデータ送信できるのは、地球観測衛星1周あたり10分に限られているようです。
そうすると、例えば、地球上のどこかで災害が発生し、観測データを取得したとしても、地球観測衛星が地球局に送信できる軌道上に位置しない場合には、リアルタイムでの送信はできません。また、地球観測衛星から地球局にデータ送信する場面においても、送信できるのはこの約10分間に限られてしまうため、このタイミングで送信できなかったデータについては次の周回のタイミングでの送信となってしまい、リアルタイムで有益かつ貴重な観測データを地上に送信することが困難となってしまいます。
光データ中継衛星への期待
そこで、今回打ち上げられたのが光データ中継衛星です。この光データ中継衛星は静止衛星で、地球を周回しません。このため、光データ中継衛星は、地球観測衛星からデータを受信した際には、すぐに地球上の地上局に送信することができます。これまで、地球観測衛星が90分で1周するあたり、10分間のみ地上にデータ送信することができたのが、光データ中継衛星が入ることにより、軌道周回1周分のうち、約半分の時間において中継衛星と通信することが可能となるため、通信時間はこれまでの約4倍に拡大することができるそうです。
さらに、光データ中継衛星は、地球観測衛星からレーザ光を用いた光通信によりデータを受信します。光通信は、電波を用いた通信よりもデータ伝送の大容量化、即時性要求に対するソリューションを提供することが期待されており、地球へのデータ伝送においても、これまでよりもよりリアルタイムに近い時間でで、かつ、通信時間が増えたことにより、大容量のデータを伝送することが期待されています。
データ送信システムへの電波法の適用
なお、この中継衛星と光通信で結ばれるのは光通信のデータ送信システムを備える観測衛星のみで、中継衛星と地上との間は電波で通信するそうです。というのも、光通信は、雲があるとスムーズに通信を行うことができないため、宇宙にある中継衛星からから地球上にデータを送信する際には、まだ電波に頼らざるを得ないようです。
電波を利用するということは、電波法に基づく無線局免許が必要です。そして、人工衛星は他国の無線局と相互に干渉する可能性があるため、国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)が定めるルールに従った国際周波数調整が必要となります。これには国内外の調整には数年を要するため、人工衛星の運用を検討される場合には、相当な時間的余裕を持っておくことが必要です。
とはいえ、光技術を利用した衛星と地上間の通信の研究も進められているようですので、将来的には全て光技術によりデータ伝送が行われ、常にリアルタイムで大容量のデータを受信することができる日が来るかもしれません。また、電波を用いない、ということであれば、電波法の適用はないため(レーザ光は電波法で定められた300万Mhzを超える電磁波ですので電波法上の「電波」には該当しません。)、よりクイックに人工衛星の運用をスタートできる日が来るかもしれません。
光通信は、画像や映像のようなデータ量の大きなコンテンツの送信に適しているといわれているので、個人的には、将来、宇宙空間からの高画質でのテレビ番組中継を見られる日が待ち遠しいです。
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PROFILE
弁護士 小林 佳奈子