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【令和元年改正会社法特集】改正会社法施行前後で検討・対応すべき事項のまとめ(会社補償)
2021.01.18
「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」という。)が、2019年12月4日に成立し、会社補償を含むその一部が2021年3月1日より施行されます。
本稿においては、会社補償とは何か、なぜ改正会社法の施行の前より検討する必要があるのかを解説いたします。
会社補償とは
「会社補償」とは、役員等がその職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用や、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失(いわゆる賠償金又は和解金)の全部又は一部を、株式会社が当該役員等に対して補償することをいいます。
改正会社法が施行された後、会社補償を行う場合、役員等に対する補償契約の内容を株主総会又は取締役会設置会社においては取締役会において決議を行い、その後、株式会社と役員等が補償契約を締結する必要があります(改正会社法第430条の2)。
補償契約の内容
補償契約の内容は上記表のとおりです。
ここで注意頂きたいのは、賠償金・和解金について、上記表の(注2)で記載したとおり、株式会社が第三者に損害を賠償した場合において、役員等に対して求償することができる部分を補償することができないとされており、株式会社が役員等に対して求償することができる場合が多いため、適用範囲がかなり限定されております。ただ、非業務執行取締役が責任限定契約を締結している場合、責任限定契約により非業務執行取締役が株式会社に責任を負わないとされた額については、株式会社は求償できないため、補償契約により補償することができることになると考えられます(注1)。
以上のとおり、業務執行取締役については補償契約を締結する効果が低いと考えられますが、非業務執行取締役については補償契約を締結することの意義があると考えられます。
補償契約を締結する必要性
補償契約は会社が役員等に対して補償を認めることによって、役員等が職務の執行に関して第三者に損害賠償責任を負うことを過度におそれ、その職務執行が萎縮することのないよう役員等に対して適切なインセンティブを付与するとともに、役員等として優秀な人材を確保することができるというメリットがあります。また、非業務執行取締役との責任限定契約では会社責任しかカバーされず、第三者責任はカバーされていないため、第三者責任をカバーすることのできる補償契約を締結する意義があると考えられます。
さらに、役員等に何らかの問題が発生した後に補償契約を締結することは、他の取締役の善管注意義務違反を生じさせるおそれがあります。そのため、役員等に何らかの問題が発生した後、補償契約の締結を検討するのでは遅い可能性があるため、会社法施行直後や取締役の選任時から補償契約の締結を検討すべきと考えられます。
なお、D&O保険を締結している株式会社も多いと存じますが、たとえD&O保険を締結していたとしても、保険契約上、免責事由や免責金額との関係上、費用や損失がすべて補償されない可能性があるため、補償契約を締結する意義はあると考えられます。
補償契約を締結する場合の注意
公開会社において役員等との間で補償契約を締結している場合、事業報告に以下の事項を記載する必要があります。
① 当該役員等の氏名
② 当該補償契約の内容の概要(当該補償契約によって当該役員等の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じているときは、その内容を含みます。)
③ 当該役員等に対して防御費用を補償した株式会社が、当該事業年度において、当該役員等が職務の執行に関し、法令に違反したこと又は当該役員等が責任を負うことを知ったときは、その旨
④ 当該事業年度において、株式会社が当該役員等に対して賠償金及び和解金を補償したときは、その旨及び補償した金額
事業報告の記載例は、東京株式懇話会「会社法改正の概要と株式実務への影響」をご参照ください(注2)。
また、役員等と補償契約を締結している又は締結する予定がある場合、補償契約の内容の概要を株主総会参考書類に記載する必要があります。
本稿について、ご質問がある場合には、以下のメールアドレスまでお問い合わせください。
tmi-blog-inquiry@tmi.gr.jp
今般の改正会社法についてより詳しくお知りになりたい方がいらっしゃいましたら、弊所より、「実務逐条解説 令和元年会社法改正」も発刊されておりますので、ご参照いただければ幸いです。
https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=14602864
注1 竹林俊憲編「一問一答令和元年改正会社法」117
注2 東京株式懇話会「会社法改正の概要と株式実務への影響」45頁
(https://www.kabukon.tokyo/activity/data/study/study_2020_10.pdf)