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フランスへ自社従業員を派遣する際の規則が明瞭化されました
2021.03.15
1. フランス法の下、「派遣(Détachement)」とは、フランス国外で合法的に設立し、その国で実質的に事業を行っている雇用主が、従業員を、一定期間、フランスで特定の任務に従事させることを意味します。派遣期間に違いはあるものの、数多くの日本企業が派遣という形で自社従業員をフランスに派遣し、特定の業務に従事させています。
2. 従業員の国際派遣に関するフランスの法的枠組みは、2008年に制定された通達により定められています。しかし、複数の欧州指令の国内法制化をはじめとする派遣に関する様々な改革が実施され、また、直近10年間に派遣が飛躍的に増加したため、これをさらにしっかりと監督・管理したいとするというフランス行政当局の意向をふまえ、労働・雇用・社会復帰省は、2021年1月19日付で、フランスへの従業員の国際派遣に関する新たな通達を制定しました。*1
3. 通達は70ページ以上に及び、適用法規、並びに、フランス行政当局がこれら法規を適用する際の拠り所となる原則を喚起しています。しかしながら、この通達の適用範囲は労働法の派遣に限られおり、社会保障に関する問題、及び、就労を目的とする移民の問題については触れていません。
4. 通達は5部編成で、第1部「派遣の定義」において、労働法典で想定されている派遣の要件について詳しく記載されています。*2 この中には、役務提供目的の派遣(役務提供契約による派遣、及び、グループ企業内派遣)、並びに、役務提供以外の目的の派遣(自社のための派遣)についての解釈も含まれています。
5. 通達の第2部では、全ての派遣従業員に適用される規定について詳説されています。内容は、1)労働関係における個人及び集団の自由、2)差別禁止及び男女の職業上の均等、3)母性保護、出産休暇、父親休暇、家族の出来事休暇、4)人材派遣業者による労働者の派遣及び保証の条件、5)ストライキ権の行使、6)労働時間、代償休日、祝日、有給休暇、若年労働者の労働時間及び夜間労働、7)建築・公共事業及び演劇・興行事業における有給休暇基金及び悪天候による失業基金への強制加入条件、8)最低賃金及び賃金の支払(残業に対する割増賃金を含む)、9)労働の衛生及び安全、就業年齢、児童労働に関する規則、10)違法な労働、そして、11)派遣従業員の職位・雇用に特有の、任務遂行の交通費、食費、滞在費(業務上の出費)の払い戻しと多岐にわたります。これらは、フランスに派遣される従業員に保証される、最低限の権利基盤であり、「中核(noyau dur)」と呼ばれています。雇用契約書において、上記規定より従業員により有利な規定を定めることは可能です。この11項目については、労働法典に明記されている特別な場合を除いて、同一産業分野のフランス企業と同じく、フランス法の一般法規が適用されます。このほか、通達は、上記項目に関する産業別労働協約の規定の適用についても詳説しています。
6. フランスへの派遣期間が13か月以上の長期派遣者は、上記「中核」規定以外に、新たな権利を獲得します。例えば、職場での選挙への投票権、様々な法定休暇(子の教育のための休暇など)、雇用主もしくは派遣先企業の合意による休暇(家族連帯休暇など)、その他の休暇(サバティカル休暇、起業休暇など)などがあります。
7. 派遣期間が12か月を超え、雇用者が、長期派遣者ステータスの適用免除を望む場合、6か月を限度に、上記「中核」規定に限った適用が認められます。このためには、免除希望期間とその理由(天候不順による工事の遅延、必要資材の未納、従業員の病気など)を明記し、「SIPSI」オンラインサービスを通じて、対象となる従業員の事前派遣申告の手続を行います。免除の理由は、役務と明らかに関係のないものであってはなりません(労働法規適用の為のコストの増加、行政手続きの煩雑さなど)。
なお、上記手続は、あくまでも雇用主による届出であり、許可の申請ではありません。手続きは、遅くとも、13か月目に入るまでに行う必要があります。かかる手続きを怠った場合、13か月目以降、同一業種のフランスに設立された企業の従業員に適用される、法令及び産業協約上(一般適用の産業協約)の労働・雇用条件が適用されます。競業避止条項を含む、雇用契約締結及び破棄に関する手続き及び条件など一部の規定についてはこの限りではありません。
8. 通達の第3部は、雇用主の義務について記載されています。内容はおおむね、事前派遣申告(déclaration préalable de détachement)*3、フランスにおける代表者の任命(前述の事前派遣申告により行います)*4、査察の際に必要な書類、土木建設業の従業員の職業IDカード、休暇補償基金への加入、フランス国外に所在する人材派遣会社の財務保証、フランスに派遣される従業員についての情報についての注意喚起です。
9. 通達の第4部では、フランスに従業員を派遣する外国で設立された企業に対して、役務の提供を依頼する施主(maître d’ouvrage)及び発注者(donneur d’ordre)の注意監督義務について触れています。発注者に対して適用される義務は全て、フランス国外に設立された人材派遣会社から派遣された、派遣従業員を使用する会社にも課せられます。同様に、グループ内から派遣された従業員の受け入れ施設・企業も、これらの注意監督義務が課せられます。
10. 発注者は、監督義務の一環として、派遣開始前に、以下の項目を確認する必要があります。
-自らの契約相手である、フランスに従業員を派遣する役務提供企業が、フランスにおける代表者の任命を含む事前派遣申告を行っていること
-従業員を派遣する、自らが承認した直接・間接下請業者、及び、下請業者又は契約相手に従業員を派遣する人材派遣会社が、事前派遣申告を行っていること
この他、請負契約、もしくは契約金額が3000€以上の商事契約の締結時、及び以降六か月ごとに、発注者は、外国に所在する契約相手に、不法就労を行っていないことを確認するために、労働法典に定められた一連の書類(仏訳)を要求し、提出させなくてはなりません。
11. 通達の最後となる第5部は、法令違反があった場合の措置並びに行政罰・刑罰について記載するほか、「中核」規定について不当な取扱いを受けた派遣従業員の司法上の救済措置についても記載されています。
次号のフレンチデスクニュースレターでは、さらに本通達について詳説する予定です。弊所ウェブサイトでも掲載予定です。また、直接配信を希望される方は、どうぞ遠慮なくご連絡ください。
脚注:
*1: この通達の全文(フランス語のみ)は、以下のURLからご覧いただけます。
https://travail-emploi.gouv.fr/IMG/pdf/instruction_detachement_dgt_19012021.pdf
*2 : 労働法典L.1262-1条、L.1262-2
*3 : 通達は自社のための派遣及び2019年6月4日付アレテに列挙される活動については、事前派遣申告の義務の対象とならないとしています。
*4 :フランスにおける代表者の国籍について制限はありませんが、書類を提示したり、査察官と意思疎通をはかったりするなど、任務を遂行する能力を有することが求められます。この条件を考慮すると、顧客、もしくは、場合によっては、派遣従業員のうちの一人を充てることが想定されます。(メールもしくは電話で連絡可能である必要があります。)
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