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【スマートシティ連載企画】第2回 スマートシティ×ローカル5Gの最前線(前編)
2021.03.31
TMI総合法律事務所 スマートシティプラクティスグループ
元総務省総合通信基盤局専門職・弁護士・NY州弁護士
山郷 琢也
はじめに
近時報道などで「スマートシティ」や「ローカル5G」という単語を目にすることも多いですが、具体的にどのような形で我々の実社会に役立てられるのかイメージが湧かないという方も少なくないと思います。
ローカル5Gは、例えば、製造分野、医療分野、エネルギー分野など複数の産業分野において、第5世代移動通信技術(以下単に「5G」といいます。)を取り入れることで、産業の更なる高度化や自動化、DX化を後押しするものです。
また、ローカル5Gは、地域ごとのニーズに沿ったサービス設計が可能という点で、スマートシティとも非常に親和性の高いテーマといえます。
本記事では、総務省への出向経験がある弁護士が、スマートシティとローカル5Gに関する最新法務トピックを前後編に分けて解説します。
前編では、ローカル5Gの基礎知識やスマートシティとの文脈での活用可能性にフォーカスして解説します。
ローカル5Gとは
5Gは現在広く普及しているLTE Advancedに次ぐ最新の通信規格です。
5Gは、従来の通信規格と比べ、①超高速・大容量、②超低遅延、③同時多数接続の3点に特徴があるといわれています。
①超高速・大容量通信の具体例でいえば、5Gでは2時間の映画が約3秒でダウンロードできるといわれています。
また、②超低遅延について、5Gでは遅延が1ミリ秒程度に短縮され、よりリアルタイム性が要求されるロボットの遠隔操作や自動運転などの分野でその真価を発揮すると考えられています。
さらに、③同時多数接続に関しては、5Gでは1キロ平方メートルあたり100万台程度の端末が同時に接続できるようになり、スマートメーターなどの分野での活用が見込まれています。
(出典)総務省『令和2年版 情報通信白書』
5Gには、携帯電話事業者が主に一般消費者向けに全国区で提供する全国5Gと、携帯電話事業者以外の多様な主体がより狭いエリアでプライベートネットワーク的に利用するローカル5Gの二種類があります。
全国5Gとは別にあえてローカル5Gが制度化された背景ですが、一言でいえば各産業・各地域のニーズに応じたより柔軟なネットワーク利用を可能にするという点にあります。
我が国では、少子高齢化や災害対策など地方が抱える構造的な課題が指摘されていますが、ローカル5Gはこれらの課題解決手段として期待されており、スマートシティを支える根幹技術の一つとなると考えられます。
スマートシティにおけるローカル5Gの活用可能性
スマートシティの文脈において、ローカル5Gはどのような形で活用されるのでしょうか。現在、多くの分野でローカル5Gの実証実験が行われていますが、例えば、製造分野、医療分野、エネルギー分野、建築・土木分野、観光分野、農林水産分野、地方行政分野などでの活用が期待できます。
(出典)総務省
(1)製造分野
例えば、製造分野では、ローカル5Gを活用して工場内の工作機器・設備を無線化することで、生産ラインの自動化や効率化が実現できます(いわゆるスマートファクトリ)。
ドイツで進められているIndustry 4.0など、スマートファクトリは世界的にも注目されており、ローカル5Gのユースケースの本命といえます。
我が国でも、自動車産業をはじめ工場の多くは地方部に存在するところ、スマートファクトリとスマートシティは切っても切れない関係にあります。
(2)医療分野
医療分野では、高精細な4K・8K画像を遠隔地の専門医に伝送して医療支援を行うといったユースケースが検討されています。
地方部では、専門医の不足から住民が高度な医療サービスを受けられないといった問題が指摘されていますが、仮にこれらの遠隔医療が実現すれば、地方部の医師が都市部の専門医のアドバイスを得ながら、より高度な医療サービスを提供することが可能になると考えられます。
また、これは少し先の未来になるかもしれませんが、5Gの低遅延という特性を活かして、ロボットによる遠隔手術の実現が期待されています。
(3)エネルギー分野
エネルギー分野では、各世帯の電力メーターなどに通信機能を持たせ(いわゆるスマートメーター)、エネルギーの効率的な管理に役立てる試みが既に始まっています。
次世代のスマートシティにおいてはこれを更に推し進め、各世帯、ビル、工場などの様々な需要家が、再生可能エネルギーやコジェネレーションシステムなどの分散型エネルギーを活用しつつ、地域におけるエネルギー需給の全体最適化を実現する取り組みが進められています。
この取り組み次第では、スマートメーターの更なる高度化が必要になり、5Gが有する多数同時接続などの特徴が活かされることになるでしょう。
(4)建築土木分野
建築・土木分野でも、5Gの超低遅延という特性を活かして、建機を遠隔で操作する実証実験が進められています(いわゆるスマートコンストラクション)。
このような機器の遠隔操作という場面では、通信に高度の信頼性が求められるため、よりセキュアなネットワークが好まれます。
また作業現場によっては、全国5Gのカバレッジ範囲外である可能性も否定できません。
そのため、ローカル5Gを活用したネットワーク構築が求められる可能性が高いと考えられます。
(5)観光分野
観光分野では、観光コンテンツをヴァーチャル空間上で提供し、VRゴーグルなどのデバイスを使って利用者に視聴させるといったユースケースが考えられます(いわゆるスマートツーリズム)。
VRコンテンツは一般的に非常に大容量のデータ通信が必要になるため、超高速・大容量の特性を有する5Gによる伝送が必要になるといわれています。
ポスト・コロナ時代においては、三密回避が新たな社会常識となりつつありますが、ローカル5GとVRの技術を組み合わせることで、自宅に居ながら地方の観光地を巡るという体験が可能になるかもしれません。
(6)農林水産分野
農林水産分野は情報通信分野と最も縁遠い分野のようにも聞こえますが、ローカル5Gを活用して、家畜や農作物の管理を自動・遠隔で実施したり、農耕用トラクターを遠隔で操作する実証実験が既に始まっています(いわゆるスマートアグリカルチャー)。
特に農林水産分野は、地方の過疎化に伴い、働き手の減少という構造的問題を抱えており、ローカル5GをはじめとしたICT技術の活用が特に期待される分野の一つです。
(7)地方行政分野
地方行政分野では、5G通信機能を有するセンシングデバイスを使って、ダムや橋梁などのインフラをリアルタイムで監視するといった形での活用が考えられます。
また、東京都は「TOKYO Data Highway」と銘打って、5Gの普及に向けた独自の取り組みを進めており、他の自治体に先駆けて、自らローカル5Gの免許を取得しています。これらの取り組みは、現在全国の自治体で課題となっているデジタルガバメントの実現を大きく後押しすることになるでしょう。
さいごに
このようにローカル5Gは多様な産業での活用可能性を有しており、AIやIoT、ドローン、ロボティクスなどと結びつくことで、スマートシティを支える基盤技術になると考えられます。
来月号では、後編として、電気通信事業法、電波法、サイバーセキュリティ対策、知的財産戦略を中心に、ローカル5Gの導入に係る法律問題について概説する予定です。
ローカル5Gを活用したビジネスを検討されておられるクライアントの皆様におかれましては、ぜひお見逃しなくご覧ください。
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以上
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