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【スマートシティ連載企画】第3回 スマートシティ×株主総会 ~株主総会のバーチャル化の最前線~
2021.03.31
TMI総合法律事務所 スマートシティプラクティスグループ
名古屋オフィス 弁護士 大野 修平
自宅から株主総会に出席?
「株主総会」といえば、物理的に存在する大きな会場の壇上に役員の面々が並び、遠方より来場した大勢の株主に対して報告・説明を行い、最後に重要な議案について議場に諮り拍手をもらうといったイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
しかし、IT技術が進展した今、株主総会の形も変わりつつあります。近い将来のスマートシティでは、株主総会のために物理的に移動することなく、自宅にいながら自分が株式を保有する上場会社の株主総会にバーチャル出席して経営陣と対話することが当たり前になるかもしれません。
今回は、株主総会のバーチャル化の最前線についてご紹介します。
バーチャル株主総会とは?
「バーチャル株主総会」とは、物理的に存在する会場に株主が現実に足を運んで出席する「リアル株主総会」に対して、株主がITを活用して遠隔地から参加する株主総会をいいます。
バーチャル株主総会については、経済産業省が、ITを活用した新しい時代の株主総会のあり方として検討を進めてきた経緯があり、2020年2月に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を公表し、バーチャル株主総会を実施するうえでの法的論点や実務上の留意点を示しています。さらに、経済産業省は、2021年2月3日に、2020年の株主総会の実施例を踏まえ「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を策定・公表し、実施事例や実際の運用における考え方等を示しています。
- 経済産業省2020年2月26日公表「『ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド』を策定しました」
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html
- 経済産業省2021年2月3日公表「『ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集』を策定しました」
https://www.meti.go.jp/press/2020/02/20210203002/20210203002.html
バーチャル株主総会の種類について
バーチャル株主総会といっても、現在の法律上は、物理的な会場を一切設けずに完全にバーチャルの世界で株主総会を実施することはできないと考えられています(会社法が、株主総会の招集に際して「株主総会の場所」を定めなければならないとしているため。但し、後述のとおり法改正の動きがあります)。
そこで、経済産業省が検討を進めるバーチャル株主総会では、このような純粋なバーチャル株主総会ではなく、リアル株主総会を開催しつつ、当該株主総会に株主がバーチャルな形でも参加することができるという、「ハイブリッド型」のバーチャル株主総会が念頭に置かれています。
このハイブリッド型バーチャル株主総会については、さらに、①バーチャルの参加を株主総会における株主の正式な出席としてカウントし株主としての質問権や議決権の行使を認める「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」と、②株主総会の審議等をバーチャルに確認・傍聴できるものの、会社法上の出席とは取り扱われない「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」の2種類に整理されています。
(出典)経済産業省『ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集』
バーチャル株主総会の実施事例は?
2020年6月の定時株主総会において、「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」を実施した上場会社は113社、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」を実施した上場会社は9社あったとされています。さらに、2021年3月が主な開催月となる2020年12月期の定時株主総会では、会場とオンラインとの併用が全体(510社)の15%となり、2020年6月開催の定時株主総会におけるオンライン活用率が4%だったことと比較して大幅に増えているとの報道がなされています(2021年3月27日付け日本経済新聞17頁)。
2019年まで実施例がほとんどなかったバーチャル株主総会が2020年から増加傾向にある背景としては、新型コロナウイルス感染症の拡大防止という観点から株主に対して来場の自粛や制限を行う代替策として採用されたという点もありますが、実施した企業の中には、ITの積極的な活用という観点から実施に踏み切った会社も見られるところであり、今後も、遠隔地から容易に参加することができるバーチャル株主総会の広がりは続くものと思われます。
なお、「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」に比べて、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」を実施した会社が少ない理由としては、「出席型」の場合、原則として、バーチャルの方法で参加する株主に対して質問権や議決権の行使につき物理的な会場に出席する株主と同等に取り扱うこととなるため、通信障害への対策、株主の本人確認方法、バーチャル参加株主からの質問・動議の取扱い、議決権行使の在り方などについて、「参加型」と比べて、慎重な配慮や準備が必要になる点が影響しているものと思われます。
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を実施する上での各論点については、経済産業省が概要以下の考え方を示しています。
論点 |
論点に対する考え方の概要 |
①株主の本人確認 |
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②株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係 |
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③株主からの質問・動議の取扱い |
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④議決権行使の在り 方 |
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⑤その他(招集通知の記載方法、お土産の取扱い等) |
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バーチャル株主総会の今後の進展は?
2020年2月5日には、上場会社におけるバーチャルオンリーの株主総会の開催を可能とする内容を含む「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が閣議決定され、現在開会中の通常国会に提出される予定であることが公表されました。
当該改正により、上場会社は、早ければ、2021年定時株主総会において、一定の要件を満たすことを条件に、物理的な場所を設けずにバーチャルの世界のみで株主総会を実施することが可能となると考えられます。
法改正により認められるバーチャルオンリー株主総会の概要は次表のとおりです。
①バーチャルオンリー株主総会を実施できる主体は? |
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②バーチャルオンリー型で実施できる株主総会の種類は? |
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③バーチャルオンリー株主総会を実施するための条件・手続は? |
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④いつから実施できる? |
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- 経済産業省2021年2月5日公表「『産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案』が閣議決定されました」
https://www.meti.go.jp/press/2020/02/20210205001/20210205001.html
このようなバーチャルオンリーの株主総会を可能とする法改正の動きは、新型コロナウイルス感染症の拡大防止という背景が大きく影響しているところもありますが、遠隔地からの株主の参加をしやすくするバーチャル株主総会は、今後大きく広がることも考えられ、株主の立場としては利便性が高まる可能性があります。
他方、株主総会を開催する企業の立場としては、より多くの株主・投資家と接点を持ち対話することができる可能性をもつバーチャル株主総会の実施も、一つの選択肢に含めて、自社における株主総会のあり方を検討していくことが求められると思われます。
スマートシティにおいては、バーチャル株主総会の実施等IT技術の利用を通じて、積極的な情報提供がなされ、また、企業と株主・投資家の距離が近づき対話が活発化することにより、投資の裾野が広がることも期待されます。
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以上
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