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【宇宙ブログ】ロケットの洋上打上げについて
2021.12.09
打上げ方法の多様化
昨今、民間でのロケット打上げの成功に関するニュースが相次ぐ宇宙業界ですが、技術の発展に伴ってその打上げ方法の多様化が進められてきています。ロケットの打上げといえば、宇宙空間に向けて垂直に発射される、垂直発射方式がまずイメージされるかと思いますが、今年の1月には、米国のヴァージン・オービットが、飛行中の航空機から、その航空機に搭載されたロケットを発射する、いわゆる空中発射という方法での打上げを成功させています。
ロケットの打上げに際しては、安全性の確保、関連法令による規制、打上げコスト等様々な要因について検討が求められ、これに応じて、打上げの方法についても多くの工夫が図られています。本記事では、その中から、洋上打上げというロケットの打上げ方法についてご紹介させていただきます。
洋上打上げとは
洋上打上げとは、その名のとおり、海の上からロケットを打ち上げる方法です。後述のとおり、打上げ対象となるロケットの規模に応じて種々あるものの、海上に打上げを行うためのプラットフォームとなる場所を確保し、そこからロケットの打上げが行われます。この方法のメリットとしては主に以下の点が挙げられます。
①居住地域から離れた場所での打上げが可能となるため、打上げ失敗時のリスクを抑えることができる
② 地球の自転遠心力を最も効率よく利用することのできる赤道直下からのロケット打上げが容易になる
③ 地上での打上げの場合と比較して、航空機とのスケジュール調整の必要が生じる可能性が低く、柔軟なスケジュールでの打上げが可能となる
洋上打上げの現状
実はこの洋上打上げはすでに実用化されており、2019年6月には、中国が黄海海域で、民間船舶から運搬ロケット「長征11号」の海上発射による打上げに成功しています。
AFPBB News 2019年6月5日 『中国、運搬ロケットの海上打ち上げ試験に成功』
(https://www.afpbb.com/articles/-/3228604?pid=3228604003)
日本でも実証実験が進められており、2019年3月、千葉工業大学・ASTROCEAN・大林組が、千葉県御宿町の洋上にて世界初の大学ロケットによる洋上発射実験に成功しており、また、2019年11月には2回目の洋上発射実験にも成功しています。
千葉工業大学 2019年11月22日 『千葉工業大学、ASTROCEAN、大林組がハイブリッドロケットの洋上発射実験に成功!』(https://www.it-chiba.ac.jp/topics/pr20191122/)
また、民間商用打上げ事業者で洋上打上げを行う企業として最も有名なものでは、米国のシー・ローンチ社が挙げられます。同社は、1999年に最初の商業衛星の打上げを成功させ、以降2014年までに多くの洋上打上げを行っています(しかし、同社は2009年に経営破綻し、連邦倒産法第11章(Chapter 11)の適用を受けた結果、現在はロシアの航空会社グループの子会社として存続はしているものの、2021年現在も打上げ受注再開の目途は立っていません。)。
法規制との関係
洋上打上げを行うために用いられるプラットフォーム部分は、打上げ対象となるロケットの規模によっても異なり、例えば、前述のシー・ローンチ社は、石油プラットフォームと呼ばれる、海底から石油や天然ガス等の資源を掘削するための施設として使用されていた巨大な海洋構造物を、洋上打上げ用のプラットフォームに改造して利用しています。一方で、小型ロケットの打上げの場合には、それ自体には推進力が備えられておらず、船舶法上の「船舶」には該当しない、いわゆる台船と呼ばれるものが利用されることもあります。
ロケット打上げに関する日本の法令としては、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(以下「宇宙活動法」といいます。)がありますが、実はこの法律においても洋上打上げ方式によるロケット打上げが想定されています。例えば、同法第4条第1項は以下のとおり規定しています。
国内に所在し、又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に搭載された打上げ施設を用いて人工衛星等の打上げを行おうとする者は、その都度、内閣総理大臣の許可を受けなければならない。
したがって、日本国籍を有する船舶上でロケットの打上げを行う場合には、日本の領海上であるか、公海上であるかにかかわらず、その都度、内閣総理大臣の許可を受ける必要があります。
しかし、前述の宇宙活動法に基づく許可の基準については同法の施行規則に規定があり、同規則第8条には打上げ施設の安全に関する基準として、「型式別施設安全基準」が規定されていますが、現時点においては、同基準は基本的に垂直発射を前提として運用されており、今後、船舶からの洋上打上げを前提とした許可申請が行われた場合には、その具体的な基準の適用についてさらなる議論が必要となる可能性があると思われます。
ちなみに、船舶は法律上、土地や建物のような不動産ではなく、動産に該当しますが、その財産的価値や性質等から、不動産に準じた取扱いがなされ、不動産における登記と同様に、船舶にも登記・登録制度が規定されており、船舶ごとに船体情報や権利関係等を登録し、公示することが必要とされております。そして、このような船舶登録制度は各国でも同様に整備されており、海洋法に関する国際連合条約では、船舶はいずれかの国籍に登録する必要があり、無国籍船は取締りの対象とされております。また、同条約において、公海上の船舶は、原則としてその船舶が登録されている国(船舶は当該登録国の国旗を掲揚することから、このような登録国を旗国(flag state)とも言います。)の法律の適用を受けることとされています。
以上を踏まえると、理論上は、①日本国籍以外の国籍に登録した船舶、又は、②船舶に該当しない台船などを用いて、公海上で打上げを行う場合、日本の宇宙活動法に基づく許可を必要としないと整理することができるように思われます。しかしながら、宇宙条約及び宇宙損害責任条約は、宇宙空間に発射された物体が他国や第三者等に損害を与えた場合には、当該物体の「打上げ国」が損害につき責任を有するものとしているところ、日本企業によって保有・運用されている船舶から打上げが行われた場合には日本が「打上げ国」として責任を負うこととなる可能性もあります。そこで、日本を発着点とする洋上打上げを無制限に行わせることは認められないとして、前述の①又は②のような洋上打上げについても宇宙活動法を含む日本法を適用させるべく、それらの適用範囲の拡大等に関する議論が必要となることも考えられます。
さいごに
前述のように、宇宙活動法上の適用範囲や許可基準についてはさらなる議論が必要と思われる点に加え、洋上打上げ特有の問題としては、海洋汚染リスクや、漁業者との調整の必要性等が挙げられます。
このように、多くの課題が存在している洋上打上げですが、日本は、海に囲まれた島国という地理的特徴や、長い歴史と世界的にも高い技術力を有する造船業など、洋上打上げに適した環境にあるといえ、今後の宇宙業界において日本が存在感をより示していくためにも重要な分野の一つとして、今後も動向を注視していきたいと思います。
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