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着床式洋上風力発電のFIP制度への移行の政府の検討状況
2022.03.01
着床式洋上風力発電のFIP制度への移行
FIP(Feed in Premium)制度は、発電事業者に発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で自由に売電させ、そこで得られる売電収入に、プレミアムと呼ばれる交付金を上乗せして発電事業者に交付することで、投資インセンティブを確保する仕組みです。当該FIP制度は、2022年4月1日から開始されることとされておりますが、初年度の2022年度については、陸上、洋上どちらの風力発電についても、FIP制度のみの対象となる区分は設けられておらず、50kw以上の風力発電について、FIT制度のほか、FIP制度も選択可能とされることとされております。
今般、経済産業省の調達価格等算定委員会により2022年2月4日付で公表された「令和4年度以降の調達価格等に関する意見」(※1)において、2023年度以降にFIP制度のみ認められる風力発電事業について言及され、着床式洋上風力発電について、「再エネ海域利用法(※2)適用対象/適用外によらず、2024年度よりFIP制度のみ認められること」とする意見が提示されました(※3)。
2022年4月1日から開始されるFIP制度において、FIP制度の対象とする電源の区分については、経済産業大臣によって最終的に決定されますが(再エネ促進法(※4)第2条の2第1項)、経済産業大臣は、当該決定に当たっては、調達価格等算定員会の意見を尊重するものとされています(同条第4項)。そのため、調達価格等算定委員会の提示した上記の意見に従い、2024年度以降、着床式洋上風力発電についてはFIT制度が適用されず、FIP制度のみの適用に移行する可能性が高いと考えられます。
洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会(※5)が示した「洋上風力産業ビジョン(第1次)」(令和2年12月15日)(※6)によれば、洋上風力発電について、政府は、「年間100万kW程度の区域指定を10年継続し、2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万kW~4,500kWの案件を形成する。」という導入目標を掲げています。
この導入目標の達成に向けて、再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電の促進区域が順次指定され、当該区域で洋上風力発電事業を行う事業者の公募が実施されています。昨年12月に、その第1ラウンドともいえる、「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖(北側・南側)」及び「千葉県銚子市沖」の着床式洋上風力発電の公募について、事業者の選定がされました。その結果、3海域すべてについて同一の事業者が組成するコンソーシアムが選定され、その供給価格が多くの事業者が想定していたものよりも、かなり低い価格であったことが話題となっています。
今回の調達価格等算定委員会の意見は、このような再エネ海域利用法の着床式洋上風力発電の公募における状況をふまえて、着床式洋上風力発電に関しても一定程度の競争効果が見込まれると判断されたこと等によりなされたものであると考えられます。
2023 年度に認定取得が見込まれる秋田県八峰町及び能代市沖における着床式洋上風力発電については、FIT 制度を前提として現在公募がなされておりますが、上記の通り、着床式洋上風力発電に関しては2024年度からはFIP制度のみの適用対象となると考えられますので、今後着床式洋上風力発電についての公募も、FIP制度を前提として行われる可能性が高いことになります。よって、洋上風力発電事業に携わる事業者も、FIP制度への移行を前提として、事業計画等を策定していく必要があることとなります。
この点、着床式洋上風力発電がFIP制度へ移行することによって、発電事業には以下のような変化が生じることになると考えられます。
FIP制度への移行に伴う変化
(1) PPAの締結
FIT制度では発電した電気は固定価格及び固定期間で電力会社に買い取ってもらうことが可能でしたが、FIP制度を前提とした場合、発電した電気の売り先を自ら探索し、売電に関する条件交渉を行う必要性があります。FIP制度では、発電した電気を電力会社が買い取る義務はなく、買取価格も保証されていませんので、売電価格は交渉結果次第(市場で売電する場合には市場価格次第)となります。
売電する方法としては、市場で売電する方法や小売電気事業者に売電する方法が考えられます。
市場における売却では、一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX)に開設されているスポット市場や時間前市場で電力を売却することになります。しかし、この方法は当然ながら市場価格の変動リスクにさらされることとなり、キャッシュフローの予測が困難であるという問題があります。
これに比べて、小売電気事業者に売却する方法は、その価格は相手との交渉結果次第にはなりますが、長期固定で電力を買い取ってもらう契約が締結できればキャッシュフローが安定するというメリットがあります。昨今は需要家側で再エネの電気を利用したいというニーズも高まっているため、小売電気事業者を介して最終的に再エネ電気を利用したい需要家が長期固定で当該電源からの電気を買い取ることを希望する場合には、このような長期固定価格での売電契約が締結できる可能性も高まるでしょう。このように小売電気事業者を介して、需要家に長期固定価格で再エネの電気を供給する取組は、コーポレートPPA(※7)とも呼ばれ、近時、太陽光発電などを中心に取引が増えており、今後は、洋上風力発電においてもこのような取引が増加する可能性があります。
市場で売電する場合や小売電気事業者に売電する場合には、FIP制度を併用してプレミアムの交付を受けることが可能です。プレミアムの金額は、(詳細はここでは割愛しますが)前年度の卸電力取引市場において行われた売買取引における電気の1キロワット時当たりの平均取引価格を参照して算定される「参照価格」を「基準価格」(FIP価格などとも呼ばれ、基本的にFIT制度の調達価格と同水準の価格となります。)から控除することにより算定されます。そのため、例えば小売電気事業者に参照価格で電気を売却し、かつ、プレミアム(基準価格-参照価格)の交付を受ければ、発電事業者は基準価格で売電したのと同等の収入を得ることができ、FIT制度に近い安定的なキャッシュフローを確保することも可能となります。
(2) 非化石価値
電気のみでなく再エネ電源で発電したことに伴う非化石価値をどのように売却するかも検討する必要があります。FIT制度では、発電事業者に支払われる調達価格に非化石価値の買取価格も含まれているという理解に基づき、FIT電気の売却後に発電事業者に非化石価値は残らないという整理がなされていました。そのため、FIT電気の発電事業者は自ら非化石証書を分離してこれを小売電気事業者等に売却することはできませんでした。しかし、FIP制度では、この非化石価値は売電した後も発電事業者が引き続き保有するとの整理がなされ、発電事業者が電気と分離して自ら売却することが可能となっています。この非化石価値相当額は、プレミアムの算定においてプレミアムの金額から控除されることになりますので、FIPの発電事業者はこの非化石証書を自ら売却することにより収益性を高める必要があるということになると考えられます(※8)。
(3) インバランス制度
FIP制度においては、FIT制度では特例で免除されていた計画値同時同量の義務を発電事業者が負担することになり、インバランスへの対応も不可欠となります。このインバランス制度とは、発電事業者が、発電した電気を一般送配電事業者の系統に流す際にあらかじめ発電計画を提出し、発電計画と実際の発電量に齟齬がある場合には、インバランス料金を負担する必要があるとされる制度です。FIT制度の適用がある電源については、このインバランスの負担が特例で免除されていましたが、FIP制度の対象となる電源を含むFIT制度適用外の電源では、当該特例はありませんので、当該インバランス制度の原則に基づき、発電事業者は計画値同時同量の義務を負い、インバランス料金を負担するリスクがあります。そのため、正確な発電量予測とともに発電計画の提出といった事務への対応も必要となります。
洋上風力発電事業については、上記の通りの対応が必要となることになります。FIP制度については、2022年4月1日に制度が開始されるため、既に関係省令も公布されていますが、着床式洋上風力発電へのFIP制度への移行を前提に、今後再エネ海域利用法等の法令の改正や公募占用指針の策定が行われることになると考えられます。洋上風力発電事業に携わる事業者の方は、これらの改正や策定の状況も注視し、実務的な取扱いについても検討する必要があると考えられます。
(※1)https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/20220204_report.html
(※2)海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号。その後の改正を含む。)を意味します。
(※3)陸上風力に関しては、2023年度にFIP制度のみ認められる対象を 50kW以上としており、浮体式洋上風力発電については、現時点で大規模な商用発電所の運転開始に至っていないことをふまえ、2023年度・2024年度も、FIP制度のみ認められる区分等を設けないとされています。
(※4)「強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第49号)による改正後の「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(平成23年法律第108号)を意味します。
(※5)洋上風力発電の導入拡大とこれに必要となる関連産業の競争力強化、国内産業集積及びインフラ環境整備等を官民一体で進めるために、経済産業省及び国土交通省を事務局として設立された協議会。
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/index.html
(※6)https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/002_02_02_01.pdf
(※7)コーポレートPPA(Power Purchase Agreement)とは、いわゆる電力会社ではなく、企業(電力需要家)が発電事業者と直接、長期間の電力購入契約(Power Purchase Agreement)を締結する取組を一般的に意味します。日本では、電気事業法の規制との関係で、いわゆるオンサイトコーポレートPPA(需要家の需要場所の中(需要家の建物の屋根など)に発電設備を設置して当該発電設備から需要家に電気を供給するスキーム)と呼ばれる方法や自己託送という制度を利用したスキーム以外の方法では、発電事業者が小売電気事業者を介さずに直接需要家に電気を供給することは難しいとされており、小売電気事業者を介して需要家に電気を供給する仕組みがとられることが多くなっています。
(※8)非化石証書には、FIT非化石証書、非FIT非化石証書(再エネ指定あり)及び非FIT非化石証書(再エネ指定なし)の3種類があり、FIP制度の発電事業者が取得できるのは非FIT非化石証書(再エネ指定あり)になります。この非FIT非化石証書は、現在の制度では小売電気事業者以外の者が購入することができないこととされていますが、現在、コーポレートPPAの取組に限り、一定の要件を満たす場合には、発電事業者と需要家との間における非FIT非化石証書(再エネ指定あり)の直接取引を認める方向での議論もされています(2021年11月29日の第59回総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会における議論を参照)。今後、非FIT非化石証書の取扱いについてどのような制度変更があるかは現時点では未確定ですが、このような動きも注視する必要がありそうです。