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【下請法ブログ】第2回 下請代金の支払いに関する規定
2022.03.22
下請法ブログ第2回では、下請代金の支払いに関する下請法の規定についてご説明いたします。
下請代金の支払いに関する下請法の規定
下請法上、下請代金の支払いに関しては、例えば、親事業者の義務として、支払期日を定める義務(2条の2)及び遅延利息の支払義務(4条の2)が、また、親事業者の禁止事項として、下請代金の支払遅延の禁止(4条1項2号)、有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(4条2項1号)及び割引困難な手形の交付の禁止(4条2項2号)といった規定が定められています。以下では、実務上問題となりやすい、支払遅延及び支払いの現金化と割引困難な手形の交付の禁止について、その規定内容や実務において留意すべき点、近年の動向等を概説いたします。
支払遅延について
下請代金の支払期日は、下請事業者から給付の目的物を受領した日(いわゆる受領日)から60日以内かつできる限り短い期間内の具体的な日を定める必要があり、支払期日を徒過した場合は、受領日から60日を経過した日から支払いが完了するまでの期間に応じ、未払いの金額の年率14.6%の金額を遅延利息として支払わなければなりません(2条の2、4条1項2号、4条の2)。
「給付の受領」とは、給付の内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付の目的物を受け取り、自己の占有下に置くことをいうため、たとえ下請事業者との間で「検収が完了した時点をもって引渡しとする」旨を合意していたとしても、検収完了日ではなく受領日を起算点として60日以内に下請代金を支払う必要があります。したがって、下請事業者との取引契約において検査完了日を基準として支払期日を定めている場合は、月末に納入された物の検査が翌月に行われる場合に支払遅延が生じやすいので注意が必要です。
また、納入のタイミングについても、例えば親事業者の指示により外部倉庫に納入される場合であっても当該倉庫への納入時に「受領」したと判断されますので、外部倉庫への納入タイミングを正確に知る必要があります。
さらに、下請事業者からの請求書の発行の遅れや不発行は支払遅延の言い訳にはなりませんので、請求書の発行が遅れがちな下請事業者に対しては親事業者から注意喚起をする必要があります。
支払いの現金化と割引困難な手形の交付の禁止について
下請代金の支払手段として現金の他に手形等も用いられています。もっとも、親事業者が、下請事業者に対して下請代金を手形で支払う場合に、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付することにより下請事業者の利益を不当に害することは、下請法上禁止されています(4条2項2号)。一般の金融機関による割引を受けることが困難か否かは、公正取引委員会及び中小企業庁の現在の運用では、繊維業は90日、繊維業以外の業種は120日を超える手形期間の手形は割引困難な手形に該当するおそれがあります。
そして、以下のとおり、近年、公正取引委員会及び中小企業庁は、支払いの現金化及び手形期間の一層の短縮を推し進めています。
(1) 公正取引委員会及び中小企業庁の動き
第1回ブログでも触れたとおり、平成28年に安倍政権が「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定し、その中で下請事業者の取引条件の改善が打ち出されたところ、同年12月14日に、公正取引委員会事務総長及び中小企業庁長官の連名により、概要以下の要請がなされました(以下「平成28年通達」といいます。(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161214_2.html))。
① 下請代金の支払いは、できる限り現金によるものとすること。
② 手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。
③ 下請代金の支払いに係る手形等のサイト(繊維業90日以内、繊維業以外の業種120日以内)については段階的に短縮に努めることとし、将来的には60日以内とするよう努めること。
もっとも、平成28年通達により、支払いの現金化には一定の進捗が見られたものの、手形等の割引料等のコストの下請事業者による負担や手形等のサイトについては改善が道半ばであることから、令和3年3月31日に、改めて概要以下の要請がなされました(以下「令和3年通達」といいます。(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/mar/210331_shitaukeshudan.html))。
①下請代金の支払いは、できる限り現金によるものとすること。
②手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。
③下請代金の支払いに係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
④前記①から③までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、概ね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。
そして、当該要請に伴い、今後、概ね3年以内を目途に、割引困難な手形に該当するおそれがあるとして指導する手形期間の基準を60日とすることを前提として、見直しの検討を行う旨が表明されています。
令和3年通達は、特に、
・親事業者に、「現金により支払う場合の下請代金の額」、「手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコスト」を示させることにより、下請事業者が割引料等のコストを明確に把握して下請代金の協議を行えるようにすること
・手形等のサイトを60日以内とすること
を明示し、概ね3年以内に実施することを求めた点が重要です。
(2)実務への影響
当面は、繊維業は90日、繊維業以外の業種は120日を超える手形期間の手形を長期の手形として割引困難な手形と解するという運用ではあるものの、令和6年に向けて、手形期間が60日を超える手形は割引困難な手形として運用されていくと思われます。実際、令和4年2月16日には、手形等のサイトが60日を超える手形等により下請代金を支払う親事業者約5,000名に対し、可能な限り速やかに手形等のサイトを60日以内に短縮することを求める要請が行われました(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/feb/220216_2_Tegatatounosaitonotanshukunituite.html)。また、親事業者は、現金による下請代金の額、手形等による下請代金の額及び割引料等のコストを示す必要があることから、透明性の高い下請代金の設定をより強く意識する必要がありますので、令和6年に向けて準備、対応を進めていく必要があります。
以上
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