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【ブロックチェーンブログ】開始のお知らせ/ステーブルコイン(1)
2022.03.30
ブロックチェーンブログの開始のお知らせ
2009年1月にビットコインが稼働して以来、13年が経ちました。
ブロックチェーンは、ビットコインという「中央管理者のないデジタル通貨システム」の中核技術として登場以降、暗号資産(当時は仮想通貨)以外のあらゆる場面での応用が可能な技術として注目され(※1)、各方面でこれを使用した実証実験が行われてきました。
2021年10月28日にガートナーの発表した「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2021年」(※2)において、ブロックチェーンは、未だ「幻滅期」にはありますが、肌感覚としては、昨年のNFT・Play to earnの登場、DeFiの拡大、メタバースへの期待などから、少しずつサービスへの実用化に動き出していると感じます。
このようなブロックチェーン実用化への動きを受け、ブロックチェーンに関連するサービスに知見を有する弁護士が、それぞれの専門領域(金融規制、AML/CFT、知的財産権、データ、税法など)の観点から、法的論点や規制動向などを解説するブロックチェーンブログを開始することといたしました。
ブロックチェーンに関連するサービスとしては、
- 国内外で盛り上がりをみせる「NFT・NFTマーケット」
- 昨年海外で爆発的な広がりをみせた「Play to earn」
- 海外で加速する「DeFi(decentralized finance)」
- 今後期待される「メタバース」
などを中心に取り扱っていく予定です。
初回は、海外で「DeFi (decentralized finance)」を促進する原動力ともなっており、2022年3月4日に、金融庁からその規制に関する法案が提出された「ステーブルコイン」について、その内容やユースケース、海外における規制動向の概要を解説いたします。
日本における規制動向や法案の内容については、次回以降に順次解説していきます。
(※1)経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内動向調査)報告書」
(※2)https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20211028
ステーブルコイン(1)
ステーブルコインとは
ステーブルコインについて、明確な定義は存在しません。
ステーブルコインは、一般的には、「特定の資産と関連して価値の安定を目的とするデジタルアセットで分散台帳技術又はこれと類似の技術を用いているもの」をいうと考えられており(※1)(※2)、ブロックチェーンは、ここでいう分散台帳技術に該当します。
ステーブルコインの代表的なものとしては、2022年3月26日時点の供給量が多い順に、以下のものが挙げられます(※3)。
① Thether(USDT) … 821.7億ドル
② USD Coin(USDC) … 467.7億ドル
③ Binance USD(BUCD) … 175.7億ドル
④ Terra(UST) … 167.2億ドル
⑤ Dai(DAI) … 97.0億ドル
⑥ その他 … 94.6億ドル
①~⑥のステーブルコインの総供給量は、2020年10月19日の215億ドルから2022年3月26日には1823.9億ドルへと急増しています(※3)。
ステーブルコインは、日本法の現行制度の考え方に基づけば、価値を安定させる仕組みによって、以下のとおりデジタルマネー類似型と暗号資産型に分類できると考えられています(※4)。
上記①~④のステーブルコインは、いずれも米ドルペッグのデジタルマネー類似型、上記⑤のステーブルコインは、米ドルペッグの暗号資産型に該当します。
a. デジタルマネー類似型
法定通貨の価値と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの)
b. 暗号資産型
デジタルマネー類似型以外(アルゴリズムで価値の安定を試みるもの等)
(※1) 金融審議会「資金決済ワーキング・グループ報告」(2022年1月11日)(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220111.html)(以下「WG報告」といいます。)第2章1.(2)(16頁)。
(※2) 金融安定理事会(以下「FSB」といいます。)「『グローバル・ステーブルコイン』の規制・監督・監視-最終報告とハイレベルな勧告」(2020 年 10 月)(以下「FSB の勧告」といいます。)(https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P131020-3.pdf)の用語集では、Stablecoinは、“A crypto-asset that aims to maintain a stable value relative to a specified asset, or a pool or basket of assets.”と定義され、Crypto-asset は“A type of private digital asset that depends primarily on cryptography and distributed ledger or similar technology.”と定義されています(同5頁)。
(※3)ブロック・コインメトリクス(https://www.theblockcrypto.com/data/ decentralized-finance/stablecoins/total-stablecoin-supply-daily)
(※4)WG報告第2章1.(3)(17頁、18頁)。
現在のステーブルコインのユースケース
現在、米国では、主にデジタルアセット(暗号資産)取引プラットフォームにおいて、又は同プラットフォームを通じて、他のデジタルアセットの取引や貸し借りを促進するためにステーブルコインが使用され(※5)、デジタルアセット取引プラットフォームやDeFiでの取引や貸し借りの促進はステーブルコインに依存しているともいわれています(※6)。
ステーブルコインは、①市場参加者が不安定なデジタルアセットをより安定性があると認識されるデジタルアセットに、またはその逆に迅速に交換することを可能にし、②デジタルアセットに対して法定通貨を用いることなくプラットフォーム間で移転するためにより安定性を提供し、従来の金融機関の必要性を減少させ、また、③時に極端に高いレバレッジを用いることで、市場参加者が追加の取引に資金を得るための担保として機能することで、大量のデジタルアセット取引を促進するといわれています。また、市場参加者は、ステーブルコインをデジタルアセット取引プラットフォームに移転することにより、または利息や収益と引き換えにステーブルコインをローンやマージン取引の担保とすることにより、利回りを得るために用いることもできるとされています(※6)。
このように、現在のステーブルコインのユースケースは、主にデジタルアセット取引とされていますが、2019 年6月公表のFacebook 社(当時)を中心としたリブラ構想のように、ネットワーク効果や、ステーブルコインと既存のユーザーベースやプラットフォームとの関係次第では、その支払手段としての幅広い使用への移行は、急速に進む可能性があるとの指摘がなされています(※5)。
(※5) 大統領金融市場作業部会(President’s Working Group on Financial Markets (以下「PWG」といいます。), the Federal Deposit Insurance Corporation (FDIC), and the Office of the Comptroller of the Currency (OCC)「Report on STABLECOINS」(2021 年 11 月)(以下「米国報告書」といいます。)(https://home.treasury.gov/system/files/136/StableCoinReport_Nov1_508.pdf)1頁。
(※6) 米国報告書8頁。
ステーブルコインに関する海外の規制動向
Facebook 社を中心としたリブラ構想以後、G20及びFSB、金融活動作業部会(以下「FATF」といいます。)などの国際基準設定主体において、いわゆるグローバル・ステーブルコインへの対応についての議論が行われ、FSB の勧告やその他の報告書が公表されてきました。
ここでは、「同じビジネス、同じリスクには同じルールを適用する(same business, same risk, same rule)」という考え方を基本とし、グローバル・ステーブルコインのサービス提供前に各国がルール整備を行う必要性が強調されています(※7)。
これを受け、欧州連合(EU)では、2020 年9月にステーブルコインを含む暗号資産の規制案が公表され、米国では、2021 年 11 月にPWGが決済用ステーブルコイン(Payment stablecoins)の発行者を、銀行を始めとする預金保険対象の預金取扱金融機関に限定する等の規制方針等を示した米国報告書が公表されています。
現在、海外主要国では、ステーブルコインの規律について議論がなされている状況です。
(※7) WG報告第2章1.(1)(13頁、14頁)。2019 年10月のG20 財務大臣・中央銀行総裁会議以降、累次のG20声明文において、「いかなる所謂『グローバル・ステーブルコイン』も、関連する全ての法律上、規制上及び監視上の要件が、適切な設計と適用可能な基準の遵守を通して十分に対処されるまではサービスを開始すべきでないことを支持する」旨の確認がなされています。
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