はじめに
本ブログでは、欧州トップクラスの経済規模を擁し、かつ地理的にも欧州の殆ど中心という絶好の場所に位置しており、多くの日系企業が進出しているドイツにおいてビジネスを展開する上で必要となる基礎知識や法制度等について発信していきます。
ドイツにおける会社形態
法制度上、会社を組織する際には、有限会社(GmbH)、株式会社(AG)、欧州株式会社(SE)、合名会社(OHG)、合資会社(KG)、株式合資会社(KgaA)、などの形態を選択し得ます。そのうち、ドイツで最も一般的な(換言すれば数が多い)会社形態は、有限会社です。
ドイツにおける有限会社制度は、中小企業に適合する簡易な会社形態を求めて考案されたものであり、設立の簡易性、定款・機関設計等の柔軟性、有限責任性、資本金等の点において、他の会社形態よりも経営者による組織運営の簡便さ等多くのメリットがあるため、会社形態として最も多く用いられていると考えられます。
以下では、会社形態の基本的な情報について、株式会社と有限会社とを比較しました。
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株式会社(AG)
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有限会社(GmbH)
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特徴
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- 業務執行を行う取締役会(Vorstand)と、取締役の選任・監督・助言を行う監査役会(Aufsichtsrat)を設置する義務がある。取締役及び監査役の兼任は認められない
- 株主総会は業務執行に関し取締役会に対する指示権を有しない
- 企業イメージの信用力が高い
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- 定款内容、機関の任務、運営方法等について、法令に反しない限り柔軟に設定可
- 株式会社に近しい企業イメージや信用力がある
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発起人
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基礎資本金
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必要的機関
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- 社員総会
- 取締役
- (監査役会:500人以上の従業員を有する場合等は必要的)
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株主総会/社員総会
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- ドイツ株式会社法及び定款に規定されている会社の基本的事項についてのみ決定権限を有する
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- GmbHにおける最高機関であり、法律及び定款に別段の定めがない限り、会社の全ての意思決定を行う
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取締役会/取締役
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- 1名以上のメンバーによって構成(但し、基礎資本金が300万ユーロ以上のAGは、定款に別段の定めのない限り、複数のメンバーが必要;上場株式会社及び共同決定法の適用ある会社では4名以上の取締役を選任する場合1名の女性の取締役を選任しなければならない。)
- 監査役会によって最大限5年の任期で選任される(5年以内であれば再選は可能)
- 自らの責任において業務を執行
- 複数のメンバーから成る取締役会は、原則として全員で業務を執行し、会社を代表するが、定款により異なる定めをすることも可能
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- 定款又は社員総会で選任
- 任期無し(いつでも解任され得る。)
- 法律及び定款の範囲内において、社員の指示に従い業務を執行する
- 内部的な業務執行権限は、定款又は社員総会により制限可能
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監査役会
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- 監査役会のメンバーは3名以上(3の倍数)で、基礎資本金額により、最大21名まで
- 1994年8月10日より前に登記された株式会社又は通常500名超の従業員を有する株式会社においても、監査役会の1/3は従業員によって選任されなければならない(従業員代表者。従業員代表者の1/3の割合による監査役会への参加に関する法律Drittbeteiligungsgesetz)
- 2000名超の従業員を有する株式会社においては、監査役会は従業員によって選任された従業員代表者及び株主によって選任される株主代表者によって構成されなければならない。(従業員側/株主側代表者の人数は従業員数により変動する、共同決定法Mitbestimmungsgesetz)
- 従業員代表者の1/3の割合による監査役会への参加に関する法律及び共同決定法の定めに従い従業員代表者を選任する義務がある場合、その半数は女性を選任する努力義務があり、国有企業の場合等は監査役会の構成員の30%は女性を選任する義務がある。
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- 原則として監査役会を設置する義務はない(定款の定めによって設置することは可能)
- 従業員代表者の1/3の割合による監査役会への参加に関する法律又は共同決定法に基づき従業員代表者を選任する義務がある場合、監査役会を設置する義務がある
- 500名超の有限会社において、監査役会の1/3は従業員によって選任されなければならない。
- 2000名超の従業員の有限会社においては、監査役会は対等な従業員によって選任された従業員代表者及び株主によって選任される株主代表者によって構成されなければならない。
- 従業員代表者の1/3の割合による監査役会への参加に関する法律及び共同決定法の定めに従い従業員代表者を選任する義務がある場合、その半数は女性を選任する努力義務があり、国有企業の場合等は監査役会の構成員の30%は女性を選任する義務がある。
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構成員の法的責任
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- 設立時に定款で定めた持分の額面に相当する金額を限度とする有限の出資義務
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株式/持分の譲渡
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- 譲渡可能
- 但し、社員たる権限を表象する有価証券を発行することができないため、持分譲渡を行う場合は、公正証書によることを要する。
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上記の他にドイツでは、合名会社(OHG)や民法上の組合(GbR)の形態による企業も多く存在しますが、これらの会社形態の特徴や、日本企業がドイツに進出する際の手法については、今後本ブログにて、順次情報を追加します。
※本ブログは、TMI総合法律事務所の外国法共同事業先であるアーキス外国法共同事業法律事務所のウルリッヒ・キルヒホフ及びブリッタ・ズルツ(外務事務弁護士、ドイツ法)の協力を得て作成しました。