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【スマートシティ連載企画】第13回 自動走行ロボットによる宅配と道路交通法改正案
2022.04.15
TMI総合法律事務所 スマートシティプラクティスグループ
弁護士 岩田 幸剛
ロボットによる自動配達の可能性
2021年8月に国土交通省が公表した「令和2年度宅配便取扱実績について」によると、2020年度における宅配便の取扱い個数は48億3647万個、前年度比で11.9%増加し、かつ6年連続で前年比増を続けています。他方で、総務省が2022年3月に公表した「労働力調査(基本集計) 2022年(令和4年)2月分」によれば、2021年の運輸業・郵便業の就業者数は約352万人、2020年の約349万人と比較して1%以下の伸び率にとどまっています。2022年4月現在においても、既に運輸業、特に宅配サービスでの人手不足を報じる報道が見られることを踏まえると、将来において決定的な人手不足に陥ることが懸念されます。
運輸業における労働力不足への対応策として、データ、AIその他のテクノロジーの活用が広く検討されておりますが、その一つに自動走行ロボットによる無人での配達があります。従来、人力で行ってきた配達をロボットに任せることにより、団地その他の集合住宅、住宅密集地などにおける労力の省力化などの利便性向上につながり、運輸業での人手不足解消に貢献することが大きく期待されています。
ロボットによる自動配達は、近年では公道での実証実験も広く行われており、例えば荷物を収納できるスペースがあり、自動で走行して各宅配先の下へ届ける形式などが見られます。近年では宅配ボックスや置き配なども見られますが、ロボットによる自動配達では、冷凍・冷蔵品、生鮮食品、料理など宅配ボックスや置き配に適しない配達に活用することも期待できます(注:下記で例示した自動走行ロボットの性能を保証したものではありません)。
配送用の自動走行ロボットの例
2021年2月25日付け日本郵便株式会社プレスリリースより引用
(https://www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2021/00_honsha/0225_01_01.pdf)
これまでの自動配達用ロボットの道路交通法における位置づけ
自動走行ロボットを使って配送を行う場合、工場内での輸送など私有地内のみで利用する場合を除き、公道を走行することが前提となるため、道路交通法を始めとする交通ルールを遵守する必要があります。現在の道路交通法では、配送用の自動走行ロボットは、低速で走行した場合であっても車両に分類されます(速度その他の条件により下記表のいずれかに分類されます)。
表 道路交通法における車両分類
(1)自動車 |
(2)原動機付自転車 |
(3)軽車両 |
(4)例外車両 |
①原動機を使用 |
①二輪の場合、総排気量50cc、定格出力0.60kW以下など道路交通法施行規則が定める基準以下の原動機を使用
|
自転車 |
身体障害者用車椅子 |
道路交通法では、歩行者と車両の交通ルールを区別しており、例えば車両について、例えば歩道又は路側帯と車道の区別がある道路においては、車道を走行することを義務付けています(道路交通法17条)。しかし、自動走行ロボットは、遠隔操作による低速走行が前提とされているため、高速で走行する自動車等が走行する車道を走行させることは容易ではなく、交通に混乱をきたすおそれもあります。
また、そもそも誰が操作しているのか、外観からは明確ではない自動走行ロボットが公道を走行することは、これまでほとんど想定されておらず、従来の道路交通法の下で、いかなる交通ルールにより運用すべきかが課題の一つとして残っていました。
道路交通法改正案
2022年3月4日、道路交通法改正案が内閣から国会へ提出され、2022年4月1日現在では参議院先議法案として、参議院において審議中です。
この道路交通法改正案では、レベル4相当の自動運転、電動キックボード等に関するルール、運転免許証とマイナンバーカードの一体化等とともに、自動配送用ロボットに関する交通ルールについても規定が整備されています。道路交通法改正案では、新たに「人又は物の運送の用に供するための原動機を用いる小型の車であつて遠隔操作により通行させることができるもののうち、車体の大きさ及び構造が歩行者の通行を妨げるおそれのないものとして内閣府令で定める基準に該当するものであり、かつ、内閣府令で定める基準に適合する非常停止装置を備えているもの」を「遠隔操作型小型車」と定義しています(道路交通法改正案2条1項11号の5)。遠隔操作による自動走行ロボットを想定したものと考えられます。なお、遠隔操作型小型車の車体や構造などの具体的基準は、内閣府令で定められることとされていますが、警察庁が設置した多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会が、2021年12月に公表した報告書では、最高速度6km/h以下、車体の大きさについては電動車椅子相当(長さ120cm×幅70cm×高さ120cm)を基準とする前提で検討されていることから、今後制定される内閣府令でも、同様の基準が定められることが予想されます。
そして、遠隔操作型小型車については、車両ではなく「歩行者等」に分類されました(道路交通法改正案4条1項)。遠隔操作型小型車について、「歩行者等」と定義されることにより、車両とは異なる交通ルールが適用されることとなります。上記のとおり、現行の道路交通法では、車両について、歩道又は路側帯と車道の区別がある道路においては、車道を走行することを義務付けていますが、道路交通法改正案により遠隔操作型小型車が車両と区別され、歩行者等とされたことから、当該車両に対する義務の対象外となります。また、信号や道路標識等についても、基本的には歩行者と同様のルールに従うこととなります。ただし、歩行者との関係では、歩行者の通行が優先され(道路交通法改正案14条の2)、また操作を行う者は他人に危害を及ぼさないような速度及び方法で通行させる義務を負う(道路交通法改正案14条の3)など、歩行者とは異なる交通ルールが適用される場面もあります。
また、無人走行という特性を踏まえ、行政機関が走行主体を把握し、適切に監督するため、遠隔操作型小型車の使用者は公安委員会へ届出を行うことが義務付けられ(道路交通法改正案15条の3)、また公安委員会による報告徴収、検査、指示などの制度も設けられました(道路交通法改正案15条の5、同15条の6)。
道路交通法改正案は、現在、国会において審議中ですが成立した場合には、ロボットによる自動配達の実用化が一歩前に進むこととなります。今後の法案成立や関係政省令の制定など、引き続き注視したいと思います。
以上
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