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【法改正】コンセント制度導入に向けた動き
2022.06.30
「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方~とりまとめ~」の公表
2022年6月30日、2ヶ月ほど前に立ち上げられ、非公開で行われていた特許庁政策推進懇談会の報告書「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方~とりまとめ~」が公表されました。本懇談会においては、「時代に即した知的財産制度の在り方の検討」として、商標制度に関する論点の1つとして「4.コンセント制度の導入」が議論されました。
コンセント制度導入について
コンセント制度については、本報告書の19頁以降に報告がなされており、弁理士会の要望や、東大の田村教授のコメントなども踏まえ、検討の方向性として以下の通りまとめられています。
・産業界からの制度導入のニーズ及び消費者に受け入れられる文字列・ロゴの組み合わせは無限にあるわけではない中で、一度登録された商標権は、更新により永続的に独占可能な権利であるところ、商標の資源の枯渇といった観点も踏まえると、我が国においてもコンセント制度の導入について更なる検討を行うべきである。その際、商標法第 1 条に定める目的の一つである「需要者の保護」を考慮した制度を検討していく必要がある。
・このため、当事者間の同意があれば出所混同のおそれの有無の確認を経ることなく併存登録を認める(「完全型コンセント」)のではなく、同意があってもなお出所混同のおそれがある場合には審査官の判断で拒絶する(「留保型コンセント」)べきではないか。
・また、コンセントによる併存登録後に両商標の間で出所混同が生じる場合を想定し、登録後の権利移転により混同が生じた場合の取消審判(商標法第 52 条の2)と同様に、不正競争の目的で他の商標権者の業務に係る商品又は役務と混同を生じるものをした場合には登録を取消し得るような事後的な手当もあわせて、法改正の具体的内容について検討を深める必要がある。
そして、本報告書の72ページの「III.まとめ」において、以下のとおり「留保型コンセント」の導入に向けた法改正の具体的内容の検討を深める必要があるとされました。
・コンセント制度の導入について、需要者の保護の観点から、審査において出所混同のおそれを判断する「留保型コンセント」を前提に、事後的に出所混同を生じた場合の手当も含めて、法改正の具体的内容について検討を深める必要がある。
令和の時代のコンセント制度
弊職は、2011年度から2012年度にかけて、弁理士会商標委員会副委員長として、日本知的財産協会の商標委員会との共同研究として、「コンセント制度の導入に関する調査及び研究」を行い、その研究成果を弁理士会第2商標委員会答申書「コンセント制度の導入に関する調査及び研究」(2012年3月23日及び2013年3月20日)として、2年間にわたり取りまとめました。
また、2020年には、日本弁理士会中央知的財産研究所研究部会研究員として、「日本商標法の未来のための方策検討」〔第50号〕の研究テーマとして「コンセント制度」を取り上げ、別冊パテント第 25 号「令和の時代のコンセント制度」(2020年12月)として研究成果を公表しました。当該論文においては、過去40-50年間の昭和・平成を通じての、コンセント制度導入の議論を総括したうえで、日本商標法の未来のための方策として、令和の時代のうちにコンセント制度を導入すべきとの提言を行いました。
さらに、その後も当該論文を踏まえ、中央知的財産研究所第18回公開フォーラム「我が国商標法を考えるための5つのテーマ」"令和の時代のコンセント制度"として研究成果の発表も行ったほか(講演録、199-218頁)、日本商標協会実務検討部会でのセミナー「令和の時代のコンセント制度」、特許庁・日本商標協会 合同セッション「~コンセント制度の導入に向けた課題と展望~」などのパネリストとして、コンセント導入に向けた議論を継続してきました。
所感
上記のとおり、長らくコンセント制度導入に関わってきた身としましては、今回のスピード感をもった特許庁によるコンセント導入に向けた法改正への動きをまずは高く評価したいと思います。
本懇談会の議論の中では、特に「商標の資源の枯渇」といった視点が興味深く、確かにそもそも有限の選択物である商標の出願・登録が年々増加し、商標選択の幅が狭まる中で、消費者に受け入れられる組み合わせの商標が取得しにくくなっているのが現状となっています。そのような状況において、併存理由を容易にJPP上で「見える化」できるようにし、需要者保護の視点を担保しつつ、枯渇しつつある商標を実質的にシェアしていくという発想も新しい時代の商標制度に必要な視点なのかもしれません。
また、「電動化・知能化が進んだことで異業種の商標権者の先行商標と抵触することが増えたため、コンセントの利用機会が格段に増えている」という視点も興味深いものと言えます。特に、昨今メタバースビジネスが拡大する中で、例えば従来は25類を中心に商標を取得していたアパレルブランドなども、メタバース内でのアパレルブランドのヴァーチャルグッズを取得する際に取得が必要となっている9類などへの商標出願の取得が必要となり、それに従って異業種の商標権者との交渉なども益々増加するものと思われます。スピード感が重要なインターネットやメタバースビジネスにおいては、時間がかかるアサインバックよりも、コンセント制度が利用しやすい制度であることは論を俟ちません。
本懇談会における議論もほぼコンセント導入に前向きなものであり、今後の産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会での法改正の議論の進展に期待が高まります。弊職自身も、令和のうちのコンセント制度導入を目指して、引き続きあるべきコンセント制度を考えていきたいと思います。
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