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【米国】【商標】メタバースと商標
2022.07.29
はじめに
Facebook社がMetaに名称を変更したこともあり、「メタバース(Metaverse)」は一躍バズワードとなりました。この「メタバース(Metaverse)」は、英語で「超~」などを意味する「Meta」と、「宇宙」や「世界」を意味する「Universe」を合わせた語で、現実世界とは異なる世界(仮想空間)を指す語として使用されています。その定義は確立しているものではありませんが、3DCGの技術を用いた三次元の仮想空間や、そのサービスを指すものとされています。
この仮想空間において、人々はアバター(自分自身の分身)により行動し、現実世界さながらに様々な体験をしたり、お気に入りの商品(プラットフォームによっては土地までも)を購入することができ、コミュニケーションをはかることが可能です。これは、まさに新たな経済圏の創出であるといえます。
現時点では、1社単独でメタバースを構築する「クローズドメタバース」が主流であり、その経済圏は原則としてプラットフォームに閉じたものとなりますが、今後は複数のサービス間で相互運用性がある「オープンメタバース」へと進化していくものと思われます。
メタバースにおける商標の役割
商標は、自己の商品やサービスを他人のそれと識別し、出所を表す標識です。メタバースとの関係では、仮想空間のプラットフォームの名称はもちろんのこと、仮想空間内で取引されるデジタル化された商品や、サービス等の名称についても現実世界と同様に保護されるべきであり、商標権による適切な保護が望まれます。
商標権は、いわゆる属地主義に基づき、国毎に権利が付与されるのが原則です。メタバースの世界では、多数のプラットフォームが次々と生まれている状況ですが、商標権はメタバースのプラットフォームに左右されることなく権利の効力が及ぶことになるため、戦略的な権利取得が重要です。この点、商標法ではニース国際分類により、例えば被服であれば第25類、かばんであれば第18類といったように商品やサービスの性質により45の区分に分類されています。
メタバースと関連が深い区分、並びに商品/サービスを以下に列挙してみます。なお、これに限られるものではない点、及び国により取扱いが異なる点には注意が必要です。
このように、メタバースで実現される仮想空間では、取引されるデジタルデータ関連の商品は第9類を中心とした権利取得が中心となり、仮想空間内のサービスは提供されるサービスの内容に応じて適切な区分での権利化が重要となると考えられます。
事例にみる商標出願・登録
以下では、代表的な事例を挙げて出願や権利化の状況を見ていきたいと思います。
(1) メタバースとゲーム(「フォートナイト」(FORTNITE))
メタバースは、ゲームとの親和性が極めて高いものです。既に、子供、大人を問わず幅広い層を魅了している「フォートナイト(FORTNITE)」(Epic Gamesが販売・配信するオンラインゲーム)では、一度に100人が同時に3次元でプレイ可能であり、フォートナイト内で使用できる仮想通貨「V-Bucks」により様々なアイテム(「スキン」と呼ばれるキャラクターのコスチュームや、「エモート」と呼ばれるキャラクターの表現(動作))などの購入が可能です。
この「V-Bucks」は、Epic Games社が米国他で商標登録をしています。
出典:米国特許商標庁(USPTO)データベース
本米国登録は使用に基づく出願(Section 1a)となりますが、使用証拠として以下の画像が提出され、登録に至っていることが確認できます。
出典:米国特許商標庁(USPTO)データベース
(2) メタバースと小売店
米国の小売大手、WALMART(ウォルマート)は、複数のメタバース、NFT、暗号資産関連の商標を米国特許商標庁(以下、USPTO)に出願しています。以下の出願は、いずれも使用意思に基づく出願であり、バーチャルストアの展開や、NFTアートの小売などを事業として行う意思があることが伺えます。なお、USPTOのデータベース上では、2022年6月現在、使用証拠の提出は確認できていない状況ですが、今後どのような使用証拠が提出されるのか、また、登録が認められるのか注目されます。
出典:米国特許商標庁(USPTO)データベース
(3) ブランドとメタバース
アパレルブランド、スポーツウェア等もメタバースを通じて自社ブランドの価値向上に積極的です。特に、NIKEはデジタル空間における積極的な姿勢を見せています。例えば、同社はオンライン・プラットフォームRoblox(ロブロックス)に3D空間 NIKELAND(ナイキ・ランド)をオープンしています。
https://www.roblox.com/games/7462526249/NIKELAND
ロブロックスとは、ユーザーがゲームを作成、共有したり、他のユーザーが作成したゲームをプレイすることなどができるプラットフォームであり、多くのユーザーを有しています。ナイキ・ランドは、米国のナイキ本社をモチーフにした、ロブロックス内におけるバーチャル・オンライン施設です。ユーザーは同施設内でゲームをプレイできるほか、デジタル・ショールームでナイキのアパレル商品の購入もでき、自身のアバターがそれらの商品を身に付けることも可能です。ナイキはこのようなプロジェクトを推進させるべく、多くのオンライン関連商標の出願をUSPTOに行っています。
出典:米国特許商標庁(USPTO)ウェブサイト
なお、本願については、2022年6月に指定商品/役務についてオフィス・アクションが通知されているようです。
まとめ
以上、ゲーム業界、小売業界、アパレル業界におけるメタバース関連商標出願について概括してきました。その他、エンタメ業界、不動産業界、観光業界、教育業界、医療業界などでも、広くメタバースにより商品やサービスが開発・提供されています。
これらの商品やサービスを保護するため、米国を中心に、関連する多数の商標が出願されています。日本においても、スマートフォンでも利用可能なバーチャル・イベントのプラットフォーム「Cluster」など、メタバースのプラットフォームが生まれており、日本における商標出願や登録の件数も増加しています。
また、メタバースは暗号資産、特にNFTとの親和性も高く、メタバース・プラットフォーム内におけるNFTの取引が急増しています。既に米国では、NFT分野における商標権侵害事件に関する事例も大きな話題となっています(メタバーキンス事件 Hermes International and Hermes of Paris, Inc. v. Mason Rothschild ※)。
仮想空間での権利化や紛争の面で先行する米国の動向は、日本における判断にも少なくない影響を与えると考えられます。今後も、メタバースやNFTといった新たな技術に伴う商品やサービスに関する商標問題は米国が先行すると考えられるため、今後の動向に注視が必要です。
※メタバーキンス事件については、以下のブログをご参照ください。
https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2022/13715.html