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【労働法ブログ】「産後パパ育休」─特に重視される出生直後における男性の育児参加
2022.08.31
はじめに
令和3年の育児・介護休業法の改正により、女性の出産直後に男性が育児のための休業を取りやすくする制度、通称「産後パパ育休」という制度が創設されました。施行日は、2022年10月1日となっています。
今回導入される「産後パパ育休」は、既存の育児休業制度とは別に取得可能となるものですが、育児休業のなかでも、特に子の出生直後の休業を特に取得しやすくている趣旨は、どこにあるのでしょうか。
「産後パパ育休」の概要
まず、「産後パパ育休」の制度の概要は、下記の通りとなります。
対象期間:子の出生後8週間以内
取得可能日数:4週間まで
申出期限:原則休業の2週間前まで
分割取得:分割して2回取得可能
休業中の就業:労使協定があり、労働者が合意すれば可能
通常の育児休業であれば原則1か月前までに申し出る必要があるため、申出期限2週間という「産後パパ育休」は、取得がより容易になっていると言えます。同時に、比較的短い期間にも拘らず分割取得が可能となっており、一度に長期間の休業をとると業務への影響が大きい職場でも、短期間に分けることで業務への影響を緩和しやすくなると思われます。同様に、一定の場合に休業中の就業も可能なので、更に業務の都合との調整を付けやすくなっており、取得しやすい制度になっていると考えます。
このように特に子の出生後の育児休業を取りやすくする趣旨について、厚生労働省発行の「育児・介護休業法令和3年(2021年)改正内容の解説」の11ページを見ると、子の出生直後の時期における男性の育児休業取得ニーズが高いことが指摘された上で、育児の大変さや喜び等を男性自身が実感することや自治体等が開催する両親学級への参加等が奨励されています。育児の最初期の段階で男性が育児休業を取得することで、育児に深く、実質的に携わることが期待されているようです。
フランスでは、出生後育休の取得は義務
日本の育児休業制度については、特に男性の取得率の低さがかねてより問題となってきました。令和3年度雇用均等基本調査によると、令和元年10月1日から令和2年9月30日までの1年間に配偶者が出産した男性のうち、令和3年10月1日までに育児休業を開始した者の割合は、13.97%とのことです。今般、取得がより容易となった「産後パパ育休」制度の創設により出生直後の育休の取得率が上昇することが期待されるところですが、どの程度の効果があるのかは、現時点では未知数と言わざるをえません。
そこで、既に高い育児休暇の取得率を実現し、なお制度の改善に取り組んでいるフランスにおける、産後パパ育休に類似する制度の状況を概観してみようと思います。
従業員は、1回の出産につき、少なくとも3日間の出産休暇(congé de naissance)を取得する権利を有します。これは、フランス労働法典第L.3152-1条に記載される慶弔休暇の一つです(同法典第L.3142-4条)。これとあわせ、11日間(多胎分娩の場合は18日)の父親休暇(congé de paternité)を、出産日から4か月以内に取得する権利が認められていました。
しかし、これら休暇は従業員の「権利」であるため、権利の行使をしないという選択も可能であり、ことに非正規雇用者においては、公務員や正規雇用者と比べ、不行使のまま失効させるケースが多くみられました。このような状況を踏まえて、マクロン大統領は、父親の育児関与を促進させるとともに、出産育児の負担が女性に偏ることによるジェンダー不平等を解消することを目的として、父親休暇の改正を実施しました(2020年12月14日付2021年度社会保障予算法)。
同改正により、2021年7月1日以降の出産については、3日間の出産休暇に続き、これまで11日間だった父親休暇が25日間(多胎分娩の場合は32日間)に延長されました。父親休暇は、その取得が義務化された「4日間」と任意に取得できる「21日間(多胎分娩の場合は28日間)」から構成されます。また、3日間の出産休暇の取得についても、これまでは、「出産日から合理的な期間内」に休暇を取得することになっていましたが、2021年7月1日以降の出産については、「出産日または出産日から数えて最初の就業日」に取得することが義務付けられました。つまり、出産から、一律7日間の休暇取得が義務化されました。この7日間は「雇用禁止期間」と位置付けられています(同法典第L.1225-35-1条)。
さらに、出産休暇および父親休暇を申請できる従業員の範囲が拡大され、勤続年数や雇用形態を問わず、等しく休暇を取得することができるようになりました。また、本政策の意味する「父親」も拡大解釈され、これには、生物学上の父親(ジェニター)、戸籍上の夫、事実婚の夫そして母親と連帯市民協約(PACS)を締結したパートナー(性別不問)が含まれます。例えば、母親が法律上または事実婚上の夫以外の者(ジェニター)との間の子を出産した場合、ジェニターはもとより、生まれた子供と血のつながりのない夫(または事実婚上の夫)も、出産休暇および父親休暇を取得できます。
父親休暇の取得が任意の期間(21日間または28日間)は、出産日から6か月以内に取得することになります。必要に応じて、1度もしくは2度に分けて取得することができますが、それぞれの休暇期間は5暦日以上であることが条件となります。
取得例として次のパターンが考えられます。
- 出産休暇3日と父親休暇の取得義務期間4日終了後、立て続けに父親休暇の任意休暇期間21日(または28日)を取得する。
- 出産休暇3日と父親休暇の取得義務期間4日終了後、一度、会社に復帰する。その後、出産日から6か月以内に、父親休暇の任意休暇期間21日(または28日)を取得する。
- 出産休暇3日と父親休暇の取得義務期間4日終了後、一度、会社に復帰する。その後、少なくとも5日以上の任意休暇を取得した後、再度、会社に復帰する。その後、出産日から6か月以内に、5日以上の任意休暇を取得する。
なお、同法典第D.1225-8条により、従業員は、使用者に対して、遅くとも1か月前までに出産予定日を通知すること、そして、父親休暇の任意休暇の取得予定日の1か月前までに、取得時期および取得期間を使用者に通知することが義務付けられています。出産がすでに通知した出産予定日より早まった場合、従業員は速やかに使用者にその旨を通知したうえで、出産休暇と父親休暇21日間(または28日間)を取得することができます。
「産後パパ育休」の今後の取得率
このようにフランスにおいても、男性の育児参加の促進やジェンダー不平等の解消など、産後に男性が取得する育休制度の趣旨は、日本と概ね同じようです。しかし、フランスにおいても立場の弱い非正規雇用者は「権利」を行使しにくい場合があるようであり、この状況を直視して、7日間の休暇取得が義務化されていることが注目されます。日本では、長らく年次有給休暇の取得率が低調であったため、5日間の年次有給休暇を使用者が取得させることが義務付けられたことは、記憶に新しいところです。
今般導入される産後パパ育休は、従来の育児休業より取得しやすくなっていますが、一定期間の育休取得を義務付けるものではないようです。育児休業を取得しやすい雇用環境の整備等は求められておりますが、これにより特に立場の弱い労働者の取得率がどの程度向上するかについては、今後の推移を見守る必要がありそうです。