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特定投資家に移行できる個人投資家の要件の改正
2022.10.12
今回の法令ニュースは、プロの投資家である特定投資家に移行できる個人の要件の改正について取り上げます。この改正は、令和4年7月1日から施行されています。
※本稿は、月刊プロパティマネジメント(2022年9月号、綜合ユニコム社)に「法令ニュース第186回」として掲載されたものを加筆修正したものです。
金融商品取引法におけるプロアマ制度
金融商品取引業者が有価証券の取引やその媒介・代理等を行う場合、顧客に対して契約締結前交付書面の交付等を行う必要がありますが、顧客がプロ投資家(特定投資家)の場合にはこれらの義務は免除されます。この点、金融商品取引法は、一定の投資家について、プロ(特定投資家)からアマ(一般投資家)への移行及びアマからプロへの移行を認めています[図表1]。個人投資家についても、一定の知識・経験を有する投資家についてはプロへの移行が認められています。
【図表1】 プロアマ移行制度の概要
個人投資家のプロへの移行要件の柔軟化
改正前において、プロ成りできる個人投資家は、①純資産3億円以上、②投資性金融資産3億円以上、③取引経験1年以上のいずれも満たす場合に限定されていました[図表2「改正なし」欄参照]。かかる要件に対しては、特定投資家に移行可能な個人投資家の要件が画一的かつ厳格であるとの指摘がなされていました。このため、成長資金の供給における特定投資家の役割の向上及び投資家のニーズに即した投資機会の拡充の観点から、適切な利用者保護とリスク・キャピタルの供給の円滑化の両立のために見直しが必要とされていました。
そこで、政府からの委託事業として、株式会社野村総合研究所によって、大手証券会社の個人顧客を対象とした実証実験としてのリタラシーテストが実施され、現行法におけるプロに移行できる個人投資家と概ね同等以上の金融リテラシーがあると推定される投資家の属性調査が行われました。改正法は、かかる調査結果を踏まえて、プロに移行できる個人投資家の範囲を拡大する改正を行いました[図表2]。
新たにプロ成りの対象とされた個人投資家
改正法は、プロ成りできる個人投資家の資産要件を拡大し、純資産5億円以上の場合、投資性金融資産5億円以上の場合、又は前年の収入額が1億円以上の場合に、いずれも取引経験1年以上を要件としてプロ成りできるとされました[図表2]。改正前は資産要件が中心でしたが、年収要件も追加したものです。
次に、信託受益権取引や不動産ファンドの取引には該当する場合が少ないと思われますが、過去1年の取引に着目し、月平均の取引回数が4回以上の場合には、純資産3億円以上又は投資性金融資産3億円以上保有、並びに取引経験1年以上を条件として、プロ成りを認めました[図表2]。なお、特定投資家に移行した顧客が、その後、1月当たりの平均的な契約件数4件以上を満たさなくなった場合であっても、「知識及び経験に照らして適当であるとき」は、当該件数が4件以上である場合に該当するものとされています。
さらに、投資に関する知識経験を有する者として、職業及び保有資格という観点からの見直しも行われ、特定の職業経験又は特定の資格を保有し、かつ、一定の資産要件、又は年収要件を満たす場合、取引経験1年以上を要件としてプロ成りが認められました。特定の職業経験としては、金融商品取引業、銀行業、保険業、信託業その他の金融業に係る業務に従事した期間が通算して1年以上の場合、又は大学等における経済学又は経営学に属する科目の教授、准教授その他の教員の職にあった期間が通算して1年以上の場合とされています[図表3]。また、特定の資格としては、証券アナリスト、証券外務員、1級・2級FP技能士、CFP、AFP、中小企業診断士であって、いずれも実務経験1年以上の者が該当するとされました[図表3]。
また、特定の資格を要するものではないですが、経営コンサルタント業に従事する者についても、上記の職業経験及び資格を有する者と同等の知識・経験を有する場合には、一定の資産要件、又は年収要件、並びに業務に従事した期間が1年以上であることを要件として、特定投資家に移行できる個人投資家に含めました。
【図表2】改正法におけるプロに移行できる個人投資家
改正なし |
純資産3億円以上 |
投資性金融資産(有価証券、デリバティブ取引等)3億円以上 |
取引経験1年以上 |
単独属性 |
純資産5億円以上 |
- |
|
投資性金融資産5億円以上 |
|||
前年の収入額が1億円以上 |
|||
複数属性の組み合わせ |
過去1年間の1か月あたりの平均的な取引件数が4件以上 |
純資産3億円以上 |
|
投資性金融資産(有価証券、デリバティブ取引等)3億円以上 |
|||
特定の職業経験又は特定の資格保有 |
純資産1億円以上 |
||
投資性金融資産1億円以上 |
|||
前年の収入が1000万円以上 |
【図表3】※2 特定の職業経験又は特定の資格保有
職業経験 |
金融商品取引業、銀行業、保険業、信託業その他の金融業に係る業務に従事した期間が通算して1年以上 |
大学における経済学又は経営学に属する科目の教授、准教授その他の教員の職にあった期間が通算して1年以上 |
|
経営コンサルタント業務に従事した期間が1年以上(但し、一定の知識・経験が必要) |
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保有資格 |
証券アナリスト |
日本証券業協会の一種外務員又は二種外務員 |
|
FP技能検定1級又は2級の合格者 |
|
中小企業診断士 |
「取引経験1年以上」の改正(※1)
改正前においては、取引経験1年以上とは、投資家と当該取引を行おうとする金融商品取引業者との間で過去1年以上の取引経験を要するとされていました。すなわち、投資家が、他の金融商品取引業者との間で1年以上の取引経験があったとしても、当該金融商品取引業者との間で1年以上の取引経験がない限り、特定投資家への移行は認められていませんでした。
改正法では、上記の要件を緩和し、取引経験1年間については、当該金融商品取引業者との間での取引に限らず、他の金融商品取引業者と当該顧客に存在する場合も認められるとしました。
特定投資家への移行に関する更新手続
プロ成りした場合の効力は最長1年間とされています。このため、プロ投資家であることを継続するには、更新時において、当初の承諾時と同様の確認が必要となります。これに対しては、更新手続が金融商品取引業者にとって負担となっているとの指摘がありました。
この点について、改正法のパブコメにおいて、「当該顧客から移行の更新申出を受け、「引き続き要件を満たしている旨」の自己申告を受けた場合は、単に申告内容によるのではなく、必要に応じて、改めて確認書類の提出などを求めて確認することが適当であると考えられます。他方、申出者の純資産や投資性金融資産、収入等に大きな変化が見込まれない場合は、要件への該当性の確認手続が申出者にとって過度に煩雑とならないようにする観点から、申出者の自己申告の内容により要件への該当性を判断し、顧客の知識・経験・財産の状況・投資目的に照らして特定投資家として取り扱うことがふさわしいか否かを考慮した上で、承諾の可否について判断することも考えられます。」とされています。
よって、基本的には、更新の都度、確認書類によってプロ成りの要件を確認すべきことになりますが、投資家からの申告内容及び投資家の状況に応じて更新を認めることができるとされています。
施行日
プロ成りができる個人投資家の拡大については、すでに本年7月1日から施行されています。
以上
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