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【宇宙ブログ】空飛ぶクルマの展望
2022.10.12
はじめに
みなさん、「空飛ぶクルマ」というワードを聞いたことはあるでしょうか。このワードを聞くと、私たちも含め多くの方が、国民的アニメの22世紀の世界感の中で、自家用車が空を飛び交っている画を想像する方が多いと思います。「22世紀だから、私たちには関係ない」と思ってしまうかもしれませんが、実は、空飛ぶクルマは既に実現が近づいてきています。今回のブログでは、その空飛ぶクルマの展望について、ご紹介したいと思っています。
空飛ぶクルマとは
空飛ぶクルマは、海外ではeVTOL(Electric Vertical Take-off and Landing Aircraft)とも呼ばれており、「電動」、「自動操縦」、「垂直離着陸」が一般的な要素となってきます(もちろん、これらに限りません)(令和3年3月国土交通省航空局「空飛ぶクルマについて」2頁)。「垂直離着陸」は、回転翼航空機(ヘリコプター)をイメージするとわかりやすく、長い滑走路が不要となる分、場所的に融通が効くメリットがあります。また、クルマとされてはいるものの、必ずしも陸上を走行する機能を有すものが多いわけではなく、「クルマ」はあくまで個人が日常のために利用するイメージを表現したものになります。
想定されている用途も実に幅広いです。エンタメ輸送(遊覧飛行)から、救急輸送、荷物配送、災害時の物資・人員輸送、事業拠点間輸送、そして最終的には自由経路での自家利用までが想定されています(前掲「空飛ぶクルマについて」5頁)。皆様が特に気になると思われる自家利用は2030年頃を予定しているようです。
空飛ぶクルマの業界地図
次に、公開情報を基に、空飛ぶクルマメーカー各社における事業展開を見ていきたいと思います。
- Sky Drive
同社は、空飛ぶクルマの開発を行っていた有志団体(CARTIVATOR)を母体に、2018年に設立された国内スタートアップ企業です。2020年8月に公開有人飛行に成功し、2025年の大阪万博でのサービス提供を目指して開発を進めており、今非常に注目を集めている企業の一つです。伊藤忠商事やNECなどの出資を受け、昨今ではスズキとの間で業務提携を行ったことでも話題に上がりました。機体としては、比較的小型な固定翼を持たないマルチコプターを予定しています。
(参照:https://skydrive2020.com/flying-car) - 本田技研工業
同社は、2021年9月に空飛ぶクルマの開発に参入し、2030年以降の事業開始を見込んでいます。同社には、自動車で培った電動化技術、Honda SENSING Eliteで培った自動運転技術、そしてビジネスジェットHonda Jetで培った航空機製造技術があり、そのバックグラウンドにある技術の高さには定評があります。ターゲットとしている機体は、飛行機のような固定翼を持った機体であり、航続距離も長く、スピードも相対的に速くなることが期待されています。
(参照:https://www.honda.co.jp/news/2021/c210930b.html) - ジェビー・アビエーション
同社は、2009年創業のスタートアップ企業でありながら、エアタクシーサービスを米国で開始するために必要な許認可を取得するなど、世界の注目を集めている米国企業です。日本からは、トヨタ自動車が出資を行うとともに、ANAホールディングスが業務提携を発表しており、国内での関心も強いです。機体としては、本田技研と同様に固定翼をもった航続距離が長めの機体を予定しており、こちらも2025年の大阪万博をマイルストーンとしています。
(参照:https://www.jobyaviation.com/) - ボロコプター
同社は、ドイツのスタートアップ企業であり、2019年にシンガポールで行った試験飛行や日本航空が出資を行ったことで注目を集めています。機体としては、Sky Driveと同様にマルチコプターを予定しており、都市内交通需要の獲得を目指しているのが特徴です。2024年のパリ五輪での実用化を狙っています。
(参照:https://www.volocopter.com/urban-air-mobility/)
関連する法規制
空飛ぶクルマは、「航空機」(航空法2条1項)に該当する可能性が高く、航空法の適用対象となる可能性が高いです。
空飛ぶクルマのメーカーとしては、製品である機体が航空法10条・11条の耐空証明を取得していること、その前提として航空法12条の型式証明を経ているかが重要となると思われます。米国向けにはFAAの、ヨーロッパ向けにはEASAの型式証明もそれぞれ取得する必要がある点も留意が必要であり、まずはここが各メーカーのマイルストーンになるところです。
また、「自動操縦」の観点からは、「無操縦者航空機」(航空法87条)の要件を満たす必要があると考えられます(人が乗ることができない「無人航空機」(航空法2条22項)とは別物です)。しかし、無操縦者航空機は、定点耐空試験機など、遠隔操作を行いかつ監視員による監視を設けること等を前提としており、自由な経路の飛行を自動で行う「空飛ぶクルマ」とは性質が大きく異なります。そのため、法制度の観点から空での自動運転の安全性をいかにして確保していくかについては、議論が熟していないところであり、これからの潮流を注視していくことが必要です。
その他にも、空飛ぶクルマはこれまでになかったモビリティであり、法規制が追い付いていない分野であるといえます。
おわりに
上記のとおり、まだまだ先だとおもっていた空飛ぶクルマの実現は、もうすぐそこにあります。弊所宇宙航空チームは、これまでの宇宙・航空・ドローン分野で培った経験を活かし、新しい空飛ぶクルマの世界のリーガルサポートも積極的にお手伝いしております。
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