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【裁判例】令和2年(行ケ)第10128号 審決取消請求事件
2022.10.18
判決の内容
本願発明と引用発明との一致点の認定を誤った結果,相違点を看過した誤りがあるとして,拒絶審決が取り消された事例。
事件番号(係属部・裁判長)
知財高裁令和4年1月11日判決(判決要旨)(判決全文)
令和2年(行ケ)第10128号(知財高裁第3部 東海林保裁判長)
拒絶審決に対する審決取消訴訟
事案の概要
発明の名称を「安否確認システム,受信機,安否確認方法及びプログラム」とする特願2015-106553号(本件特許出願)に係る拒絶査定不服審判において,特許庁が,請求項1に係る発明(本願発明)について進歩性を否定し,拒絶査定不服審判の請求は成り立たない旨の審決を下したことに対して,本願の出願人である原告が取消しを求めた事案である。本願発明に関して,特許庁は,本願発明と,発明の名称を「生活状況遠隔監視システムおよび生活状況遠隔監視方法」とする,引用文献1(特開2011-29778号公報)に記載の発明(引用発明)との間の相違点1-4を認定した上で,相違点1-4のいずれも,当業者が容易に想到し得たものであると判断し,本願発明の進歩性を否定した。
本判決においては,本件審決は,本願発明の「施設内での設置箇所に係るID番号」に対する引用発明の「検出部ID」の技術的意義の認定を誤った結果,本願発明の「施設内での設置箇所に係るID番号」と引用発明の「検出部ID」とは技術的意義を異にするにもかかわらず,引用発明の「検出部ID」は本願発明の「施設内での設置箇所に係るID番号」に相当するとして,一致点の認定を誤り,その結果,相違点を看過した誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすとして,本件審決を取り消した。
主な争点に関する判断
(1)結論
本願発明と引用発明との一致点の認定を誤った結果,相違点を看過した誤りがあるから,相違点1-4のいずれも,当業者が容易に想到し得たものであると判断し,本願発明の進歩性を否定した本件審決の判断は誤りである。
(2)理由
ア.本願発明の意義
本願発明は,高齢者や独居生活者等の
見守りを必要とする人の安否を確認する安否確認システムの発明であり,本願発明の目的は,「照明」の点灯/消灯によって見守り対象者の行動を把握し,見守り対象者が常に監視されているという認識を持たずに済み,簡単で安価にシステム構築が可能であるような,安否確認システムを提供することにあり,本件特許出願の請求項1に記載の内容は以下のとおりである(下線は執筆者が付加。)。
「 クラウド環境下における安否確認システムであって,
クラウドを構成するサーバと,
設置された施設及び前記施設内での設置箇所に係るID番号が予め前記サーバに登録され,点灯又は消灯する照明装置と,受信機と,を備え,
前記受信機は,前記サーバが送信する管理画面情報を受信し,安否通知ルールの設定,変更及び追加する画面を表示し,
前記サーバは,前記安否通知ルールの設定,変更及び追加の情報を登録し,
前記照明装置は,点灯又は消灯に応じて前記ID番号が重畳された電波を発信する発信装置を備え,
前記発信装置は,交換可能であり,
前記サーバが,前記発信装置が発信する前記電波に重畳された前記ID番号に基づき,前記受信機の画面を介して登録された前記安否通知ルールに応じて,前記照明装置の点灯又は消灯に係る情報を見守り対象者の安否情報として見守り者の外部端末に通報することを特徴とする安否確認システム。」
イ.本願発明における「施設内での設置箇所に係るID番号」の技術的意義
本願発明においては,照明装置に備えられた発信装置が,「設置された施設及び前記施設内での設置箇所に係るID番号(が重畳された電波)」を発信し,ネットワーク経由で当該「ID番号」を受信したクラウドサーバが,当該「ID番号」に基づき,予め登録された安否通知ルールに応じて安否確認を行う。そして,「施設」とは「見守り対象者」の居宅を指し,「設置箇所」は当該居宅の中での個々の部屋(居間,トイレ,寝室等)を指すから,本願発明において「安否確認」という所期の作用効果を奏するためには,照明装置から発信される「ID番号」と,クラウドサーバに登録された「ID番号」とが,いずれも,照明装置の「設置箇所」を特定し得るID番号でなければならないし,また,照明装置から発信される「ID番号」と,クラウドサーバに登録される「ID番号」とは,これらを相互に対照することによって,どの「設置箇所」において異常が生じているかを検知可能にするものでなければならないと解される。
以上によれば,本願発明は,照明装置が発信装置を備え,この発信装置から発信された「設置された施設及び前記施設内での設置箇所に係るID番号」(居間,トイレ,寝室等の各部屋を識別できる情報)に基づいて,照明装置の設置箇所(部屋)を識別し,この識別した設置箇所に応じた安否通知ルールに従って安否判定を行うものであり,安否判定に,照明装置の設置箇所(具体的には居間,トイレ,寝室等の各部屋)という位置情報を利用するものと認められる。
ウ.引用発明における「検出部ID」の技術的意義
引用発明は,住居内の電気機器の利用状況を把握し,異常な利用状況が発生したことを遠隔地で判断できるシステム等を提供することを課題とするものであり,引用発明の「検出部ID」は,住居内で「電源タップ4」を一意に識別する符号であるものの,引用文献1には,「検出部ID」が「電源タップ4」の設置箇所を表す情報と関連するものであることは一切記載されていない。また,電源タップの一般的な使用形態を参酌すると,電源タップを住居内のどこに設置してどのような電気機器に接続するかは,当該電源タップを利用する者が任意に決められるものと解される。
引用文献1では,「電源タップ4」に照明器具が接続される態様も開示されているものの,照明器具は,居間,トイレ,寝室等,住居内のあらゆる箇所で用いられるものであり,よって,当該照明器具に接続される電源タップの設置箇所も住居内のあらゆる場所が想定されるものであるから,「検出部ID」により「電源タップ4」を一意に識別しても,それは「電源タップ4」の識別にとどまるものであって,当該「電源タップ4」の設置箇所も識別できるとする根拠は見出せない。
すなわち,「電源タップ4」の「検出部ID」から住居内の設置箇所を識別するためには,「検出部ID」と当該「電源タップ4」の住居内での設置箇所とを対応付けた何らかの付加的情報が必要である。「電源タップ4」の「検出部ID」という,電源タップを一意に識別する符号から,当該「電源タップ4」の設置箇所を識別することができる,と認めることはできない。
以上によれば,引用発明の「検出部ID」は,「電源タップ4」の住居内での設置箇所を識別するものではないから,本願発明の位置情報のうち,住居内における設置箇所を特定する「内部管理ID番号」(具体的には居間,トイレ,寝室等の各部屋)とは技術的意義を異にする。それにもかかわらず,本件審決は,引用発明の「検出部ID」は本願発明の「内部管理ID番号」に相当するとして,「施設内での設置箇所に係るID番号」が安否確認に用いられることを一致点の認定に含めており,この認定には誤りがあるといわざるを得ない。その結果,本件審決は,原告の主張に係る新たな相違点を看過しており,上記一致点の認定誤りは本件審決の結論に影響を及ぼす誤りであるとして,取り消された。
コメント
進歩性の判断手法は,主に,事実認定と,法的判断とに大別され,概ね以下のステップ(1)-(3)は事実認定の問題とされ,また,以下のステップ(4)は法的判断の問題とされている。
(1)本願発明の認定
(2)主引用発明の認定
(3)本願発明と主引用発明との一致点・相違点の認定
(4)相違点について想到容易等の判断
本判決においては,本件審決において,本願発明の「施設内での設置箇所に係るID番号」に対する引用発明の「検出部ID」の技術的意義の認定を誤った結果,本願発明の「施設内での設置箇所に係るID番号」と引用発明の「検出部ID」とは技術的意義を異にするにもかかわらず,引用発明の「検出部ID」は本願発明の「施設内での設置箇所に係るID番号」に相当するとして,一致点の認定を誤り,その結果,相違点を看過した誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすとして,本件審決が取り消されている。したがって,本判決においては,上記事実認定の部分,具体的には,ステップ(2)及び(3)の認定の誤りが,本件審決の取消につながったものと考える。
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