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【タイ法務ブログ】第2回 タイへの進出~タイ法人の買収~
2022.10.19
はじめに
タイ法務ブログ第1回の記事では、日本企業のジョイントベンチャーの設立を通じたタイへの進出に際し、外資規制の観点から留意すべき点について説明しました。
今回は、日本企業が既に存在するタイ法人を買収することによってタイへ進出する場合に、外資規制との関係で特に留意すべき点について説明します。なお、「買収」の方法としては、株式取得、合併、事業譲渡などがありますが、本記事では、株式取得による買収を念頭において説明します。
買収前後のステータスに基づく4類型
日本法人がタイ法人を株式取得の方法で買収する際、当該タイ法人の買収前後の外国人事業法(Foreign Business Act (以下、「FBA」といいます。))上のステータスによって、以下の4つの類型に区別することができます(FBA上の「外国人」を外資ステータス、非「外国人」を内資ステータスとしています。)。このうち、本ブログでは、【類型1】から【類型3】について説明します。
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タイ法人のステータス |
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買収前 |
買収後 |
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【類型1】 |
内資 |
内資 |
【類型2】 |
外資 |
外資 |
【類型3】 |
内資 |
外資 |
【類型4】 |
外資 |
内資 |
【類型1】内資→内資タイプ
この類型の典型例として、以下の例が挙げられます。
- タイ人オーナーからタイ法人の株式の50%未満を取得するパターン
- タイ人オーナーからタイ法人の株式の100%を取得することを目指したものの(【類型3】タイプの実現を目指したものの)、外資規制との関係でやむを得ず内資ステータスを維持するために「外国人」に該当しないタイ法人をパートナーにするパターン(買収後は、タイ法人の株式の49%を日本法人が、51%を非「外国人」のタイ法人が保有します。)
本類型では、買収後も内資ステータスが維持されるため、原則として外資規制との関係では特段の問題は生じません。
【類型2】外資→外資タイプ
この類型の典型例として、以下の例が挙げられます。
- タイ法人の親会社である日本法人からタイ法人の株式を譲り受けるパターン
- 日本法人の株式の取得に伴って、日本法人の子会社であるタイ法人が孫会社になるパターン
本類型の場合、新たに子会社又は孫会社になるタイ法人のFBA上のステータスは外資法人のままです。したがって、買収時のデューデリジェンスにおいて、タイ法人が既に外資規制に違反していないかという点に特に留意し、かつ、仮に違反が存在する場合には、当該違反が治癒できるか否か検討したうえで買収を実行する必要があります。場合によっては治癒できない又は治癒に時間がかかる場合もあり、買収スキーム等に影響することもあり得ますので、デューデリジェンスが非常に重要になってきます。
タイ進出業種として一番多い業種である「製造業」は、基本的にFBAの規制業種とされていませんが、一方で、汎用品の販売でなく、個々の顧客からの依頼内容に応じて仕様、フォーマット、スタイル、又は製造工程が異なる製品を製造する行為は、製造委託業務としてFBA上の規制業種である「その他サービス業」に該当するとされています。日本法人の子会社であるタイ法人が製造業を営んでいる場合に、この点が意識されていないこともよくあるため注意が必要です。製造業を営むタイ法人に対するデューデリジェンスにおいては、親会社やグループ会社を含む取引先との契約書を確認するほか、実際の業務フローを確認するなどして、製造委託業務、すなわち「その他サービス業」に該当しないかという点を確認する必要があります。
また、タイ法人が、当該タイ法人やそのグループ会社がタイ国内の顧客に納入した製品の修補・メンテナンスを行う場合、このようなアフターサービスもFBA上の「その他サービス業」に該当するところ、特にアフターサービス自体が当該タイ法人の主要な事業でないような場合には、必要な外国人事業許可等を取得していない例もあるため留意が必要です。
【類型3】内資→外資タイプ
この類型の典型例としては、タイ人オーナーからタイ法人の株式の全てを譲り受ける例が挙げられます。
本類型において、タイ法人が営む事業が外資規制の対象業種である場合には、買収に伴って、新たに外国人事業許可の取得等が必要になります。あるいは、外資規制の対象業種に該当する事業を廃止したり、他社に譲渡したりするなどして切り離したうえで、当該タイ法人を買収するといった方法も検討することができます。
おわりに
以上、FBAにフォーカスして、日本法人がタイ法人を買収する際に特に留意すべき点について説明しました。実際の取引においては、FBAに加えて、土地法を含む個別法による外資規制にも留意する必要があります。