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マンションの専有部分をグループホームとして使用することの停止を認めた裁判例
2022.11.02
今回の法令ニュースは、マンションの専有部分のグループホームとしての使用が、管理規約および区分所有法に違反とする判断した、令和4年1月20日付大阪地裁の判決を取り上げます。
※本稿は、月刊プロパティマネジメント(2022年10月号、綜合ユニコム社)に「法令ニュース第187回」として掲載されたものを加筆修正したものです。
大阪地裁判決の要旨
この裁判例は、マンションの専有部分を所有者から賃借してグループホームを運営することが、住居としての使用以外の使用を禁止する管理規約に違反し、また、区分所有法6条1項に定める区分所有者の共同の利益に反すると判断したものです。その主たる理由は、グループホームとして利用されることにより、マンション全体に対して、より厳格な消防法の規制が適用され、管理組合の業務に影響を与える点にあります。
事案の概要
大阪地裁判決の事案は、図表1のとおり、マンションの専用部分を所有者から賃借して、グループホームを運営していた者に対して、管理組合が、グループホームとしての使用の停止を求めたものです。以下の記載は、実際の裁判例の事例を簡易化しています。
【図表1】当事者関係図
グループホームとは、厚労省のホームページ<https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-089.html>によれば、以下のとおり説明されています。
グループホームとは、知的障害者や精神障害者、認知症高齢者などが専門スタッフまたはヘルパーの支援のもと、集団で生活を行う家のことで、知的障害者や精神障害者が自立的に生活出来るように組まれた生活援助事業としてのグループホームと認知症高齢者などが認知症の症状の進行を緩和させるため日常生活に近い形で集団生活をする介護サービスの2つに分けられます。
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本件マンションは、昭和63年9月に新築された地下1階、地上15階の区分所有建物であり、1階の専有部分は店舗、2階から15階までは住居となっています。被告である専用部分の賃借人は、平成15年8月及び平成17年9月に、3階部分及び7階部分の2部屋を賃借し、同所において、障害者グループホームを運営していました。
消防法に基づく規制
本件マンションは、住居としての利用が想定されており、建築当初から、消防法上、いくつかの規制の適用除外が認められていました。しかし、本件マンションに障害者グループホームが設置されたことにより、消防法に基づく定期点検報告義務等が適用されることになり、管理組合が、これらの規制に対応する必要が生じました。その規制の概要は別表2記載のとおりです。
【図表2】消防法に基づく規制
※1 この適用を受けた場合、管理組合は、1年に1回、防火対象物点検資格者に、当該防火対象物における防火管理上必要な業務等について、消防法等が規定する事項について法定の基準に適合しているかどうかを点検させ、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければなりません。
※2 設置が必要とされる「消防用設備」には、消火設備、警報設備及び避難設備があります。消火設備は、水その他消火剤を使用して消火を行う機械器具又は設備をいい、消火器や屋内消火栓設備、スプリンクラー設備などがあります。警報設備は、火災の発生を報知する機械器具又は設備であり、自動火災報知設備やガス漏れ警報設備などがあります。同項が定める避難設備は、火災が発生した場合において避難するために用いる機械器具又は設備をいい、すべり台、避難はしご、誘導灯などがあります。
※3 所轄の消防署から管理組合に対して、平成28年、本件マンション内の一部が福祉施設として使用されている旨の指摘があり、本件マンションの住居が障害者グループホームとして使用されていることが判明しました。そこで、本件マンションが「共同住宅特例」を受けるため、グループホームとして使用されている住戸に一定の消防用設備を設置する措置として、賃借人(グループホームの運営者)は、平成30年4月、550,800円の費用をかけて、本件各住戸に自動火災報知設備を設置しました。
管理規約違反の判断について
本件マンションの管理規約12条は、「区分所有者は,その専有部分を住宅として使用するものとし,他の用途に供してはならない。」と定めています。大阪地裁は、専有部分が住宅として利用されるためには、生活の本拠として使用されているのみならず、「その客観的な使用の態様が、本件管理規約で予定されている建物又は敷地若しくは附属施設の管理の範囲内であることを要する」としました。そして、グループホームとしての使用は、管理組合の業務等に及ぼす影響があるため、管理規約で予定されている管理の範囲外と判断し、グループホームとしての利用は、上記管理規約に違反するとしました。
区分所有者の共同の利益に反する行為の判断について
区分所有法6条1項は、「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と定め、同条3項によって占有者にも準用されています。大阪地裁は、管理規約に違反する行為は、共同の利益に反するか否かの考慮要素になるとしつつ、被告がグループホームとして使用する必要性の程度と、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様・程度等を比較衡量して、本件各住戸をグループホームとして使用する行為を、区分所有者の共同の利益に反するとしました。
まとめ
大阪地裁判決は、専有部分が住居として使用されているかの判断について、当該使用が管理組合の業務等に及ぼす影響があるかという観点を加味した点で、注目に値すると思われます。なお、実務的な管理組合の対応としては、本件訴訟の事案でも行われたことですが、管理規約において、グループホームとしての使用を禁止する対応を検討すべきものと考えられます。
以上
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