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【ブロックチェーンブログ】再開のお知らせ/DAO(1)-国内の最新動向(仙台市の国家戦略特区制度を活用した規制改革提案)
2022.11.21
ブロックチェーンブログ再開のお知らせ
今秋に金融財政事情研究会から拙編著(※1)「Web3への法務Q&A」(以下「Web3Q&A」といいます。)が出版される予定です。
Web3Q&Aでは、ブロックチェーンを始めとし、NFT・NFTマーケット、Play to Earn、DeFi、メタバースを巡って生じる具体的な法的論点について、ブロックチェーン計9問、NFT計15問、Play to Earn計4問、DeFi計7問及びメタバース計12問に、税務計18問を加えた合計65問のQ&A方式でまとめましたが、紙面の都合や時間の制約により書ききれなかった法的論点が多くあります。
そこで、本年2022年3月30日に開始したブロックチェーンブログを再開し、ここでは、これらの書ききれなかった法的論点を解説していくことといたします。
初回は、DAOについて、国内の最新動向の一つとして、本年10月に公表された、仙台市による国家戦略特区制度を活用した規制改革提案をご紹介します(※2)。
(※1)野口香織弁護士。なお、Web3Q&Aは、弊所弁護士等総勢11名による共著です。
(※2)藤井康太弁護士は、後述する仙台市の規制改革提案に関して、仙台市と連携し、関係省庁との折衝に参加するなどの支援を行っています。
DAO(1)-国内の最新動向(仙台市の国家戦略特区制度を活用した規制改革提案)
これまでの国内の動向
DAOは、Decentralized Autonomous Organizationの略称であり、自律型分散組織と訳されます。
ブロックチェーンプロジェクトでは、そのプロトコル開発者のみによる運営から、コミュニティ内での運営の分散化を進めるため、ガバナンストークンの保有者によるオンチェーンガバナンスに委ねることが行われます(※3)。
この場合において、ガバナンストークン保有者によって組成される団体がDAOであり、その法的性質については、日本ではほとんど解明されていませんが、「DAOによって事業を行う場合、既存の株式会社や合同会社など特定の事業組織を選択しなければ、DAOを利用する当事者の意図にかかわらず、パートナーシップ(組合)の成立が認められる可能性が高い(いわゆる“うっかりパートナーシップ”)」などとして、その法的安定性などについて問題提起がなされていました(※4)。
このような問題を受け、本年3月30日、自民党デジタル社会推進本部NFT政策検討PTによって「NFTホワイトペーパー(案)」(※5)が公表され、以下のとおり、DAOの活用への期待とともに、DAOの法的位置付けなどの整理や、DAOの法人化を認める制度の創設(例えば、国家戦略特区を利用した「DAO特区」、「ブロックチェーン特区」の指定等)の検討の必要性について言及がなされました。
「同一のミッションに賛同する多様なステークホルダーが参加可能な新しいガバナンスシステムであるDAOは、実社会で発生している様々な問題・課題を解決するツールとして活用できる可能性を秘めており、例えば、地方創生、社会課題の解決、スポーツ団体の運営等のツールとしての活用が期待されている」
「わが国においても、…日本法におけるDAOの法的位置付け、構成員・参加者の法的な権利義務の内容、課税関係等を早急に整理し、DAOの法人化を認める制度の創設(例えば、国家戦略特区を利用した「DAO特区」、「ブロックチェーン特区」の指定等)を早急に検討すべきである」
また、本年6月7日、内閣府によって閣議決定された、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる骨太の方針)(※6)や「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」(※7)においても、NFTやDAOの利用等のWeb3の推進に向けた環境整備の検討を進めるとされ、DAOの推進が掲げられています。
さらに、同日、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(※8)も閣議決定され、以下のとおり、デジタル庁が関連省庁と連携してスマートコントラクト及びDAOの法的位置付け並びにそれらの利活用に当たっての法的課題を整理することが提案されています。
「DAOとは、運営会社や代表者・取締役会などが存在せず、参加者が自律的に運営を行う組織である。DAOの運営ルールはスマートコントラクトによってコード化され、これによって意志決定が反映される。
デジタル庁は関連省庁と連携して、DAOを構成するスマートコントラクトを含む、自然人の意志が介在しない自動処理による署名行為について、安全性を確保するための課題、民法や電子署名法上の位置付けについて整理を行う。
国内外のDAOについて、社会貢献活動や地域コミュニティといった具体的なユースケースや法人格との関係について調査し、現行法での位置付けや利活用に当たっての課題を整理する」
これに続いて、デジタル庁においてWeb3.0研究会が発足し、DAOの意義や国内のユースケースの検討、さらには、研究会自体のDAO化など、DAOの在り方に係る種々の議論が行われています(※9)。
(※3)ガバナンストークンやオンチェーンガバナンスの詳細については、Web3Q&Aご参照。
(※4)柳明昌「DAOの法的地位と構成員の法的責任」『法学政治学論究』第132号(2022年3月)23頁。
(※5)NFTホワイトペーパー(案)Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略(2022年3月)(https://www.taira-m.jp/NFT%E3%83%9B%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E6%A1%8820220330.pdf)
(※6)経済財政運営と改革の基本方針2022について(2022年6月7日)(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf)
(※7)新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~(2022年6月7日)(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2022.pdf)
(※8)「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2022年6月7日)(https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/d130556b/20220607_policies_priority_outline_05.pdf)
(※9)デジタル庁 Web3.0研究会(第1回)(https://www.digital.go.jp/councils/31304f21-d56a-4d15-b63e-3b9ef1b96e38/)
仙台市の国家戦略特区制度を活用した規制改革提案
こうした動きの中、仙台市が、DAOの法制化に直接言及するものとしては地方公共団体初となる、Web3ビジネスの加速化に向けた規制改革パッケージを、国家戦略特区制度を活用して内閣府に提案しました。この提案の内容は、2022年10月19日更新の同市のホームページで公表されています(※10)。
仙台市の規制改革提案は、以下の3つの内容から構成されています。
①トークンに係る税務・会計処理基準の明確化
②分散型自律組織(DAO)の法制化及び既存規制緩和
③Web3ビジネスにおける投資ビークルの規制緩和
仙台市は、今回の国家戦略特区提案を行うにあたって、Web3ビジネスに携わる起業家や研究者へのヒアリングを行うとともに、関係省庁との間でディスカッションを行い、その他Web3事業者の主催する各種イベントに出席するなどして、同市においてWeb3ビジネスを活性化させるために必要な施策の検討を行ってきました。
その上で、本稿執筆者との議論の過程において(※2参照)、現在日本国内で組成されているDAOを、主として、(i)地域におけるコミュニティ形成を目的としたものと、そこから進んで(ii)法定通貨又は暗号資産による出資を経て経済活動を行い、一定のリターンを獲得することまで視野に入れたものとに分類し、それぞれの活動状況の整理を図りました。そして、(i)のコミュニティ形成を主軸とするDAOについては、現行の法制度の中で、ある程度その目的を達成できていると分析する一方で、(ii)の経済活動を視野に入れるDAOに関しては、①DAOが発行したガバナンストークンを保有する場合に期末時価評価課税の対象となること、②DAOの活動との関係で構成員の有限責任性が担保されていない限り、十分な参加者を募ることが難しいこと、③有限責任性が担保される現行法上のエンティティを利用する場合には、トークンホルダーによる自律的な組織運営に支障が生じ得ること、④ガバナンストークンが有価証券に該当し金商法上の開示規制・業規制の対象となり得る結果、機動的な資金調達が損なわれる可能性があること、⑤投資事業有限責任組合がトークンに対して出資できないことなどを論点として議論し、それらを解消しDAOの経済活動を加速させるための対応を検討しました。特に、ガバナンストークンとスマートコントラクトを活用し、構成員の匿名性を維持したまま、各構成員のDAOに対する(資本的なものに限られない)貢献度に応じた自動的な利益分配を行うことは、現在の法制度からは困難であるとの議論もなされています。
仙台市においては、もともとWeb3ビジネスに対する関心が高い起業家やその支援者が多く、DAOに関しても、既に同市内の独立系ベンチャーキャピタリスト主導で立ち上げられた「みちのくDAO」が存在しています(※11)。また、東北大学発のディープテック産業のスタートアップも同市内に多数存在しており、今回の特区提案に対して高いニーズが存在するとの意見が出されました。一方で、国内のWeb3起業家が、ドバイやシンガポールといった、法制面又は税制面でアドバンテージのある国に活動拠点を移す事例も目の当たりにしており、Web3時代の到来に向けた喫緊の対応が必要であるとの議論もなされました。
仙台市は、この国家戦略特区提案を通じて、仙台市及び東北地方を本拠として活動する起業家はもちろん、日本全国でWeb3ビジネスに携わる起業家が活躍できる環境をいち早く整備することにより、仙台市のスタートアップシーンを一層活性化させたい意向です。また、その延長線として、現在海外へ流出している、Web3ビジネス(特にCrypto関連)に係る起業家が、国内に留まってビジネスにチャレンジできるよう環境整備を進め、Web3ビジネスのグローバルな発展に貢献することも目標としております。
仙台市では、今回の特区提案を皮切りに、Web3ビジネスの活性化によっていかに地方創生を実現するかを念頭におき、今後も様々なイベントの開催を検討しています。
仙台市より前のタイミングでは、福岡市が、認定LPSがスタートアップの発行するトークンを取得できるよう、現行の投資事業有限責任組合法を改定することを求める国家戦略特区提案を出しており、今後、その他の国家戦略特区からも同様の提案がなされる可能性があります。
(※10)Web3.0の進展に向けたイベントの開催および仙台市国家戦略特別区域における規制改革の提案について(2022年10月19日(http://www.city.sendai.jp/project/koho/kisha/r4/1019tokku.html)
(※11)みちのくDAOによるポスト震災10年、「復興」と別軸の東北Web3経済圏形成(https://note.com/fukudome_hideki/n/n9b257cf0f2d4b)