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所有者不明私道への対応ガイドライン(その1)
2022.12.01
今回の法令ニュースは、共有私道の保存・管理等に関する事例研究会が令和4年6月に公表した、「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~(第2版)」を取り上げます。
※本稿は、月刊プロパティマネジメント(2022年11月号、綜合ユニコム社)に「法令ニュース第188回」として掲載されたものを加筆修正したものです。
所有者不明私道への対応ガイドラインについて
所有者不明私道への対応ガイドラインは、法務省に設置された共有私道の保存・管理等に関する事例研究会によって公表されたものです。このガイドラインは、私道の所有形態に応じた法律関係を分析するとともに、多くのケーススタディを示しています。
ガイドラインは、私道の所有形態について、私道を複数の所有者が共有している場合(共同所有型私道、図表1)と、私道付近の宅地を所有する複数の者がそれぞれの所有する土地を私道として提供する場合(相互持合型私道、図表2)、及び団地の場合に分けて分析しています。
本稿では、共同所有型私道について検討します。
【図表1】 共同所有型私道
※所有者不明私道への対応ガイドラインより。以下同じ。
【図表2】相互持合型私道
共有物である私道の変更・管理・保存行為
共有物について、民法は、共有物の「変更」行為、「管理」行為、そして「保存」行為に分けて法律関係を整理しています。具体例は後述しますが、変更とは、共有物の形状や効用に変更を加える行為、管理とは共有物の利用・改良行為、保存とは共有物の現状を維持する行為を、それぞれいいます。
現行民法では、共有物の変更は共有者の全員同意、管理は持分価格の過半数の同意、保存は共有者単独で行うことができるとされています。これに対して、令和3年の民法改正では、共有物の変更のうち軽微な変更は持分の価額の過半数によって行うことができるとされました(図表2)。たとえば、砂利道であった私道を舗装することは、共有物の変更にあたりますが、軽微な変更に該当する場合が多いとされています。
【図表3】共有物の変更・管理・保存行為
また、改正民法では、法定の短期の賃借権等の設定は持分の価格の過半数で決することが定められ、従来は解釈がやや不明確であった部分を法定しました。
所在等不明共有者がいる場合の共有物の変更及び管理について
改正民法では、氏名等又はその所在が不明な共有者(所在等不明共有者)がいる場合の共有物の変更及び管理について手続が整備されました。すなわち、所在不明共有者がいる場合において、裁判所は、①他の共有者の同意がある場合には共有物の変更の裁判ができること、及び、②所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項を決する裁判ができることとされました。
このように、所在等不明共有者がいる場合でも、裁判所の手続を通じて、共有物の変更や管理ができるようになりました。
共有私道の変更・管理・保存の例
ガイドラインでは、ケーススタディとして、私道の舗装に関する事例及びライフライン(給水管、排水管、ガス管、電柱等の場合)の事例が多数紹介されており、参考になります。以下、私道の舗装に関するケーススタディを紹介します。
(1) 舗装の陥没による一部のアスファルトの補修事例
この事案は、3名の共有者が共有するアスファルト舗装の私道の一部が陥没し、当該陥没部分の穴を塞ぎ、アスファルトで再舗装して現状を維持する補修工事が必要となったところ、共有者の1名が所在等不明のため、工事の同意を得られない場合です(図表3)。
ガイドラインでは、当該工事は、一般的に、共有物の保存行為に当たり、各共有者が単独で行うことができる(所在等不明共有者の同意は不要)と整理されました。
【図表4】舗装の陥没による一部のアスファルトの補修事例概略図
(2)舗装の陥没による全面的なアスファルトの張替事例
この事案は、路面の一部に段差が生じ、全体的に老朽化している私道全体につきアスファルト舗装工事を行いたいが、5名の共有者のうち1名が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例です(図表4)。
ガイドラインでは、以下のとおり整理されています。
① アスファルト道の段差部分のみ補修工事をすることは、一般的に、共有物の保存行為にあたる(単独共有者で工事可能)。
② 現時点で通行に支障がなく道路としての機能に問題がない部分を、近い将来に生じ得る支障を予防するために全面的に再舗装工事を行うことは、全体として、共有物を改良する行為であり、一般的に、共有物の管理に該当する(共有物の価額に応じた過半数)
③ 段差部分以外のアスファルトの老朽化が進み、早晩陥没が生じることが予想されるような具体的徴候がある場合には、全面的に再舗装工事を行うことも保存行為に当たる(単独共有者で工事可能)。
【図表5】舗装の陥没による全面的なアスファルトの張替事例概略図
(3)砂利道にアスファルト舗装を行う事例
この事案は、砂利道である私道につき、アスファルト舗装工事を行いたいが、共有者の1名が所在等不明のため工事の同意を得られない事例です(図表5)。アスファルト舗装工事は、通路敷に工事を施しアスファルト面等を土地に付合させるものと評価できるため、物理的に変更を行うものであり、また、歩道から車道への変更という意味で道路の機能も変更するものと評価されています。
よって、現行民法では、かかる行為は、一般的に、共有物に変更を加えるものであり、共有者全員の同意が必要となるとされています。これに対して改正民法においては、砂利道のアスファルト舗装は、ある程度の変更を伴うものの、著しく変更するものではなく、また、効用に関しても通路としての機能を向上させるに留まるものであることから、軽微変更に当たると整理されています。そのため、本事例では、共有物の持分の価額の過半数の同意によって、上記工事を行うことが可能と考えられます。
【図表6】砂利道にアスファルト舗装を行う事例概略図
まとめ
改正民法は、令和5年4月1日から施行されます。本稿では共同所有型私道について検討しましたが、今後、他の所有方式やライフラインのケーススタディについてもご紹介できればと思います。
以上
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