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所有者不明私道への対応ガイドライン(その2)
2023.01.06
今回の法令ニュースは、前号に引き続き「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~(第2版)」を取り上げます。
※本稿は、月刊プロパティマネジメント(2022年12月号、綜合ユニコム社)に「法令ニュース第189回」として掲載されたものを加筆修正したものです。
所有者不明私道への対応ガイドラインは、私道の所有形態に応じた法律関係を分析するとともに、多くのケーススタディを示しています。ガイドラインでは、私道の所有形態について、私道を複数の所有者が共有している場合(共同所有型)と、私道の周りの宅地を所有する複数の者がそれぞれ所有する土地を私道として提供する場合(相互持合型)、及び団地の場合に分けて分析しています。本稿では、相互持合型私道について検討します。
相互持合型の私道の法律構成
相互持合型の私道は、私道の周りの宅地を所有する複数の者が、それぞれ所有する土地を通路として提供し、私道がこうして提供された数筆の土地により形成されているものです。私道としての土地の提供の方法は、図表1のように、私道を縦に切り分ける方法と(地番77-18から77-23が私道部分)、図表2のように私道を横に切り分ける方法(地番104-23、104-24、104₋32から104₋40、104-52、104-56、104-57、104-61、104-63から104-66が私道部分)があります。
私道の利用に関しては、私道を提供する土地の所有者と、私道を利用する者との間で合意書が締結される場合がありますが、明示的な合意がない場合も見られます。ガイドラインによれば、相互持合型の私道における各私道部分の所有者は、その所有する宅地への通行のために、通行等を目的とする地役権(民法 280 条)を設定していると解釈されています。ここにいう地役権とは、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利のことをいい、袋地が公道への通行のために設定を受ける通行地役権、送電線の設置のために設定される地役権などがあります。図表1の場合、地番77-12から77-17の土地は、地番77-18から77-23の土地から通行地役権の設定を受けていることになります。地役権は登記することも可能ですが、実務的には登記されていない場合も見られます。
【図表1】相互持合型私道(通路を縦に切り分ける場合)
※所有者不明私道への対応ガイドラインより。以下同じ。
【図表2】相互持合型私道(通路を横に切り分ける場合)
相互持合型私道の管理等の例
ガイドラインでは、ケーススタディとして、私道の舗装に関する事例及びライフライン(給水管、排水管、ガス管、電柱等の場合)の事例が多数紹介されており、参考になります。以下、相互持合型私道における私道の舗装に関するケーススタディを紹介します。
(1) 舗装の陥没による一部のアスファルトの補修事例
この事案は、図表3の私道部分のうち、①所有の私道部分について路面が陥没しており、通行に支障が生じている状態であることから、陥没部分の穴を塞ぎ、アスファルトで再舗装する工事を実施する必要があります。しかし、①の所有者が所在等不明となっていることから、②及び③の所有者が、①の所有者の同意を得ずにかかる工事を行うものです。
この事案において、ガイドラインは、②及び③の所有者は、①の所有者の同意がなくても、私道全体の通行を確保するために補修工事を実施することができると整理しています。舗装され、全面を通路として使用される私道については、①から③の所有者は、その全体を通路として自由に使用することができることを理由とします。
【図表3】
(2) 全面的なアスファルトの張替事例
この事案は、図表4のうち、①、④~⑥の所有者が所有する私道部分において路面の一部に段差が生じ、また、私道が全体的に老朽化しているものです。しかし、③の所有者が所在等不明のため、③以外の所有者によって私道全体につきアスファルト舗装工事を行う必要があります(図表4)。
ガイドラインでは、以下のとおり整理されています。
A) 特段の合意がない場合、それぞれ宅地部分の土地のために、私道部分について通行地役権が黙示的に設定されていると判断されることが多い。
B) ③の所有者が通路として提供している部分については、その同意を取得することができないので、再舗装を行うことができない。それ以外の私道部分については、③を除く各所有者の同意によって再舗装を行うことができる。
その理由としては、通行を目的とする地役権の場合、私道の所有者は、宅地部分の所有者による通行を受忍すべき義務を負うところ、本事例では、通行に支障があるのは、①、④~⑥の所有者が通路として提供している部分のみであり、③の所有者が提供している部分については通行に支障がなく、通行地役権の行使自体に支障はない。このため、特段の事情がない限り、③の私道の所有者が、再舗装工事を受忍すべき義務を負うと考えることは困難だからです。
C) ①、②、④~⑥の所有者は、③の所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを行うか、又は③の所有者の所有に係る通路部分の土地について所有者不明土地管理命令の申立てを行い、選任された管理人から③の所有者が通路として提供している部分の再舗装についての同意を得ることにより、私道全面の再舗装を行うことができる。
【図表4】
(3) 砂利道についてアスファルト舗装工事を行う事例
この事案は、図表5のうち、①から⑥の各所有者が所有する私道(現状は砂利道)の全体につき、アスファルト舗装工事を行う事例です。①の所有者が所在等不明のため、この者から工事の同意を得られず、②から⑥の所有者が工事を行うことを想定しています(図表5)。
ガイドラインでは、以下のとおり整理されています。
A) 特段の合意がない場合、①から⑥の土地のために、私道部分についてそれぞれ通行地役権が黙示的に設定されていると判断されることが多い。
B) 未舗装の道路として通行に支障がないことから、①の土地の所有者の承諾なく、この者が所有する私道部分アスファルトに舗装する工事を行うことはできない。
C) ②~⑥の所有者としては、①の所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを行うか、①の所有者の所有に係る私道部分の土地について所有者不明土地管理命令の申立てを行い、選任された管理人から①の所有者が所有する私道部分の舗装についての同意を得ることにより、私道の整備を行うことができると考えられる。
【図表5】
以上
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