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【RE100の技術要件の改定】バーチャルPPA(フィナンシャルPPA)と非化石証書の購入
2023.01.10
バーチャルPPAの概要
再生可能エネルギー電気を需要家に供給するフィジカルPPAにおいては、発電事業者が、発電設備を①需要家の需要場所(オンサイト)に設置して電気を供給し、又は、②需要場所以外の場所(オフサイト)に設置して、電力系統又は自営線を通じて電気を需要場所に供給します。
これに対して、バーチャルPPAにおいては、発電事業者は、需要家の需要場所以外の場所に発電設備を設置し、生じた電気は卸電力市場で売却するとともに、電気から切り離された非化石証書(注1)を需要家に対して直接又は小売電気事業者を通じて間接的に供給し、需要家は、別途、小売電気事業者から電気の供給を受けます。供給を受けた電気と非化石証書を組み合わせることで、あたかも再生可能エネルギー電気の供給を受けたかのような効果が生じます。
<非化石証書を、需要家に直接供給する場合>
(a) 発電事業者は、電気を卸電力取引市場で市場価格で売却し、電気から分離されたエネルギー属性証書(非FIT非化石証書)(注1)を需要家に供給します。
(b) 需要家は、自らの調達元の小売電気事業者から電気を調達し、その調達した電力量分の非FIT非化石証書を償却します。
非化石証書を需要家に直接供給するのは、次の場合にのみ認められます(第68回電力・ガス基本政策小委 制度検討作業部会(2022.7.14)資料4(27頁))。
・2022年度以降に営業運転開始する新設非FIT電源
・卒FIT電源
・新設FIP電源
・2022年度以降に営業運転開始したFIT電源がFIP電源に移行したもの
<非化石証書を、小売電気事業者を通じて需要家に間接的に供給する場合>
(a) 発電事業者は、電気を卸電力取引市場で市場価格で売却し、電気から分離されたエネルギー属性証書(非FIT非化石証書)を小売電気事業者に供給します。
(b) 非FIT非化石証書の供給を受けた小売電気事業者は、当該証書と電気をセットで需要家に供給します。
注1: 非化石証書とは、非化石エネルギー源に由来する電気の非化石電源としての価値を取引可能にするための、当該価値を有することを証するものをいいます(エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(エネルギー供給構造高度化法)施行規則3条1項2号)。
非化石証書には、固定価格買取制度(FIT制度)に基づく再生可能エネルギー発電事業計画の認定(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(以下「再エネ特措法」といいます。)9条4項)を受けた発電設備から生じる非化石証書であるFIT非化石証書と、その他の発電設備から生じる非FIT非化石証書があります。
FIT制度は、需要家が電力料金とともに支払う賦課金によって成り立っているため、FIT非化石証書の売り手は電力広域的運用推進機関(再エネ特措法2条の2第3項)であるのに対し、非FIT非化石証書は、電気事業法上の発電事業者(2条1項15号)が相対又はオークションで販売します。
バーチャルPPAが行われる理由
再生可能エネルギー電気を供給・調達するにあたり、オンサイトのフィジカルPPAにおいては、需要家の需要場所の屋根や敷地に発電設備を設置しますが、その設置場所は限られています。
また、オフサイトのフィジカルPPAについては、インバランスリスクへの対応が必要となります。つまり、発電及び需要において、30分ごとに計画値と実績値を一致させる必要があり(計画値同時同量)、計画値と実績値にずれ(インバランス)が生じると、その分、一般送配電事業者との間で精算することとなり、不足電力を高価で補給を受け、また、余剰電力を安価で売却しなければなりません。
そこで、発電設備の設置場所が需要場所に限定されることなく、また、インバランスリスクへの対応も不要なフィナンシャルPPA(バーチャルPPA)が候補として挙がることとなります。
バーチャルPPAと商品先物取引法
発電事業者が発電設備を設置するに当たり、通常は、金融機関から借入れを受けるところ、電気の市場価格が下落すると、発電事業者のキャッシュフローが減少し、金融機関に対する元本弁済及び金利支払いが不安定になり、金融機関としては望ましくありません。
このため、発電事業者は予め需要家と固定価格で料金を定め、以下のように、発電事業者が常に固定価格を得られるように仕組むのが一般的です。
・ 市場価格<固定価格の場合:需要家が発電事業者に対して、(固定価格-市場価格)を支払う
・ 市場価格>固定価格の場合:発電事業者が需要家に対して、(市場価格-固定価格)を支払う
このとき、固定価格と市場価格の差額の支払は、商品先物取引法に定める店頭商品デリバティブ取引(2条14項2号)に当たり、発電事業者や需要家が特定店頭商品デリバティブ取引業者の届出(349条1項)をしなければならないかが問題となっていました。
しかし、経済産業省から「一般論として、差金決済について、当該契約上、少なくとも以下の項目が確認でき、全体として再エネ証書等の売買と判断することが可能であれば、商品先物取引法の適用はない」との検討結果が示されました(内閣府 第24回再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(2022.11.11)参考資料 第17回回答と要望7番)
・ 取引の対象となる環境価値が実態のあるものである(自称エコポイント等ではない)
・ 発電事業者から需要家への環境価値の権利移転が確認できる
バーチャルPPAと非化石証書の購入との違い
(1) RE100における非化石証書の購入
需要家が、その消費する電気と同一のマーケットからエネルギー属性証書だけを購入し、系統を通じて購入した電気と組み合わせることで、再生可能エネルギー電気を調達したとみなすことは、RE100における再生可能エネルギー電気の調達として認められています(RE100の技術要件(Technical Criteria)Sec. 3)。
日本においてRE100で使用できるエネルギー属性証書は、次のとおりです(RE100 Frequently Asked Questions (FAQs): Technical Q 37)。
・ 非化石証書
・ グリーン電力証書
・ J-クレジット(再エネ電気由来)
(2) 非化石証書の購入とバーチャルPPA
2022年10月に改定されたRE100の技術要件によれば、バーチャルPPAは、金融取引であり、市場で電気を売る際の市場価格の上昇・下落というマーケットリスクは本来、発電事業者が負うものであるところ、固定価格と市場価格の差額の決済により、当該リスクが需要家に移転することが、バーチャルPPAの本質的な要素となります(技術要件Sec. 4の2.2)。このため、需要家が金銭面での利益を受けることもあり得ます。
これに対し、非化石証書の購入は、需要家にとって、別途調達する電気に対して追加コストをもたらすに過ぎません。この点が、バーチャルPPAとの差異といえます(技術要件Sec. 4の4)。
しかし、日本においては、バーチャルPPAと銘打った長期の供給契約であるにもかかわらず、需要家に対してマーケットリスクが移転していないケースがよく見られるようです。固定価格と市場価格の差額の決済を行っておらず、マーケットリスクが需要家に移転していない場合、RE100に対してエネルギー属性証書(非化石証書)の購入として報告するよう求められています(技術要件Appendix Eの4)。
もちろん、非化石証書の購入であってもRE100での再生可能エネルギー電気の調達と認められますが、単に追加コストをかけて調達したに過ぎないと評価されてしまい、また、需要家が金銭面での利益を得る機会を失うことになります。このため、需要家がバーチャルPPAを締結する場合には、RE100が認める内容、つまりマーケットリスクが需要家に移転した形態でのバーチャルPPAを締結するのが望ましいと考えられます。
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