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GX推進法案の閣議決定について
2023.03.01
GX推進法案の閣議決定について
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、カーボンニュートラルとともに経済成長の実現に向けた、経済社会システム全体の変革のことをいいます。内閣総理大臣を議長としてこれまで進められてきたGX実行会議により検討されてきておりましたが、今般、GX実行会議により公表されたGX実現に向けた基本方針(以下「GX基本方針」といいます。)(※1)に基づき、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」(以下「本法律案」といいます。)が閣議決定されました(※2)。今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資を行うにあたり、以下の事項が本法律案により定められております。
・ GX推進戦略の策定・実行(本法律案第6条)
・ GX経済移行債の発行(本法律案第7条)
・ 成長志向型カーボンプライシングの導入(本法律案第11条、15条及び16条)
・ GX推進機構の設立(本法律案第54条)
・ 進捗評価と必要な見直し(本法律案附則第11条)
(※1)GX基本方針(https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210002/20230210002_1.pdf)
(※2)本法律案(https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210004/20230210004.html)
(1) GX経済移行債の発行
GX経済移行債とは、GX推進戦略の実現に向けた先行投資、より具体的には、再生可能エネルギーや原子力等の非化石エネルギーへの転換、省エネ推進、資源循環・炭素固定技術等の研究開発等への投資に対して行われる投資支援策の財源に充てるために発行される公債のことをいいます。
本法律案では、2023年度(令和5年度)から10年間、GXの推進に関する施策に要する費用の財源とするためにGX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)を発行することができるとされており(本法律案第7条)、GX基本方針では、国としてGXの推進に関する施策に対し 20 兆円規模の先行投資支援を実行するとされております。
(2) 成長志向型カーボンプライシングの導入
カーボンプライシングとは、排出する炭素に値付けをすることによって、排出者のカーボンニュートラル化を促す制度をいいます。
本法律案では、2028年度(令和10年度)から、化石燃料の輸入事業者等に対して、輸入等する化石燃料に由来する二酸化炭素の量に応じて、化石燃料賦課金を徴収し(本法律案第11条)、2033年度(令和15年度)から、特定事業者である発電事業者に対して、二酸化炭素の排出枠(量)を割り当て、その量(有償で割り当てられた量)に応じた特定事業者負担金を徴収するとされております(本法律案第15条及び第16条)。この特定事業者である発電事業者とは、発電事業者のうち、二酸化炭素の排出量が多い者として政令で定める者をいうとされております(本法律案第2条第5項)。
(3) GX推進機構の設立
本法律案によって設立されるGX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)は、GXに資する事業活動行う者に対する支援(債務保証その他の支援)、化石燃料賦課金(本法律案第11条及び第13条)・特定事業者負担金の徴収(本法律案第16条及び第18条)、排出量取引制度(特定事業者排出枠の割当て・入札等)(本法律案第15条、第17条及び第18条)等を行うとされております(本法律案第54条)。
本法律案は、現在開会中である第211回通常国会に提出され、審議されております。
再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ 中間とりまとめの公表について
2050 年カーボンニュートラルの実現に向けて、再エネの最大限の導入が求められる一方、安全面、防災面、景観や環境への影響、将来の廃棄等に対する懸念が高まったため、2022年 4 月より「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会」により、再エネ促進に向けての制度変更が検討され、同年10月に提言(以下「本提言」といいます。)がとりまとめられました。また、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分 科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代型電力ネットワーク小委員会(以下「大量導入小委」といいます。)において、事業規律強化を前提に、既存再エネの長期電源化と有効活用に向けた論点整理(※3)が2022年10月に公表されています。今般、大量導入小委の下に設置された再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループが、大量導入小委による論点整理を踏まえ、再エネ特措法に関して具体的な制度変更を要する事項につきまとめた「中間とりまとめ」(以下「本中間とりまとめ」といいます。)についてのパブコメ結果が公表されるとともに、最終化されております(※4)。具体的には、以下の事項について対応方針が示されました。
(※3)論点整理(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/20221007_1.pdf)
(※4)中間とりまとめ(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/kyosei_wg/pdf/20230210_1.pdf)
(1) 立地状況等に応じた手続強化
FIT/FIP認定後に関係法令の許認可を取得せず事業を実施している場合は、これまでも認定取消事由となりえましたが、本提言では、関係法令の許認可取得をFIT/FIP認定の申請要件とし、許認可の取得がなされていない場合、認定申請を認めないとする認定手続の厳格化が提案されています。これを受けて、本中間とりまとめでは、災害の危険性に直接影響を及ぼし得るような土地開発に関わる以下の許認可については、再エネ特措法における認定申請にあたり事前に取得を求めることとされています。、この認定手続の厳格化は原則として再エネ電源の種類を問わないとされておりますが、風力発電事業・地熱発電事業については、開発までのリードタイムの長さや、土地の使用権原を証する書類に関するルールを参考に、法又は条例に基づく環境影響評価手続の対象である場合は、FIT/FIP認定から3年以内に許認可を取得し終え、届出を行うことなど一定の条件付きで、今般新たに申請要件とする許認可を、引き続き認定後に取得することを認める方針が示されています。
① 森林法における林地開発許可
② 宅地造成等規制法の許可
③ 砂防三法(砂防法、地すべり等防止法及び急傾斜地法)における許可
(2) 違反状態の未然防止・早期解消措置の新設
本中間とりまとめでは、FIT/FIP認定事業者に対して、違反の未然防止・早期解消を促す仕組みとして、認定計画に違反した場合、FIT/FIP 交付金を留保するための積立命令に基づく積立義務を新たに課すこととし、違反状態の間は、FIT/FIP 交付金の留保を継続することとする制度が提案されております。また、違反状態の早期解消インセンティブを持たせるため、違反の解消又は適正な廃棄等が確認された場合は、留保された交付金を取り戻せることとするべきであるともされております。なお、積立命令は金銭処分であるため、認定取消し等とは異なり、行政手続法における聴聞・弁明の機会の付与しないものとされております。
(3) 太陽光電池出力増加維持の現行ルールの見直し
現行の再エネ特措法上は、太陽光パネルの出力が増加する際には、国民負担の増大を抑止する観点から、設備全体の調達価格/基準価格が最新価格へ変更されることとされております。
本中間とりまとめでは、再エネ設備の更新又は増設をする際に、認定出力のうち当初設備相当分は価格維持することとし、増出力分相当は十分に低い価格を適用するとともに、更新又は増設後の設備も含めて当初設備の調達期間等を維持する制度への改正が提案されております。
(4) 大量廃棄に向けた計画的対応
2022 年 4 月に施行された再エネ特措法の改正により、太陽光パネルの廃棄等費用積立制度が措置され、2022 年 7 月より制度が開始されております。本中間とりまとめでは、今後、増加することが想定される太陽光パネルの廃棄処理に関連して、太陽光パネルの含有物質等の情報を正確に把握し、適切な処理を行っていくことが求められ、FIT/FIP認定申請の際に記載する設備情報に含有物質等の情報を含めること、事業廃止後の使用済太陽光パネルの安全な引渡し・リサイクルを促進・円滑化するための制度的支援や必要に応じて義務的リサイクル制度の活用の検討が、提言として盛り込まれています。
(5) 地域とのコミュニケーション要件化
本中間とりまとめでは、FIT/FIP 制度について、一定規模以上の発電設備の場合には、説明会開催を含む周辺地域への事前周知を認定申請要件として一律求めることとし、事前周知がない場合は、FIT/FIP の認定を認めないこととされております。一方で、周辺環境に影響を及ぼす可能性が低い事業については、柔軟な手続を求めるとされ、大規模電源については説明会の開催の開催を求める一方で、小規模電源については例えば標識設置、事業者HPやビラ配布などの対応を検討するとされております。
また、当該説明会の開催については、説明会開催の周知方法や説明会において共通して求める内容については、あらかじめ施行規則やガイドライン等において定める必要があるともされております。
さらに、事業譲渡のように事業者が交代する場面においては、現状変更認定の手続が求められていますが、変更認定申請においても、周辺地域への周知を求めるなどの手続の強化を図るべきであるとされております。この点、発電事業がSPCを通じて保有されるケースについて言及されており、事業者の変更のみならず、SPC等の事業者の実質的支配者が変更となる場面においても同様の規制を適用する必要性が示唆されている点に留意が必要です。
(6) 認定事業者の責任明確化
本中間とりまとめにおいては、FIT/FIP認定事業者の認定計画遵守義務を法文上明確化した上で、委託先及び再委託先も認定基準や認定計画を遵守するよう、認定事業者に委託先や再委託先に対する監督義務を課すこととすることとされております。
(7) 関係法令の徹底
その他、本中間とりまとめにおいては、現状非FIT及び非FIP案件については、再エネ特措法上の規制が適用とならないところ、同案件に対する補助金の付与に当たって規律強化の必要がある点、FIT/FIP認定事業者について、所在不明事業者に対する規律を徹底する点が言及されております。
その他エネルギー業界の主な動きについて
(1) GX基本方針の閣議決定とパブリックコメントの公表(2023年2月10日)
GX基本方針については、2022年12月23日より2023年1月22日までの間、パブリックコメントに付され、2023年2月10日付で閣議決定及びパブリックコメントの結果の公表がされております。
GX実現に向けた基本方針
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000245694
GX実現に向けた基本方針の閣議決定及びパブリックコメントの公表
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=595222084&Mode=1
(2) 「今後の電力政策の方向性について」 中間とりまとめ(2023年2月10日)
経済産業省の総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会による「今後の電力政策の方向性について」の中間とりまとめが最終化され、これに対するパブリックコメントも公表されました。なお、既存FIT/FIP案件に対する発電側課金については、調達期間経過後とする方針は維持されている模様です。
「今後の電力政策の方向性について」 中間とりまとめ
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/057.html
中間とりまとめのパブリックコメントの公表
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=620221227&Mode=1
(3) 調達価格等算定委員会「令和5年度以降の調達価格等に関する意見」について(2023年2月8日)
調達価格等算定委員会によって、令和5年度以降の調達価格等に関する意見が提示されています。
・2024 年度の事業用太陽光の調達価格・基準価格の検討にあたっては、地上設置/屋根設置の設置形態毎に調達価格・基準価格の想定値が設定されています(2024年度の調達価格は地上設置(50kW以上。なお250kW以上は入札)が9.2円、屋根設置が12円)。
・太陽光については、2024 年度については、250kW 以上を FIP 制度のみ認められる対象とし、2025 年度以降については、今後の動向も踏まえて検討するものとされております。
・陸上風力については、2023年度、2024年度ともに50kW以上をFIP制度のみ認められる対象とするとされております。洋上風力については、着床式洋上風力は2024年度以降、FIP制度のみ認められる対象とする一方で、浮体式洋上風力は2024年度及び2025年度については、FIT/FIP制度双方が認められるものとし、FIP制度のみ対象とされる区分は設けられませんでした。
令和5年度以降の調達価格等に関する意見
https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/20230208_report.html
以上
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