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賃料の1か月分の仲介手数料を受領できる場合
2023.02.28
今回の法令ニュースは、居住用建物の賃貸借契約の仲介手数料として、賃料の1か月分を受領することが問題となった、東京地裁令和元年8月7日判決を取り上げます。
※本稿は、月刊プロパティマネジメント(2023年1月号、綜合ユニコム社)に「法令ニュース第190回」として掲載されたものを加筆修正したものです。
宅建業法による仲介手数料の定め
仲介業者が居住用建物の賃貸借契約の仲介業務を行った場合、仲介業者は、賃料の1か月分に相当する金額を賃借人から受領し、賃貸人側からは仲介手数料を受領しない場合が多いと思われます。この点、宅建業法及び宅建業法から委任を受けた報酬告示は、仲介業者が居住用建物の賃貸借契約の媒介業務を行った場合に受領できる仲介手数料について、以下の金額を上限とすると定めています。
仲介業者が居住用建物の賃貸借契約の仲介業務を行った場合、仲介業者は、賃料の1か月分に相当する金額を賃借人から受領し、賃貸人側からは仲介手数料を受領しない場合が多いと思われます。この点、宅建業法及び宅建業法から委任を受けた報酬告示は、仲介業者が居住用建物の賃貸借契約の媒介業務を行った場合に受領できる仲介手数料について、以下の金額を上限とすると定めています。
【居住用建物の賃貸借契約の媒介の報酬】 |
宅建業法の定めによれば、依頼者の一方、すなわち賃借人からのみ仲介手数料を受領する場合、仲介業者が受領できる仲介手数料は、賃料の0.5か月分及び消費税相当額が上限とされています。そして、仲介業者が1か月分の仲介手数料を受領するためには、仲介手数料が賃料の1か月分であることについて、賃借人から承諾を得ている必要があります。「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」によれば、この依頼者の承諾は、宅地建物取引業者が媒介の依頼を受けるに当たって得ておくことが必要であり、依頼後に承諾を得ても、承諾としては有効ではないとされています。
東京地裁令和元年8月7日判決の事案
上記のとおり、宅建業法では、仲介業者が、賃借人から賃料の1か月分の仲介手数料を受領するためには、仲介の依頼を受ける際にその旨の承諾を得ている必要があります。かかる承諾の有無について争われた裁判例として、東京地裁令和元年8月7日判決があります。この裁判は簡易裁判所が第一審の裁判所であったため、東京地裁の裁判は控訴審(第二審)となります。
東京地裁判決の事案では、仲介業者が賃貸人と賃借人との賃貸借契約の媒介を行い、賃借人から賃料の1か月分の仲介手数料を受領しました。しかし、賃借人は、仲介手数料が賃料の1か月分であることについて宅建業法に定める承諾を得ていないため、賃料の0.5か月分を超える仲介手数料の支払いは無効であると主張して、賃料の0.5か月分を超える仲介手数料の返還を求めたものです(図表参照)。
この裁判では、賃料の1か月分を受領するために必要な承諾を取得する時期が争われました。具体的な事実関係は、【東京地裁判決の事実関係】のとおりです。
【東京地裁判決の事実関係】 ①平成24年12月24日 ②平成24年12月28日ころ ③平成25年1月6日 ④平成25年1月8日ころ ⑤平成25年1月10日 ⑥平成25年1月14日、15日ころ ⑦平成25年1月20日 ⑧平成25年1月22日 |
東京地裁は、【東京地裁判決の事実関係】の⑤の時点、すなわち、賃貸人の賃貸借契約を締結する意思が確認され、賃貸借契約の締結日が決定された1月10日に、賃借人と仲介業者との間で賃貸借契約の媒介契約が成立したと判断しました。そして、賃借人が仲介手数料として1か月分を支払うことを承諾したのは1月20日であるから、仲介手数料として1か月分を支払う旨の承諾は媒介契約成立後に行われており、宅建業法に基づいて必要な承諾を得たものではないことから、賃料の0.5か月分を超える仲介手数料の支払いを無効としました。そして、仲介業者に対して、過払いとなっている0.5か月分の仲介手数料について、賃借人への返還を命じました。
なお、東京地裁判決は上告され、東京高裁は、令和2年1月14日、上告を棄却する判断をしています。
東京地裁判決の内容
東京地裁は、宅建業法の「媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合」の意味について、「依頼者が宅建業者から媒介の報酬額を提示されることなく宅建業者に媒介を依頼し、これを受けた宅建業者により媒介行為が行われて賃貸借契約の成立に向けた手続が進んだ状態で当該宅建業者から報酬額を提示された場合、当該報酬額を依頼者が承諾したとしても、それは媒介行為が行われ上記のような状態に至った結果当該報酬額の提示を拒絶することが困難な心理状態の下で承諾したものであって、依頼者の自由な意思に基づく承諾であるとはいえないことから、媒介の依頼を受ける段階で報酬額に関する依頼者の承諾が必要としたものであると解される。そして、媒介の依頼を受けた宅建業者が法律上媒介行為を行う義務を負うのは、媒介契約が成立した後である。こうしたことからすれば、「当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合」とは、宅建業者が媒介の依頼を受けて媒介契約を締結するに当たって当該依頼者の承諾を得ておくことが必要であり、媒介契約の締結後に上記規制を超える仲介手数料額について依頼者の承諾を得ても後段に規定する承諾とはいえず、同規制に服するものと解するのが相当である。」としました。
その上で、【東京地裁判決の事実関係】の④のとおり、平成25年1月8日ころには賃借人が賃貸借契約の締結の意思を仲介業者に伝え、⑤のとおり、同年1月10日には賃貸人にも賃貸借契約の意思を確認して賃貸借契約の締結日を決定したから、同年1月10日に媒介契約が成立したと認定しました。
裁判において、仲介業者は、媒介契約が成立したのは⑦の平成25年1月20日と主張していましたが、裁判所は、「媒介契約は,宅建業者が賃貸借等の契約の成立に向けてあっせん尽力することを約する契約であるところ,同日までの間に本件媒介契約に基づく貸主に対する(仲介業者)によるあっせん業務は大部分が終了し,同日には本件賃貸借契約を締結するための最終的な手続として(賃借人)に対する重要事項の説明及び賃貸借契約書への署名・押印等が残されていたにすぎないことから,同日に本件媒介契約が成立したとみることはできない。」としました。
まとめ
以上のとおり、東京地裁は、媒介契約の締結の時期について実質的な判断を行い、賃貸人と賃借人が、当該物件について賃貸借契約の締結の意思を仲介業者に伝えた時点で媒介契約が成立しているとしました。この判断の基準は、実務上、参考になると思われます。
以上
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