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【宇宙ブログ】宇宙資源法について
2023.04.25
はじめに
2022年11月4日、宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(以下「宇宙資源法」といいます。)に基づき、内閣府が初めて宇宙資源の探査及び開発の許可を行いました(内閣府「宇宙資源法に関する申請受付について」(https://www8.cao.go.jp/space/application/resource/application.html))。本許可は、株式会社ispaceに対して、宇宙資源の探査及び開発の許可を与えたものであり、現在株式会社ispaceは同許可に基づき、月面の資源の探査及び開発を行う予定です。そこで、今回は、宇宙資源法の概要について解説したいと思います。
宇宙資源法の概要
宇宙資源法とは、2021年6月15日に成立し、2021年12月23日に施行された、宇宙資源の探査及び開発に関する法律であり、議員立法で成立した法律です。日本に宇宙資源法が必要な理由として、本法の成立に尽力された小林鷹之衆議院議員と大野敬太郎衆議院議員は、①日本の宇宙産業の競争力と市場創造のため、②日本が国際ルール形成において主導的役割を果たすため、③日本を挑戦者に開かれたイノベーション大国にするため、の3つを挙げています(小林鷹之・大野敬太郎編著「宇宙ビジネス新時代! 解説『宇宙資源法』―宇宙ビジネス推進の構想と宇宙関連法制度」121-126頁)。
(1) 宇宙資源法の適用対象
まず、宇宙資源法の適用対象について整理すると、宇宙資源法が適用される「宇宙資源」とは、「月その他の天体を含む宇宙空間に存在する水、鉱物その他の天然資源」をいいます(宇宙資源法2条1号)。また、宇宙資源法が適用される「宇宙資源の探査及び開発」とは、①宇宙資源の採掘、採取に資する宇宙資源の存在状況の調査、並びに、②宇宙資源の採掘、採取及びこれに付随する加工、保管、宇宙資源の輸送をいいます(但し、専ら科学的調査として又は科学的調査のために行うものは除かれます。宇宙資源法2条2号、宇宙資源法施行規則2条)。
(2) 宇宙資源法の目的
宇宙資源法の目的は、1条において、以下のとおり定められています(下線は筆者によるものです。)。
この法律は、宇宙基本法(平成二十年法律第四十三号)の基本理念にのっとり、宇宙資源の探査及び開発に関し、同法第三十五条第一項に基づき宇宙活動に係る規制等について定める人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(平成二十八年法律第七十六号。以下「宇宙活動法」という。)の規定による許可の特例を設けるとともに、宇宙資源の所有権の取得その他必要な事項を定めることにより、宇宙活動法第二条第一号に規定する宇宙の開発及び利用に関する諸条約(第三条第二項第一号において単に「宇宙の開発及び利用に関する諸条約」という。)の的確かつ円滑な実施を図りつつ、民間事業者による宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動を促進することを目的とする。 |
上記のとおり、宇宙資源法は、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(以下「宇宙活動法」といいます。)の規定による許可の特例を設けるとともに、宇宙資源の所有権の取得等について定めることを主な内容としております。
そこで、以下では、①宇宙資源法に基づく許可の特例、及び②宇宙資源の所有権の取得についてご説明させていただきます。
宇宙資源法に基づく許可の特例について
そもそも、宇宙活動法20条1項に基づき、国内に存在する人工衛星管理設備を用いて人工衛星の管理を行おうとする者等は、人工衛星ごとに、内閣総理大臣の許可(以下「人工衛星の管理に係る許可」といいます。)を受けなければならないものとされています。宇宙活動法上、「人工衛星」とは、「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」と定義されているため(宇宙活動法2条2号)、「人工衛星」には、軌道上に存在する物体のみならず、例えば月面上に配置して使用する人工の物体についても含まれることになります。
宇宙資源法は、この人工衛星の管理の許可について特例を設けています。具体的には、宇宙資源の探査及び開発を人工衛星の利用の目的とする場合、主に、許可申請手続や許可基準が変更されることになります。
まず、許可申請手続について言えば、宇宙資源法3条1項は、宇宙資源の探査及び開発を人工衛星の利用の目的として行う人工衛星の管理に係る許可(以下「宇宙資源の探査及び開発の許可」といいます。)を受けようとする者は、申請書に事業活動計画を併せて記載しなければならない旨定めています。この事業活動計画書には、以下の事項について記載する必要があります(宇宙資源法施行規則3条1項及び様式第一)。
①宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の目的 ②宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の期間 ③宇宙資源の探査及び開発を行おうとする場所 ④宇宙資源の探査及び開発の方法 ⑤宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の内容 ⑥宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の資金計画及び実施体制 |
なお、原則として、この事業活動計画に記載されている情報の一部は、許可後遅滞なくインターネット等で公表されることとされており(宇宙活動法4条)、実際に株式会社ispaceの宇宙資源の探査及び開発の許可に係る事業活動計画がインターネット上で公表されています(内閣府「宇宙資源法に関する申請受付について」(https://www8.cao.go.jp/space/application/resource/application.html))。
次に、許可基準について言えば、宇宙活動法3条2項は、宇宙活動法22条各号で規定されている人工衛星の管理の許可の許可基準に加えて、①事業活動計画が、宇宙基本法の基本理念に則したものであり、かつ、宇宙の開発及び利用に関する諸条約の的確かつ円滑な実施及び公共の安全の確保に支障を及ぼすおそれがないものであること、並びに、②申請者が事業活動計画を実行する十分な能力を有すること、という要件に適合しなければ、宇宙資源の探査及び開発の許可(人工衛星の管理に係る許可)をしてはならない旨規定されています。
したがって、人工衛星の管理に係る許可に関する通常の手続に加えて宇宙資源法3条1項に基づく手続を行い、宇宙資源法3条2項により追加された許可基準を満たすことができなければ、宇宙資源の探査及び開発の許可を得ることができず、宇宙資源の探査及び開発を人工衛星の利用の目的として行う人工衛星の管理は行えないことになります。
なお、2023年4月25日現在、内閣府のホームページによれば、このような宇宙資源の探査及び開発の許可については、ガイドラインやマニュアル等は定められておらず、「当面は申請検討段階から申請書の書き方等の相談にも丁寧に応じつつ、具体的な事例を重ねる中で、有意義な情報はガイドライン等の形で広く提供してまいります。」とのことです(内閣府「宇宙資源法に関する申請受付について」(https://www8.cao.go.jp/space/application/resource/application.html))。
宇宙資源の所有権の取得について
宇宙資源法5条は、「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動を行う者が宇宙資源の探査及び開発の許可等に係る事業活動計画の定めるところに従って採掘等をした宇宙資源については、当該採掘等をした者が所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。」と規定し、事業者による宇宙資源の所有権の取得について明確に定められています。本条は、民法239条1項が「所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。」と定めていることと比べると、「所有の意思をもって占有すること」以外にも要件が課されていることが特徴的です。
宇宙資源法5条を踏まえれば、宇宙資源の所有権を取得するためには、①宇宙資源の探査及び開発の許可等を取得し、②当該許可等に係る事業活動計画の定めるところに従って宇宙資源の採掘等をし、かつ、③当該宇宙資源を所有の意思をもって占有する必要があります。そのため、宇宙資源の所有権の取得・販売のビジネスを行うにあたっては、宇宙資源の探査及び開発の許可の取得のみならず、許可申請の際に提出する事業活動計画の内容も重要になると考えられます。
おわりに
以上のとおり、今回は宇宙資源法の概略についてご説明させていただきました。今回は割愛させていただきましたが、宇宙資源法には他にも、国際約束の誠実な履行、国際的な制度の構築及び連携の確保、国による民間事業者に対する技術的助言等に関する規定が存在します。これにより、宇宙資源法は、1条(目的)において規定されているように、宇宙の開発及び利用に関する諸条約の的確かつ円滑な実施を図りつつ、民間事業者による宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動を促進できるような法律として制定されています。
今後も、宇宙資源に関する国内事業者の動きから目が離せませんね!
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