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障害者差別解消法等における合理的配慮の具体的内容
2023.06.13
障害者差別解消法を踏まえた条例の概要
障害のある人もない人も、互いに、その人らしさを認め合いながら共に生きる社会を作ることを目指すべく、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「障害者差別解消法」といいます。)が、2016年4月1日に施行されました。そして、障害者差別解消法の理念の下、多くの都道府県において、障害者への理解の促進、差別の解消の推進等を内容とする条例が制定されています。
障害者差別解消法は、行政機関や民間事業者に対し、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害しないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮(「合理的配慮」)を提供することを求めています(このほか、障害者差別解消法は、障害のある人に対し、正当な理由なく、障害を理由として区別すること(不当な差別的取扱い)を禁止しています。)。
障害者差別解消法に基づく民間事業者による合理的配慮の提供は、2024年4月1日の改正法施行により法的義務となりますが、それまでは努力義務にとどまります。もっとも、条例においては、東京都のように、既に法的義務とされている都道府県もあります(主な都道府県における条例の制定状況や、法的義務・努力義務の状況は以下のとおりです。)。
東京都 |
法的義務 |
愛知県 |
努力義務 |
京都府 |
努力義務 |
大阪府 |
法的義務 |
兵庫県 |
条例未制定 |
福岡県 |
努力義務 |
合理的配慮の具体的内容
それでは、「合理的配慮」の提供として、どのような場合に、具体的に何をしなければならないのでしょうか。
《場面》
まず、どのような場合に、についてですが、障害者から現に「社会的障壁」の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合とされています。
この「社会的障壁」とは、障害者差別解消法で「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義されています。
具体例としては、
事物:入口や通路の幅が狭く、車いすで通れないなどの施設・設備
制度:障害のあることが入会を妨げる事由となっている入会規約
慣行:イベントの申込に際して、申込先として電話番号しか表示していないようなケースに見られるように、聴覚・言語障害者の参加を想定していない慣習
観念:障害のある方への偏見
などが挙げられます。
次に、「意思の表明」については、もちろん発音に限られるものではなく、手話、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含みます。)が広く想定されています。また、障害者本人からの発信に限られず、障害者の家族、支援者・介助者、法定代理人等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行うものも想定されています。さらに言えば、障害者自身又は補佐をする者による発信がない場合であっても、障害者が上記のような社会的障壁の除去を必要としていることが明らかである場合には、当該障害者に対して適切と思われる配慮を行うために、行政機関、民間事業者側から障害者に対し建設的対話を積極的に働きかけるなど、自主的に取り組むことが望ましいとされています(内閣府作成の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」参照)。
上記のような、「社会的障壁」の除去を必要とする「意思の表明」があったときに合理的配慮の提供が必要となります。
《具体的内容》
合理的配慮として具体的に何をしなければならないのか、については、例えば、
- 市区町村の役所や民間事業者の店舗での順番待ちの際に、障害による様々な理由により、順番を待つことが難しい障害のある人には、他の人の了解を得て、順番を先にする
- 学校やイベント会場などで、意思を伝え合うために、筆談や読み上げ、手話、タブレット端末などを利用する
- 病院や市役所の施設内の放送を文字化したり、電光表示板で表示したりする
- 交通機関利用の際、自動車や電車の乗降を補助し、大きな荷物を運搬・収納する
- 不動産仲介の店舗において、障害のある人の求めに応じて、バリアフリーの物件があるかどうかを確認する。
- 施設利用の際に障害のある人が困っていると思われる時は、まず声をかけ、手伝いの必要性を確かめてから対応する。
といったものが挙げられます。
上記のほかにも、各省庁における対応指針(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioshishin.html)や各事業者向けガイドライン(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sabetsu_kaisho/index.html)、各自治体のウェブサイト(たとえば東京都につきhttps://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/tokyoheart/sabetsu/sabetsu_06.html)に具体例や事例集が載っていますので、参考になります。
もっとも、上記に挙げたものは一例であり、合理的配慮の提供の方法は一つに限られるものではありません。申出のあった方法では対応が難しい場合でも、「建設的対話」を通じて、代替措置の選択も含めて、柔軟に対応することが重要とされています。
また、これらの合理的配慮の提供は、行政機関や民間事業者に過重な負担まで強いるものではありません。この「過重」かどうかの判断基準は、合理的配慮の性質上、画一的に決められるものではありませんので、個々の場面で、次のような要素を総合的に考慮して判断されるとされています。
事務・事業への影響の程度:
事務・事業の目的、内容、機能を損なうか否か、その措置を講じることによるサービス提供への影響と程度など
実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約):
施設の立地状況や権利関係等、その措置を講ずるための機器や技術、人材の確保、設備の整備等の制約に応じた実現可能性の程度
費用の程度:
その措置を講ずることによる費用の有無と程度
事務・事業規模:
事業所等の規模に応じた負担の程度
財政・財務状況:
事業所等の財政・財務状況に応じた負担の程度
このように、合理的配慮の提供は、行政機関と民間事業者に過重な負担まで求めるものではありません。
過重かどうかの判断は難しいものではありますが、いずれにせよ、①相手の「人格」を尊重し、相手の立場に立って対応する、②困っている方には進んで声をかける、③コミュニケーションを大切に、柔軟な対応を心がける、④言葉遣いやプライバシーに配慮するという心構え、姿勢を持つことが重要です。
義務を懈怠した場合のリスク
合理的配慮の提供を怠ったときは、例えば、「東京都障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例」においては、差別解消のための調整委員会でのあっせん、差別解消に必要な措置の勧告、勧告に従わないときの公表といったリスクがあります。
なお、同条例においては、合理的配慮の提供を怠ったときであっても、罰則は規定されていません。
損害賠償請求の可否
2024年4月1日施行の改正法では、民間事業者の合理的配慮の提供義務が努力義務から法的義務に変わります。そこで、改正法施行後は、民間の事業者が障害者から合理的配慮の提供義務に違反したとして損害賠償請求を受ける可能性は高まると考えられます。
例えば、改正法の施行に伴い政府により改定された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」では、合理的配慮の提供義務違反に該当する例として、具体的に以下のような事例が挙げられています。
- 試験を受ける際に筆記が困難なためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の持込みを認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること。
- イベント会場内の移動に際して支援を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断ること。
- 電話利用が困難な障害者から電話以外の手段により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、自社マニュアル上、当該手続は利用者本人による電話のみで手続可能とすることとされていることを理由として、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること。
- 自由席での開催を予定しているセミナーにおいて、弱視の障害者からスクリーンや板書等がよく見える席でのセミナー受講を希望する申出があった場合に、事前の座席確保などの対応を検討せずに「特別扱いはできない」という理由で対応を断ること。
このように、抽象的ではなく個々の場面において具体的に合理的配慮の提供を受けることができなかったような事案では、不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料請求)が認められる可能性はあるでしょう。
さいごに
2024年4月1日に障害者差別解消法の改正法が施行されます。既に条例等により合理的配慮の提供が法的義務となっている地域以外においても、各事業者は、改定された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」や今後公表される予定の各省庁の対応指針等も参考に、検討・準備を進めることをお勧めします。
<引用・参考>
合理的配慮の提供の詳細と具体例・東京都福祉保健局(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/tokyoheart/sabetsu/sabetsu_03.html)
東京都障害者差別解消法ハンドブック