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【ホテル観光連載】第2回 「宿泊サブスクサービス」に潜む法律的リスクとは?
2023.07.20
この記事では、リモートワークやワーケーションで注目される宿泊サブスクサービスにおいて、旅館業法の適用の有無について検討しています。旅館業法における「旅館業」の定義や、旅館業に該当するか否かの判断基準などについて説明するとともに、サービス設計によっては宿泊サブスクサービスが旅館業に該当する可能性があることを解説します。
概要
2020年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大以降、リモートワークやワ―ケーションなど、場所を選ばずに仕事・居住をするライフスタイルが浸透しています。こうした状況を受けて、昨今、一定額の料金の支払いにより、ある一定の期間内の特定の時期に特定の施設に宿泊することができるサービスが注目を集めています(例えば、1か月のうち特定の3日間、または1年のうち特定の2週間といった、特定の時期に特定の施設に宿泊することができるサービスです。以下「宿泊サブスクサービス」といいます)。
このようなサービスを提供する場合、サービスを提供する事業者としては、利用契約の名目に関わらず、サービスの実態によっては旅館業に該当し、物件の所有者・管理者による届け出が必要となったり、旅館業法に基づく規制の対象となったりする可能性があるため充分な注意が必要です。
以下では、主に、こうしたサービスにおける旅館業法の適用の有無について検討していきます。
旅館業とは
(1)法律上の定義
そもそも、旅館業とは「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」と定義されます(旅館業法2条)。
そして、厚生労働省の見解や、これまでの実務動向も踏まえると、旅館業に該当するか否かについては、
①宿泊料を徴収していること |
の4項目を踏まえ、総合的に判断することされています[1]。
(2)旅館業該当性の4項目
①「宿泊料を徴収していること」
宿泊料の徴収とは、宿泊に関し名称の如何を問わず、宿泊の対価に当たるものを徴収することをいうところ、名目を「賃料」「管理費」等と明記したとしても、実質的には宿泊の対価として費用を徴収していると評価される場合には、これに該当することとなり、したがって、これは旅館業に該当する方向に働く要素となるのではないかと思われます。
②「社会性があること」
厚生労働省の見解によると、「社会性をもって」とは、社会通念上、個人生活上の行為として行われる範囲を超える行為として行われるものであり、一般的には、知人・友人を宿泊させる場合は、「社会性をもって」には当たらない一方、不特定または多数の者を宿泊させたり、広く一般に募集を行ったりする場合には、これに当たるとされます[2]。
この点、例えば、HP等で不特定多数を対象として利用者を募集する場合のほか、会員限定という形をとる場合であっても、特定多数の相手方に対し宿泊サービスを提供する場合には、社会性ありとして旅館業に該当する方向に働く要素と評価されるのが通常ではないかと思われます。
③「反復継続性があること」
継続してサービスを提供することが予定されている場合にはこれに該当します。事業者が自己の事業として行うのであれば、通常は、これは旅館業に該当する方向に働く要素と評価されざるを得ないのではないかと思われます
④「生活の本拠でないと考えられること」
貸室業(一般的な賃貸借)との区分けが問題となり、理解が難しい点になりますが、この点につき、厚生労働省は、
「旅館業がアパート等の貸室業と違う点は、
(ⅰ)施設の管理・経営形態を総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること
(ⅱ)施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないこと
となります。」
との考え方[3]が示されております。
また、別の厚生労働省の見解を踏まえても、実務上、
1カ月に満たない期間の宿泊については、(貸室業ではなく)旅館業に該当する
との運用がなされており[4]、施設の衛生上の維持管理責任が利用者側にない事情は、旅館業該当性を肯定する要素となります[5]。
なお、維持管理責任の所在に関しては、厚生労働省の見解として、
宿泊者が1週間から2週間程度の短期間利用する施設の場合、契約書上で衛生管理は宿泊者が行う旨明記されていても、施設の管理、経営形態を総体的に見ると、利用者交代時の室内の清掃寝具類の管理等、施設の衛生管理の基本的部分は、社会通念上なお営業者にあると見られる
等とされていることから、利用の実態を踏まえ実質的に判断されるものであり、単にリネンの交換等の分担を利用者側とする取り決めを結ぶことのみによっては、生活の本拠性を肯定することにならない(旅館業該当性を否定することにはならない)点には注意が必要です[6]。
実際に、産業競争力強化法に基づくグレーゾーン解消制度における令和3年8月17日付回答(https://www.mhlw.go.jp/content/000819533.pdf)において、
【事業の概要】
・事業者は、サービス利用者たる会員との間で、事業者が保有する全拠点に関する包括的な賃貸借契約を締結し、会員から月額の会員費用を徴収した上で、会員が事業者の保有する各施設 のベッド又は個室を確保し、滞在できるようにする事業を検討している。
・会員は、個室の床・壁・家具の清掃を適宜行うほか、寝具や備品の交換作業を実施する。一方で、各施設は、管理者(事業者に限らず、業務委託等の契約関係にある者)が管理を行う。
という事業に関する厚生労働省の見解として、
④(筆者注:「生活の本拠でないと考えられること」)については、個別の事案に即し、総合的な判断が必要であるが、本事業では、同じ部屋の連続使用日数が最長で21日までとされているところ、生活の本拠を有することが明らかではない。
以上から、本事業は旅館業に該当するものと考えられる。
として、旅館業に該当するものと考えられるとの回答が示されており、契約の形式ではなくサービスの実態によって旅館業への該当性が判断されております。特に、上記回答にあたっては、部屋の連続使用日数が最長で21日までと比較的短期に設定されていることも重要な判断要素として考慮されていることに、注意が必要です。
留意点
旅館業への該当性は、上記の各要素を総合的に考慮して判断されるものであるため、最終的には事例ごとの具体的な事情を踏まえた検討が必要となります。
もっとも、宿泊サブスクサービスの提供に際しては、上記のうち特に
・連続する宿泊の期間(目安として1か月以上かそれ未満か)
・不特定又は多数の利用者へのサービス提供を想定しているか
という点には留意が必要です。
旅館業該当性の判断については、上記で見たとおり、不明確な部分がなお残ることから、旅館業に該当する懸念がある場合には、事業化段階までに弁護士を含む専門家への相談を行うことが必須ではないかと思われます。
リモートワークやワ―ケーションなど、場所を選ばずに仕事・居住をするライフスタイルは間違いなく今後も広がっていくものと思います。当職らも、法律家として、こうした動きに対していかにして貢献していけるかをこれからも模索し続けたいと考えております。
[1] 厚生労働省「旅館業法について」(https://www.mlit.go.jp/common/001113521.pdf)
[2] 前掲・厚生労働省「旅館業法について」、及び、グレーゾーン解消制度における令和3年8月17日付回答(https://www.mhlw.go.jp/content/000819533.pdf)ご参照
[3] 前掲・厚生労働省「旅館業法について」2頁
[4] 厚生労働省「旅館業に関する規制について」5頁(https://www.mlit.go.jp/common/001111877.pdf)
「旅館業法FAQの発出について(平成30年10月15日厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課事務連絡」旅館業法に関するFAQ No.2 )(https://www.mhlw.go.jp/content/000681855.pdf)
[5] 厚生省生活衛生局指導課長通知(昭和 61 年 3 月 31 日衛指第 44 号)(http://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/hoken/eisei/riyoubiyou/tetuduki/ryokanngyou.files/kouseisyotuutiS610331.pdf)
[6] 昭和63年1月29日 衛指第23号(東京都衛生局環境衛生部長あて厚生省生活衛生局指導課長回答)「旅館業法運用上の疑義について」(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta0406&dataType=1&pageNo=1)ご参照