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特許ブログ【海外情報】韓国特許制度の近況 ~分離出願制度,庁費用の改定,及び延長登録制度の紹介~
2023.09.20
1.分離(ぶんり)出願制度について
韓国では、拒絶決定不服審判(日本における拒絶査定不服審判に準ずるもの)の請求が棄却された場合、すでに許可可能と判断されている請求項を取り出し、再度出願することを可能にした「分離出願(ぶんり出願)」制度(韓国特許法第52条の2に基づくもの)があります。本制度は、2022年4月20日に施行された改正特許法によって導入された制度となります。
例えば、拒絶決定不服審判において請求棄却の審決を受けた場合、一般には、特許法院へ審決取消訴訟を提起する必要がありますが、拒絶決定時に他の請求項において許可可能な請求項がある場合、許可可能な範囲について、請求棄却謄本の送達後30日以内であれば分離出願をすることができます。
すなわち、この制度を利用しますと、審判請求時に分割(ぶんかつ)出願を行うことなく、チャレンジングな技術的範囲の広い請求項について拒絶決定不服審判で争いながら、拒絶審決を受けた場合でも審決取消訴訟を行うことなく一部の請求項(拒絶決定時に許可可能と判断された請求項)については特許を取得することができます。また、この制度によれば、請求棄却時に分離(ぶんり)出願をしつつ特許法院への訴え(審決取消訴訟)も可能ですので、許可可能な請求項を分離出願にて活用しつつ、審理で許可不能と判断された請求項につきましても継続して審決取消訴訟で争うことが可能となります。
2.韓国特許庁(KIPO)料金改定について
2.1. 分割出願に対する加算料金の導入
分割出願の回数に応じて、出願手数料が倍増する制度が新たに導入されました。
1回目の分割出願に対して、2回目の分割出願は出願手数料が2倍、3回目の分割出願は出願手数料が3倍、・・・となります。この制度は、2023年8月1日以降に出願された分割出願に適用されます。
なお、分割出願に対する加算料金は、分離出願には適用されません。
₩1000≒¥110として換算
2.2. 特許登録料(設定+年次)の引き下げと審査請求料の引き上げ
2023年8月1日よりKIPOにおける特許審査請求料、特許登録料等に対する料金が改訂されております。以下のとおり、特許権の設定登録料と年次登録料が共に約10%引き下げとなり、審査請求料は基本料と請求項加算料ともに、約15%の引き上げとなりました。特許権を長期間維持する場合には、特許出願及び特許権維持にかかる全体的な費用は、改定前よりも安くなります。
(特許権の設定登録料と年次登録料)
(審査請求料)
3.延長登録制度について
韓国の特許法においても日本の特許権の存続期間の延長登録制度と同様の制度がありますが、政令処分による特許権の存続期間の延長制度において、新たな法案(議案番号:21189、提案日:2023年4月6日)が提出されましたのでご紹介いたします。なお、現段階では法案が提出されているだけであり、成立に至っておりませんのでこの点にはご留意ください。
新たに提出された延長登録制度の法案では、主に延長登録制度の濫用による後発医薬品の発売の遅延を少なくし、さらに、当該法案と同様の制度がすでに規定されている主要国と国際調和を図ることを趣旨としています。法案における主な改正ポイントは2点あり、以下で説明します。
3.1 延長可能な期間の上限(キャップ)を新設
今回の法案の1つ目のポイントは、医薬品の製造・販売などに対する行政処分の許可等により延長された特許権の存続期間は、当該許可等があった日から14年を超えて存続できないように延長可能な期間の上限(キャップ)を設け、違反した際には拒絶の決定及び無効審判の請求を可能とした点です。このような制度によれば、存続期間中、早期に行政処分の許可を受けた場合で、残存の存続期間が14年以上ある場合、延長登録出願ができなくなります。また、残存の存続期間が14年以下の場合には、許可の日から14年以内までの期間に対してのみ延長登録出願をすることができます。
3.2. 延長可能な特許権の数を制限
今回の法案の2つ目のポイントは、1つの許可等に対して延長可能な特許権の数を単数(1つ)に規定し、違反した際には拒絶の決定及び無効審判の請求を可能とするものです。このような制度によれば、1つの許可等に対しては、複数の特許権が存在する場合でも存続期間を延長できる特許権が一つのみとなります。
上述の2つの新たな制度が施行されることを仮定すれば、将来的には、1つの医薬品に対し複数の特許権を有する場合、1つの権利に対してのみ延長登録出願が可能である点、併せて、許可の日から14年以内という上限がある点を考慮しつつ、延長可能な期間を検討する必要性が生じる可能性があります。
3.3. 各国における同制度の有無
一方で、延長登録期間の上限を設ける制度、及び1つの行政処分に対して1つの特許権のみ延長登録を可能にする制度は、日本※では採用されておりませんが、幾つかの主要国の特許庁においてすでに施行されています。したがいまして、上記法案は、国際調和の観点に則ったものといえます。
※ 参考:日本の特許権の存続期間の延長登録制度
日本の延長登録制度は、特許権の「存続期間満了後も、例外的に特許権を存続させる制度」であり、特許法第67条第2項、第4項に基づく2種類の延長登録制度があります。第67条第2項に基づく制度は、審査遅延による延長を認める制度であり、特許庁の審査の遅延により権利行使が可能な期間が短縮した分を補償するためのものです。一方で、第67条第4項に基づく制度は、発明の実施のために政令処分を必要とする場合、この処分により実施が出来なかった期間を補償するためのものです。当該延長登録を受けるためには、少なくとも(1)農薬取締法の規定に基づく農薬に係る登録、及び(2)医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律による処分のいずれかを受けた事実が必要となり、当該処分を受けた日から3ヶ月以内に延長登録出願を行う必要があります。
都野 真哉、竹内 工、具 益善