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防衛関連ニュース (2023年8月・9月)
2023.11.08
【お知らせ】
防衛装備庁主催の「技術シンポジウム2023-防衛力の抜本的強化につながる研究開発について-」が、2023年11月14日(火)・15日(水)の両日、ホテルグランドヒル市ヶ谷にて開催されます。詳しくはこちらのページ(https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2023/index.html)をご覧ください。
はじめに
緊張が高まる東アジア情勢を受けて、日本政府は2022年12月に防衛三文書を改訂し、防衛力整備に向けた政策実施に対して積極的な取組を行っています。
防衛産業・防衛技術というのは何も民生用の産業・技術と縁遠いものではありません。カーナビや携帯機器など多くの電子機器に搭載され便利に使われているGPSが元々は米国が軍事目的に開発した技術に由来することは広く知られているところですが、近年においては技術の高度化により、軍生用と民生用のどちらにも応用可能という意味で「デュアルユース」という言葉がよく知られるようになっています。日本政府の防衛産業振興に向けた取り組みは、防衛産業の裾野の広さを考えると、思わぬ形で、企業にとっての新たな事業展開につながる可能性があるといえるでしょう。
TMI防衛・経済安全保障プラクティスグループは、従前より防衛や経済安全保障に関する各種お問い合わせを頂いているところではありますが、この度更なる情報発信を企図して、定期的な防衛関連ニュースの発信を行うことといたしました。
簡単に把握可能なコンテンツとすることを目標に発信してまいりますので、ご疑問・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
防衛生産基盤強化法の成立(※1)
2023年6月7日をもって、「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律」(通称:防衛生産基盤強化法)が成立しました。
昨今、防衛産業の利益率の低さ、国際展開の法律的・政治的難易度の高さなどから、防衛事業からの撤退・縮小が相次いでいるとの指摘がされてきました。そこで、防衛生産基盤強化法は、防衛装備品の海外輸出を円滑にしたり、防衛事業の継続が困難となった場合に製造施設等を国有化することを可能にしたりすることで、防衛生産・技術基盤の強化を図ることを目指しています。
詳細につきましては防衛装備庁の説明ホームページ(https://www.mod.go.jp/atla/hourei_dpb.html)・自民党のお知らせページ(https://www.jimin.jp/news/?category=information)等をご確認ください。
※1:自民党「防衛産業強化で平和と独立を守り抜く 防衛生産基盤強化法が成立」(2023年6月29日)
https://www.jimin.jp/news/information/206186.html
防衛力財源確保特措法の成立(※2)
2023年6月16日、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」(通称:防衛力財源確保特別措置法)が参院本会議で成立しました。
この法律は、防衛力整備に向けた安定的な財源確保を目的としたものです。詳細につきましては財務省の解説ページ(https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/211diet/2023g.html)・自民党のお知らせページ(https://www.jimin.jp/news/?category=information)等をご覧ください。
※2:自民党「財源確保の方策 法律上明確に 防衛力財源確保特措法が成立」(2023年6月16日)
https://www.jimin.jp/news/information/206097.html
防衛装備事業者の下請適正取引等推進のためのガイドライン策定に向けた有識者検討会の開催(※3-1、3-2)
2023年6月28日、経産省と防衛省は合同で設置した「防衛装備に係る事業者の下請適正取引等の推進のためのガイドライン策定に向けた有識者検討会」の第1回を開催し、議論を行いました。これは、2022年12月に閣議決定された国家安全保障戦略において、日本の防衛生産・技術基盤は防衛力そのものであり、これらを強化することが必要不可欠とされたことを受けたものです。
この点、日本の防衛産業の実態や現状の課題として、「防衛産業の実態」と題する防衛装備庁の資料(https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230628001/20230628001-4.pdf)においては、次のようなものが挙げられています。
- 取引の相手方が基本的には自衛隊のみであり、需要が限定的であること
- 特殊かつ高度な技能・設備が必要であるにもかかわらず、低い収益性・利益水準によって魅力のない市場となっており、相次ぐ企業の防衛事業撤退・事業規模縮小とそれによる供給途絶が懸念されていること
- 日本の防衛生産・技術基盤は、大企業から中小企業に至るまで膨大な数の企業が参画しており、直接の取引先やその先の取引先も含めて、長く複雑なサプライチェーンにより構成されていること
このような点を踏まえて、防衛生産・技術基盤の確保のために、上記有識者検討会が設置され、防衛産業の特徴に配慮した「防衛産業の下請適正取引等の推進のためのガイドライン」(仮称)が整備されることになりました。
※3-1:防衛装備庁「防衛装備に係る事業者の下請適正取引等の推進のためのガイドライン策定に向けた有識者検討会」(2023年6月28日)
https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisakukaigishiryou_kentoukai.html
※3-2:経済産業省「防衛装備に係る事業者の下請適正取引等の推進のためのガイドライン策定に向けた有識者検討会」を開催しました(2023年6月28日)https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230628001/20230628001.html
「防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会」の開催(※4-1、4-2)
2023年6月16日、防衛省にて、経産省が防衛省と協力して設置した「防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会」の第1回が開催されました(※4-1、4-2)。この合同推進会の目的は、国家安全保障戦略及び国家防衛戦略に基づいて民間のイノベーションを推進し、その成果を安全保障分野で積極的に活用するため、スタートアップ企業と防衛省・自衛隊のニーズとのマッチングを図る機会を創出することにあるとしています。第2回以降はスタートアップ企業を実際に招へいするとのことで、9月6日に行われた第2回では、実際にスタートアップ企業4社が参加しています(※4-1)。
※4-1:防衛装備庁「防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会」 (2023年6月16日、2023年9月6日)
https://www.mod.go.jp/atla/disu_promo_mtg.html
※4-2:経済産業省「防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会」を開催しました(2023年6月16日)
https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230616002/20230616002.html
ウクライナ情勢関連:外為法に基づくロシアへの輸出禁止措置導入及び輸出貿易管理令の一部改正(※5)
2023年7月28日、経産省は、輸出貿易管理令の一部改正により規制対象となる貨物の概要を公表しました。これは、2023年5月26日になされた外為法によるロシアの産業基盤強化に資する物品の輸出禁止措置の導入についての閣議了解(※6)及びそれを踏まえた当該措置導入のための輸出貿易管理令の一部を改正する政令が閣議決定(※7)されたことによるもので、8月9日に施行されています。対象貨物は主に土石類及び石灰、染料、顔料、着色料等、プラスチック、ゴム、鉄鋼、ニッケル、アルミニウム、鉛、亜鉛、すず、ボイラー、電気機器、ヨット、娯楽用又はスポーツ用の船舶等、家具、光学機器等です。
詳細は経産省HPの「外国為替及び外国貿易法に基づく輸出貿易管理令等の改正について(ロシアの産業基盤強化に資する物品の輸出禁止措置)」(https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/04_seisai/downloadCrimea/20230728gaiyo.pdf)をご確認ください。
※5:経産省「ウクライナ情勢に関する外国為替及び外国貿易法に基づく措置を実施します(輸出貿易管理令の一部を改正)」(2023年7月28日) https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230728001/20230728001.html
※6:「閣議了解」は、本来、ある主任の大臣の権限により決定し得る事項に属するものですが、事柄の重要性にかんがみ、他の国務大臣の意向をも徴することが適当と判断されるものについて行われます。(出典:首相官邸「内閣制度と歴代内閣」https://www.kantei.go.jp/jp/rekidai/1-2-5.html)
※7:「閣議決定」は、合議体である内閣の意思を決定するものについて行われます。(出典:首相官邸「内閣制度と歴代内閣」 https://www.kantei.go.jp/jp/rekidai/1-2-5.html)
防衛省、「認知領域を含む情報戦への対応」を公表(※8)
2023年8月17日、防衛省は、他国において混乱を起こしたり、自国の評判を高め他国の評判を貶めたりすること等を目的として偽情報の拡散等を行う、いわゆる「情報戦」の対応に関する考え方や今後の取り組みについて公表しました。
日本における「情報戦」は以下のとおり定義されており(図1)、諸外国の動向の常時継続的な収集・分析、諸外国による情報発信等に関する情報の真偽の見極め、機密情報の一部開示をはじめとする我が国に有利な環境の構築に取り組むべきとしています。
図1:認知領域を含む情報戦に関する考え方(※防衛省「認知領域を含む情報戦への対応」(https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/infowarfare/index.html)より引用)
また、以下のとおり(図2)、戦略3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画)においても、主に政府外機関との連携強化等のための新体制の構築や情報本部の対応力強化を方針として定めています。
図2:【戦略3文書】認知領域を含む情報戦等への対応について(※防衛省「認知領域を含む情報戦への対応」(https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/infowarfare/index.html)より引用)
※8:防衛省「認知領域を含む情報戦への対応」(2023年8月17日)
https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/infowarfare/index.html
「最近の国際軍事情勢」が更新されました
2023年8月24日、防衛省は、「最近の国際軍事情勢」と題するトピックを更新し、最新の中国情勢(東シナ海・太平洋・日本海)、南シナ海情勢(中国による地形埋立・関係国の動向)、朝鮮半島情勢(北朝鮮による核・弾道ミサイル開発について)及びロシア情勢(我が国周辺におけるロシア軍の動向について)を公表しました。詳細は防衛省HP(https://www.mod.go.jp/j/surround/index.html)をご確認ください。
令和6年度防衛費概算要求の公表 過去最大の7兆円台を計上
2023年8月31日、防衛省は、「防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和6年度概算要求の概要-」を公表しました(※9)。
今回の概算要求においては、計画期間内の防衛力の抜本的強化の実現を目的としており、以下の7つの分野を重要視しています(図3)。
図3:防衛力の抜本的強化の7つの重視分野(※防衛省「防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和6年度概算要求の概要-」(https://www.mod.go.jp/j/budget/yosan_gaiyo/2024/yosan_20230831.pdf)7頁より引用)
特に④の領域横断作戦能力のうち、サイバー領域における能力強化を目的とした体制強化を図っており、サイバー教育体制やサイバー防護技術の研究開発に力を入れるほか、サイバー専門部隊隊員数を令和6年度末(2024年度末)の約2,400人から令和9年度(2027年度)末の約4,000人までに、また、サイバー関連業務に従事する要員を含む総サイバー要員数を約2万人までに大幅増強する計画です(図4)(※10)。
図4:サイバー防衛体制の抜本的強化(※防衛省「防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和6年度概算要求の概要-」(https://www.mod.go.jp/j/budget/yosan_gaiyo/2024/yosan_20230831.pdf)21頁より引用)
また、防衛力という概念の中には防衛産業も含まれているという前提のもと、防衛力整備の一環として、防衛産業の維持・強化の推進と、防衛産業の販路の拡大を目指して、「力強く持続可能な防衛産業の構築」「官民一体となった防衛装備移転の取組」という建付けで予算要求も行っており、防衛省は、中長期的な視野をもって防衛産業振興に力を入れています。
※9:防衛省「防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和6年度概算要求の概要-」(2023年8月31日)
https://www.mod.go.jp/j/budget/yosan_gaiyo/index.html
※10:国家安全保障会議決定・閣議決定「防衛力整備計画について」(2022年12月16日)II-4(2)
https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/guideline/plan/pdf/plan.pdf
防衛装備庁による「防衛産業保全マニュアル」の公表(※11)
防衛産業は、自衛隊の任務遂行に不可欠な装備品等ライフサイクルの各段階を担っている点で当然重要であり、例えば防衛装備品等の秘密情報が事業者を通じて漏えいした場合、安全保障上の影響が生じ得ます。また、同盟国から導入した先進装備品の生産、維持整備、共同研究開発、防衛装備移転等、防衛装備に関する国際協力が進展しつつあるところ、これらの国際協力のためには各国の秘密情報の円滑な共有が必要であり、国際水準を踏まえた産業保全の強化が求められています。
これらの背景から、2023年7月、防衛装備庁は、防衛産業に適用される秘密情報の保護に係る法令、規則等に基づく防衛産業における情報保護措置を、一元的に整理し、防衛関連企業の参考とするべく「防衛産業保全マニュアル」 を公表しました。
※11:防衛装備庁「防衛産業保全マニュアル」(2023年7月)
https://www.mod.go.jp/atla/img/dism/dism2023_jp.pdf
与党WT、防衛装備品移転三原則の運用指針等について論点整理
与党(自民党及び公明党)の国家安全保障戦略等に関する検討ワーキングチーム(WT)は「防衛装備移転に係る論点整理」を取りまとめ、2023年7月5日、萩生田政調会長・高木公明党政調会長に報告しました(※12)。
政府は昨年末に策定した国家安全保障戦略において、防衛装備品の海外移転について「防衛装備移転三原則や運用指針をはじめとする制度の見直しについて検討する」との方針を示しており、これを受けてWTは、本年4月から12回にわたって防衛装備移転三原則の運用指針等について議論し、論点を整理しました。
防衛装備品の日本国外への輸出が可能であることは、防衛関連企業における収益力に強く関連するところ、現在、防衛装備品の移転をめぐっては「防衛装備移転三原則の運用指針」に基づき、「救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する防衛装備」(いわゆる5類型)については海外移転が可能と解されていますが、この5類型による制限を撤廃するか否か、国際共同開発の場合にはどのように取り扱うべきか、移転可能な装備品に自衛隊法上の武器(直接人を殺傷すること等を目的とする装置等)も含まれているか、など種々の論点につき議論が行われています。
※12:自民党「防衛装備品、海外移転の緩和求める 与党WTが論点整理」(2023年7月7日)
https://www.jimin.jp/news/information/206261.html
日英伊 2035年までに次期戦闘機共同開発(※13)
日英伊の3カ国の首脳は2022年12月、「グローバル戦闘航空プログラムに関する共同首脳声明」を発出し、2035年までの次期戦闘機共同開発プロジェクトを発表しました。防衛省は、本プロジェクトの意義として、3カ国が各々の技術を結集し、開発コストやリスクを分担することで、将来の航空優勢を担保する優れた戦闘機を開発できること、次期戦闘機の量産機数増加、グローバルに活躍する次世代エンジニアの育成等を通じた防衛生産等の基盤の維持・強化が期待できるとしています。
※13:防衛省「日英伊共同開発」
https://www.mod.go.jp/j/policy/defense/nextfighter/index.html#fired7
米国財務省、CFIUSの活動報告書を公表 過去最多の審査件数更新
2023年7月31日、米国財務省は対米外国投資委員会(CFIUS)の活動に関し、2022年版の報告書を公表しました(※14)。CFIUSは、財務長官を議長とし、関連する複数の省庁により構成される組織であり、米国の国家安全保障の観点から、米国の企業・事業・技術に対する外国投資の審査を行っています。
報告書によれば、簡易的な申告が154件、CFIUSの詳細な審査が伴う届出が286件で、審査件数の合計が前年を超えて過去最多となりました。産業分野別で見ると、申告・届出の合計件数は、研究開発など「専門・科学・技術サービス」が91件、半導体など「コンピュータ・電子機器製造」が45件、発電など「公益事業」が42件、衛星通信など「通信」が31件、ソフトウェア発行など「出版業」が28件、航空機など「輸送機器製造」が22件の順で申請件数が多かったとのことです(※15)。
財務省は2022年の特筆すべき点として未申告取引に対する捜査の強化を挙げています。2018年8月に成立した「外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)」では、国家安全保障のために外国からの投資を審査するCFIUSの権限が強化されましたが、FIRRMAに基づき、捜査を担当する財務省の投資安全保障局(OIS)が拡充されて以降、CFIUSは未申告取引の捜査を強化しています(※16)。
※14:U.S. Department of the Treasurey "Treasury Releases CFIUS Annual Report for 2022"(2023年7月31日)
https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy1663
※15:JETRO「米財務省、対米外国投資委の2022年報告書公表、審査件数は過去最多を更新」(2023年8月31日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/08/ae8153802eaf6da9.html
※16:JETRO「米財務省、対米外国投資委の2022年報告書公表、審査件数は過去最多を更新」(2023年8月31日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/08/ae8153802eaf6da9.html
バイデン大統領、半導体やAI分野の対中投資規制を行う大統領令に署名、議会から法制化や規制拡充求める声も
2023年8月9日、米国のバイデン大統領は、懸念国における特定の国家安全保障技術及び製品への米国投資への対処に関する大統領令(Executive Order on Addressing United States Investments in Certain National Security Technologies and Products in Countries of Concern)に署名し(※17)、これによって半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、一部の人工知能システムの3分野において、米国の国家安全保障にとって重要な機微技術・製品に関わる対外投資が制限されます。これは、米国からの投資が懸念国の軍事力等の向上に利用されるリスクに対処することが目的とのことです。この大統領令は、米国人による対象技術・製品に関わる懸念国の個人・事業体・政府との取引についての財務省への届出を義務付け、国家安全保障に特に深刻な脅威をもたらすそのほかの取引を禁止しています。
連邦議会からは大統領令を評価する一方で、中国企業を含む投資ファンドの取引等も規制対象とする要求が下院のマイク・ギャラガー委員長からされるなど、規制の拡充を求める声が上がっており、また、議会は対外投資を規制する立法措置を検討しています。
※17:The White House "Executive Order on Addressing United States Investments in Certain National Security Technologies and Products in Countries of Concern"(2023年8月9日) https://www.whitehouse.gov/briefing-room/presidential-actions/2023/08/09/executive-order-on-addressing-united-states-investments-in-certain-national-security-technologies-and-products-in-countries-of-concern/
中国商務部、ガリウム・ゲルマニウム関連品目に対して輸出管理実施へ
2023年7月3日、中国商務部は、商务部公告2023年第23号「輸出管理法、対外貿易法及び関税法の関連規定に基づき、国家の安全と利益を維持するため、ガリウム、ゲルマニウム関連品目に対して輸出管理を実施する」、「本公告は2023年8月1日から実施する」旨決定しました(※18)。
※18:中华人民共和国商务部 海关总署公告2023年第23号"关于对镓、锗相关物项实施出口管制的公告"(2023年7月3日) http://www.mofcom.gov.cn/article/zwgk/gkzcfb/202307/20230703419666.shtml
中国商務部ほか、ドローンの輸出規制を発表
2023年7月31日、中国商務部等は、ドローン及びエンジン等の関連品目の輸出規制を発表し、2023年9月1日から実施することを決定しました(※19)。今回の措置においては、ドローンのみならずその関連製品として、エンジンや赤外線画像機器等も対象とされています。
規制の対象となるドローンは航続時間や重量に加え、投擲機を装備していることや、一定の性能要件を満たすハイパースペクトルカメラや赤外線カメラ等を備えていることが要件とされていることから、本格的に軍事利用が可能なものを許可対象としたものと考えられます(※20)。
※19:中华人民共和国商务部 海关总署 国家国防科工局 中央军委装备发展部公告2023年第28号""关于对部分无人机实施临时出口管制的公告“(2023年7月31日)
http://www.mofcom.gov.cn/article/zwgk/gkzcfb/202307/20230703424616.shtml
※20:CISTEC「中国商務部によるドローン及びその関連品目の輸出規制について」(2023年8月3日)
https://www.cistec.or.jp/service/uschina/20230803.pdf
米国が43の事業体をELに追加 極超音速兵器の開発等で
2023年6月12日、米国商務省産業安全保障局(BIS)は、43の事業体を、米国輸出管理規則(EAR)上のエンティティー・リスト(※21)(EL)に追加したと発表しました(※22)。
今回の発表において、ELへの追加の理由としては、次のような業務等に明白に関与していることが理由とされています。この点、Matthew S. Axelrod輸出担当次官補は、「中国が米国の技術やノウハウを獲得することを通じて、その軍事力の近代化計画を実現することの阻止は、必須である。そのために極超音速技術や海軍力の近代化、パイロットの訓練計画と関係のある事業体をELに追加している。」と説明しています。
- 西側諸国の航空機の操縦や戦術の訓練を中国人民解放軍のパイロットに施すための西側諸国のパイロットの採用
- 極超音速兵器の開発
- 空対空ミサイルの設計・製造
- 極超音速飛行のモデリング
- 西側諸国のソフトウェアを用いた兵器のライフサイクル管理
他にも、ウイグル・イスラム教徒や他の少数民族に対する弾圧等、中国国内の個人に対する人権侵害を可能にするものとして、指紋分析技術やDNA鑑定のための製品といった物品を提供していることや、パキスタンの弾道ミサイル計画に関与していることを理由に追加された事業体もあります。
また、BISは2023年7月18日、情報システムへのアクセスを獲得するために利用される、ソフトウェアの脆弱性やセキュリティ上の欠陥を利用した不正プログラムを不法に取引する「サイバー・エクスプロイト」を理由として、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド及び北マケドニアの4事業体をエンティティー・リスト(EL)に追加したと発表しました(※23)。
BISは昨今、弾圧や人権侵害を可能にするうえで、監視技術がますます重要な役割を果たすようになっていると考えており、そのような用途に悪用される危険性のある監視ツールの開発に寄与し得る製品やソフトウェア、技術へのアクセス能力を持つ事業体をエンティティー・リスト(EL)追加の対象としていますが、本年の3月にも同様の理由で中国やロシアの事業体をエンティティー・リスト(EL)に追加しています(※24)。
エンティティー・リスト(EL)に掲載されている企業と取引をする場合、米国輸出管理規則(EAR)が(域外適用を含め)適用される取引であれば、米国商務省産業安全保障局(BIS)の許可が必要となる可能性があります。そのため、①米国輸出管理規則(EAR)が適用されるか、②適用される場合には、米国商務省産業安全保障局(BIS)の許可が必要か、について、事前に確認することが必要です。米国輸出管理規則(EAR)が適用されず、又は許可が不要となる場合であっても、当該取引により提供される貨物・技術が、エンティティー・リスト(EL)掲載企業により懸念用途に利用され、その事実が発覚した場合にはレピュテーションが著しく低下する可能性がありますので、エンティティー・リスト(EL)掲載企業と取引をする場合には、エンティティー・リスト(EL)に掲載された理由も踏まえ、慎重にその可否をご検討ください。
※21:Supplement No. 4 to § 744 of the EAR
※22:Bureau of Industry and Security U.S. Department of Commerce "BIS Adds 43 entities under 50 entries to the Entity List in Response to Human Rights Abuses, Contributions to Ballistic Missile Programs, and Training People’s Liberation Army Pilots on Western Aircraft"(2023年6月12日)
https://www.bis.doc.gov/index.php/documents/about-bis/newsroom/press-releases/3287-rainbow-trout-rule-press-release/file
※23:Bureau of Industry and Security U.S. Department of Commerce "Commerce Adds Four Entities to Entity List for Trafficking in Cyber Exploits"(2023年7月18日)
https://www.bis.doc.gov/index.php/documents/about-bis/newsroom/press-releases/3297-2023-07-18-bis-press-package-spyware-document/file
※24:“Additions to the Entity List; Amendment To Confirm Basis for Adding Certain Entities to the Entity List Includes Foreign Policy Interest of Protection of Human Rights Worldwide” (2023年3月30日)
https://www.federalregister.gov/documents/2023/03/30/2023-06663/additions-to-the-entity-list-amendment-to-confirm-basis-for-adding-certain-entities-to-the-entity
TMI防衛・経済安全保障プラクティスグループ
防衛関連ニュース担当
弁護士/白石和泰・山田怜央・張壮壮・牧昂平
法務(パラリーガル)/松本ティモスィー俊樹
メールアドレス:defense_blog@tmi.gr.jp
以上
ご注意:本ブログは、最近の日本の防衛に関する情報提供の目的で掲載しているものであり、本ブログのいかなる内容も担当者やTMI総合法律事務所の意見を示すものではありません。