ブログ
今求められる、研究インテグリティ対応とは何か? ―大学・研究機関の連携先が外国ユーザーリストやEntity List等に掲載されている場合の留意点―
2024.04.18
はじめに~研究現場と地政学上の動き~
近年地政学的な緊張が高まる中で、自国の国際的な技術優位性の確保が重要な課題となると共に、これに伴う形で技術情報の漏えい防止の対策が急務となっている。
技術情報の漏えい防止は、昨年5月のG7科学技術担当大臣間でのテーマになっているほか、日本では特に、昨年6月末、経済安全保障担当大臣から発出された通知において、大学・研究機関での技術漏洩防止や安全保障輸出管理を含んだ「研究インテグリティ」をより徹底するよう求めるなどの形で、技術情報の漏えい防止に向けた対策がなされている(※1)。技術漏えい防止に関する対応は「研究インテグリティ対応」(あるいは研究セキュリティ対応)の一環として、その実施が求められるようになっている。
研究インテグリティ対応においてしばしば問題となるのは、共同研究や研修生受け入れなど、何らかの形で海外研究機関等との間で連携を行う際における、その連携活動の是非である。特に、これらの海外研究機関等が外国ユーザーリストやEntity List等掲載機関の場合は、本当に連携活動をしてよいのか、そもそもどのようなポイントに着目して誰が判断すればよいのかについて判断に迷うケースも多いのではないか。
本稿では、研究インテグリティ対応を行う場面で、必要となる法令上の基礎知識・法令上の要請と、法令上の要請ではないものの近年の動向に鑑み実施すべき事項をそれぞれ明示して解説し、現場での研究インテグリティ対応の一助として頂くことを想定している。
なお、本稿に関連して、CISTEC Journal No.207(2023 年 9 月)に掲載した、上野一英・張壮壮・山田怜央著「大学・研究機関における研究インテグリティに関して新たに必要となる対応」では、研究インテグリティの沿革も含めて解説しているのでご参照頂きたい。また、一部クライアントの方々に実施したセミナー(「研究インテグリティに関する最新の動向と必要な取り組み」)についても、聴講希望があれば、本ページ末尾の連絡先まで連絡頂きたい。
外国ユーザーリスト、Entity List等のリストとは
(1) 外国ユーザーリスト
外国ユーザーリストとは、経済産業省が管轄する懸念対象者リストである(※2)。同リストにおいては、懸念対象者の国名、地域名や企業名、別名といった情報に加え、各掲載者の関与が懸念されている大量破壊兵器の種別(生物兵器:B、化学兵器:C、ミサイル:M、核兵器:N、以下「懸念区分」という。)が明示されている。
そして、外国ユーザーリスト掲載者に対して、貨物の輸出又は技術の提供を目的とする取引(例えば、共同研究契約を締結して、相手方に対して技術情報を提供する場合が挙げられる。)を行う場合、原則として、対象品目の仕様・スペックを問わずキャッチオール規制の対象となり、経済産業大臣の事前許可が必要となる(※3)。
ただし、当該取引の用途並びに取引の条件及び態様から、当該貨物及び技術が核兵器等の開発等及び別表行為と呼ばれる行為(※4)に該当しないことが「明らかなとき」は、キャッチオール規制に該当しない。「明らかなとき」の判断については経済産業省がガイドライン(「大量破壊兵器等及び通常兵器に係る補完的輸出規制に関する輸出手続等について」)を公表しており、「輸出する貨物等の懸念される用途の種別」が懸念区分と一致しないことの確認が求められる(※5)。すなわち、提供する技術が、提供相手の懸念区分に転用される可能性を評価する必要がある(※6)。
(2) Entity List
Entity Listとは、米国商務省産業安全局(Bureau of Industry and Security、以下「BIS」という。)が管轄する懸念対象者リストである(※7)。
BISは、「米国の国家安全保障または外交政策上の利益に反する重大な懸念がある」という基準に該当する者をEntity Listに掲載している(※8)。外交上の利益には「世界における人権の保護」も含まれるとされ、米国と全く関連性のない行為であっても、米国から見て重大な懸念があるみなされる場合には、米国の同盟国の企業等であっても掲載され得る点に注意が必要である。
米国輸出管理規則(EAR)が適用される特定の貨物や技術を輸出、再輸出又は国内移転する場合であって、Entity List掲載者が購入者や最終需要者などになるときは、原則としてBISの許可を要する(※9)。また、Entity List上で個別に許可例外の適用が可能と明記されない限り、許可例外は適用できないとされている(※10)。
米国以外の国から、更に第三国に輸出や技術提供をする場合が「再輸出」に該当する典型例であり、例えば日本の大学・研究機関が米国以外の外国企業等と共同研究をする場合、日本国内で米国以外の外国籍者に技術を提供する場合など、純粋な米国外の取引にも域外適用され得る点に注意が必要である。(※11)
(3) その他注意を要すべき対象者リスト
外国ユーザーリスト、Entity Listは、いずれも一般的な輸出管理の観点から確認が必要となっているが、輸出以外の越境取引(支払等、資本取引、対外/対内投資等、輸入等)について、日本及び米国いずれにおいても、別途制裁対象者リストが作成されている。
また、輸出管理においても、特定の個人を対象とした包括的禁輸措置や、特定国を対象とした包括的あるいは広範な品目を対象とする禁輸措置などが講じられている場合があり、別途確認を要する(※12)。
外為法に基づく許可の要否の検討(キャッチオール規制の観点から)
(1) 外国ユーザーリスト掲載者への技術提供が発生する場合、原則として許可が必要
上記のとおり、外国ユーザーリスト掲載者に対して技術の提供を目的とする取引を行う場合、原則として、事前に経済産業大臣からの許可が必要である。
そのため、外国ユーザーリストやEntity List等掲載機関との共同研究や交流等(資金、施設・設備・機器等の物品又は人材の受入れを含む。以下「懸念連携活動」という。)の是非を検討する際には、外国為替及び外国貿易法(外為法)の対象となる技術の提供が発生するかを確認する必要がある。
日本国内で技術情報を提供する場合も、提供相手が非居住者や特定類型該当者の場合及び需要者が外国の機関である場合も、外為法の対象となる(※13)。
外国ユーザーリスト掲載機関に過去に在籍していたが日本へ受け入れる時点では在籍していない者に技術を提供する場合でも、将来外国ユーザーリスト掲載機関に戻る予定やその確実性などを確認して、需要者が実質的に外国ユーザーリスト掲載機関となっていないかを確認することも考えられる。
なお、外国からインターネット経由で日本国内のサーバーにあるソフトウェアへのアクセスを認める行為も、外為法の対象となる点に注意が必要である(※14)。外為法適用の典型的なケースとして、技術情報を保存しているパソコンを他国に持ち出す場合や、メール等でのデータの送信が想起されやすいが、インターネットを使用した場合においても、「提供」となり得ることに注意が必要である。
(2) 許可が不要と整理できる3つのケース
仮に、外国ユーザーリスト掲載者を需要者とする技術の提供を目的とする取引に該当する場合でも、主に、以下のいずれかのケースに該当することが確認できれば、許可不要と整理できる。
- 当該取引の用途並びに取引の条件及び態様から、当該貨物及び技術が核兵器等の開発等及び別表行為と呼ばれる行為に該当しないことが「明らかなとき」(上記2.(1))に該当する
- 「公知の技術を提供する取引」又は「技術を公知するために当該技術を提供する取引」に該当する(※15)
- 当該連携に係る研究活動が「基礎科学分野の研究活動」に該当する(※16)
外為法に違反しないことの根拠を確実にすることは、事後的に技術流出などの問題が発生した後に、監督官庁(経済産業省)に対して、外為法遵守体制が十分であったことを説明するのに有用である。
また、論拠を強固なものにするために、このうちどれか一つに該当するから他を検討しない、とするのではなく、以上の①~③の該当の有無を重ねて検討して、外為法に違反しないという判断が合理的であることの根拠を、確実としておくことが望ましい。
(3) リスト規制の確認は別途必要
上記(1)(2)はキャッチオール規制の観点からの解説であり、提供する技術がリスト規制技術であれば、別途許可が必要である。
リスト規制についての説明は本記事では割愛するが、リストに該当するかどうかを確かめる、いわゆる「該非判定」の実施は通常の輸出管理の一環として必要になることに留意が必要である。
米国法に基づく規制の検討(エンドユーザー等規制の観点から)
(1) 提供予定の技術にEARが適用されるかの確認が必要
上記のとおり、EARが適用される特定の貨物や技術を輸出、再輸出又は国内移転する場合で、Entity List掲載者が購入者や最終需要者になるなど、取引に一定の関与をするときは、原則としてBISの許可を要する。
懸念連携活動において提供される技術の提供場所が米国以外でも、再輸出等としてEARが域外適用される可能性があるため、提供する技術にEARが適用されないかの確認を行い、適用される場合には、許可の要否を検討する必要がある。
以下、EARが域外適用される技術の具体例を挙げる(※17)。
- すべての米国原産技術
- 米国原産管理ソフトウェアを混合した非米国製ソフトウェア、米国原産技術を混合した非米国製技術
- EARが適用される特定の技術又はソフトウェアに基づき直接製造された外国製品、EARが適用される特定の技術又はソフトウェアに基づき直接製造されたプラント若しくはその主要な構成要素に基づき直接製造された外国製品
(2) その他のEARの規制の確認も別途必要
上記(1)はエンドユーザー規制の観点からの解説であり、提供する技術がCCLリスト規制技術(日本の外為法上のリスト規制に相当するが、米国独自に規制している品目も存在する。)や他のエンドユース/エンドユーザー規制の対象であれば、別途許可が必要となる可能性があるため、該非判定等の実施は別途必要である(※18)。米国人が関与する場合には、規制された米国人の活動に該当しないかの確認も必要である(※19)。
なお、米国のみなし再輸出規制は、日本のように提供相手の居住性を判断基準としておらず、国籍等に基づき管理する必要がある点にも注意が必要である(※20)。
研究インテグリティの観点からのリスク評価
(1) 研究インテグリティの概要
近年、輸出管理を超えた、研究インテグリティ(あるいは研究セキュリティ)対応として、懸念連携活動に伴う、利益相反・責務相反が適切に管理されないリスク、技術流出・情報流出につながるリスク、信頼の低下リスク等の各種リスクへの対応が必要となっている。
これは、輸出管理規制だけでは、研究の公正さなどを担保するために必要な懸念連携活動に伴う各種リスクへの手当てとしては不足するためである。
日本においては文部科学省が公開している、大学・研究機関向けの研究インテグリティに関するチェックリスト中に「外国ユーザーリストや他国のエンティティリスト及び別途入手可能な情報との比較などによるリスク評価」との記載があり、必ずしも日本の法人が遵守することは求められない外国の輸出管理規制の内容が含まれていることは、特に注目に値する(※21)。
上記リスクに適切に対応するために、懸念連携活動の実施の是非を決めるにおいては、特に慎重にリスク評価を行い、連携の可否や連携する場合に取るべき措置について、意思決定をすることが求められる。
(2) リスク評価
懸念連携活動において特に注意が必要なリスクは、技術流出・情報流出につながるリスクや、軍事用途や人権侵害に転用されるリスクである。
仮に、日本政府の補助金等の公的資金を原資とした支援を受けて研究開発された技術が、意図せず他国に流出したり、他国において懸念用途に利用されたりした場合、単に保有していた技術が流出したという一組織内の問題にとどまらず、日本の税金や研究者の努力で、他国の技術力向上、軍事能力向上、人権侵害活動に貢献していたこととなってしまうことで、国民の大学・研究機関に対する信頼を大きく失う結果となりかねず、研究倫理の観点からも問題となり得る。また、研究成果が、共同研究先の国家が行う人権侵害行為に利用されていた場合、EARに基づきEntity Listに登録される理論的な可能性が存在する。
どちらのリスクも、それが生じてしまった場合に想定される損失が大きいうえ、報道された場合には、レピュテーションも低下し、その後の組織としての活動(及び関係する研究者個人の活動)にも大きな影響を及ぼすものである。
これらのリスクを前提に、懸念連携活動のリスク評価が必要となるが、このようなリスク評価は、リスク要因の発生可能性、当該研究の必要性、代替困難性などを総合的に考慮して行うべきである。
リスク要因の発生可能性の検討は、2(1)で述べた生物兵器、ミサイル等の懸念区分に応じた懸念の程度の検討と重なる部分もあるが、法令等が定めた懸念区分に従えば足りるものではなく、より幅広く想定する点に留意が必要である。具体的には、連携相手機関の活動実績、連携に関係する各関係者の論文(共著者に関する情報を含む。)、発明者として関与した特許の調査、又は本人等からのヒアリング結果などを基に、当人が懸念のある活動に従事していないかを確認していくことが必要となる。
日本で技術提供を受ける研究者や留学生等が、外国ユーザーリスト掲載機関を退職して日本で勤務する場合には、受け入れ対象者が、再度当該該外国ユーザーリスト掲載機関に戻ることや、提供技術が当該外国ユーザーリスト掲載機関に利用される可能性を慎重に評価する必要も生じる。国によっては、企業の資本関係等をインターネットから検索できる場合もあり、英語以外の言語での情報検索を行うことが有用となりうる。また、もしEntity Listに掲載された機関を相手方とする懸念連携活動を行う場合には、BISの示す懸念事由を確認して、当該懸念事由への転用可能性の評価をすることは最低限必要と考えられる。
これらのリスク評価は評価の客観性が重要であるため、広く偏りのない情報収集を前提に、多角的な審査を実施できるだけの体制を構築することが不可欠となる。体制構築は、外部の法律事務所などのリソースを活用して、客観的意見を考慮しつつ行うことが適切な場合が多いと考えられる。
連携開始後の継続的なモニタリング
懸念連携活動の実施の是非を判断するにあたっては、具体的な連携活動に照らして、リスクを低減させる条件を付ける(例えば、「提供する技術は、●●に限る」)ことも考えられる。
しかし、そのような場合には、実施が開始したあとの実際の活動のモニタリングが重要である。組織内にモニタリングのノウハウが蓄積していない場合、継続的なモニタリングを実施すること自体が事務的な新たなコストになってしまうため、実施を躊躇することもあり得るのではないか。とはいえ、適切なモニタリングを行えば連携活動を行うことを可能と整理することができるのであり、サイエンスメリットを潰さず、必要なリスクへの対処が可能という意味において、有用な施策といえる。
適切なモニタリング体制の構築は、今後の研究機関にとっての課題となると考えられ、当職らとしても弁護士としての知見を活かし、尽力していきたいと考えている。
総括~工夫しながら、ベストを尽くす~
近年、研究インテグリティ対応に基づく懸念連携活動の実施の是非を決めるにあたっては、上記のとおり、輸出管理法令の遵守が前提とされる一方で、別途、法令の枠外にある研究インテグリティ上のリスク評価の必要性も強調されている。
問題となっているのは、リスク評価の方法や実施例が、文科省等をはじめとする公的機関の公開ガイドライン等で明示されていないため、何を、どのように、どこまで検討すれば良いのかが不明確であることである。実際、当職らが実際にご相談を受けるに際にも、この点で迷いを抱えているという印象を受ける。
しかし、研究インテグリティ上のリスク評価は、その性質上各大学・研究機関が自らの状況を考慮して個別具体的に行うべきものであり、詳細なガイドラインがなくとも実施することができ、またその必要がある。具体的には、上記5(2)で記載したとおり、研究インテグリティの観点から、それぞれの機関がその置かれている状況に応じて、あり得るリスクを想定し、創意工夫を凝らして、リスクの内容と発生可能性を検討し、具体的な根拠をもってリスク評価を実施すべきものである。
最後に、リスク評価に関するバイアス(先入観)について触れたい。
一般的に、「ポジティブな感情が喚起されるとリスクは小さく評価」され、逆に「ネガティブな感情が喚起されると、リスクは高く評価」されると言われている(※22)。このような傾向は、研究インテグリティ上のリスク評価においても同様に当てはまるものではないか。
例えば、研究者が有益な共同研究先との活動を早期に実現したいと要望し、事務方としては「これに可能な限り応えたい」とポジティブに考えたとする。この場合、研究インテグリティ上のリスク評価を担当する事務方としては、共同研究活動の推進をポジティブに捉えているために、その阻害要因であるリスクを過小評価する傾向が生じる。
他方で、目の前の案件が「ニュースに流れた不正事案と類似している」と思えば、ネガティブな感情が喚起されることになる。この場合、事務方としては、不正事案が自分の機関でも発生してしまうという現実的な不安から、リスクが過大評価されうる。
しかしながら、研究インテグリティの対応の中では、科学の発展と機関及び研究者に生じるリスクのコントロールという2つの要請をバランス良く取り扱う必要があり、過大評価・過小評価のいずれも望ましくない。
短期的に研究者の要望に応えたとしても、中長期的には当該研究者の機密情報漏洩リスクやレピュテーションリスクにつながることに留意し、研究者に対して、研究インテグリティ対応の必要性を説明し、その理解を得ることが最も重要である。また、リスクを過大評価して、共同研究を進めるにあたって、リスクを引き下げるための条件を工夫するなどの、前向きに考える発想を閉ざしてしまうことも好ましいものとはいえない。
現場での悩みは尽きないが、当職らは、大学や研究機関の管理部門において、創意工夫と共に、なるべく客観的にみてベストな判断が行われるよう、微力ながらお役に立ちたいと願っている。
以上
脚注
※1:令和5年3月29日付文部科学省「大学及び公的研究機関における研究インテグリティの確保について(再依頼)」など。なお、諸外国において、外国への研究情報の漏えい防止の問題は主に「Research Security(研究セキュリティ)」の問題として受け止められているが、日本においては、従前から存在した「研究インテグリティ」が拡張して「Research Security」を包含する概念となっている。
※2:経済産業省WEBサイト(https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law05.html#user-list、2024年4月3日アクセス)にて公開されている。
※3:輸出貿易管理令第4条第1項第3号イ、輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令第2号・第3号、輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令第二号及び第三号の規定により経済産業大臣が告示で定める輸出者が入手した文書等(平成13年経済産業省告示第760号・(最終改正)平成25年経済産業省告示第207号の第2号)、外国為替令第17条第5項、貿易関係貿易外取引等に関する省令(以下「貿易外省令」という。)第9条第2項第7号イ、貿易関係貿易外取引等に関する省令第9条第2項第七号イの規定により経済産業大臣が告示で定める提供しようとする技術が核兵器等の開発等のために利用されるおそれがある場合(平成13年経済産業省告示第759号・(最終改正)平成25年経済産業省告示第206号の別表第2号)。なお、法的には外国ユーザーリストの入手が要件となるが、実務上は外国ユーザーリストを確認することは一般的に行われており、該当が前提とされることが多い。
※4:核兵器等の開発等及び輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令別表に掲げる行為
※5:大量破壊兵器等及び通常兵器に係る補完的輸出規制に関する輸出手続等について(輸出注意事項24第24号・平成24・03・23貿局第1号 (H24.4.2)・(最終改正)輸出注意事項2021第30号(R3.11.18公布、R4.5.1施行))1(6)⑰
※6:転用可能性の評価については、当該通達1.(3)1に掲げる核兵器等の開発等に用いられるおそれの強い貨物例等を参考に、輸出しようとする貨物等の特性から判断することが求められているため、提供する技術の特性から客観的に判断する必要があるが、基礎的な技術について、どの程度の具体的な転用可能性があれば懸念区分が一致するかについて明確な基準は示されていないため、個別に検討する必要性がある。重要なのは、検討結果が正しいことではなく、合理的な資料や判断仮定に基づき、検討を行ったか否か、という点にある。
※7:Supplement No.4 to Part744-Entity List。なお、BISのWEBサイト(https://www.bis.gov/ear/title-15/subtitle-b/chapter-vii/subchapter-c/part-744/supplement-no-4-part-744-entity-list、2024年4月3日アクセス)にて公表されている。
※8:15 CFR Part 744.11(b)。同規定では、かかる懸念が持たれる具体的な行為として、以下の4つを例示している。
- テロ行為に関与する人物を支援すること。
- 国際的なテロ行為への支援を繰り返し行っているとして国務長官によって指定された政府の軍事能力又はテロ支援能力を高める可能性のある行為。
- 米国の国家安全保障又は外交政策の利益に反する方法で、通常兵器を移転、開発、整備、修理又は生産すること、又はそのような活動のために部品、構成要素、技術、資金を供給することにより、そのような移転、整備、修理、開発又は生産を可能にすること。
- 一定の手段による、BIS 若しくは国務省国防貿易管理局によるエンドユース検査の達成の阻止。
※9:15 CFR Part 744.11(a)。許可が必要な範囲もEntity List上で指定されるが、EARが適用されるすべての品目と指定されているケースもあり、CCLリスト規制に該当しない品目(いわゆるEAR99品目)の提供も対象となる可能性がある。また、許可申請がなされた場合の審査ポリシーも個別に記載されているところ、ケースバイケースとされている場合や、原則不許可とされている場合などがある。なお、購入者や最終需要者のほかにBISの許可が必要な類型としては、Entity List掲載機関が中間荷受人や最終荷受人となる場合が挙げられている(15 CFR Part 748.5(c)~(f))。
※10:15 CFR Part 744.11(a)
※11:15 CFR Part 734.14
※12:米国については、完全にすべてが網羅されているわけではないが、Consolidated Screening List(https://www.trade.gov/consolidated-screening-list、2024年4月1日アクセス)でまとめて確認可能である。日本については、財務省が管轄する規制については財務省のWEBサイト(https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/economic_sanctions/list.html、2024年4月1日アクセス)でまとめて確認可能であるが、輸出入等の経済産業省が管轄する規制に関しては別途確認が必要な場合もあり、例えばウクライナ情勢に関連して禁輸対象者として指定された者等については、別途告示等を個別に確認する必要がある。
※13:外為法第25条第1項、外国為替及び外国貿易法第25条第1項及び外国為替令第17条第2項の規定に基づき許可を要する技術を提供する取引又は行為について(4貿局第492号(平成4年12月21日)貿易局・(最終改正)20120814貿局第1号・輸出注意事項24第52号平成24年8月28日経済産業省貿易経済協力局)(以下「役務通達」という。)1(3)サ
※14:役務通達別紙1-2
※15:貿易外省令第9条第2項第9号。ただし、「公知」と言えるためには、同号で限定列挙された方法により、「不特定多数の者に対して公開」されること、又はされている必要がある。
※16:貿易外省令第9条第2項第10号。ただし、基礎科学分野の研究活動とは、「自然科学の分野における現象に関する原理の究明を主目的とした研究活動であって、理論的又は実験的方法により行うものであり、特定の製品の設計又は製造を目的としないもの」と定義され(役務通達1(3)ク)、EARとは異なり、将来論文公開を予定していることは直接の根拠とはならない。なお、経済産業省はこの点については「宇宙の生成過程に関する研究」「素粒子理論に関する研究」等を例示としているほか、「産学連携に係る共同研究等では、研究が特定の製品への応用を目的としているケースなど、この例外に該当しない場合が多くありますので、注意が必要です。」と記載するなど、厳格に解釈していると思われる(https://www.meti.go.jp/policy/anpo/daigaku/el/4/q13_a2.html、2024年4月3日アクセス)。更に、この要件の日米の違いについては、日米オンラインシンポジウム「国際研究協力における経済安全保障と輸出規制の課題」参照(上野一英がモデレータを務め、ハーバード大学及び日米の官公庁担当官とディスカッションを実施しており、実務上の参考になる。)。(https://ifi.u-tokyo.ac.jp/event/13682/、2024年4月3日アクセス)
※17:15 CFR Part 734.3等。なお、米国法上も基礎科学特例(15 CFR 734.8)及び公知特例(15 CFR 734.7)が定められているが、日本法とは範囲が異なり、法的な位置づけとしては、EARが適用されない場合として整理されている。
※18:Supplement No.1 to Part774—The Commerce Control List。なお、BISのWEBサイト(https://www.bis.gov/ear/title-15/subtitle-b/chapter-vii/subchapter-c/part-774/supplement-no-1-part-774-commerce-control、2024年4月1日アクセス)において公表されている。
※19:15 CFR 744.6。なお、誰が米国人(「U.S. Person」)に該当するかについては、15 CFR 772に「U.S. Person」の定義がある。
※20:15 CFR 734.14(a)(2)。なお、外国人(「Foreign Person」)の該当性が問題となるところ、15 CFR 772に「Foreign Person」の定義がある。
※21:文部科学省「大学・研究機関向け 研究の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対するチェックリスト(雛形)」参照。なお、文部科学省の研究インテグリティに関するWEBページにて公表されている(https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/integrity/index.html、2024年4月3日アクセス)。
※22:長瀬勝彦「リスク認知のバイアス-なぜリスクが過小評価されるのか-」(組織科学 Vol.45 No. 4:56-65(2012))p.61参照(https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/45/4/45_20220823-29/_pdf、2024年4月3日アクセス)。この論文に示されているように「起こった後から見れば明らかな予兆であっても、渦中にあるときにはそれは大量の情報の中のごく一部に過ぎず、十分な注意を払っていても気づくことは困難であったかもしれない」という状況は常にありうると考えられ、そのようなときに、「後から見て十分な注意を払っていたといえる」だけの検討経過を記録に残していくことが実務的には重要だと考える。記録への残し方についてもコストを掛け過ぎない方法があり、これが法律実務家の知恵の出しどころでもある。
本記事は、一般的な情報提供を目的としており法的アドバイスを含みません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。 |