ブログ
「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案」に基づく投資運用業に関する制度の改正について
2024.04.22
はじめに
2024年3月15日、「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「本改正法案」という。)が第213回国会に提出された。本改正法案は、「資産運用の高度化・多様化」、「企業と投資家の建設的な対話の促進」、「資本市場の透明性・公正性の確保」を謳い、「投資運用業」、「非上場有価証券の仲介等」、「大量保有報告」、「公開買付」等に関する制度を整備する内容となっている。
本稿では、本改正法案のうち、投資運用業に関する制度の改正案について紹介したい。
なお、この投資運用業に関する制度の改正案については、本改正法案の提出の前に、金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」及び「資産運用に関するタスクフォース」において関連する点が議論されており、これらにおいて議論された内容を踏まえて同改正案が作成されている。
○金融庁:「国会提出法案等」
○金融庁:「金融審議会『市場制度ワーキング・グループ』・『資産運用に関するタスクフォース』報告書の公表について」
投資運用業に関する制度の改正案
本改正法案のうち投資運用業に関する制度の改正案には、大きく2つの内容が含まれており、1つが「投資運用業者からミドル・バックオフィス業務(法令遵守、計理等)を受託する事業者の任意の登録制度の創設」であり、もう1つが「投資運用業者の運用(投資実行)権限の全部委託の可能とすること」である。
以下では、それぞれについて概説する。
(1)投資運用関係業務受託業の創設
(ア)概要
本改正法案中の改正金融商品取引法案(以下「本改正金商法案」という。)第2条第43項に「投資運用関係業務」という定義が追加された。
この「投資運用関係業務」とは、投資運用業等(①投資運用業、②適格機関投資家等特例業務における運用行為、③海外投資家等特例業務における運用行為)に関して行う次に掲げる業務である。
一 運用対象財産…を構成する…有価証券その他の資産及び当該資産から生ずる利息又は配当金並びに 二 法令等(法令、法令に基づく行政官庁の処分又は定款その他の規則をいう。)を遵守させるための指 |
本改正金商法案では、投資運用業等を行うことができる者から委託を受けて、「投資運用関係業務」を業として行うことを「投資運用関係業務受託業」と位置付け、「投資運用関係業務受託業」を行う者の任意の登録制度が設けられた。この登録制度は任意のものであるが、後述するとおり、当該登録を受けた者(「投資運用関係業務受託業者」)に対してミドル・バックオフィス業務を委託する場合には、委託した投資運用業等を行う者の人的構成要件が緩和されるという利点がある。この「投資運用関係業務」の関係を簡単に図示すると以下のとおりである。
○金融庁作成の2024年3月付け「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」中の記載を基に筆者作成
(イ)登録要件の緩和
投資運用業を行う者は、投資運用関係業務を投資運用関係業務受託者に対して委託する場合には、投資運用業の登録要件のうち人的構成要件が緩和される。
具体的に述べると、まず、現行金融商品取引法(以下「金商法」という。)では、「金融商品取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を有しない者」であることが登録拒否事由とされており(金商法第29条の4第1項第1号ホ)、具体的な人的構成の審査基準が金融商品取引業等に関する内閣府令第13条に規定されている。これに対し、本改正金商法案においては、人的構成を有しない者の基準を明確化するとともに、金融商品取引業に係る業務のそれぞれにつき、その執行について必要となる十分な知識及び経験を有する役員又は使用人を確保していないと認められる者が登録拒否要件になることを規定した。
※下表のとおり、同ホが改正され、法人について新たに同項第1号の2が新設され、個人について同項第3号が改正されている(下線部分は改正部分)。
現行 |
改正案 |
第29条の4 一 (略) ホ 金融商品取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を有しない者 |
第29条の4 一 (略) ホ 次のいずれかに該当する者 (1) 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第2号に規定する暴力団又は同条第6号に規定する暴力団員との関係その他の事情に照らし、金融商品取引業の信用を失墜させるおそれがあると認められる者 (2) その他金融商品取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を有しない者として内閣府令で定める基準に該当する者 |
(新設) |
一の二 法人である場合においては、登録申請の 対象となる金融商品取引業に係る業務のそれぞれにつき、その執行について必要となる十分な知識及び経験を有する役員…又は使用人を確保していないと認められる者。ただし、登録申請者が投資運用関係業務を投資運用関係業務受託業者…に委託する場合における当該投資運用関係業務については、その業務の監督を適切に行う能力を有する役員又は使用人を確保していれば足りるものとする。 |
三 個人である場合においては、前号イからチまで若しくはリ(第1号ハに規定する法律の規定に係る部分を除く。)のいずれかに該当する者又は政令で定める使用人のうち前号イからリまでのいずれかに該当する者のある者 |
三 個人である場合においては、次のいずれかに該当する者 イ 登録申請の対象となる金融商品取引業に係る業務のそれぞれにつき、その執行について必要となる十分な知識及び経験を有していないと認められる者 ロ 前号イからチまで若しくはリ(第1号ハに規定する法律の規定に係る部分を除く。)のいずれかに該当する者又は政令で定める使用人のうち前号イからリまでのいずれかに該当する者のある者 |
上表のとおり、従来、役職員の知識・経験等といった人的構成要件として捉えられてきた金商法第29条の4第1項第1号ホは、本改正金商法案では暴力団との関係等により不適切である者や今後定められる内閣府令で定める基準に該当する者としての要件として捉えられ、役職員の知識・経験等に関する要件については、新設される同項第1号の2に譲られたと考えられる。
そして、通常であれば、業務の「執行について必要となる十分な知識及び経験を有する」役職員を確保していない場合には登録拒否事由に該当することとなるが、投資運用関係業務を投資運用関係業務受託業者に委託する場合には、当該投資運用関係業務についてはその業務の「監督を適切に行う能力を有する」役職員を確保していれば足りるとして、その要件が緩和されている。
なお、上記は投資運用業を行う者に係る規定であるが、海外投資家等特例業務届出者や移行期間特例業務を行う者についても同様の規定とされている(本改正金商法案第63条の9第6項第1号ロ、第2号ト、第3号ハ、附則第3条の3第3項第2号ト、第3号ハ)。
従前どおり投資運用関係業務受託業に該当する業務を投資運用関係業務受託業の登録を受けていない者に委託することは可能であるが、登録を受けた者(投資運用関係業務受託業者)にこれらの業務を委託する場合には委託する投資運用業者の登録要件が緩和される。
また、同登録要件の緩和は新規に登録を行う者に限らず、既存の投資運用業者が人的構成要件を見直す場合にも適用されるものと考えられる。
(ウ)投資運用関係業務受託業者の登録・業務・監督
投資運用関係業務受託業を行う者は、内閣総理大臣の登録を受けることができる(改正金商法案第66条の71)。繰り返しになるが、金融商品取引業は原則として登録を受けた者でなければ行うことができないのに対し(金商法第29条参照)、この投資運用関係業務受託業を行う者は登録を受けることが「できる」とされ、あくまで任意の登録制度となっている。
投資運用関係業務受託業の登録を希望する場合には金融商品取引業と同様に、登録申請書とその添付書類の提出が求められる(改正金商法案第66条の72)。
登録を受けて投資運用関係業務受託業者となった場合、投資運用関係業務受託者は下表の義務を負うこととなる。
内容 |
根拠規定 |
委託者に対する誠実義務 |
改正金商法案第66条の76 |
委託者に対する忠実義務、善管注意義務 |
改正金商法案第66条の77 |
業務管理態勢の整備義務 |
改正金商法案第66条の78 |
名義貸しの禁止 |
改正金商法案第66条の79 |
再委託の禁止(内閣総理大臣の承認を受けたときは再委託可) |
改正金商法案第66条の80 |
記録の保存義務 |
改正金商法案第66条の81 |
また、投資運用関係業務受託業者は当局の監督に服することとなり、事業年度ごとに事業報告書の提出が求められる(改正金商法案第66条の82)ほか、業務改善命令(改正金商法案第66条の84)、監督上の処分(改正金商法案第66条の85)、報告の徴取及び検査(改正金商法案第66条の88)の対象となる。
(2)運用権限の全部委託
現行の金商法では、投資運用業者は、すべての運用財産につき、その運用に係る権限の全部を委託してはならないとされている(金商法第42条の3第2項。投資信託及び投資法人に関する法律第12条第1項にも投資信託委託会社について同様の規定がある。)。
そこで、投資運用業者がファンドの運営機能(企画・立案)に特化し、様々な運用業者への運用(投資実行)を委託できるよう、改正金商法案及び本改正法案中の改正投信法案(以下「改正投信法案」という。)では下表のとおり改正されている(下線部分は改正部分)。
現行 |
改正案 |
○金融商品取引法 第42条の3 2 金融商品取引業者等は、前項の規定にかかわらず、すべての運用財産につき、その運用に係る権限の全部を同項に規定する政令で定める者に委託してはならない。
|
○金融商品取引法 第42条の3 2 金融商品取引業者等は、前項の規定により委託をする場合においては、当該委託を受ける者に対し、運用の対象及び方針を示し、かつ、内閣府令で定めるところにより、運用状況の管理その他の当該委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置を講じなければならない。 |
○投資信託及び投資法人に関する法律 第12条 投資信託委託会社は、その運用の指図を行うすべての委託者指図型投資信託につき、当該指図に係る権限の全部を、第2条第1項に規定する政令で定める者その他の者に対し、委託してはならない。 2 投資信託委託会社がその運用の指図を…(略) |
○投資信託及び投資法人に関する法律 第12条 (削る。)
投資信託委託会社がその運用の指図を…(略) |
もっとも、改正金商法案においても「運用の対象及び方針」を示す必要があることから、運用の対象及び方針を決定する権限までも委託することはできないものの、それ以外の運用に係る権限の全部を委託することができると考えられる。また、今後定められる内閣府令に基づき「運用状況の管理その他の当該委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置」を講じる必要がある。
おわりに
本改正法案のうち投資運用業に関する制度の改正については、改正法の交付の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされる(本改正法案附則第1条本文)。
同改正は、新興運用業者促進プログラム(Emerging Managers Program)における政府の取組みの一部として位置付けられるが、今後も資産運用立国に向けた政府の取組みに注目が必要である。
以上