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自己託送の要件厳格化と分割供給の導入-オフサイトPPAに影響のある近時の制度改正-
2024.07.04
近時のFIT(固定価格買取)制度における買取価格は、制度導入当初と比較して下落しており、FIT制度に基づく新規案件は減少している一方で、2022年に導入されたFIP制度とともに企業や自治体といった需要家が発電事業者との合意により比較的長期間にわたり再エネ電気を調達するコーポレートPPAの取引が近時増加しています。一方、かかるコーポレートPPAの中でも、特にオフサイトPPA(需要場所と異なる場所に発電設備を設置して、一般には電力系統を通じて需要場所に電気を供給するスキーム)に影響を与える2つの制度改正がありましたので、今回はこの点についてご紹介します。
自己託送の要件の厳格化
自己託送は、自家用発電設備を維持・運用する者が、自己又は関連会社などの密接な関係を有する者の需要に応じて、一般送配電事業者の管理する系統を通じて電気を供給する仕組みをいいます(※1)。オフサイトPPAでは、電気事業法における「小売供給」の規制との関係で、同法に基づく登録を行った小売電気事業者の関与が必要となるのが原則ですが、以下のような自己託送の制度を活用することにより、小売電気事業者の関与なく需要家が再エネ電気の供給を受ける事例が存在します。具体的には、以下のような方式が存在していました。
(1) 組合型自己託送:
自己託送は、従来は自己又は資本関係がある関連会社への電力融通に限定して利用できる制度でしたが、再生可能エネルギー発電設備の更なる導入拡大のため、2021年の法改正によって、資本関係等がない者でも、組合を設立し一定の要件を満たすことで密接な関係を有するとみなされ、自己託送による電力融通を可能とする規定が新たに設けられました(組合型自己託送) 。組合型自己託送はこの規定を活用する方式です。但し、組合型自己託送は、1つの発電設備から電力を供給できる先が一の需要場所に限定されるなど、その利用は限定的なものになります。
(2) 賃貸型自己託送:
賃貸型自己託送とは、リース会社などが所有する発電設備を需要家が賃借し、需要家が自己託送の契約者として自己託送を利用して需要家の需要場所に電気を供給する方式です。自己託送の要件厳格化以前においては、自己託送を利用できる、自家用発電設備の「維持・運用」を行う者は、設備を所有することは必須ではなく、電気工作物の維持・運用業務について一義的な責任及び権限を有していればこれに該当すると解されており、自家用発電設備の賃借している者も「維持・運用」をしていると認められる限りは、自己託送制度を利用することが可能と考えられていました。
(3) 一括受電型自己託送:
一括受電型自己託送とは、再生可能エネルギー発電設備などの発電設備を所有し、維持・運用する事業者が自己託送契約者となり、需要側で当該自己託送契約者が受電した電気を一の需要場所内での供給として他者に供給する方式です。電気事業法において供給を規制しているのは「需要に応ずる電気の供給」であり、「一の需要場所」内における電気のやりとりに関しては、そもそも「供給」に該当せず、小売電気事業や特定送配電事業に該当しないと考えられています(※2)。そのため、この方式では自己託送契約者に小売電気事業者又は特定送配電事業のライセンスは不要と考えられています。
この点、自己託送については再エネ賦課金が課されないことから、従来より負担の公平性の観点からの指摘がなされていたところであり、2023年末に、賃貸型自己託送及び一括受電型自己託送が、「自家発自家消費の延長として、需要家の保有する自家用発電設備の有効活用」という自己託送の制度趣旨に反するという議論が持ち上がりました(※3)。そしてこの議論を受けて今年の2月12日に自己託送に係る指針(以下「本指針」といいます。(※4))が改正され、以下の事項などが本指針に明記されたことにより、上記の賃貸型自己託送や一括受電型自己託送の方式は自己託送として認められないこととなりました(※5)。
・他の者が設置した発電設備を譲渡又は貸与等を受けて維持し、及び運用する者は自己託送利用者に該当しない。
・自己託送により電気の供給を受ける一の需要場所において、自己託送利用者から他の者に対して電気の融通が行われ、当該他の者が最終的に電気を使用する場合、自己託送利用者と他の者との間に密接な関係がなければ、自己託送における需要に該当しない。
かかる改正により、賃貸型自己託送及び一括受電型自己託送を活用していた事業者はスキームの変更を余儀なくされています。また、組合型自己託送の制度は改正されておりませんが、本指針改正により、需要場所で自己託送利用者が受電した電気を需要場所内で密接な関係を有しない他の者に供給することが禁止されたことから、組合型自己託送でも需要場所にテナントが入居しており需要場所内で他者に電気を供給する必要がある場合に自己託送が利用しにくくなるという影響もあり、自己託送の制度はより限定的な場面でしか利用できないものになっています。
(※1)電気事業法2条1項5号ロ
(※2)経済産業省 資源エネルギー庁電力・ガス事業部産業保安グループ編「2020年度電気事業法の解説」(経済産業調査会、2021年)69頁
(※3)第68回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(2023年12月26日開催)の議論を参照
(※4)自己託送に係る指針の一部を改正する通達
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/zikotakuso20240212r.pdf
(※5)本指針の改正に関するパブコメ結果はこちらから確認できます。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=620223040&Mode=1
分割供給の導入
(1) 部分供給の廃止と分割供給の導入の経緯
資源エネルギー庁は2024年6月17日に、一の需要場所において、1引込み・1計量により異なる2者の小売電気事業者が小売供給契約を締結することを認める「分割供給」の制度の案を公表しています(※6)。
当該分割供給の制度は、部分供給の廃止に伴い新たに導入される制度です。資源エネルギー庁は、以下に詳細を記載する通り、かねてより部分供給の制度を廃止することを検討しておりましたが、部分供給はオフサイトPPAのスキームで活用されている事例も多いことから、廃止には弊害があるとの声もありました。このような意見等に対応するために新たに導入が検討されているのが、この「分割供給」の制度です。以下ではその経緯と内容についてもう少し詳しく解説いたします。
(2) 部分供給の廃止
電気事業法における「小売供給」は一需要場所における全需要に応じた供給を意味しています。よって、一需要家に対して小売電気事業者1社のみが小売供給契約を締結することが基本となります。
これに対して、部分供給とは、一需要家に対して、新電力単体では不足している供給量について、エリアのみなし小売電気事業者からの供給により賄い、両者の電気が物理的に区分されることなく、1引込みを通じて一体として供給される形態をいいます。部分供給は、東日本大震災の影響による電力需給の逼迫を受けて、新電力が保有する発電設備の有効活用が求められる中、ベース電源や夜間に活用できる電源など十分な供給力を持たない新電力の電源確保と参入促進の観点から、旧一般電気事業者が、新電力単体で供給が不足する部分についてその電力を補うため、当面の措置として2012年12月に導入されたものです。
この点、資源エネルギー庁は2024年3月29日、部分供給は新電力の導入促進のための当面の対策であったこと、また複数のエリアにおいて、部分供給の趣旨にそぐわない活用が疑われる事例を確認したとして、部分供給の見直しを提案しました(※7)。この提案では、現在の日本卸電力取引所(JEPX)の取引量を踏まえれば、新電力が一定量の市場調達を行うことは難しくないと考えられることに加え、多くの新電力は部分供給を活用することなく事業を実施していることに鑑み、①部分供給については、原則廃止する方針で経過措置等の検討を進めること、②制度趣旨にそぐわない活用事例(※8)がみられる通告型部分供給(旧一般電気事業者が通告値によるベース供給を行い、他の小売電気事業者が当該ベース供給を除いた負荷追随供給を行う供給形態)については、今後、新たな受付を行わないこと、という方針が示されました。
この見直しの方針に従い、2024年6月15日付で部分供給に関する指針が改正され、通告型部分供給は、既に新たな受付が停止されています(※9)。
そして、2024年6月17日に資源エネルギー庁から公表された前述の「分割供給の導入について」と題する資料によれば、既に受付けが中止された通告型部分供給以外の部分供給についても、分割供給の導入と同時に新規受付を停止するという方針が示されています。
(3) 部分供給の廃止の オフサイトPPAスキームへの影響
オフサイトPPAでは、例えば太陽光発電の場合には、夜間や雨天時など、再エネ発電設備だけでは需要家の電力の需要を満たすことは難しいため、需要に対して不足する分の電力の購入が必要であり、旧一般電気事業者から部分供給を受けるケースが多く見られました(※10)。しかし、かかる通告型部分供給が認めらなくなると、小売電気事業者は、当該旧一般電気事業者による売電により賄ってきた部分についてもセットで需要家に供給しなければならないこととなります。
部分供給に関する指針改正パブリックコメントにおいても、オフサイトPPAにおいて、通告型部分供給が利用されてきており、かかる通告型部分供給がオフサイトPPAにおいて利用できなくなるとすると、オフサイトPPAの導入の妨げになることが多く指摘されておりました。
このようなパブリックコメントにおける意見に対し、資源エネルギー庁は、いわゆる再エネ電源を活用したオフサイトPPAについては、部分供給を活用している事例の存在、また需要家のニーズがあることや市場環境が変化する中で負荷追随供給等に係る競争についても活性化を促す観点も考慮し、「当面の対策」として措置されてきた部分供給とは別に、需要家が、一の需要場所において、1引込みにより2者(ないしそれ以上)の小売電気事業者から供給を受けることを希望する場合の扱いについて今後検討を行うこととすると回答しており、通告型部分供給の廃止後のオフサイトPPAについては、分割供給の活用が示唆されております。
(4) 分割供給の導入
部分供給の廃止とともに新たな制度として導入される分割供給とは、一の需要場所において、1引込み・1計量により異なる2者の小売電気事業者が小売供給契約を締結することにより、当該2者の小売電気事業者が一の需要場所において電力を供給する行為をいいます(※11)。
部分供給の際には、新電力で不足する供給力を補うのは旧一般電気事業者に限られていましたが、分割供給では、そのような限定はなく、旧一般電気事業者以外の小売電気事業者からでも、一の需要場所において2者の異なる小売電気事業者から電力の供給を受けられることになります。
これにより、再エネ電源を活用したオフサイトPPAの場合には、当該再エネ電源で発電した電気に係る小売供給と、当該電源で足りない電気の部分の小売供給を分割供給することにより、電力を供給することが可能になります。
2024年6月17日付資源エネルギー庁の「分割供給の導入について」によれば、一方の小売契約が解約された場合の残された部分の分割供給者の小売契約の部分の取扱いについて、オフサイトPPAにおける発電投資の安定性にも配慮し、残された分割供給者の小売契約等についても自動的に解除されるのではなく、残された部分供給者が通常の小売供給を行うものとする等の配慮がなされています。また、当該案を採る場合には、残された分割供給者は、不足する電気を補うリスクを踏まえて料金を割高に設定する等の供給条件の設定が必要となることが示唆されており、このような場合に残された分割供給者と需要家が、当該小売契約を解除する等の、予め合意された対応策を選択することを制限しないことも案として示されています。
上記の通り、現状の資源エネルギー庁の案においては、部分供給の廃止後においては、分割供給によってこれを賄うこととされており、制度上は、部分供給に代わる策として、分割供給によって他の小売電気事業者から供給を受けることも可能となることから形式的には制度上の手当はなされてはおります。
しかし、かかる変動分を供給するスキームにおける補完は小売電気事業者と需要家との間の自律に委ねられ、現状は変動が生じた場合における抜本的な対応策が採られているものではなく、小売電気事業者としては、一方の小売契約が解除された場合に残された分割供給者が小売供給を継続することとなる場合には、リスクを踏まえて料金を割高に設定する等の方法を検討することとなると考えます(※12)。また、再エネ電源を活用したオフサイトPPAで、当該再エネ電源で発電した電気に係る小売供給とその他の部分を分割供給し、その他の部分の小売供給の負荷率が、通常の小売供給よりも低下するような場合には、その他部分の供給条件等(kWh単価等)は通常の小売供給と同等とならない(割高となる)可能性もあります(※13)。
このように制度上は部分供給廃止による弊害を防止する新たな制度が措置されることとなっていますが、上記の通り負荷追随部分についての電力コストの条件悪化が、需要家全体としての電力コストが増加し、再エネの供給を受けることを断念せざるを得なくなる等の実質的な弊害が生ずる可能性は否定できないと思われます。そのため、フィジカルPPAに取り組む事業者において、PPA単価及び事業コストの見直しやバーチャルPPAへの計画変更も検討する等して対策を行う必要も生ずることもあると考えられ、関係する事業者におかれては今後の制度設計について注視する必要があると考えます。
(※6)第76回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(2024年6月17日開催)資料11「分割供給の導入について」(以下「分割供給の導入に係る小委員会資料」といいます。)を参照
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/076_11_00.pdf
(※7)第72回総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(2024年3月29日開催)資料4「部分供給の見直しについて」を参照
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/072_04_00.pdf
(※8)具体的には、この部分供給のルールを用いてJEPX価格の安い時間帯のみ電力を販売する新電力会社の存在が問題視されています。
(※9)「部分供給に関する指針(改正案)」に対する意見公募手続の結果について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=620224008&Mode=1
(※10)2023年7月 自然エネルギー財団「コーポレートPPA実践ガイドブック(2023年版)を参照
(※11)分割供給の導入に係る小委員会資料を参照
(※12)分割供給の導入に係る小委員会資料 11頁を参照
(※13)分割供給の導入に係る小委員会資料 7頁を参照
以上