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【中国】登録資本登記管理制度の施行に関する国務院の規定
2024.07.09
はじめに
2024年7月1日に改正会社法(以下「新会社法」といいます。)が施行されるとともに、「会社法」登録資本登記管理制度の施行に関する国務院の規定[1](以下「施行規定」といいます。)が公布され、同日施行されました。
新会社法が公布されてから間もない2024年2月に、施行規定の意見募集稿[2]が出されましたが、今回正式に公表・施行された施行規定では、意見募集稿から多くの変更が加えられています。以下、意見募集稿からの変更点を中心に、施行規定の要点についてご案内します。
意見募集稿から変更があった主な内容
(1)強制的な登記抹消に関する細則の新設
新会社法では、強制的な登記抹消の規定が設けられています[3]。具体的には、営業許可証が取り消され閉鎖命令を受けた場合、又は、取り消された会社が3年間会社登記機関に登記抹消の申請を行わなかった場合に、会社登記機関が国家企業信用情報公示システムを通じて公告を行うことができます。公告期間は60日以上とされ、期間満了後に異議がない場合、会社登記機関は登記を抹消することができます。
施行規定では、この規定をさらに詳細に定めています[4]。公告期間中に、関連部門、債権者その他の利害関係者が会社登記機関に異議を申し立てない場合、会社登記機関は登記を抹消すると同時に、国家企業信用情報公示システムに特別な注記を行うこととされています。
この規定の主な目的は、名ばかりの実体のない会社を整理し、会社の正常な運営を確保することにあります。
(2)董事会に監査委員会を設置する規定の強調
新会社法により、株式会社は、監事会又は監事を置かずに、定款により董事会の中に董事で構成される監査委員会を設置し、本法で定められた監事会の職権を行使できると規定されました[5]。さらに、監査委員会の構成や職務についても具体的に定められています。
施行規定は、上場会社が会社法及び国務院の規定に従って、定款により董事会に監査委員会を設置する旨を定め、監査委員会の構成、職権などの事項を明記することが必要であると定めています[6]。上場会社における董事会に監査委員会を設置しなければならないことは、上場会社ガバナンス準則[7]にて義務付けられており、施行規定の定めはこのようなルールを改めて確認するものといえます。
他方、新会社法においては有限責任会社においても監査委員会を設置することを許容しているものの、そのルールは明確でなく、施行規定においても特段有限責任会社における監査委員会に関する内容は定められていません。有限責任会社における監査委員会の設置に関しては、引き続き今後より詳細なルールや規定が定められることを待つ必要があるといえそうです。
意見募集稿に規定があったが、施行規定で削除された主な内容
(1)特別減資制度
意見募集稿では、一定の条件を全て満たしている、新会社法施行前に既に設立済みの会社(以下「既存会社」といいます。)の減資に対して、国家企業信用情報公示システムを通じて20日間の公示を行い、その間に債権者からの異議申立てがなければ、既存会社が申請書や承諾書をもって減資の登記を行うことができる「特別減資」の定めが設けられていました[8]。しかし、施行規定においては、特別減資制度が導入されませんでした。これは、株主全員が減資前の会社債務について元の引受額の範囲内で連帯責任を負うことを条件としており[9]、実際には導入されても使いにくい制度となる可能性が高かったことが原因ではないかと考えられます。
(2)異常な会社などへの特別措置の調整
意見募集稿では、既存会社に「異常」があると判断される場合に、当該会社に対し、登記機関が一定の措置を講じることができる旨定めていました。
具体的には、まず、当該会社が形式的な判断基準(出資期限が30年を超え、又は出資額が10億人民元を超えること)と実質の判断基準(株主の出資能力、主な経営項目及び資産規模等の状況に基づいてその登録資本の真実性を検証すること)に照らして、出資期限、出資額に明らかな異常があると判断される場合には、出資期限を調整しうるとされていました[10]。
また、上記のほかに、有限責任会社において、登録資本が明らかに過大である、客観的な常識やその会社の所在する業界の特性に反している、株主に明らかに払込能力がない、といった真実性原則に違反しており、法律、行政法規及び国務院の決定に違反している場合には、会社登記機関が登記を行わないとされていました[11]。
しかし、施行規定では、意見募集稿で定められていた上記の内容について、次のとおり調整をしました。
まず、会社の出資期限、出資額に異常があるか否かの判断基準として、30年、10億元という形式的な基準は取り入れず、あくまでも会社や株主の実態に基づいた実質審査により判断することとされました。そして、当該実質審査をするにあたっては、意見募集稿にも列挙されていた株主の出資能力、主な経営項目及び資産規模の状況に加え、会社の経営範囲及び経営状況も考慮要素として例示列挙されました。このように、会社の異常性の判断基準に関して、意見募集稿に比べてより柔軟な内容とされたといえます。
また、上記基準に基づき、真実性、合理性の原則に反すると判断された場合には、出資期限、出資額について速やかな調整を要求できる、とのみ定められ、登記の拒絶までは明記されませんでした。
このように、新会社法と施行規定の施行により、会社の登録資本登記管理制度がより現実的で運用やすい形で見直され、明確な規定が設けられました。今後も引き続き、関連する法規制の動向に注目が必要です。
Authors:
山根 基宏
包城 偉豊
森本 祐輔
申 含章
[1] 国务院关于实施《中华人民共和国公司法》注册资本登记管理制度的规定
[2] 弊事務所「中国最新法令情報」2024年2月号参照https://www.tmi.gr.jp/uploads/2024/03/11/TMI_China_News_February_2024.pdf
[3] 新会社法第241条
[4] 施行規定第8条第2項
[5] 新会社法第121条
[6] 施行規定第12条
[7] 上市公司治理准则
[8] 意見募集稿第5条
[9] 意見募集稿第5条第1項第2号
[10] 意見募集稿第7条
[11] 意見募集稿第9条