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グリーンドライブ:日本の電気自動車とハイブリッド車の技術躍進を牽引する特許
2024.09.26
はじめに
日本の自動車産業は、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の技術開発において、環境負荷の低い次世代交通手段の開発を牽引する存在として世界的に認識されています。(※1,2)業界大手から新興企業まで、日本の特許ホルダーの総合的な取り組みにより、特許の戦略的活用と国際的な協力関係が強化され、次世代自動車業界における日本のリーダーシップが確立されつつあります。
持続可能な輸送手段のリーダーとして知られる日本の自動車産業は、電気自動車(EV)とハイブリッド車(HEV)の技術開発の最前線を走っています。この記事では、自動車メーカー間の重要な提携、戦略的な特許出願、EVとHEVの環境への影響など、これらの要素がどのように業界の革新と環境に配慮した取り組みを推進しているかを考察します。
イノベーションへの総合的アプローチ
日本企業が追求する包括的なイノベーション戦略は、電気自動車(EV)およびハイブリッド車(HEV)分野における特許出願件数の多さに反映されています。この包括的なアプローチには、特許出願だけでなく、標準化活動やライセンス供与や共同研究開発などの特許活用も含まれます。過去10年間で、日本企業はバッテリー技術や電気モーター駆動における世界的な特許出願に大きく貢献し、これらの技術の発展に強くコミットしていることを示してきました。(※3)トヨタ、ホンダ、ソニー、日産は電気自動車における日本の主要企業であり、パナソニックはリチウムイオン電池の分野において際立った存在です。また、自動車業界および関連業界では、コネクテッドカーに関連する5Gや6Gなどの通信規格や充電規格などの国際標準規格を活用し、ビジネスを強化しようとしている企業が多くあります。(※4,5)車両が充電スタンドと通信する際に使用する高出力充電規格には、TESLA、CHAdeMO、GB2、CCS1、CCS2などがあります。(※6)日本・中国の企業等が共同開発したCHAdeMOプロトコル3.0は2020年にリリースされました。(※7)主要な充電規格間の今後の競争の行方はまだ予測できませんが、EVの普及には継続的なイノベーションが不可欠です。
業界を形作るアライアンス
国内外を問わず、戦略的提携は不可欠です。自動車メーカー間の提携には、資本提携や技術提携、共同研究開発や生産、販売協力など、さまざまな形態があります。(※8)国内では、トヨタとパナソニックが提携し、ハイブリッド車の新モデルを市場に投入するまでの時間を短縮するために、先進的なバッテリー技術を共同開発したことが注目されます。(※9)さらに、ルノー・日産・三菱アライアンスは、研究開発リソースの共有に不可欠であり、その結果、世界市場で大きなシェアを獲得したいくつかの成功した EV モデルの発売につながりました。(※10)パナソニックは、リチウムイオン電池セルの供給において TESLA と提携しています。(※11)トヨタの国際的な提携の 1 つは、新エネルギー車用電池の供給におけるCATL との提携です。(※12)一般的に標準化の過程においては、世界中の参加企業間の力関係の調整と協力が必要となる場合が多くあります。EV業界の技術トレンドの方向性を創出すること、あるいはその一翼を担うことは、技術的優位性を確立する上で極めて重要です。
グローバル特許戦略
グローバルな特許情勢を鑑み、日本企業は、米国、日本、その他の地域や国々といった主要な電気自動車(EV)およびハイブリッド車(HEV)市場において、自社のイノベーションを国際的に認知させるために戦略的に特許出願を行っています。例えば、日本産業標準調査会(JIS)のパテントポリシーに述べられているように特許と規格は密接に関連しているため、この戦略には規格化会議前の早期出願、規格化手続きのフォローアップのための補正、分割出願が含まれます。(※13)また、企業の事業計画や将来の製品やサービスの国際展開に関する戦略的視点も考慮すべきでしょう。例えば、トヨタはCASE(コネクテッド、オートノマス、シェアード、エレクトリック)分野におけるグローバル特許投資を年々着実に増やしており、電気自動車市場におけるグローバルリーダーになることに力を注いでいることが分かります。(※14)各国や各地域では、国の規制、補助金政策、税制優遇措置に沿って電気自動車を導入するパターンが見られます。(※15)例えば、EUの法律では2035年以降、従来の自動車の生産が部分的に禁止されます。これらの補助金や税制優遇措置は、今後徐々に縮小されていくと言われていますが、それでも各地域や国におけるEVの普及状況に応じて、特許出願件数などの特許ポートフォリオを調整していく必要があります。さらに、前述の企業間の提携増加により、複数の企業による共同特許出願がさらに増加することが予想されます。
電気自動車産業の進化
日本がEVやハイブリッド技術にフォーカスすることによる経済・環境への影響は広範囲に及びます。(※16,17)2023年には、電気自動車の販売台数は世界で1,400万台に迫りました。(※18)米国では、2023年にEVとハイブリッド車の販売台数が、小型乗用車(LDV)の新車販売台数の16.3%にまで増加しました。(※19)日本では、2023年の時点で、EVとプラグインハイブリッド車(PHEV)を合わせたシェアは約3.7%、ハイブリッド車(HEV)のシェアは55.1%を占めており(下図1参照)、そのシェアは伸び続けています(下図2参照)。トヨタは2000年代初頭から、EVとHEVの両部門で研究開発費を増加させてきました。(※20)
[図1] 2019年および2023年の日本国内における新乗用車の燃料別販売台数シェア
注:燃料の種類には、HEV(ハイブリッド電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)、FCEV(燃料電池電気自動車)を含む。データは一般社団法人日本自動車工業会より引用。グラフは筆者が作成。
[図2]日本における次世代自動車の登録台数シェアの増加
出典:一般社団法人日本自動車工業会「日本の自動車産業2023年」より
図3の棒グラフは、2013年から2021年にかけて日本が20%のCO2排出量削減を達成したことを示しています。(※21)以下の図3の円グラフに示されているように、自動車からのCO2排出量は全体の15.1%を占めていることを考慮すると、この達成に貢献した要因の一つとして、自動車産業のグリーンシフトが挙げられるでしょう。世界各国の政策により、従来の自動車を排除する動きが加速し、環境にやさしい電気自動車へのグリーンシフトが促進されることが予想されます。ハイブリッド車は、頑丈で価格も手頃、しかも環境にやさしいという特徴を兼ね備えているため、充電ステーションが少ない地域では今後も増加すると思われます。
[図3]日本のCO2排出量
出典:一般社団法人日本自動車工業会「日本の自動車産業2023年」より
今後の展望
日本の自動車産業にとって、EVとHEVの業界は、課題とチャンスの両方を兼ね備えています。自動化とインテリジェントモビリティの導入により、業界内の競争はさらに激化する可能性があります。戦略的な特許取得と提携に支えられたイノベーションの継続は、日本の競争力を維持するために不可欠です。持続可能な交通ソリューションへの世界的なシフトに継続的に適応することで、日本の企業は自動車産業の進化を主導する立場にあります。
また、日本知的財産協会(JIPA)が提唱したWIPO Greenには、日本特許庁(JPO)や民間企業など、多くの日本の組織がパートナーとして参加しています。(※22)日本からのパートナーの1つであるグローバルモビリティサービス株式会社は、車両関連の特許技術を所有し、フィンテック技術を通して低所得者層への低排出車モデルの普及を促進することで排気ガス削減に貢献しています。(※23)このような取り組みは、次世代自動車の技術分野における持続可能なグリーンテクノロジーを特許制度を通じて支援するものです。
おわりに
EVおよびHEVに対する上述した戦略的アプローチは、変革への取組を通して日本各社のグローバルなトップリーダーとしての地位を確立するものです。次世代自動車業界がより環境に調和した未来へと向かう中、特許戦略と国際的な提携の相乗効果による、脱炭素社会の実現は今後とも注目に値することでしょう。
(※1)Power Technology “Q1 2024 update: electric vehicles related patent activity in the power,” ‘Toyota Motor filed the most electric vehicles patents within the power industry in Q1 2024.’ https://www.power-technology.com/data-insights/patent-activity-electricvehicles-power-industry/?cf-view
(※2) Car and Driver “What Is a Hybrid Car and How Do They Work?” ‘Honda is the most recent champion of this type, which powers the latest iterations of the Civic, CR-V, and Accord hybrids.’ https://www.caranddriver.com/features/a26390899/what-is-hybrid-car/
(※3)EV Industry Report “Trends in the industry” from SPEEDA database.
(※4) Torque News “Toyota Should Have Invested in Charging Infrastructure Like Tesla and This Is What Would Happen,” ‘Challenges and Considerations of Building a Nationwide EV Charging Network’ https://www.torquenews.com/1/toyota-should-have-invested-charging-infrastructure-tesla-and-what-would-happen
(※5) Mitsubishi Electric Corporation Intellectual Property Activities “IP Strategy for International Standardization” https://www.mitsubishielectric.com/en/about/rd/ip/rights/index.html
(※6)EVESCO “EV Charging Connector Types: A Complete Guide” https://www.power-sonic.com/blog/ev-charging-connector-types/
(※7)ChadeMo “High Power (ChaoJi) High Power roadmap” https://www.chademo.com/technology/high-power#:~:text=CHAdeMO%203.0%20(ChaoJi)&text=CHAdeMO%20and%20China%20Electricity%20Council,towards%20a%20harmonised%20future%20standard
(※8)“The motor industries of Japan 2023,” Japan Automobile Manufacturers Association, Inc., pp.25-26, “Japanese Automakers Forge Extensive International Alliances” https://www.jama.or.jp/english/reports/docs/MIoJ2023_e.pdf
(※9) Panasonic Press Release “Toyota and Panasonic Decide to Establish Joint VentureSpecializing in Automotive Prismatic Batteries” https://news.panasonic.com/global/press/en200203-4
(※10)“Renault-Nissan-Mitsubishi Alliance is the world’s leading automotive partnership,” ‘Solid Foundations,’ https://alliancernm.com/
(※11)Panasonic Press Release “PANASONIC AND TESLA REACH AGREEMENT TO EXPAND SUPPLY OF AUTOMOTIVE-GRADE BATTERY CELLS” https://news.panasonic.com/global/press/en131030-4
(※12)Toyota Newsroom “CATL and Toyota Form Comprehensive Partnership for New Energy Vehicle Batteries” https://global.toyota/en/newsroom/corporate/28913488.html
(※13) Japanese Industrial Standards Committee “Patent Policy” https://www.jisc.go.jp/policy/patentpolicy.html
(※14)EV Industry Report “Case study in EV `TOYOTA MOTOR CORPORATION`” from SPEEDA database.
(※15)EV Industry Report “EV Market Rapidly Taking Shape as Regulations Tighten and Subsidy Policies Take Root; IRA Tax Credit Requirements Tightened” from SPEEDA database.
(※16)“Toyota is hitting the gas on hybrids as EV sales cool. But what does that mean for the planet?” https://edition.cnn.com/2024/03/10/climate/hybrids-evs-toyota-climate-impact-int/index.html
(※17)Nissan Ambition 2030 “Accelerating electrified mobility with diverse choices and experiences” https://www.nissan-global.com/EN/COMPANY/PLAN/AMBITION2030/
(※18)Global EV Outlook 2024 “Electric car sales” https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2024/trends-in-electric-cars
(※19)In-brief Analysis, U.S. Energy Information Administration, “Electric vehicles and hybrids surpass 16% of total 2023 U.S. light-duty vehicle sales” https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=61344
(※20)R&D sections of the Toyota’s IR information from 2004 to 2023 from SPEEDA database.
(※21)COP28, Japan Ministry of Environment, p.3, “Japan's progress towards Net Zero 2050” https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai9/siryou2.pdf
(※22)Collaboration with WIPO GREEN, JPO, “Partners,” https://www.jpo.go.jp/e/news/kokusai/green.html
(※23)Collaboration with WIPO GREEN, JPO, “Activities of Japanese Partners Global Mobility Service Inc” https://www.jpo.go.jp/e/news/kokusai/green.html
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