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【ESG訴訟ブログ】米国におけるプラスチックリサイクルに関するグリーンウォッシュ訴訟
2024.10.03
はじめに
世界各国において様々な類型のESG訴訟が増加しています。
2024年9月23日、米国カリフォルニア州が、米国の大手石油会社であるエクソンモービルに対して、プラスチック汚染に関するグリーンウォッシュ訴訟(以下「本件訴訟」といいます。)を提起しました。このブログでは、原告であるカリフォルニア州が提出した訴状の内容を踏まえて、本件訴訟の概要をご紹介します。
本件訴訟の概要
2024年9月23日、カリフォルニア州は、エクソンモービルによるプラスチックの生産とリサイクルに関する誤解を招く広告が、環境汚染を悪化させたと主張して、カリフォルニア州裁判所に対して、訴えを提起しました。
原告はカリフォルニア州
カリフォルニア州政府法典では、州の自然を公害や環境汚染から保護するために、州の司法長官に対して、カリフォルニア州を代表して民事訴訟を行う権限を与えています(California Government Code Section 12607)。今回、カリフォルニア州は、エクソンのプラスチックに関する広告が誤解を招くものであり、それにより世界的なプラスチック汚染が生じたとして、エクソンの行為が、同州の民法(California Civil Code Sections 3479 and 3480)、政府法典(Government Code 12607)、魚類及び野生生物保護法(California Fish and Game Code 5650 and 5650.1)ビジネス及び職業法(虚偽広告、不正競争)(California Business and Professions Code Sections 17200 ,17500 and 17580.5)に違反していると主張して訴えを提起しています。
なお、カリフォルニア州の発表によると、カリフォルニア州は、2022年4月28日から、化石燃料及び石油化学産業が世界的なプラスチック汚染を生じさせた役割について調査を開始し、エクソンモービルや関連するプラスチック業界団体に対して、召喚状を発行して調査を行っていました[1]。本件訴訟は、これらの調査を踏まえて、提起されたものです。本件訴訟とは別に、カリフォルニア州は、エクソンモービルに対して、2023年9月にも、気候変動に関するグリーンウォッシュ訴訟[2]を提起しています。
なぜエクソンモービルが被告なのか
エクソンモービルは、米国の大手エネルギー企業であり、エネルギー資源の探鉱・生産、輸送、精製、販売までを自社の会社組織で行う垂直統合型の企業として知られていますが、プラスチック製品の原料となるプラスチックポリマーの生産量でも世界的シェアを誇る企業です。今回、原告は、使い捨てプラスチック製品の製造会社を直接かつ個別に被告とするのではなく、その上流において原料となるプラスチックポリマーを製造販売しているエクソンモービルを被告としています。
カリフォルニア州は、エクソンモービルのどのような行為を問題としたか。
カリフォルニア州の主張は、要するに、エクソンモービルがプラスチック生産に関して消費者に誤解を与える広告を長年行い、プラスチック廃棄物のリサイクルが効果的で持続可能であると偽ったというものです。
カリフォルニア州が問題として指摘する広告は多岐に上りますが、訴状の具体的な記載を見ると、エクソンモービルの最近のツイッターやYouTubeにおける投稿についても指摘して、エクソンモービルは、実際にはリサイクルがごくわずかの廃棄物しか処理できないことを認識していながら、先進的なリサイクル技術についての限界にも触れることなく、あたかもプラスチックのリサイクルによりプラ廃棄物問題が解決されるかのように宣伝した点が問題であると主張しています。そのため、この訴訟はグリーンウォッシュ訴訟の一例であると考えられます。
カリフォルニア州は裁判所に対して何を求めているか。
原告であるカリフォルニア州は、本件訴訟を通じて、以下のような命令をエクソンモービルにするように求めています。
- 公共の迷惑行為に対する是正措置として、プラスチック廃棄物の減少や管理に関する具体的な対応策の実施
- 州の自然資源や住民に対して生じた損害の補償
- さらに、エクソンモービルの誤解を招く広告やマーケティング活動の差し止め
- 公正な広告活動の遂行、特にリサイクルに関する現実的な情報提供の義務付け
- 併せて、エクソンモービルが広告や商業行為が消費者を誤解させたとして、広告行為1件ごとに2,500ドルの罰金の支払い
本件訴訟は、訴状が提出された段階であり、裁判所がどのように判断するのかは、現時点で不明です。また、仮に、原告の主張のとおり、消費量に比して、プラスチックのリサイクルが追い付いていない現状があるとしても、製品を製造・販売した企業にどこまで責任を問えるのか、過去の時点における将来への展望を述べた企業の広告に問題があったとまでいえるのかについては、法律論上も議論があり得るところと思われます。
廃棄物・リサイクル分野もグリーンウォッシュ訴訟対象に
近年、世界各国で、気候変動訴訟などESG関連の訴訟が増加しており、注目を集めていますが、中でも、本件は、プラスチックリサイクルやマイクロプラスチックによる環境汚染に焦点を当てたものとして特色があります。また、前述のとおり、プラスチック製造メーカーではなく、その上流のプラ原料製造メーカーを被告としたことも特徴的です。
さいごに グリーンウォッシュ訴訟の動向を注視する必要性
グリーンウォッシュについては、日本においても、2008年に、古紙パルプ配合率のエコ偽装問題について、公正取引委員会が、製紙メーカー数社に対して、景品表示法上の優良誤認表示であるとして措置命令を実施した事例、2022年に、消費者庁が、生分解性プラスチックの販売事業者10社に対して、「生分解されるので地球に優しい」などと根拠なく製品表示したことが景品表示法上の優良誤認表示にあたるとして措置命令を実施した事例などがあります。このような過去の事例からも分かるように、グリーンウォッシュについては、日本において問題になる場合には、企業の不法行為だけではなく、景品等表示法、不正競争防止法、独占禁止法などの企業の広告に関する規制が問題になる点で、従来の環境訴訟とは異なる特色があります。
昨今のESGの動向を受けて、日本の企業においても、持続可能性やサステナビリティに着目した広告・宣伝活動が行われる機会は増加していると思われ、そのような広告・宣伝活動の妥当性についてどのようにチェックしてリスク管理していくかという問題について、グリーンウォッシュ訴訟の動向も踏まえながら、企業法務・リスク管理の観点からも、引き続き注目していく必要があります。
[1] Attorney General Bonta Sues ExxonMobil for Deceiving the Public on Recyclability of Plastic Products | State of California - Department of Justice - Office of the Attorney General
[2] People v. Exxon Mobil Corp. San Francisco Superior Court, Case No. CGC-23-609134