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【欧州】【商標】欧州における商標の最新動向
2024.10.07
欧州における商標の最新動向として、著名商標を巡る裁判事例、及び、国際商標協会による欧州一般裁判所の判断への介入声明を紹介します。
PUMA vs PUMA BERTRAND (Puma商標の名声が一部否定された事例)
Case T-184/23、判決日2024年2月28日
Puma SEは、Société d'Équipements de Boulangerie Pâtisserieが「産業用ベーカリー用の機械器具等」を第7類、第9類、第11類の商品に対して出願した商標「図形+BERTRAND/PUMA」(Trademark number 0108046533)に対して、第25類「被服、履物、帽子等」を指定する商標「図形+PUMA」(Trademark number 012579694)号に基づいて、異議申立、EUIPOへの不服申し立てを行ったが、当該不服申立が受け入れられず登録が維持されたため、欧州一般裁判所に提訴しました。
出展:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/trademarks/018046533
出展:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/trademarks/012579694
裁判所は、「図形+BERTRAND/PUMA」がネコ科と思しき図形とPUMAを構成要素に有しているとしても、図形、BERTRAND、PUMAが商標の構成要素であり、出願商標から「BERTRAND」を排除して先行商標と関連付けることはできないと判断しました。また、裁判所は、Pumaの商標がスポーツ用品及び衣服の分野において高い評価を得ているとしても、これら商品と産業用ベーカリー用の機械器具は、製造及び販売のルートが異なり、一緒に使用されることがないため、共通点はなく、需要者が商標を関連付ける可能性は低いと結論付けました。
更に、「PUMA」と「BERTRAND PUMA」は、「BERTRAND」の有無において異なっており、「BERTRAND PUMA」は、人物を示していると認識される可能性が高いと判断され、訴えが棄却されました。
McDonald’s vs Supermac’s (McDonaldが商標「BIG MAC」の権利の一部を失った事例)
Case T‑758/23、判決日2024年6月5日
アイルランドのファストフードチェーンSupermac's (Holdings) Ltd.は、McDonald's International Property Company, Ltd.が所有する、商標「BIG MAC」(Trademark number 62638)に対して、2017年に不使用取消を申請しました。欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、Supermacの申請を一部認めたものの、ミート・チキンサンドイッチ、レストランサービス、ドライブスルー施設に関しては、商標「BIG MAC」の維持を認めました。この決定を不服とし、Supermacは、第29類及び第30類の商品「チキンサンドイッチ」、第29類の商品「家畜製品から調理された食品」、第42類の「消費者及びドライブスルー施設用に調理された飲食物の提供に関するレストランサービス又は持ち帰り食品の調理」における真正な使用を争うため、欧州連合一般裁判所に上訴しました。商標「BIG MAC」が「ミートサンドイッチ」に使用されていることは、不使用取消審判で認められているため、マクドナルド側は「ミートサンドイッチ」は「チキンサンドイッチ」も対象にしていると主張したものの、「ビーフ入りサンドイッチ」に関する使用証拠は「チキンサンドイッチ」に関する商標の使用を証明したものではないと判断されました。そこで、訴訟では、特に、商標「BIG MAC」がチキンサンドイッチに使用された否かが中心に争われました。
マクドナルド側は、「BIG MAC」が、チキンサンドイッチに使用されたと主張し、使用証拠として、広告のプリントアウト、テレビCMのスクリーンショット、Facebookアカウントのスクリーンショットを提出しました。
広告の写し Facebookのスクリーンショット
裁判所は、提出された証拠は、商品の販売量、どのような規則性と反復性で商品が販売されていたかは明らかにしておらず、商品の発売期間も明らかではないと判断し、価格の表示もないと判断しました。更に、提出された証拠の一部には「機密」の文字が含まれていたことから、証拠は、争点となる商標の使用を十分には証明していないと結論づけ、最終的に、商標「BIG MAC」(Trademark number 62638)は、第29類及び第30類の商品「チキンサンドイッチ」、第29類の商品「家畜製品から調理された食品」、第42類の「消費者及びドライブスルー施設用に調理された飲食物の提供に関するレストランサービス又は持ち帰り食品の調理」に使用されていないと判断しました。
TOUR DE FRANCE vs TOUR DE X
Case T-604//22、判決日2024年6月12日
ドイツのフィットネススタジオチェーンFitX Beteiligungs GmbHが第25、28、41類で出願した商標「TOUR DE X」(Trademark number 16701039)に対して、Société du Tour de Franceは、商標登録「TOUR DE FRANCE」(国際登録番号329298等)及び欧州登録商標「LE TOUR DE FRANCE」(Trademark number3530557)との関係で混同を生じさせ、更に、TOUR DE FRANCEの名声を不当に利用するものであると主張し、TOUR DE Xに異議を申し立てたものの、当該主張が受け入れられず、登録が維持されたため、一般裁判所に訴訟を提起しました。
出展:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/trademarks/016701039
出展:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/trademarks/003530557
裁判所は、TOUR DEという要素が自転車競技の文脈で「ごく一般的に」使用されており、TOUR DE FRANCEの文字標章は支配的要素を含まず、各要素は自転車競技または関連商品との関連において「特徴的な性質はほとんどなく、記述的である」と判断しました。また、「TOUR DE FRANCE」と「LE TOUR DE FRANCE」の使用によって獲得された識別力は、「TOUR DE」の要素には及ばないと判断しました。一方、「TOUR DE X」については、「X」の文字が最も特徴的かつ支配的な要素であると判断し、「TOUR DE FRANCE」、「LE TOUR DE FRANCE」、「TOUR DE X」は、外観及び称呼における類似性は低く、「TOUR DE」において一致するとしても、関連する公衆に商標の関連性を認識させることはないとの判断が示されました。
国際商標協会(INTA)、欧州商標貿易協会(MARQUES)による欧州連合一般裁判所への介入声明
ガソリンスタンドを経営するオーストリアの石油化学会社OMV Aktiengesellschaftは、エネルギー、燃料、ガソリンスタンド等に対して、ゲンチアンブルー(RAL 5010)とイエローグリーン(RAL 6018)の組み合わせからなる色彩商標を出願しましたが(国際登録番号1593116)、EUIPOは、青と緑はそれぞれ環境に優しい色として知られており、青と緑は、エネルギー分野の商品、役務に使用されていると判断し、商標の識別力を否定しました。
この決定に対して、国際商標協会(INTA)は2024年7月24日に、MARQUESは2024年7月16日に色彩の組み合わせからなる商標に関する欧州連合一般裁判所の判断に介入する声明を提出しました。
出展:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/trademarks/W01593116
INTA及びMARQUESの声明の内容はほぼ一致しており、裁判所の決定は商標の識別力を誤って評価していると主張するものであり、以下の声明が提出されました。
①色彩の組み合わせからなる商標は、他の商標と同様に評価されるべきであり、単色の商標に適用されるような特別に厳格なテストを適用すべきではない。
②裁判所は、色の具体的な配置を十分に考慮しておらず、色彩商標の色の配置は、出願された商標に基づいて検討されるべきであり、商標の識別性の評価の一部であるべきである。
③裁判では、ガソリンスタンド業界で、サービスを区別するために色の組み合わせを使用することが定着していることが考慮されていない。業界における市場の実情は、公衆が特定の標章を、商標として認識していると証明するために役立ち、その結果、一般的には商標として認識されない標章が識別力を備えると判断される可能性があるため、十分に考慮されるべきである。
おわりに
今回取り上げた判例は、日本でも著名な商標が、いずれも敗訴した事例となります。これらの判例は、商標が著名性を有しているとしても、商標の使用実情等に照らし合わせて、商標の類否、識別力、使用による保護には限界があること示唆しています。また、色彩の組み合わせからなる商標における声明も、市場の実情を考慮すべきことが示唆していることから、欧州では、使用、市場の実情に重きを置く判断が尊重される傾向にあると考えられます。なお、INTA及び、欧州で影響力を有すると思われるMARQUESによる声明は、色彩商標の識別力を厳格に判断する傾向に、一石を投じた可能性があり、今後、裁判所の判断がどのように変化するかが待たれるところです。
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