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【裁判例】【商標】「Nepal Tiger」「Tibet Tiger」「Tibetan Tiger」審決取消訴訟について
2024.12.27
今回は商標の識別力に関する「Nepal Tiger」審決取消訴訟(令和5年(行ケ)第10115号)及び「Tibet Tiger」審決取消訴訟(令和5年(行ケ)第10116号)についてご紹介します。
何れも「Tiger」を有し、国名や地名に関する語と「Tiger」を組み合わせた商標となりますが、「Nepal Tiger」については識別力が肯定された一方で、「Tibet Tiger」並びに「Tibetan Tiger」は識別力が否定されています。
その差は指定商品に関する取引実情とその判断にあると考えられます。以下では特許庁の原審決並びに知財高裁の判断について概説いたします。
なお、「Tibetan Tiger」(令和5年(行ケ)第10114号)についても「Tibet Tiger」とほぼ同様の識別力が否定されております、本事案についても簡単に言及いたします。
特許庁の原審決
(1)「Tibet Tiger」事件(令和5年(行ケ)第10116号)
本件については、チベットやネパールがじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、チベット民族やネパール在住のチベット難民によって手織りされているじゅうたんが「チベットじゅうたん」と称されている実情や、トラのモチーフの「チベットじゅうたん」は位の高い僧侶のための由緒あるものといわれ、トラの図柄又はトラの形状を模した「チベットじゅうたん」が、生産地及び販売地を表す「チベタン(Tibetan)、チベット(Tibet)」とトラを意味する「Tiger(タイガー)」とを組み合わせて「Tibetan Tiger (Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チベットタイガー(カーペット)」等と称されている等の実情を認定し、本願商標を「チベットで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模したじゅうたん」等に使用しても識別標識として機能せず、商標法3条1項3号(品質表示)に該当し、特定の品質以外の「じゅうたん」等に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあり商標法第4条第1項第16号(品質誤認)に該当すると認定されています。
なお、商標法第3条2項(使用による識別力の獲得)についても主張を行ったものの、当該主張は認められませんでした。
(2)「Nepal Tiger」事件
本件については、「Tibet Tiger」で認定された実情に加え、「チベットじゅうたん」がネパールでも生産及び販売されている実情が考慮され、本願商標を「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模したじゅうたん」等に使用しても識別標識として機能せず、商標法3条1項3号に該当し、それ以外の「じゅうたん」等に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあり商標法第4条第1項第16号に該当する、と認定されています。
知財高裁の判断
知財高裁においても商標法3条1項3号及び同法4条1項16号の該当性が争われましたが、知財高裁は、各事件において異なる判決を下しました。
(1)「Tibet Tiger」事件
本件については、特許庁の原審決を支持し、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとして出願人の主張を斥けました。本判決では、特許庁の原審決と同様の取引の実情が認定され、「Tibet Tiger」は識別標識として機能しないとの判断に至っています。
なお、原告の商標法第3条2項該当性の主張についても使用期間、販売数量等について十分な立証がないとして当該主張を斥けています。
(2)「Nepal Tiger」事件
本事件については、特許庁の主張を斥け、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当しないとして出願人の主張を認容しました。
本判決では、チベットからネパールに移住した者又はチベット難民がネパールでじゅうたんの生産を行っていること、ネパールで生産されたじゅうたんに「チベットじゅうたん」「チベタンじゅうたん」「チベタンラグ」などの名称が使用されていること、トラの図柄又はトラの形状を模したじゅうたんを紹介するに当たって「タイガー」の語が用いられていること、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」を「チベタンタイガーラグ」又は「チベタンタイガーカーペット」と称されていること、ネパールで生産された又はネパールから輸入したトラの形状を模したじゅうたんが存在すること等の取引の実情が認定されています。しかしながら、「Nepal Tiger(ネパールタイガー)」の文字が一体で用いられておらず、また「Nepal Tiger」が「ネパールで生産された、トラの図柄を描いた、あるいはトラの形状を模した、じゅうたん」等を意味する語として取引者等によって実際に使用されている取引の実情が存在しないことから、「Nepal Tiger」は識別標識としての機能を有するとの結論に至っています。
コメント
各商標の取引者はいずれもじゅうたん類の製造業者及び販売業者であり、需要者は一般の消費者であるといえます。
「Tibet Tiger」については、トラの図柄又はトラの形状のチベットじゅうたん等に使用した場合、取引者・需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、あるいはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとどまると判示されています。これは、実際に「チベットじゅうたん」と称されるじゅうたんが存在し、また、トラの図柄又はトラの形状の「チベットじゅうたん」が「Tibetan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」、「チベットタイガー(ラグ)」等と称されて販売されている等の取引の実情が考慮された結果と考えられます。
他方、「Nepal Tiger」については、指定商品に使用された場合、取引者・需要者は、商品の産地、販売地又は品質を表示したものであると直ちに認識しないと判示されています。これは、ネパールに「チベットじゅうたん」の生産地が含まれ、また、チベット民族やチベット難民がネパールに居住しているとしても、「ネパールじゅうたん」と称されるじゅうたんは実際に存在せず、また、トラの図柄又はトラの形状の「チベットじゅうたん」が「Nepal Tiger」、「ネパールタイガー」等と称されて販売されている事実はないとの認定に基づきます。当該判断は具体的な取引実情を踏まえた判断といえ一定の妥当性があると考えます。
しかしながら、「Nepal Tiger」に接した取引者や需要者が「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラ形状を模したじゅうたん」といった品質を想起することも考えられ、本判示には若干の疑問が残ります。また、構成中に国名を含む商標にあっては、それに接する取引者・需要者が、当該国で生産又は販売された商品であると認識する可能性もあると思われるため、品質誤認が生じないように指定商品に「ネパールで生産又は販売される・・」といった限定をする必要もあるのではないかと思います。
まとめ
各事件において、「Tibet Tiger」または「Nepal Tiger」の語が、実際に指定商品に関連して使用されている事実が存在するか否かが、各商標が商品の品質等表示に該当するか否かの判断の決め手となり、商標の識別力の有無は実際に市場に流通している商品との関係で変動することが示されました。
なお、「Tibetan Tiger」(令和5年(行ケ)第10114号)についても「Tibet Tiger」とほぼ同様の理由で識別力が否定されています。各時点の認定から「チベットタイガー(ラグ)」よりも「チベタンタイガー(ラグ)」といった使用がより一般的と理解でき、当該判断には首肯できます。
また、これらの3件は全て異なる部で判断されたものとなりますが、指定商品の取引実情を加味して識別標識として機能しうるかを判断している点は共通しており、商標の識別力の有無を判断するにあたっては、語句から生じる意味合いのほか、指定商品の実際の取引の実情まで踏み込んだ慎重な検討が必要です。
参考までに各事件における裁判所の認定と判断の相違を下表に示します。
<事案の概要>
事件番号 |
令和5年(行ケ)第10116号 |
令和5年(行ケ)第10115号 |
商標登録出願の内容 |
商標:Tibet Tiger 指定商品及び商品の区分:第27類 じゅうたん他 |
商標:Nepal Tiger 指定商品及び商品の区分:第27類 じゅうたん他 |
特許庁の拒絶審決の要旨 |
<商標法3条1項3号該当性> 本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。 |
<商標法3条1項3号該当性> 本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。 |
1.本願商標から生じる意味合い 本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させる。 |
1.本願商標から生じる意味合い 本願商標は、構成全体として「ネパールのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させるものである。 |
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2.取引の実情 ・チベットやネパールは、じゅうたんの生産地及び販売地として世界的に知られており、じゅうたんは、チベット民族の伝統的な手工芸品であって、チベット民族や、ネパールに在住しているチベット難民によって手織りされているじゅうたんを「チベットじゅうたん」と称されている。 ・「チベットじゅうたん」の中でもトラのモチーフは、位の高い僧侶のためにつくられていたことから由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び販売地の地域を表す語(チベタン(Tibetan)、チベット(Tibet))とトラを意味する「Tiger(タイガー)」とを組み合わせて「Tibetan Tiger (Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チベットタイガー(カーペット)」などと称されている。 |
2.取引の実情 ・チベットやネパールは、じゅうたんの生産地及び販売地として世界的に知られており、じゅうたんは、チベット民族の伝統的な手工芸品であって、チベット民族や、ネパールに在住しているチベット難民によって手織りされているじゅうたんを「チベットじゅうたん」と称されている。 ・「チベットじゅうたん」の中でもトラのモチーフは、位の高い僧侶のためにつくられていたことから由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び販売地の地域を表す語(チベタン(Tibetan)、チベット(Tibet))とトラを意味する「Tiger(タイガー)」とを組み合わせて「Tibetan Tiger (Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チベットタイガー(カーペット)」などと称されている。 |
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3. 品質表示該当性 「Tibet Tiger」の文字よりなる本願商標をその指定商品中「チベットで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模したじゅうたん,チベットで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した敷物,チベットで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模したラグ」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地、品質を表示したものと理解するにとどまり、自他商品の識別標識とは認識しない。 |
3.品質表示該当性 「チベットじゅうたん」がネパールでも生産及び販売されているということも併せ考慮すれば、「Nepal Tiger」の文字よりなる本願商標をその指定商品中「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模したじゅうたん,ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した敷物,ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模したラグ」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地、品質を表示したものと理解するにとどまり、自他商品の識別標識とは認識しない。 |
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<商標法3条2項該当性> 本願商標は商標法第3条第2項に該当しない。
理由:請求人が本願商標を第三者よりも先に使用して信用形成に貢献したと客観的に認めることはできず、仮に請求人の主張のとおり、請求人が本願商標を第三者よりも先に使用していたとしても、上記のとおり、本願商標は自他商品の識別力を有さないものと判断するのが相当である。 |
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<商標法4条1項16号該当性> 上記商品以外の「じゅうたん,敷物,ラグ」に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。 |
<商標法4条1項16号> 上記商品以外の「じゅうたん,敷物,ラグ」に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。 |
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原告(出願人)の主張 ※知財高裁の判断が示されていない主張は省略している。 |
<商標法3条1項3号該当性> 本願商標は商標法3条1項3号に該当しない。 |
<商標法3条1項3号該当性> 本願商標は商標法3条1項3号に該当しない。 |
1.本願商標から生じる意味合い 本願商標は、「Tibet Tiger」という一つの意味合いを生じる一種の造語を表したものとして認識される。日本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必ずしも著名ではなく、トラの分類を考えてもベンガルトラ、アムールトラなどは存在するものの、チベットトラという亜種(分類)は存在しない。本願商標は、本件審決等が認定した意味合いである「チベットに生息するトラ」、「チベットのトラ」を直接的かつ具体的に表示したものではない。 |
1.本願商標から生じる意味合い 我が国の取引者・需要者にとって、ネパールという地名は必ずしも著名ではなく、トラの分類において、ネパールトラという亜種(分類)は存在せず、「ネパールトラ」という名称も、取引者・需要者にとっては馴染みがない。したがって、本願商標は、あくまでも「Nepal Tiger」という一つの意味合いを生じる一種の造語として認識される。 「Nepal Tiger」は、「ネパールに生息するトラ」や「ネパールのトラ」とは同義でなく、これらの事項を直接的かつ具体的に表示したものでもない。仮に、「ネパールのトラ」という概念が想起されるとしても、「虎」や「トラ」の語は、人物に関する表現において比喩的に用いられることが多くあり、動物のトラの亜種のみを想起させる概念ではない。換言すれば、本願商標の「Nepal」と「Tiger」との結びつきが希薄であるために、本願商標の意味合いについて取引者、需要者の間で共通の認識は生じていない。 |
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2. 品質表示該当性 本願の指定商品はトラの体及び肉・内臓を直接的に使用した商品ではないから、本願商標は指定商品との関係では商品の特徴等を直接的に表示するものではない。仮に本願商標が商品の産地又は販売地、品質等を想起させるとしても、それは意味合いを暗示させるにすぎない。 |
2. 品質表示該当性 意味・認識が一義的に定まらない完全な造語である「Nepal Tiger」が、本願の指定商品との関係において、商品の品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な商標であるとはいえない。 本願の指定商品の取引の実情を考慮しても、本願商標の指定商品の取引者、需要者は、本願商標を見て、単に商品の産地又は販売地、品質を表示したものと一義的に認識することができるとはいえず、また、そのような理解に至る根拠もない。 本願商標が、その指定商品を示すための商標として使用された事実はないから、本願商標は、その指定商品との取引に際し、必要適切な表示として何人もその使用を欲するものとはいえない。したがって、原告による独占使用を認めても、公益上の観点から非難されるものではない。 上記によれば、本願商標は、その指定商品について、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるとはいえない。 |
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3.認定証拠の信用性について 本件審決が判断の根拠としたインターネット情報は、広辞苑等の公式的な辞典ではなく、個人が自由に作成するものであり、取引者・需要者が商品の産地・販売地等として認識するほどの影響力は発揮しない。仮に複数のウェブサイトやブログで共通の内容が記載されているとしても、共通の担当者による文書作成であるか、あるいは単に内容を模倣しただけの可能性も少なくなく、このような出所も分からないような正体不明のネット情報で、しかも審判段階で提出されていない証拠までを根拠として、商標法3条1項3号該当性を判断することは違法である。
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3.取引の実情 ・本願の指定商品の需要者が、チベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地であると認識しているという事実は認められない。 ・本件で提出された証拠によっても、じゅうたん、ラグ等の関係において、「Nepal Tiger」という一体の文字が独立して使用されている事実は存在せず、本願商標がその指定商品に使用されている事実は存在しない。 ・本件審決で挙げられたウェブサイトは、「チベタンタイガー(ラグ)」、「チベットタイガー(カーペット)」に関する事実に関するものとされているが、商品の販売サイトであるこれらのウェブサイトには、商品の説明と「チべタンタイガーラグ」との記載が併記されているだけであり、「チベット」と「ネパール」との結びつきを説明する文言や、「ネパール」と「トラ」との結びつきを示唆する説明は一切記載されておらず、上記六つのウェブサイトの記載からは、「ネパールタイガー」というイメージや認識が想起されず、本願商標が商品の産地・販売地・品質等として認識されていることを示すものとはいえない。 ・乙号証において「Nepal Tiger」の文字が一体で用いられていることはなく、本願商標の「Nepal Tiger」の文字が、その指定商品を扱う業界において、商品の品質、原材料、産地等を表示するものとして普通に用いられている事実は存在しない。また、仮に乙号証の全ての記事を把握している本願の指定商品に関する取引者、需要者が実在したとしても、「Nepal Tiger」という造語を想起することはなく、「Nepal Tiger」という造語を見た時に、本願の指定商品の品質等として認識することもない。 |
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4.公益性の観点について 本願商標を構成する「Tibet Tiger」という文字は、原告が事業において「チベタンタイガー」として使用していた商標である。原告は、平成30年8月21日から現在まで使用品の販売を継続し、その商品に「チベタンタイガー」の文字を使用している。原告の商品の販売実績は他の業者のそれを大きく凌駕しており、原告による商品の販売実績によって「チベタンタイガー」、「チベタンタイガーラグ」の文字が広く世間に認識されている。原告が本願商標に係る商標権を取得することは公益的な観点からも許されるべきである。 |
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<商標法3条2項該当性> 原告は、本願商標を長年にわたり継続的に使用しており、その結果、本願商標は原告の商標として認識され始め、現在に至っているから、本願商標は商標法3条2項によって登録されるべきである。 |
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<商標法4条1項16号該当性> 本願商標は商標法3条1項3号に該当せず、本願商標が指定商品である「じゅうたん、敷物、ラグ」などに使用されても、商品の品質の誤認を生じるおそれもないから、同法4条1項16号に該当しない。 |
<商標法4条1項16号該当性> 本願商標は商標法3条1項3号に該当しないから、同法4条1項16号に該当しない。 |
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被告(特許庁)の主張 ※知財高裁の判断が示されていない主張は省略している。 |
<商標法3条1項3号該当性> 本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。 |
<商標法3条1項3号該当性> 本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。 |
1.本願商標から生じる意味合い 本願商標は、一義的に「ネパールのトラ」ほどの意味合いを理解、認識させる。 |
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2.取引の実情 ・本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、ネパールは、古くから手織りじゅうたんの生産が盛んな地域として知られていること、及びじゅうたんの生産又は販売の地域を表す語として使用されている。 ・また、本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、「Tiger」や「タイガー」の文字が、トラ柄又はトラの図柄、トラの形状等を表す語として一般に使用されている。 ・トラの図柄を描いた、あるいはトラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産又は販売地域を表す語「Tibetan(チベタン)」、「Tibet(チベット)」とトラを意味する「Tiger(タイガー)」を組み合わせて「Tibetan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チベットタイガー(カーペット)」などと称されている。 ・当該じゅうたんがネパールでも生産されている。 ・本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、本願商標を構成する「Nepal」及び「Tiger」の文字は、生産又は販売の地域を表す「Nepal(ネパール)」と、トラの図柄やトラの形状を表す「Tiger(タイガー)」の文字を結合したものであるといえる。 |
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3. 品質表示該当性 「Nepal Tiger」の文字からなる本願商標をその指定商品中「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラ形状を模したじゅうたん、敷物、ラグ」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に、商品の生産又は販売の地域及び商品の品質を表示したものと理解するにとどまるといえる。 したがって、本願商標は、商品の生産又は販売の地域や図柄といった商品の品質を表示するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標が上記商品に使用された場合に、当該商標の取引者、需要者によって、将来を含め、商品の品質を表示したものと一般に認識されるというべきであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、自他商品の識別力を欠く。 |
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<商標法3条2項該当性> 本願商標は、商標法第3条第2項に該当しない。 |
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<商標法4条1項16号該当性> 本願商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。 ※主張内容は下記の知財高裁の判断と同趣旨であるため省略する。 |
<商標法4条1項16号該当性> 本願商標は、これを「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラ形状を模したじゅうたん、敷物、ラグ」以外の「じゅうたん、敷物、ラグ」に使用するときは、当該商品があたかも「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラ形状を模したじゅうたん、敷物、ラグ」であるかのように商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、商標法4条1項16号に該当する。 |
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知財高裁の判断 |
<商標法3条1項3号該当性> 本願商標は商標法3条1項3号に該当する。 |
<商標法3条1項3号該当性> 本願商標は商標法3条1項3号に該当しない。 |
1.判断基準 商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。・・・)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、商標登録を受けることができない旨を規定しているが、これは、同号掲記の標章は、商品の産地、販売地その他の特性を表示、記述する標章であって、取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないことから、登録を許さないとしたものである。 |
1.判断基準 商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されているのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・集民126号507頁)。 そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の産地、販売地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の産地、販売又は品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認識されるものであるか否かによって判断すべきである。そして、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。 |
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2.本願商標から生じる意味合い 本願商標の構成中の「Tibet」の文字は「チベット(中国南西部の自治区)」を意味する英語であり、「Tiger」の文字は「トラ」を意味する英語であって、これらはいずれも平易な英単語として我が国においても一般に親しまれている。本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められる。日本の取引者・需要者にとってチベットという地名が必ずしも著名でないことを認めるに足りる証拠はなく、また、チベットトラという亜種(分類)が存在しないことは上記認定を妨げるものではない。 |
2.本願商標から生じる意味合い 「Nepal Tiger」は国家(ネパール)を示す「Nepal」と「トラ」を意味する「Tiger」の語を組み合わせたものであるところ、「Nepal Tiger」の語句が一体のものとして辞書等に採録されているとは認められず、トラに関する亜種の名称や通称名等として「Nepal Tiger」、「ネパールタイガー」又は「ネパールトラ」と呼ばれるものがあるとも認められない。そうすると、「Nepal Tiger」の語句は、通常は組み合わされることのない「Nepal」の語と「Tiger」の語とが組み合わされ、まとまりよく一体的に表されたものであるといえることからすれば、これを一体として組み合わされた一種の造語とみるのが相当である。 |
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3.取引の実情 提出された証拠より以下の事実が認められる。 ・チベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされているじゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されている。 ・また、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Tiger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうたん」の中でも、トラのモチーフは、位の高い僧侶のために作られていたことから格の高い文様、由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tibet〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibetan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されている。 |
3.取引の実情 提出された証拠より以下の事実が認められる。 ・ネパールにおいてじゅうたんの生産が行われている。 ・チベットからネパールに移住した者、あるいはチベット難民がネパールにおいてじゅうたんの生産に従事しているとするウェブサイト等の記載が複数存在する。 ・ネパールで生産されたじゅうたんを「チベットじゅうたん」あるいはこれに類する「チベタンじゅうたん」「チベタンラグ」などの名称で表示するウェブサイト等の記載が複数存在する。 ・トラの図柄が描かれたじゅうたん又はトラの形状を模したじゅうたんを紹介するに当たって「タイガー」の語を用いているウェブサイトの記載が複数存在する。 ・トラの形状を模した「チベットじゅうたん」(あるいは「チベタンじゅうたん」「チベタンラグ」)を「チベタンタイガーラグ」又は「チベタンタイガーカーペット」との名称で表示するウェブサイト等の記載が複数存在する。 ・ネパールで生産されたもの又はネパールから輸入したものであるトラの形状を模したじゅうたんを紹介するウェブサイト等の記載が複数存在する。 しかし、本件の全証拠によっても、本願の指定商品に関連するウェブサイト等の記載において「Nepal Tiger」又は「ネパールタイガー」の文字が一体として用いられたものがあるとは認められない。 したがって、「Nepal Tiger」の語句が、一体として「ネパールで生産された、トラの図柄を描いた、あるいはトラの形状を模した、じゅうたん、ラグ」を意味するものとして、じゅうたんの取引者等によって使用されている取引の実情が存在するとは認められず、その他の本願の指定商品に関連して「Nepal Tiger」の語句が一体として用いられる取引の実情が存在するとも認められない。 |
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4. 品質表示該当性 上記の取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、あるいはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとどまるというべきである。 |
4. 品質表示該当性 本願商標の指定商品の内容からすれば、本願商標の取引者はじゅうたん類の製造業者及び販売業者であり、需要者は一般の消費者であると認められる。そして、上記のとおり、「Nepal Tiger」の語句は、これが本願の指定商品に関連して用いられる取引の実情があるとは認められず、かつ、一体として組み合わされた一種の造語であるとみるのが相当であることからすれば、本願商標の取引者及び需要者は、「Nepal Tiger」の語句について、指定商品に係る商品の産地、販売地又は品質を表示したものであると直ちに認識するものではないというべきである。 |
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5.認定証拠の信用性について 前記の認定証拠について、その信用性を疑わしめる事情は見当たらない。 |
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6.公益性の観点について 商標法3条2項の規定による識別力の獲得が認められる場合は別として、公益性の観点から商標法3条1項3号該当性を否定する原告の主張は独自の見解に基づくものであり、採用できない。 |
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<商標法3条2項該当性> 本願商標は商標法3条2項に該当しない。 理由:本願商標である「Tibet Tiger」が使用された結果、需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができることを認めるに足りる証拠はない。原告が使用してきたと主張する標章は「チベタンタイガー」というものであり、「Tibet Tiger」という本願商標そのものではなく、商標としての同一性は認められないといえる。また、この点を措くとしても、当該標章の使用期間、販売数量等について十分な立証があるとはいえない。 |
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<商標法4条1項16号該当性> 結論:本願商標は商標法4条1項16号に該当する。 理由:本願商標をその指定商品中、産地、販売地がチベットではなく、図柄や形状がトラと関係のない「じゅうたん、敷物及びラグ」に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるといえる。 |
<商標法4条1項16号該当性> 本願商標は、特定の商品の産地、販売地又は品質を表示するものであるとはいえないから、本願商標がその指定商品のうち「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラ形状を模したじゅうたん、敷物、ラグ」以外の指定商品に対して使用された場合であっても、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とはいえず、商標法4条1項16号に該当するものとは認められない。 |
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判決 |
請求棄却 |
請求認容 |
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