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価値共有(バリュー・シェアリング)義務: 従業員数が50人以下の企業を対象とする新たな義務が導入されました
2025.01.21
フランスでは、利益分配(パルティシパシオン)が義務付けられていない従業員11人以上50人未満の企業が、3会計年度連続で売上高の1%以上に相当する純利益を上げた場合、価値共有(バリュー・シェアリング)措置を講じることが義務付けられました[1]。同制度は、5年間につき実験的に導入されました。
従来は、従業員50人以上の企業のみが利益分配(パルティシパシオン)協定を締結して利益の一部を従業員に再分配する義務がありましたが、従業員50人未満の企業にもかかる再分配の義務を拡大したものです。
バリュー・シェアリング制度の導入義務は、2025年1月1日以降に開始する会計年度に適用されます。会計年度が暦年と同じである場合には、2022年、2023年、2024年において連続して売上高の1%以上に相当する純利益を上げたかどうか評価されることになります。
この新たな義務により、該当する企業は、(3年度連続で売上高の1%以上に相当する純利益を上げた)翌年度に、次のいずれかの制度を実施する必要があります。
- インセンティブ制度(「アンテレスマン」):
インセンティブボーナス(intéressement・アンテレスマン)とは、従業員貯蓄制度(épargne salariale)[2]の一つで、会社の業績に連動して従業員にボーナスを支払う制度です。分配された金額は、従業員の選択により従業員に直接支払われるか、従業員貯蓄プランに預けることができます。
この制度の目的は、従業員が会社の目標達成に関与することを奨励することです。パルティシパシオン(下記参照)とは異なり、アンテレスマンボーナスでは、企業の目標達成への従業員の貢献度が考慮されます。算定基準の多くは、従業員の報酬水準と勤続年数に基づいています。
アンテレスマンの支給は、社会保障負担金(CSG[3]及びCRDS[4]を除く)が免除され、かつ従業員貯蓄プランに預ける場合には一定限度内で所得税が免除されます。企業も一定の条件及び範囲内で、社会保障負担金(CSG及びCRDSを除く)が免除されます。 - 利益分配制度(「パルティシパシオン」):
利益参加(participation・パルティシパシオン)は、従業員貯蓄制度の一つです。この制度は、会社の利益を従業員に再分配する仕組みで、従業員50名以上の企業に義務付けられています。分配された金額は、従業員の選択により従業員に直接支払われるか、従業員貯蓄プランに預けることができます。
パルティシパシオンの支給は、社会保障負担金(CSG及びCRDSを除く)が免除され、かつ従業員貯蓄プランに預ける場合には所得税が免除されます。企業も一定の条件及び範囲内で、社会保障負担金(CSG及びCRDSを除く)が免除されます。 - バリュー・シェアリング・ボーナス(PPV)(「PPV」):
バリュー・シェアリング・ボーナス(prime de partage de la valeur/PPV)は、以前は「マクロンボーナス」や「購買力確保のためのボーナス」と呼ばれていたものです。PPVは、企業が毎年任意で実施できる制度です。PPVの支給は、雇用主の決定または企業協定によって決定されます。
PPVは、対象者1名あたり年に最高3,000ユーロまで社会保障負担金が免除されます。雇用主が、ボーナス支給時またはボーナス支給年に下記のいずれかの協定を締結した場合は、同条件で最高6,000ユーロまで免除されます。[5]
ー 企業がパルティシパシオン制度の導入義務を負う場合:アンテレスマン協定を締結
ー 企業がパルティシパシオン制度の導入義務を負わない場合:アンテレスマン協定またはパルティシパシオン協定を締結 - 従業員貯蓄プラン(plans d’épargne salariale)への雇用主による拠出(企業貯蓄制度(PEE)、企業間貯蓄制度(PEI)、企業年金貯蓄制度(PercoまたはPereco))
従業員貯蓄プランは、アンテレスマン、パルティシパシオン、PPV等の分配金、従業員及び企業の拠出金を預かり増やすための仕組みです。
企業貯蓄制度(plan d'épargne d'entreprise・PEE)は、 従業員に向けた任意の集団貯蓄制度で、企業の支援を受けて有価証券のポートフォリオ形成に参加できる制度です。企業間貯蓄制度(plan d’épargne interentreprise・PEI)は、グループに属さない企業間で設置されます。企業年金貯蓄制度(plan d’épargne pour la retraite collectif・Perco、plan d’épargne retraite d’entreprise collectif・Pereco)は、従業員が定年退職時に利用できる補助的収入を積み立てる制度です。
企業の拠出相当額について、従業員及び企業は、社会保障負担金(CSG及びCRDSを除く)及び所得税が一定条件のもと免除されます。
(過去3年度に続く)翌年度に適用される上記のいずれかの制度を既に導入している企業は、新法律による義務の影響はありません。
これらの制度は、各制度に適用される特定の規則に定められた条件の下、企業協定やCSEとの合意等によるほか、以下のとおり雇用主の単独の決定によって設置することができます。
産業別で承認されたパルティシパシオン協定、アンテレスマン協定、または企業間貯蓄制度がある場合に、従業員50人未満の企業は、雇用主の単独の決定により、かかる協定に加入することができます。ただし、これらの協定で認められている場合で、かつこれらの協定において、標準的協定の形式で変更不可の複数のオプションが提案されていることが条件となります。
また、承認された産業別のアンテレスマン協定がない従業員50人未満の企業も、以下の場合には、雇用主の単独の決定によりアンテレスマン制度を設けることができます。
- 労働組合代表委員や従業員代表がいない場合
- 労働組合代表委員や社会経済委員会(CSE)との交渉が不調に終わった場合にCSEの諮問後
同様に、CSEとの交渉が不調に終わった場合に、CSEの諮問後にパルティシパシオン制度を自主的に導入することもできます。
さらに、従業員数にかかわらず、すべての企業において、以下の場合に雇用主の単独の決定により従業員貯蓄制度を設けることができます。
- 労働組合代表委員や従業員代表がいない場合
- 労働組合代表委員やCSEとの交渉が不調に終わった場合にCSEの諮問後
バリュー・シェアリング・ボーナス(PPV)の支給は、CSEの諮問後に雇用主が単独で決定することができます。
実務上は、バリュー・シェアリング・ボーナス(PPV)の簡便性から中小企業では同制度の実施を好むことが予想されますが、アンテレスマンも選択肢となり得ます。アンテレスマンは、導入手続きは複雑ですが、ボーナスの支給を特定の指標(売上高、利益、出欠勤率、顧客満足度など)に連動させることが可能になるためです。
新たな義務に従わなかった場合の罰則は規定されていませんが、義務の遵守を怠ると従業員や従業員代表機関から苦情や要求を受けるなど、労使関係に緊張をもたらす可能性があります。
[1] 2023年11月29日付法律第2023-1107号第5条により、企業内の価値共有に関する全国職際協定(accord national interprofessionnel 、ANI )が法制化されました。
[2] 従業員貯蓄制度(épargne salariale)は、企業が実施する集団貯蓄制度で、アンテレスマン、パルティシパシオン、を支給し、分配された金額は、従業員の選択により従業員に直接支払われるか、従業員貯蓄プランに預けられることになります。
[3] CSG(contribution sociale généralisée・一般社会拠出金)
[4] CRDS(contribution au remboursement de la dette sociale・社会保障債務返済拠出金)
[5] 2026年12月31日までの期間に支給されるPPVについては、報酬額が法定最低賃金(Smic)の3倍を下回る従業員は、各上限内(3,000ユーロまたは6,000ユーロ)で所得税、従業員および雇用主の社会保障負担金が免除されます。また、PPVを従業員貯蓄制度または年金貯蓄制度に預ける場合にも、各上限内で所得税が免除になります。
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