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【知的財産ランドスケープ】半導体材料 フォトレジスト(後編)
2025.05.09
前回のまとめ
前編(https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2025/16621.html)では、フォトレジストに関連する特許について、国別に分析を進めました。今回の後編では、プレイヤーの観点から分析を進めます。
プレイヤー
以下は特許ファミリー件数の多いオーナー上位20を示したものです。
プレイヤー別特許ファミリー件数/特許スコア
上位20のうち、1~4位を日本企業が独占しています。また、5位以下にも多数の日本企業がランクインしており、日本がフォトレジスト開発の中心地となっていることがうかがえます。日本企業以外には、SAMSUNG系列の企業、TSMC、Rohm and Haas Electronic Materialsといった、半導体関連の大手企業が並んでいます。
上位20には、大学等の研究機関や政府系機関は含まれていませんが、これらの機関においても研究開発は着実に進められています。以下は、研究機関及び政府系機関に限定した特許ファミリー件数の多いオーナー上位10を示したものです。
プレイヤー(研究機関及び政府系機関に限る)別特許ファミリー件数
上位10には、中国(Chinese Academy of Sciences, Shanghai Jiao Tong University)、日本(大阪大学、関西大学、東京理科大学)、韓国(Inha University, Chonnam National University)がランクインしており、東アジアを中心に研究開発が盛んに行われていることがわかります。特に、中国の機関による特許ファミリー件数が突出して多くなっており、中国が国を挙げて半導体関連産業の育成に本腰を入れていることが見て取れます。また、日本に関していえば、民間企業だけでなく、研究機関においてもフォトレジストの研究開発が進められており、今後もフォトレジスト分野における日本の優位性の維持が期待されます。
次に、特許ファミリー件数がトップ3の日本のプレイヤーについて詳しく見ていきます。
♢住友化学
住友化学は全979ファミリーの特許を出願しており、特許スコアが高いものとして、フォトレジストに含まれる酸発生剤に関する出願(JP2016047815A、JP2022075556A)、フォトレジストに含まれる硬化樹脂に関する出願(JP2016169207A、JP2021188040A)、フォトレジスト組成物に関する出願(JP2015180928A)などが含まれ、フォトレジスト組成物だけでなく、組成物に含まれる各成分に着目した出願もしていることがわかります。組成物だけでなく、化合物そのものに対しても特許を取得しており、技術の中核から応用までを網羅する、幅広い特許戦略が見て取れます。
特許スコアの高い特許ファミリー(住友化学)
♢富士フイルム
富士フイルムは全854ファミリーの特許を出願しており、特許スコアが高いものとして、用途を限定しないフォトレジスト組成物に関する出願(JPWO2021251086A1、JPWO2021200056A1、JPWO2021199841A1)のほか、EUV光等の短波長光を用いた露光で使用されるフォトレジスト組成物に関する出願(JPWO2018193954A1、JPWO2021153466A1)が含まれ、各成分の機能や相互作用を踏まえた組成設計において、高い開発力がうかがえます。また、最新技術であるEUV露光用フォトレジストについても、技術的な強みを有することが示唆されます。
特許スコアの高い特許ファミリー(富士フイルム)
♢東京応化工業
東京応化工業は全399ファミリーの特許を出願しており、特許スコアが高いものとして、EUVやEBの露光における使用を意図したフォトレジスト組成物に関する出願(JP2022191073A、JP2020091312A、JP2020091404A)、フォトレジスト組成物及び該組成物に含まれる酸発生剤に関する出願(JP2016177202A、JP2018092159A)などが含まれ、フォトレジスト組成物における酸発生剤に関して、技術的な強みがうかがえます。さらに、最新技術であるEUV露光用フォトレジストについても、高い技術力を有することが示唆されます。
特許スコアの高い特許ファミリー(東京応化工業)
まとめ
フォトレジストに関連する特許の件数については、日本は世界でトップであり、フォトレジスト分野の研究開発で、世界をリードしているといえます。また、日本では、民間企業のみならず研究機関からもフォトレジストの出願が多数なされており、官民一体となった取り組みにより、フォトレジストの技術の優位性が今後も維持・発展されることが期待されます。
もっとも、中国をはじめとする他国も着実に研究開発を進めており、日本としても技術的な優位性を維持するには、今後も継続的な努力が求められます。
半導体は、政治的な判断や国際情勢の影響を強く受ける産業であり、今後その傾向はさらに強まると考えられます。また、近年はAI関連技術の著しい進展により、AI抜きには将来の産業や国家戦略を語れない時代になりつつあります。そして、そのAI関連技術を支える基盤の一つが半導体です。こうした背景からも、自国内における安定した半導体生産体制の確立は、今後ますます重要な課題となってきます。
日本では、ラピダスをはじめとする新たな半導体製造プロジェクトが進行しており、半導体製造分野における復興を目指しています。もともと日本は半導体製造に不可欠な材料分野で高い技術力を有しており、こうした強みを活かすことで、国内における半導体製造体制の再構築と競争力の回復が期待されます。