対談・座談・インタビュー
不動産クラウドファンディングの最新実務
2020.10.01
近時新しい「不動産」への投資の在り方として、Fintech、Proptechの文脈のみならず投資の文脈でも注目を集める不動産クラウドファンディング。その最新実務の状況、更なる普及への課題などについて、業界をリードする一人である成本弁護士に聞きます。
不動産クラウドファンディングとは
― 本日は不動産クラウドファンディングの最新実務について、多くの案件に関与されている成本弁護士に伺います。まずは、不動産クラウドファンディングについて簡単に教えてください。
まず、クラウドファンディングの概念について簡単に整理したいと思います。クラウドファンディングは大きく3つの類型に分類されることが多いのですが、皆さんもクラウドファンディングで新しいデバイスを買ったり、飲食店のサービスを受けることができる権利を購入されるようなことがあると思います。そのように、何らかの製品やサービスなどを購入するタイプのクラウドファンディングを、「購入型」と呼びます。ほかにも、例えば被災地などの地方で問題に直面している事業者等にまさに寄附をするような「寄附型」などもありますが、最後の一つである「投資型」と呼ばれるタイプのクラウドファンディングが、不動産クラウドファンディングで用いられる類型です。投資型クラウドファンディングは、一定の投資対象事業に資金を拠出し、その投資対象事業から得られる収益が分配されるもの、というイメージが分かりやすいでしょうか。不動産を目的とするものでは、その賃料収益が分配されるようなイメージを持って貰うと分かりやすいと思います。
― 集まった資金で不動産を購入し、それを貸し出して、賃料を得るようなイメージでしょうか?
大きなイメージはそのとおりですが、実際には、資金拠出者の数も多くなりますので、その全員で一つの不動産を「共有」するわけではない場合も多いですし、細かな法的な仕組みが介在します。ただ、皆で不動産に投資して、賃料収益を得る、という大きなイメージを持って貰うという意味では、そのようなざっくりとした理解でも良いかもしれません。
― クラウドファンディングでお金を集めるのと、仕入れる物件を購入するのは、どちらが先なのでしょうか。「ここが運用してくれるなら投資してみたい」というニーズもあると思いますし、「この不動産なら投資してみたい」というニーズもあるように思いました。
仰るとおり、いずれのニーズもありますよね。基本的には、どのような不動産なのか次第で期待される賃料収入も変わりますから、まずは投資対象となる物件が特定していることが比較的多いと思います。例えば、物流施設や商業施設のような不動産を想像してみてください。物流施設の集積している場所に新しく立つ立派な物流施設や、一等地に建っている商業施設のような不動産であれば、活用されるイメージがつきますし、近傍の同種施設を参考に収益性も判定しやすいですよね。そのような物件であれば投資したいという人も多くいると思いますが、他方、そのような「良い」物件は価格が非常に高いため、従来は、個人が投資することは現実的には難しかったのです。多数の人からお金を集めることができる不動産クラウドファンディングは、そのような物件に個人投資家がアクセスする機会を提供する手法、と言えます。
不動産クラウドファンディングの広がり
― 今まで投資する機会がなかなかなかったものに投資ができるようになる、という意味で、これから益々の広がりを見せていくのでしょうか。
個人投資家の目線で見れば、先ほどお話したとおり、これまでアプローチすることが難しかった物件への投資機会をもたらす手法ですから、当然に期待される手法ということが言えます。一方で、物件を実際に運用する側からみても、投資家から期待される利回り、すなわち資金調達コストがより高い機関投資家以外の資金を集めることができるという意味で、メリットがあります。
また、これまでも不動産に対する小口の投資手法としてREITと呼ばれるものがありましたが、REITは、投資家の大部分が機関投資家となっている現状があるため、結果、株式と似たような値動きをすることになってしまい、少し元々期待していた姿と違う投資家層、商品性となっているという側面が否定できません。これに対し、クラウドファンディングであれば、真に不動産の価値と直結した小口投資ができるようになる、と言われています。これはとても大きなメリットです。
― 海外の不動産に対する投資のようなこともできるのでしょうか。
理論的にはできます。実例としてはまだ数は少なく、それほど一般化しているわけではありませんが、将来的にはそれも一つの魅力的な投資対象カテゴリになるかもしれませんね。
不動産クラウドファンディングの今後の課題
― これから日本で益々不動産クラウドファンディングが活発になっていくために、いま感じておられる課題があれば教えてください。
大きく2点あると思っています。まず1点目は、投資した資金の流動性が低く、換金性に乏しいこと。基本的に今の不動産クラウドファンディングでは、期間満了まで換金できない建付のものが比較的多いと言えます。そこに資金を投下する個人投資家の方としては、長い期間、現金化できないということはハードルないしデメリットになり得ますよね。この点は、セカンダリーの市場が整備されていく、中途解約ができるようにする、などいくつかの解決策があり得ると思いますし、そのような流動性も備えた形で新たに検討されているのが近時注目を集めているセキュリティトークンやデジタル証券といったものなのですが、実際のニーズや規制の問題もあって、簡単に解決できるわけではありません。ただ、投資家の利便性を高めることは全体として流入する資金の量を増やすことにつながるわけですし、いくつかの事業者さんがこの問題を解決するために積極的なアプローチを開始しています。私もいくつかアイディアを一緒に考えているところです。
2点目は、より本質的な問題かもしれませんが、「個人投資家」の資金をもっともっと引き込みやすくするための周辺的な環境や、情報開示の整備などです。これまで、不動産に限らず、例えば株のようなものであっても、国民性もあり、それほど「投資」というものが一般化してこなかったということが言えると思います。ただ、不動産はそこに存在するもので、会社のように「ある日なくなってしまうかもしれない」というリスクが本質的に低いものです。投資の世界では、不動産投資は「ミドルリスク・ミドルリターン」という位置づけをされることがありますが、預貯金1000兆円を有している日本の個人の多くの投資性向やリスク許容度を考えると、不動産は、より個人投資家の長期資産形成に向いている投資商品という側面があります。また、株でも、ロボアドバイザーといったサービスや、おつりやポイント残高などを投信に振り向けるようなサービスが出てきていますが、不動産投資の文脈でも、ポイントをつかった投資など、色々な形で事業者の皆さんが間口を拡げているところです。どんどん面白いサービスが出てくるといいですよね。
不動産マーケットの今後
― 成本弁護士は、弁護士になられてからこれまで不動産関連の業務を継続的に扱ってこられたと思いますが、近年の変化をどう見ていらっしゃいますか。
2020年で、私が弁護士になってちょうど20年になりますが、大きく言うと、不動産流動化案件の隆盛、リーマンショック、不動産取引・ビジネスの復活、そしてコロナ問題と、その時々の社会に合わせて新しく、色々な問題が起きてきました。
ただ、先ほども言いましたけれども、不動産は、長期的に見れば比較的安定的な資産と言えると思います。もちろん具体的な不動産次第でもありますし、利回りが想定を下回るということはあるわけですが、「なくなってしまう」ということは基本的にないわけです。一定の期間マーケットを見続けてきた身として、長期投資向けの資産、という評価は正しいと思っています。
更に、その時々で、注目される物件の性質が変わっていくのも面白いところですね。近時は老人ホームやホテル、ヘルスケア関係の物件への投資も活発でしたし、現在は物流施設やデータセンターが注目を集めています。投資という行動に対するイメージ、文化も洗練されてきている中で、個人投資家の方のこのような物件へのアクセスが可能になることで、不動産を巡る在り方が変わっていくことを楽しみにしています。
新しい技術や新しいビジネスの話を聞き、サポートさせていただくのは、いつでも弁護士冥利に尽きるものです。これからの不動産を取り巻く環境の変化に期待いただきたいですし、そこで活躍される方々の縁の下で、良い仕事をしていきたいと思います。特に、不動産クラウドファンディングやセキュリティトークンといったインフラを活用して、日本の個人の長期資産形成に資するようなマーケット・商品が創られるよう、日本に本当に資産形成文化が根付くよう、その一助となりたいと思っています。
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