対談・座談・インタビュー
インド駐在経験者が語るインドとの関わり方
2021.03.11
TMIインドデスクの紹介を兼ねて、現地での公私に亘る経験談やインド弁護士との付き合い方といった、柔らかいテーマでお話を聞いていきたいと思います。
平野弁護士
本日は、初回ですので、TMIインドデスクの紹介を兼ねて、現地での公私にわたる経験談やインド弁護士との付き合い方といった、柔らかいテーマでお話を聞いていきたいと思います。
多民族国家インド
インドと一口に言っても、ヒンディー語が共通言語というわけでもなく、全員がターバンを巻いているわけでもありません。インドは多民族国家で、ビジネスの分野ではインド人同士がそれぞれのローカル言語ではなく、事実上の共通言語である英語でやりとりをするのが実態で、感覚的にはむしろEUのようなものとして捉えた方がしっくりきます。会社法や証券法のように連邦で統一的に施行されている法令もあれば、労働法のように各州の地域の色彩が強い法分野もあります。日本の約9倍の国土に、政治の中心デリー、金融の中心ムンバイ、自動車産業のチェンナイ、ITのバンガロールなど特色ある都市圏が点在し、各地に有力な法律事務所があるのも特徴です。北と南、中央と地方といったコミュニティーへの帰属意識も根強いと感じるときがあります。一言でインドと纏めることができない多様性が、難しいところであり魅力でもあると思います。
私自身にインド駐在経験はありませんが、インドから表敬訪問を受けたり、お返しにこちらからインドを訪問して朝昼晩とカレーを一緒に食べたりするのを繰り返しているうちに、知り合いも100人単位で増えました。インド弁護士曰く、コミュニティーの中では最も名の知れている日本のビジネス弁護士の一人だそうで(笑)、会ったこともないインド弁護士から案件等の依頼があることもあります。
インド人弁護士との付合い方
平野弁護士
それでは、2012年にインドの法律事務所に出向した茂木弁護士から順不同でお聞きしますが、インド人弁護士との付き合い方に関して、気を付けていることはありますか。
茂木弁護士
私は、2012年に、DSK Legalという事務所のデリーオフィスに勤務していました。デリーでは、現地駐在員の方との会食に参加させていただく機会も多くありましたが、その際に駐在員の方がおっしゃっていたのは、やはりインド人弁護士にうまくこちらの意図を理解してもらうのがなかなか難しい、という点でした。日系のクライアントがどのような成果物を求めているのかをうまく伝えてハンドルする、という点に、現地の日本人弁護士が関与する価値があると感じました。インド人弁護士としっかりコミュニケーションを取ることは重要だと考えています。
奥村弁護士
私は、適切なコミュニケーションに加えて、個々のインド人弁護士と緊密な関係を築くことも重要であると考えています。私は、2015年10月から1年間、インドのLuthra & Luthra法律事務所にて勤務しましたが、当時お世話になった弁護士に数年後再会したとき、私が所属していた部署の大半の弁護士が他の事務所に移籍したと聞かされました。インドでは、日本の弁護士と比較して、インドの弁護士は頻繁に他の事務所に移籍するという特徴があります。そのため、案件を依頼する際は、事務所単位ではなく、個々の弁護士に着目する必要があります。また、信頼できる弁護士に出会った場合、案件終了後も業務外の交流を続けるなどしてコネクションを維持し、移籍情報など最新動向をフォローし続けることが重要だと考えます。このようにインドと日本の文化の違いを意識して関係性を築くことも大事ですね。
インドと日本の文化の違い
小川弁護士
私も、インドと日本の文化の違いを意識するべきという指摘について賛同します。私は、2011年から2014年にかけて、インド・ニューデリーのKochhar & CoとDSK Legalという法律事務所に勤務していました。当初は、インド弁護士のアグレッシブな交渉スタイルやリスクに対するアバウトな考え方に、面食らう毎日でした。しかし、様々なインド特有のトラブルをインド弁護士とともに解決する中で、多様性を極めるインド社会においては、彼らの対応が極めて有効かつ合理的であると気づかされました。帰国後、日系企業の本社から多数の依頼をいただいていますが、成果物が想定と異なったり、締め切りの感覚が異なったりするなど、日系企業とインド弁護士との間でのトラブルは、とても多い印象です。そのため、日系企業とインド弁護士の橋渡し役を行う我々の役割も小さくなく、非常に大きなやりがいを感じています。
宮村弁護士
文化の違いを実感したエピソードとしては、私が、2020年に駐在したSamvad Partners法律事務所は、ベンチャー投資関連案件に強い法律事務所でして、投資条件に関するベンチャー企業と投資家との間の交渉に関する案件に関わる機会が多くありました。このような交渉では、約5時間にも及ぶ会議を3日間も連続して開催し、いずれの会議においても両者がかなり激しく議論するケースもあり、日本だと、投資後の関係修復に時間を要するであろうというところでしたが、交渉が終わると、当然のようにフレンドリーに会話を始めていたのに驚きました。
白井弁護士
確かにそうですね。私は、2014年から2017年にかけて、インドのKhaitan & Co法律事務所、Ashok Maheshwary & Associates会計事務所およびLakshmikumaran & Sridharan法律事務所にて勤務しましたが、日本であればしばらく口をきいてもらえないような喧々諤々の喧嘩に近い議論をしても、関係修復に悩む私を知る由もなく、ほとんどのケースで次の日には何事もなかったように、笑って話しかけてきたのが印象的でした。とにかく切り替えが早い!
深い付合いの重要性
平野弁護士
ビジネスに関する文化の違いが、日系企業とインド弁護士との間でのトラブルを招くケースは案件でもよく見られますね。トラブルに関していえば、私は、インドの弁護士とは、案件を通じた表面的な付き合いではなく、人間としての内面的な付き合いをするよう心掛けています。コロナ禍ではインドとの往来もできませんのでオンラインでの表敬訪問の要請が多くきますが、可能な限り受けるようにしています。在宅勤務で煮詰まっているのはインド人も同じで、退屈しのぎに生やした私の髭姿を見せて驚かせたり、家族を含めたお互いの安否を気遣ったりと、むしろ今だからこそ深められる人間関係もあるように思います。もちろん、法律家としての能力や専門性も大切ですが、インドには人材も多くいますので、最後まで一緒に案件をやり遂げる深い信頼関係と人間関係を構築することは、とても大切であると考えています。実際に、インド企業とのややセンシティブな交渉の場面で、立場的には中立の旧知のインド弁護士から、相手方の交渉のニュアンスを含めて友人として助け船を出してもらい、当方が想定していた最終ラインよりはるかによい条件で妥結したこともあります。インドではインド流の交渉がありますので、このような人間関係は、貴重な財産であると思います。
白井弁護士
同感です。私も、一歩踏み込んだ付き合いをするよう心掛けています。インド駐在中は、同僚のインド弁護士/会計士と食堂で同じ釜のカレーを食べ、昼下がりには路上のチャイ屋に一緒に出掛け気分転換、一緒にクリケットを観戦し、一緒にお祭りを祝う中で醸成した信頼関係は今でも続いています。インド弁護士/会計士とのやり取りは、聞き慣れないインド英語等もあいまって手ごわく感じられるかもしれませんが、一度懐に入り込めばとことん情に厚い方が多いと感じます。
平野弁護士
皆さん、経験に基づく多様なご意見ありがとうございました。
インドデスクでは、月次定例会、実務および交流を通じて、日々得ている最新の情報を常に取捨選択し、日本とインドの弁護士が議論を重ねるなどTMIのインドデスクにしかない個性を活かしたユニークな取組みを行っています。今後も、インド最新法令情報について、情報発信してまいりますので、メーリングリストへの登録をぜひお願いします。
以上