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【コロナウイルス対応Q&A】契約分野(請負)Q&A
2020.05.08
国内外において新型コロナウイルスの感染拡大が続いている現状を踏まえ、TMI総合法律事務所は、クライアントの皆様が新型コロナウイルスへ対応する際にご留意いただきたい事項を、各分野ごとにQ&Aの形式にまとめて掲載しておりますので、ぜひご活用いただければ幸いです。
■ 人事労務分野Q&A 2020年3月24日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200324-01.html
■株主総会分野Q&A 2020年4月1日掲載・4月28日更新・5月26日更新
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200526-13.html
■ 独占禁止法分野Q&A 2020年4月7日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200407-01.html
■ 東証対応関連分野Q&A 2020年4月7日掲載・4月16日更新
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200416-01.html
■ 契約分野(売買)Q&A 2020年4月7日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200407-03.html
■ 事業再生・倒産関連分野Q&A 2020年4月14日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/202000414-02.html
■ 個人情報保護・プライバシー分野Q&A 2020年4月21日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200421-01.html
■ エンタテインメント・スポーツ分野Q&A 2020年5月1日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200501-06.html
□ 新型コロナウイルス感染症に関する各国の規制状況等については、こちらからご参照ください。
■ 契約分野(請負)Q&A
2020年4月1日に改正民法(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)をいいます。以下同じです。)が施行されましたが、その施行日前に締結された契約については、原則として改正民法による改正前の民法(以下「旧法」といい、改正民法による改正の実質的な影響を受けない部分については、単に「民法」といいます。)が適用されるため、以下のQ&Aにおいては旧法の適用を前提とし、必要に応じて改正民法による改正後の民法(以下「新法」といいます。)の適用がある場合についても言及しております。
また、民法は任意規定が多く含まれており、その範囲では当事者間で合意された特約の内容が民法に優先して適用されます。そのため、新型コロナウイルス感染症の影響に関しても、請負契約上、どのような特約があるかがまずは問題となりますが、請負契約の内容は案件によって様々であるため、以下のQ&Aにおいては、基本的には、具体的な特約がないケースについてご説明した上で、必要に応じて、実務上多く使われている民間(七会)連合協定工事請負契約約款等についてもご説明します。
1 注文者側の留意点について
Q1:新型コロナウイルス感染症の影響により、引渡しの期限までに請負人からの目的物の引渡しがされない見込みである。目的物の引渡しがその期限に間に合わなかった場合には、当社(注文者)は、請負人に対して、損害賠償請求をすることができるか。
A1:注文者は、請負人が引渡し期限までに請負の目的物を引き渡すことができない場合には、それによって注文者に生じた損害を賠償することを請求できる可能性があります(民法415条)。
しかし、請負の目的物を引き渡すことができなくなった原因が新型コロナウイルス感染症の影響である場合には(注1)、個別事案によっては、請負人の責めに帰すべき事由(帰責事由)が認められないことを理由に損害賠償請求が認められない可能性があります。
このような場合に請負人の帰責事由が認められるかどうかについては、個別事案に応じた具体的な検討が必要になります。例えば、請負人において適時かつ適切な新型コロナウイルス感染症の対策に関する意思決定をせず、又は当該意思決定に沿った対策を現に講じておらず、それが原因で目的物の引渡しが遅れたといった事情が存在する場合には、一般的に、当該事情は、請負人の帰責事由を肯定する要素の一つとなり得るものと考えられます。一方で、請負人においてコントロールすることが困難な外部的な事情が原因で目的物の引渡しが遅れたといった事情が存在する場合には、一般的に、当該事情は、請負人の帰責事由を否定する要素の一つとなり得るものと考えられます。
なお、民間(七会)連合協定工事請負契約約款30条(1)a、(2)においては、発注者(注文者)は、受注者(請負人)が契約期間内に契約の目的物を引き渡すことができないときは、受注者(請負人)に対して、原則として、これによって生じた損害として一定金額の賠償を請求することができることとされております。もっとも、契約及び取引上の社会通念に照らして受注者(請負人)の責めに帰することができない事由による場合はこの限りでないとされており、その解釈において上記の各事情などが参考になり得るものと考えられます。
また、国土交通省は、後述のリンク先の通り、例えば建設工事に関し、新型コロナウイルス感染症に感染した作業従事者やその濃厚接触者等が現場作業に従事できなくなることに伴い、受注者(請負人)から工期の見直し等の申し出があった場合について、「特段の事情がない限り、受注者の責によらない事由によるものとして取り扱われるべきものと解されます」との見解などを示しています。実際の裁判において同見解と同じ判断がされるかどうかや、同じ判断がされたとしても「特段の事情」を具体的にどのように考えるかなどは必ずしも明らかではありませんが、損害賠償請求の可否の検討に際しても参考になるものと考えられます。
Q2:新型コロナウイルス感染症の影響により、請負人は工事を中止しており、また、引渡しの期限を遅延している。この場合には、当社(注文者)は、請負契約を解除することができるか。
A2:注文者は、請負人が引渡し期限までに請負の目的物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引き渡されないときは、その請負に係る契約を解除できる可能性があります(旧法541条)(注2)。
しかし、請負の目的物を引き渡すことができなくなった原因が新型コロナウイルス感染症の影響である場合には、個別事案によっては、請負人の責めに帰すべき事由(帰責事由)が認められないことを理由に解除が認められない可能性があります。
ただし、改正民法の施行日以降に締結された契約については、契約の解除の要件として必要とされてきた債務者(請負人)の帰責事由は不要とされています(新法541条から543条まで)。そのため、債務者(請負人)が目的物を引き渡すことができないことについて債務者の帰責事由が認められない場合であっても、注文者による契約の解除が認められる可能性があります。
なお、民間(七会)連合協定工事請負契約約款31条の2(1)bにおいては、発注者(注文者)は、「この工事が正当な理由なく工程表より著しく遅れ、工期内又は期限後相当期間内に、受注者がこの工事を完成する見込みがないと認められるとき」には、受注者(請負人)に相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは契約を解除できることを規定しています。また、同契約約款31条の3(1)iにおいては、発注者(注文者)は、「この契約の目的物の性質や当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行しなければこの契約をした目的を達することができない場合において、受注者が履行をしないでその時期を経過したとき」には、書面をもって受注者(請負人)に通知し直ちに契約を解除することができることを規定しております。
2 請負人側の留意点について
Q3:新型コロナウイルス感染症の影響により、仕事を一時的に中止したいが、これにより引渡し期限に遅れた場合には、当社(請負人)は法的な責任を負うか。
A3:請負人は、注文者に対して引渡し期限までに請負の目的物を引き渡すことができない場合には、それによって注文者に生じた損害を賠償する責任(債務不履行による損害賠償責任)を負う可能性があります(民法415条)。また、その場合において、注文者から、相当の期間を定めてその引渡しの催告がされ、その期間内に引き渡すことができないときは、その請負に係る契約を解除されてしまう可能性もあります(旧法541条)。
しかし、請負の目的物を引き渡すことができなくなった原因が新型コロナウイルス感染症の影響である場合には、個別事案によっては、請負人の責めに帰すべき事由(帰責事由)が認められないことを理由に損害賠償責任を免れ、又は注文者による解除が認められない可能性があります。
このような場合に請負人の帰責事由が認められるかどうかや、民間(七会)連合協定工事請負契約約款の内容等、国土交通省の見解等については、A1をご参照ください。
また、改正民法の施行日以降に締結された契約に関する留意点については、A2をご参照ください。
Q4:コロナウイルス感染症の影響で元請負人から仕事の一時的な中止を指示された場合には、下請業者である当社は、現在の出来高に対応する報酬の支払いを請求できるか。
A4:民法上、請負は、請負人が仕事を完成することを約し、注文者がその仕事の結果に対しその報酬を支払うことを約する契約ですので(民法632条)、下請人は仕事が完成していない限り、元請人に対し報酬の支払いを請求できないのが原則です(民法633条)。
もっとも、請負契約において、仕事の途中における段階的な報酬の支払いや、仕事が一時的に中止した場合の出来高に応じた報酬の支払いなどを認める約定をしている場合には、下請人は、その約定に従った報酬の支払いを請求できることとなります。
このように、法的な支払義務については、具体的な請負契約の内容を踏まえて検討する必要があります。なお、国土交通省は、後述のリンク先の通り、建設工事に関し、建設工事の一時中止・延期等に際して元請負人から下請負人に対し適切に代金の支払いを行うべき旨など、下請負人への配慮等を行う旨の通知をしております。
3 その他の事項について
Q5:その他に留意すべき事項はあるか。
A5:国土交通省では、①工事現場等における感染予防対策として採るべき措置や、②工事施工に係る作業従事者等に新型コロナウイルス感染症の感染者がいることが判明した場合における受注者として採るべき措置、③新型コロナウイルス感染症に感染した作業従事者やその濃厚接触者等が現場作業に従事できなくなることに伴い、受注者から工期の見直し等の申し出があった場合に発注者として採るべき措置、④感染拡大防止対策に伴う下請け契約等の適正化などに関し、地方公共団体、建設業者団体、民間発注者団体等に対し、通知を発出しております。公共工事だけでなく民間の工事においても措置を講じる必要がある点に留意してください。その他、新型コロナウイルス感染症対策に関連して、ホームページに建設業に関係した各種通知を掲載し、遂次更新されておりますので、参考としてください。
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000181.html
また、社員が新型コロナウイルス感染症に感染し、休業する場合における休業手当の支払いの要否については、人事労務分野Q&A「3 休業に伴う賃金支払義務」を参照してください。
注1 例えば、工事作業員に新型コロナウイルス感染症に感染する者が生じ、保健所の指導により工事を中止せざるを得なかった場合や、新型コロナウイルス感染症が原因となって海外及び国内の物流が停滞したことにより工事に必要な資材の搬入が遅れた場合、工事の着工後に必要となった注文者の意思決定が遅れたことにより仕事の進捗に影響が生じた場合などが想定されます。
注2 旧法542条は「契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したとき」には、債権者は催告をすることなく直ちに契約の解除をすることができる旨を規定しています(新法でも実質的な変更はありません(新法542条1項4号))。そのため、注文者は、請負人が期限後に引渡しをしても目的を達することができない場合には、催告をせずに直ちに請負契約を解除できる可能性があります。
以上
TMI総合法律事務所
弁護士 滝 琢磨
弁護士 富田 裕