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【コロナウイルス対応Q&A】人事労務分野Q&A
2020.03.24
■ はじめに
国内外における新型コロナウイルス感染症の拡大やこれに伴う政府からの要請を受けて、企業や個人の活動にも様々な影響が生じているところです。そこで、TMI総合法律事務所では、クライアントの皆様のご参考として法的な留意事項を各分野でQ&Aにしてまとめて発表していく予定ですので、ぜひご活用いただければ幸いです。(2020年3月24日)
■株主総会分野Q&A 2020年4月1日掲載・4月28日更新・5月26日更新
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200526-13.html
■ 独占禁止法分野Q&A 2020年4月7日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200407-01.html
■ 東証対応関連分野Q&A 2020年4月7日掲載・4月16日更新
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200416-01.html
■ 契約分野(売買)Q&A 2020年4月7日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200407-03.html
■ 契約分野(請負)Q&A 2020年5月8日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200508-04.html
■ 事業再生・倒産関連分野Q&A 2020年4月14日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/202000414-02.html
■ 個人情報保護・プライバシー分野Q&A 2020年4月21日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200421-01.html
■ エンタテインメント・スポーツ分野Q&A 2020年5月1日掲載
http://www.tmi.gr.jp/information/column/2020/20200501-06.html
□ 新型コロナウイルス感染症に関する各国の規制状況等については、こちらからご参照ください。
■ 人事労務分野Q&A
1 従業員の健康・安全確保措置
Q1:企業として求められる安全配慮義務の内容及び程度は。
A1:使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務があります(労働契約法第5条)。従業員が感染により健康を害する危険性が予見され、そのような結果を回避することが可能であるにもかかわらず、必要な措置を講じなければ、当該義務違反となります。新型コロナウイルスに罹患する抽象的な可能性のみをもって前記予見可能性が認められることにはなりませんが、新型コロナウィルスに関する情報収集及び従業員の体調等の状況把握に努めた上で、従業員の感染の疑いの程度や職場環境等、産業医の意見等を踏まえて各従業員に感染する具体的な危険性を判断し、その程度に応じた措置が求められることになります。
Q2:従業員の健康と安全を確保するためにはどのような措置を講じる必要があるか。
A2:新型コロナウイルス感染症対策の基本方針(令和2年2月25日)では、患者及び感染者との接触機会を減らす観点から、企業に対して発熱等の風邪症状がみられる従業員等への休暇取得の勧奨、テレワークや時差出勤の推進、並びに、イベント等の開催の必要性を検討するよう呼びかけられております。また、厚生労働省のホームページでは、感染予防のための様々な情報が発信されていることから、これらの情報を参考として必要な措置を講じることが考えられます。一般的には、感染者が発生していない状況においては、①濃厚接触回避措置の推奨(不要不急の会議・海外出張等の自粛要請、在宅勤務の推奨等)、②感染防止措置(手洗い、マスク着用等)の推奨、③一定の症状を有する従業員に対する予防措置(休暇取得の推奨、在宅勤務命令等)、④感染者発生時の報告体制・対応方針の策定を行うことが望ましいものと考えられます。これに対し、万が一社内に実際に感染者が発生した場合には、①その旨の社内周知、②従業員の全部又は一部の在宅勤務又は自宅待機の指示、③臨時休業などの実施を検討することが望ましいといえます。いずれにしましても、安全配慮義務違反とならないためには、政府が要請する内容やガイドライン等に基づき必要な安全衛生対策を講じることが重要です。
2 テレワーク(在宅勤務含む)
Q1:従業員に対し、テレワーク(在宅勤務)を命じることができるか。
A1:個別労働契約において従業員の勤務場所としてテレワークを行う場所が明示されている場合(業務内容や労働者の都合に合わせて働く場所を柔軟に運用する場合は、就業の場所についての許可基準を示した上で「使用者が許可する場所」といった形で明示することも可能)や、就業規則においてテレワークの制度が採られている場合には、これらの規定を根拠として、従業員に対し事務所以外の場所(自宅)で勤務を命じることができます。また、規定上明確でない場合であっても、新型コロナウイルスは人から人に容易に感染しますので、感染防止に必要な期間、通勤や人混みを避けて自宅等で勤務を命じることには合理的理由があり、自宅等で勤務を命じることができると考えられます。
Q2:テレワーク(在宅勤務)の際に労働時間を把握する必要があるか。
A2:使用者は、時間外労働や賃金支払等の規制を遵守する観点から労働時間を適正に把握する義務があります(労働基準法第108条第1項)。また、従業員の健康を確保するため労働時間の状況を把握する必要があります(労働安全衛生法第66条の8の3)。確かに、自宅等で勤務する場合に事務所よりも労働時間が把握しづらくなりますが、昨今の情報通信技術の進展により各企業は自宅でも従業員に対して容易に業務を指示することが可能であることから事業場外労働に関するみなし労働時間制(労働基準法第38条の2)の適用が認められるケースは限られており、また、従業員の長時間労働を抑制して健康を確保するためには、できる限り労働時間を把握する方向で検討することが望ましいものと考えます。
Q3:従業員に対し、テレワーク(在宅勤務)に伴う費用を負担させることはできるか。
A3:テレワークに要する費用(通信費、情報通信機器等の費用負担等)については、通常の勤務と異なり、テレワークを行う労働者がその負担を負うことがありえますので、労使のどちらが負担するか、また、使用者が負担する場合における限度額、労働者が請求する場合の請求方法等について、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましいといえます(労働基準法第89条第5号)。
3 休業に伴う賃金支払義務
Q1:新型コロナウイルス感染症の拡大を予防するため従業員に休業を命じた場合、賃金を支払う必要があるか。
A1:使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています(労働基準法第26条)。もっとも、天災地変等の不可抗力の場合は、前記事由に当たらず、休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。具体的には、次の事例ごとに判断して対応してください。
【感染している者を休業させる場合】
新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。
【発熱があるなど感染が疑われる者の休業】
労働者が自主的に休む場合は、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、病気休暇制度を活用することなどが考えられます。一方、使用者が、発熱などの症状があることのみをもって一律に労働者に休んでいただく措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。
【事業の休止に伴う休業】
取引先が新型コロナウイルス感染症の影響を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。
Q2:派遣先の要請で派遣労働者に休業を命じた場合、派遣元は派遣労働者に対し賃金を支払う必要があるか。
A2:使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされていますが、派遣労働者の休業手当については、前記事由に該当するかどうかの判断は派遣元の使用者についてなされます。そのため、派遣先の事業場が新型コロナウイルス感染の影響で操業できない場合であっても、派遣元の使用者において、当該労働者を他の派遣先に紹介することができるにもかかわらず、これを怠ったのであれば、前記事由に該当し、派遣元の使用者は休業手当の支払いを要することになります。このため、派遣先の事業所が感染の影響で休業したからといって、必ずしも、派遣元の休業手当の支払いが不要となるわけではありませんので注意してください。
4 その他
Q1:新型コロナウイルス感染の拡大を受けて営業を縮小することになったが、既に内定通知をしている者に対し内定を取り消すことができるか。
A1:採用内定については、一般に、企業が学生に対して採用内定通知を出すことにより、始期付解約権留保付の労働契約が成立すると解されており、判例上、内定取消しの有効性は、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められる社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされています。そして、使用者側の理由に基づく内定取消しの問題は、社員の整理解雇に準じて考える必要があり、整理解雇の4要件又は4要素と呼ばれる、①人員削減の必要性、②解雇回避努力を尽くしたこと、③被解雇者選定の客観性・合理性、④解雇に至る手続の妥当性の4点を総合的に考慮して内定取消しの客観的合理性や社会通念上の相当性が判断されていますので、これらに即して慎重に対応する必要があります。
Q2:新型コロナウイルスへの感染状況を把握するにはどうすればよいか。
A2:新型コロナウイルスは人から人に容易に感染しますので、感染拡大を予防するために必要な範囲であれば、企業が従業員に対しコロナウイルスに感染していることが知られている場所に旅行したかどうかの開示を求め、あるいは、コロナウイルスの感染が疑われる従業員に対して会社に報告を求めることができます。もっとも、開示や報告を求める情報によっては個人のプライバシーや健康情報等への配慮が必要となります。また、これらの情報の把握を円滑に行うためには、各企業が従業員に対してコロナウイルスの拡散地域やリスク等について最新の情報を提供し、注意喚起しておくことが望ましいといえます。
■ 参 考
厚生労働省では、企業(労務)の方向けに、新型コロナウイルスに関するQ&Aや各種助成金の案内、並びに、テレワークガイドライン(「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」)をホームページに掲載していますので、参考としてください。
【リンク先】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#hatarakukata
また、厚生労働省より、各労働局長へ「新型コロナウイルス感染症の発生及び感染拡大による影響を踏まえた中小企業等への対応について」と題する通達が出されていますので、こちらも参考としてください。
【リンク先】
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610189.pdf
以上
TMI総合法律事務所
弁護士 近藤圭介
弁護士 本木啓三郎
弁護士 西脇 巧