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【令和元年改正会社法特集】改正会社法施行前後で検討・対応すべき事項のまとめ(役員等賠償責任保険)
2021.01.15
「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」といいます。)が、2019年12月4日に成立し、役員等賠償責任保険を含むその一部が2021年3月1日より施行されます。
本稿においては、役員等賠償責任保険とは何か、なぜ改正会社法の施行の前より検討する必要があるのかを解説いたします。
役員等賠償責任保険契約とは
「役員等賠償責任保険契約」とは、株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするものをいい、主として、会社役員賠償責任保険(以下「D&O保険」といいます。)がこれに該当します。
役員等賠償責任保険契約の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議を経る必要があります(改正会社法430条の3第1項)(注1)。
決議の内容、決議の方法、及び施行日後に決議が必要になる場合は、以下の表のとおりです。特に、改正会社法施行後に、保険契約を更新する場合には、改めて保険契約の内容の決定をすることとなるため、上記決議を経る必要があると解されております。したがって、D&O保険であれば、一年ごと更新するものが多いと思われますが、改正会社法施行後は、D&O保険の更新のタイミングで上記決議を行う必要がある点にご留意ください。
決議の内容 |
保険契約の基本的な事項(保険会社、被保険者、保険料、保険期間、保険金の支払事由及び支払限度額、保険金により填補される損害の範囲、保険会社の主な免責事由並びに主な特約条項等(注2)) |
決議の方法 |
被保険者となる取締役は特別利害関係人(改正前会社法369条2項)に該当 ⇒①持ち回りで決議する。 ②取締役全員が共通の利害関係を有している場合には369条2項の適用はないとする見解(注3)に従い、被保険者である取締役も加わり決議する。 |
施行日後の決議の要否 |
(決議が必要となる場合の例)
(決議が不要な場合の例)
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役員等賠償責任保険契約の内容の開示
役員等賠償責任保険契約を締結している場合には、事業年度の末日において公開会社である株式会社等は、役員等賠償責任保険の内容を事業報告の内容として記載する必要があります(注4)。事業報告の記載例は、東京株式懇話会「会社法改正の概要と株式実務への影響」44頁をご参照ください(注5)。
また、役員等の選任に関する議案を株主総会に提出する場合における株主総会参考書類についても、役員等の候補者と役員等賠償責任保険契約を締結しているとき又は役員等賠償責任保険契約を締結する予定があるときは、記載が必要となります。
事業報告での開示事項 |
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株主総会参考書類での開示事項 |
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いつから対応が必要となるか(経過措置)について
改正会社法が施行される2021年3月1日以降に締結される、ないし更新されるD&O保険などの役員等賠償責任保険契約が株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議の対象になります(改正会社法附則7条)。したがって、D&O保険契約の締結(更新)の時期によっては、施行日前から株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議の準備をする必要があります。
また、事業報告の記載については、施行日以後に締結(更新)された役員等賠償責任保険契約について記載することになり(改正会社法施行規則附則第2条第10項)、施行日後に末日が到来する事業年度における株主総会参考書類の記載については、施行日後に招集手続を開始したときであって、既に候補者と施行日後に役員等賠償責任保険契約を締結(更新)している場合又は、施行日後に候補者と役員等賠償責任保険契約を締結(更新)しようとする場合には、株主総会参考書類に記載する必要があると考えられます(改正会社法施行規則附則第2条第6項、7項及び9項)。
本稿について、ご質問がある場合には、以下のメールアドレスまでお問い合わせください。
tmi-blog-inquiry@tmi.gr.jp
今般の改正会社法についてより詳しくお知りになりたい方がいらっしゃいましたら、弊所より、「実務逐条解説 令和元年会社法改正」も発刊されておりますので、ご参照いただければ幸いです。
https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=14602864
注1 役員個人が保険契約を締結する場合には、430条の3第1項は適用されないことになります。ただし、会社が保険契約を締結している場合には、会社が役員に対して求償し、実質的に役員が負担していたとしても、430条の3第1項が適用される点には留意する必要があります(竹林俊憲編「一問一答令和元年改正会社法」139頁)。
注2 塚本英巨「会社補償・D&O保険の実務対応」旬刊商事法務2233号37頁
注3 落合誠一編「会社法コンメンタール8-機関(2)」158頁[田中亘](商事法務、2009年)
注4 親子会社で、別々にD&O保険に加入する場合には、それぞれにおいて、当該保険契約の内容の決定に係る株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議が必要になり、それぞれにおいて事業報告及び株主総会参考書類に記載することになります。他方で、親会社がその役員等のみならず子会社の役員等も被保険者とするD&O保険に係る保険契約を締結する場合、当該D&O保険に係る保険契約の内容の決定をするには、親会社の取締役会決議を経れば足り、子会社の取締役会決議を経ることは要しないと解されており(竹林俊憲編「一問一答令和元年改正会社法」141頁)、親会社の事業報告に記載すれば足りるものと考えられます。
注5 東京株式懇話会「会社法改正の概要と株式実務への影響」45頁(https://www.kabukon.tokyo/activity/data/study/study_2020_10.pdf)
注6 通常、全役員が被保険者となると思われますが、そのような場合には、「当社の取締役、監査役の全員」等といった概括的な記載でも足りると考えられます(法制審議会第15回竹林発言)。
注7 当該役員等賠償責任保険契約において免責額を設けること(竹林俊憲編「一問一答令和元年改正会社法」148-149頁)や、社外取締役等の同意を得ることなどが考えられます(法制審議会第15回竹林発言)。