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才口弁護士に聞いてみよう(6)
2021.02.15
TMIの顧問弁護士であり、最高裁判事の重責も務められた才口弁護士に聞く、現代の「仕事」と「生き方」のヒント。
才口弁護士作「弁護士10年1人前説」数え歌のお披露目もお楽しみに!
私は、7年目の弁護士です。先日他の専門職の方と話をしている際に、仕事におけるモットーの話になりました。弁護士になって以降、「少しでもいい仕事をしてクライアントに喜んでもらいたい」、「少しでも早く一人前の弁護士になりたい」という思いをもって仕事をしてきましたが、『自分の仕事に関してのモットーとは何か?』という問いを正面から聞かれると、なかなか思いつきません。先生は、新人の頃、また中堅の頃、どのようなモットーを持って業務にあたっていましたでしょうか。また、そのモットーは、今までの法曹としてのキャリアの中で変わってきていますでしょうか。
七つは『生意気盛り』
7年目の弁護士さん今から自分のモットーは何かなどとお考えなのですか。
私の「弁護士十年一人前説」の数え歌の七つは『生意気盛り』です。
ご相談者さんは老成されているのですか。嬉しさとともに驚きを覚えました。
モットーは、処世訓、座右の銘などといわれ、これに類するものに名言、名句、格言、ことわざなどがあります。これら先達のモットーが重用されるのはいずれも偽りがなく真理を含んでいるからであり、見聞きする人の一生や人間の理解、自己啓発や人生展開などに資するからです。
「人事を尽くして天命を待つ」(古諺)、「過ちを改めることを憚ることなかれ」(孔子)、「求むればこれを得、捨つればこれを失う」(孟子)、「一歩後退、二歩前進」(レーニン)、「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす」(宮本武蔵)などといろいろあり、枚挙に暇がありません。
最高裁判事時代・・・『施無畏』
私は約40年間弁護士を務めた後、65歳にして青天の霹靂で最高裁判事に任命され、約4年8ヵ月の任期を終えて弁護士に再登録して今日に至りました。
最高裁判事時代、判事室に半畳程の扁額『施無畏』を懸架して執務していました。揮毫の主は歴代首相の指南役として活躍された四元義隆氏で、任官直前の事件の縁で判事就任のお祝いとして拝領した逸品です。
『施無畏』とは広辞苑によれば「三施の一。衆生の種々の畏怖の心を取り除いて安心させて救済すること。観世音菩薩の異名。」とあります。また、仏様が右手または左手の五指を伸ばし、手の平を外に向けて肩の高さに上げるしるしを「施無畏印」といいます。
多分、四元氏が判事就任にあたり、「裁判官の心の在り方」を教授して下さったものと心得ました。この『施無畏』をモットーにして職務に精励し、在官中、自分としては異常にして能力の限界を超えた合計1万4896件の事件を処理して無事退官しました。
55年の法曹人生で得たモットー『不断』、そして『黙』
退官して12年が経過して老残の身となりました。今日まで満10年継続してTMIの新人弁護士研修を担当させてもらっています。弁護士・判事通算55年の法曹人生で得たモットーは『不断』(掲記写真参照)です。「絶え間のない努力」がわが法曹人生の集大成です。
ちなみに、四元義隆氏の扁額『施無畏』は、退官後、修行を始めた弓道の道場である鎌倉円覚寺の閻魔堂の閻魔大王の左脇に懸架されています。また、昨年入寂されましたが、円覚寺足立大進前管長は退官のご挨拶に参上した折、私にそっと『黙』と揮毫された色紙を手渡されました。任務を終えた者への戒めのモットーと理解していますが如何でしょうか。
ご相談者さん、モットーは先人・賢者が人生の哲理を集約した悟り、教え、自戒、励ましの言葉と心得て、今は一瀉千里と職務に邁進するがよろしいと思います。
あなたが求めている“モットー”はいずれあなたの身に陰としてついてきます。
完
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